仕事の判断~経営者的判断とは|経営の方法論7

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研修の場や社内のさまざまな場面で、ある事象に対する対策や改善策の説明を受けて、「これは他の部署に迷惑をかけるような、ちょっとまずい対策だな」と思うものもあれば、「これは全社的な課題を解決しようとする意欲的な妙案だな」と膝を打つものもあります。
この発想の違いはどこからくるのでしょうか? 問題の捉え方に「経営的視点の有無」があると思います。
事例1:経営的視点の有無
(現状)A部署は人手不足、B部署はできる仕事が少ない社員が存在
A部署は全国300以上の地方自治体を顧客としています。官公庁の仕事を受注するためには、1年に1回、各自治体に対して事業者登録をし、入札資格を得る必要があります。
この登録作業は11月から1月の、3カ月間に集中しており、300時間程度の作業時間が見込まれています。人手不足のA部署の部長は、この業務の委託先を確保し、外注することを検討しています。
一方、B部署には入社間もない中途入社の社員が5名おり、業務知識や経験が不足しているため、まだできる仕事が少なく、中途入社の5名のモチベーションは下がり気味です。
(対策検討)① A部署管理者の判断は経営者視点が欠如
A部署の管理者視点で見ると、業務遂行を確実にするために外注を検討することは一見妥当に見えますが、知恵を絞って考えている感じはしません。「予算があるなら使っちゃえ」感満載です。大企業あるあるの、何でもコンサル依頼と同じです。プロフェッショナルなスキルが必要ない業務であるなら、経営者視点で見れば、キャッシュアウトする前に内部資源を調査すべきですね。
(対策検討)② 経営者視点ではB部署の中途入社5名を活用すべき
経営者視点で見ると、B部署の中途入社5名をA部署に派遣して支援させるべきは自明です。B部署の5名が3カ月間、分担して手伝えば、一人当たり1カ月20時間程度の作業であり、負担感は少ないし、業務に熟練することも期待できます。あわせて、直面する課題に果敢に対応することで、モチベーションアップにもなると思います。外部へのキャッシュアウトがなくなり、教育効果があり、社員の意欲向上がはかれる。3倍おいしい対応ができます。
管理者の問題解決、経営者の問題解決~経営者的判断の3つのスキル
問題を発見したら、管理者は自らのチームや職務を踏まえて、解決策を考えます。一方、経営者は全社的かつ長期的視点で考え、解決策を考えるものです。現時点で管理職やチームリーダーのみなさんも、経営的視点で解決策をひねり出せれば、社内で重用され、思ったより出世できると思いますよ。一方、部長、役員クラスで「管理者レベル」が多数を占める企業は、ちょっとヤバイですね。
経営者的判断では、次の3つのスキルが大切だと思います。
経営者的判断スキル1.経営サイクルを理解している
セクショナリズムが強い組織ではありがちなのは「うちの戦力を取られたくない」といった、発想しかできず、企業全体の利益確保に思い至らない部門長もいます。そういった人との交渉においては、利益数字を具体的に示して、数字の力で交渉するのが有効です。
会社全体の利益創出に思い至ること
「業務量の見積もり」を行い、「外注費用の計算」ができ、B部署の人材に業務をやらせることによる「人件費の計算」を比較し、B部署人員の活用の方が会社に利益をもたらすと示せれば、強く交渉できます。
経営者的判断スキル2.「値踏み」ができること
まずは、業務量を300時間必要と見極める力です。業務経験があれば、見積もることができるし、今の作業者に聞いて見積もることもできます。何よりその業務を実験的に自分でやってみれば、おおよその時間がわかります。いずれにしても、どの程度の労働投入が必要だろうと推測できる力です。
業務量や価格を推測できること~なんでも自分で一度はやってみる
阪急東宝グループの創業者の小林一三翁は、ターミナル駅や沿線を活用策として、駅デパート、沿線宅地開発、郊外遊園地、沿線観劇施設などを、日本で初めて着想し開発したことで知られていますが、「駅そば」も一三翁の着想です。開業初日、高齢の一三翁が「私が最初にそばを打つ」と言って周囲を慌てさせたそうです。一三翁が自ら作業することで、注文から提供までの時間や課題などを体感したかったそうです。上位の判断をするならこういった姿勢でいるべきです。
モノやサービスの値段を知っている~価格を知れば判断できる
外注する際、外注コストが1人当たり時給4千円であるのと時給2千円では、外注の採用不採用の判断が大きく違ってきます。さまざまな財やサービスの価格を知っていることも値踏みには重要です。
私は商品開発をしていましたが、類似商品の販売価格、製造原価など価格は常に注意していました。知っておかないと販売価格が決められないのです。京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉に「値決めは経営」というものがあります。まずは価格を知ることが経営判断の基礎になります。
経営者的判断スキル3.情報通であること
間違った判断は情報不足から生まれます。日常的に多様な人材とコミュニケーションすることで得られる情報が増え、的確な意思決定が可能になります。
社内は定期的に散歩しよう
そもそも他部署の事情が分からないと「B部署の遊休社員活用」は思いつきません。経営者的判断を行うためには社内の情報通でないといけません。情報通でいるためには、自ら社内を散歩し一次情報を集めたり、いろいろな場面で他の人から二次情報を得たりする必要があります。時間を作って多様な場所に顔を出すのも重要です。
事例2:人情とサンクコストの誤謬
(現状)長年課題となっている煩雑な業務Bのシステム化に着手したが、事業環境が変化し、業務Bよりもシステム化すべき、業務Cが出現
Z部署は長年にわたり、煩雑な業務Bを実施してきました。頑張り屋さんの管理職Gがその業務を支えてきました。システム部門はZ部署より長年システム化要望を受けてきましたが、リソース不足で対応できていませんでした。
その負い目もあり、最近、システム開発に着手しました。一方、近年、事業環境が変化し、新しい業務Cのシステム化が急がれる状況であるが、システム部門は既に開発をスタートしており、業務Bのシステム化をやり遂げようとしています。その一方でリソース不足で業務Cについての検討や開発はなされていません。
(事例2の対策検討) 人情とサンクコストの誤謬問題
これは人情とサンクコストの問題ですね。この場合、人情としては、業務Bのシステム化で管理職Gを助けてあげたいところですが、全社的な視点で考えれば、システム部門としては、業務Cのシステム化を最大限急ぐべきです。
また、このケースは典型的なサンクコストの誤謬であり、「すでに投資したコストに引っ張られて非合理的な行動を選択してしまう」よくある心理状況です。特にシステム開発においては、投資額が半端ないので、人情や過去の投資よりも、将来の利益に基づいて判断すべきです。
非合理的な判断をしないために~4つの判断方法
往々にして、企業内で人は「自分のコントロールできる範囲」で考える傾向があります。経営者を狙うマネージャーならば、自身の決定が組織全体や関係者にどのような影響を与えるか、一段高い全社視点から考えることが絶対必要です。これはなかなか難しいですが、私の考える具体的な方法を列挙します。
① 自社の業績、稼ぐ力を把握して判断
企業の意思決定は業績、利益に左右されます。なんとなく自社の業績は分かっていると思いますが、自社の決算書を読み、自社の稼ぐ力を把握し、自らの意思決定に活用することをお勧めします。当たり前ですが、稼ぐ以上にお金は使えないのです。
例えば、人材を採用する際、一人当たり営業利益額(営業利益÷社員数)が500万円の場合、年収800万円の人材を採用し、600万円以上の営業利益を稼げると期待できるなら採用してもよいという具合です。
② 特にキャッシュアウト(人材採用、外注)が伴う際の判断
事例1のような場合、例えば、外注費が3カ月で300万円であれば、事業者登録1件のコストは1万円になります。一方、中途社員を教育してあたれば、空いている勤務時間で対応可能なので0円で対応できます。ここまで極端でないにしても、その費用を一つ一つの作業に引き直し、具体的な「金額」で考えます。
③ キャッシュアウトが伴わない内部業務の判断
社内SEによるシステム開発や、管理部門からの全社に出す指示事項なども、作業時間を人件費換算して、「金額」で把握することが必要です。とかく、本社部門は現場の時間を奪いがちです。現場への指示は、リスク対策など経営上の重要な業務を除き、最少にすべきです。指示を全社に出す際は、現場社員の人件費を「金額」で考えることが重要です。例えば、社員数1,000名の企業で、15分のアンケート記入を要請すれば、平均給与が年収600万円の場合、105万円のコストがかかります。
④ フレーミングを乗り越える~経験豊富な「偉い人」から判断を学ぶ
人は往々にして、感情に左右される生き物です。同じ選択肢でも、感情によって捉え方が変わり、それが意思決定に影響を与えます(フレーミング効果)。過去に成功体験があれば、ポジティブな感情に支配され、リスクを取りがちになります。一方、失敗した経験があれば、ネガティブな感情が働き、保守的になる傾向があります。
こうしたフレーミングを乗り越えるためには、人生経験が豊富で、冷静な方に意見を求め、判断するようにしています。私の場合、プライム市場の上場企業であるインソースの経営課題については、上場企業の経営経験がある方に話を聞くようにしています。過去に彼らが行った判断事例などを学ぶことで判断力は磨かれます。
偉い人と話をする方法~「知りたい」熱意でトライする
偉い人にアプローチし、何かを依頼するのは怖いものです。ただ、相手も同じ人間なので、思い切ってアプローチしてみましょう。そもそも偉い人はコミュニケーション力も抜群なので偉くなったのであり、丁寧な応対で気さくに教えてくれる方が多いと思います。
私はかなり内向的ですが、どうしても知りたいことがあると「××について教えてください」と直接アポイントを取ってお話を伺っています。「どうしても」の気持ちが強ければ内気は突破できます。熱意があれば動けると信じてトライです。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。



