「それはセクハラです」~ハラスメント防止のために、歓送迎会・忘年会・新年会などお酒を伴う場で意識すべきこと

企業にとって、忘年会や新年会、歓送迎会などの社内イベントは、職場の一体感を育む大切な機会です。部署や役職、業務の垣根を越えて交流が生まれる一方で、その「楽しい場」が、セクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラ)につながるケースも少なくありません。
特に、アルコールが入ることで距離感が曖昧になりやすく、普段は注意している人でも、無意識のうちに不適切な発言や行動を取ってしまうことがあります。
お酒の席は職場の延長線上にあり、そこでの行動も企業の信用に直結します。だからこそ事前に、組織として具体的な対策を明確にすることが重要です。社員一人ひとりが意識を整え、安心して参加できる場づくりを進めていきましょう。
セクハラは「職場内」だけで起きるとは限らない~飲み会や懇親会も「職場の延長線」
厚生労働省の指針では、セクハラを次のように定義しています。
「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること
<出所>職場におけるセクシュアルハラスメント対策マニュアル(PDF)
(最終アクセス:2025/11/13)
ここでのポイントは、「職場」が単にオフィスの中だけを指すわけではないということです。業務上の関係が続いている場、たとえば取引先との会食や社内懇親会、オンライン飲み会なども含まれます。つまり、忘年会や新年会も「職場の延長線上」として扱われるという点が重要です。
セクハラに該当するかどうかは、次の3つの観点で判断します。
- 意に反する:相手が望んでいない、または不快に感じている行為かどうか
- 職場で起きている:業務の延長上の場(飲み会・懇親会など)で発生していないか
- 就業環境を害する:相手が「働きづらい」と感じる状況を生んでいないか
たとえ一度の発言でも、相手が不快に感じた時点で「職場環境を害した」と判断される可能性があります。受け手の感情を中心に考える姿勢が重要です。
セクハラの多くは「無自覚な行動」から生まれる~酒席で特に起きやすい行動4パターン
お酒の席では、普段の上下関係や距離感が崩れやすくなります。特に次のようなケースは、セクハラトラブルに発展しやすい傾向があります。
- 軽い冗談のつもりで、外見や年齢、恋愛などに触れる
- 部下や後輩にお酌を求めたり、隣に座らせたりする
- 終電を逃すような時間まで引き留める
- 無断での写真撮影やSNS投稿
これらの行動に悪意がなくても、相手が不快に感じれば問題となります。「親しみ」「ノリ」「冗談」は、相手にとって負担になることがあるという意識を持つことが、リスク回避の第一歩です。
そのふるまいがセクハラになる~酒席で注意すべき発言・行動の具体例
酒席で特に注意したいのは、発言とふるまいです。以下のような行為は、受け手によってはセクハラと受け取られる可能性があります。
- 容姿や服装、体型などへの言及(男らしさ、女らしさに対する容姿評価)
- 恋愛や結婚の話題(例:「彼氏・彼女いないの?」「結婚しないの?」など)
- 肩や腕への軽い接触
- 「二人で飲み直そう」「送っていくよ」といった誘い
お酒の勢いで距離を詰めてしまうことで、意図せず相手の境界線を越えてしまうことがあります。「このくらいは大丈夫」という思い込みこそ、最も危険です。
酒席でのセクハラを防ぐ4つの心得
酒席でのトラブルを防ぐためには、全員が共通の意識を持つことが大切です。厚生労働省の指針にある「性的な言動」の例をもとに、現場で実践しやすく整理したのが次の4つの心得です。
言わない・聞かない・触れない・誘わない
- 言わない:容姿・年齢・恋愛・結婚など、プライベートな話題を避ける
- 聞かない:相手の私生活を詮索しない
- 触れない:軽い接触も控える。握手やハイタッチも相手の了承を得る
- 誘わない:終電後の二次会や個人的な誘いを控える
これは禁止事項ではなく、「お互いを尊重するための心得」です。楽しい時間を共有しながらも、相手の安心感を損なわないよう心がけることが、信頼関係を守ることにつながります。
トラブルが起きたら「すぐに相談・記録・報告」~3つの初動対応で被害を拡大させない
組織として、セクハラを完全に撲滅することは難しいことです。万が一トラブルが起きた場合には、早い段階での対応が重要です。立場ごとにできる行動を整理しておきましょう。
被害を受けた場合
- 相談:できるだけ早く、信頼できる上司や相談窓口に伝える
- 記録:発言や行動、日時、場所をメモしておく
- 報告:一人で抱え込まず、「気のせいかも」と思わない
目撃・同席した場合
- 加害者を非難するよりも、まず被害者の安全を優先する
- 相談を受けたら、被害者が話しやすい雰囲気をつくる
- 「見なかったこと」にせず、迷ったら組織の内部通報窓口、相談窓口などに連絡してみる
相談を受けた場合
- 相談者がハラスメントの被害者であること自体も含め、守秘義務を徹底する
- 傾聴と共感に徹し、事実確認を丁寧に行い、記録を取る(安易な判断や軽視を避ける)
- 非難や憶測による二次被害に気を付けつつ、適切な先へ報告する
セクハラ防止は、特定の人の責任ではなく、組織全体で支える仕組みづくりです。
「お酒の場を安全に楽しむこと」も職場のマナーの一つ
セクハラ防止は、誰もが安心して参加できる職場を守るための責任です。
忘年会や新年会、歓送迎会などの社内行事は、組織の一体感を高める大切な時間です。だからこそ、その場が原因で誰かが傷つくことがあってはなりません。
「言わない・聞かない・触れない・誘わない」。この4つの心得を意識することが、社員一人ひとりの尊重を守り、職場全体の信頼を育てることにつながります。
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「覚えてない」では済まされない宴席でのアルハラと忘れ物。
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