怒りをコントロールできる上司が組織を変える~今、管理職に求められる「怒りのマネジメント力」

職場でイライラして部下に怒りを爆発させれば、信頼関係が壊れ、職場の雰囲気も悪くなります。
一方で、ハラスメントを恐れるあまり必要な注意や叱責を避ければ、今度は部下が成長しないという問題が生じます。どちらも極端な例にみえますが、こんな悩みを抱える管理職は少なくありません。
このような管理職に怒りのマネジメントは有効です。本記事では、パワハラ防止やチームの心理的安全性向上のために自分の怒りの傾向を理解し、冷静にコントロールして建設的に部下を指導するスキルを紹介します。
なぜ今の管理職に「怒りのマネジメント」が必要なのか
コンプライアンス意識が高まり、パワーハラスメントが社会問題として注目されていますが、今も企業におけるハラスメント関連の相談件数や裁判件数は依然として減少していません。
その背景にあるのが、「怒りの感情」との向き合い方です。怒ること自体は悪ではありません。むしろ、部下の成長やチームの健全性を保つためには、時に「叱る」ことが必要です。
しかし問題は、怒りを感情のままにぶつけてしまうことにあります。感情のコントロールができない上司の言葉は、部下を委縮させ、心理的安全性を奪い、最終的には組織全体の生産性を低下させてしまうのです。
怒りのメカニズムを理解すれば部下指導は変わる
コンプライアンスを意識して、叱らない選択をする管理職が増えています。しかし、「叱らない=優しい」ではなく、「叱れない=指導放棄」と捉えられた上に、部下が成長しないリスクがあります。
一方で、感情を抑えきれずに強い言葉を使ってしまえば、職場の空気を悪化させてしまいます。このジレンマの中で、上司たちは日々悩み続けています。
そんな中、注目されているのが「怒りのマネジメント」です。これは、怒りを無理に抑え込むのではなく、怒りのメカニズムを理解し、冷静に対応できる思考と行動を身につける手法です。
怒りは突発的な感情のように見えますが、実はその根底には「期待」「価値観」「正義感」など、上司自身の思考パターンがあります。自分の怒りのトリガー(きっかけ)を理解し、反射的に反応しない力を鍛えることで、適切に部下と向き合えるようになります。
「怒り」が爆発する前兆を見抜く~自分の癖を知るワーク
「あなたの怒りはどんな状況で生まれるのか」を振り返ってみましょう。以下の項目を読みながら、思い当たるエピソードをメモしてみてください。
- 期待の裏切り
部下や同僚の行動が、自分の期待や基準に沿わなかったとき、どのような感情が湧きましたか? - 不公平感・理不尽さ
仕事の配分や評価で「不公平だ」と感じた場面はありますか?そのときの心の動きは? - 時間や進捗の遅れ
予定や締め切りが守られなかった場合、どの程度イライラしましたか? - 自己主張の衝突
自分の意見が否定されたり、理解されなかったとき、どのように反応しましたか? - 予想外のトラブルや失敗
急な問題や想定外のミスに直面した際、どんな言動や思考が出ましたか? - 身体的・心理的疲労
疲れているときやストレスが溜まっているとき、怒りやすくなっていませんか?
このワークを通して、自分の怒りの傾向やサインを可視化することができます。次のステップでは、この気づきを基に冷静な対応策を考えていきます。
怒りを「伝える力」に変える3つのポイント
- 「怒りの正体」を知る
怒りは二次感情です。実際には「わかってもらえなかった」「期待を裏切られた」といった一次感情が先にあり、それが怒りとして表面化します。まずは自分の怒りがどんな感情から生じているのかを理解することが第一歩です。 - 一呼吸おく習慣をもつ
怒りを感じたら6秒止まる。これは古典的ながら科学的にも有効な方法です。怒りのピークは6秒前後と言われ、その間に深呼吸をするだけで冷静さを取り戻せます。 - 「叱る」と「怒る」を区別する
怒ることは感情をぶつけること、叱ることは相手の成長を願って行動を正すこと。叱る際は「YOUメッセージ(あなたは〜)」ではなく、「Iメッセージ(私は〜と感じた)」を使うことで、相手を責めずに自分の感情を伝えることができます。
組織を変える「感情リテラシー」の力
怒りを上手に扱えるようになると、それは単なる個人のストレス対処法にとどまりません。職場全体の空気を変える「感情リテラシー(感情を理解し、表現し、共有する力)」が高まることで、チームの信頼関係・エンゲージメント・生産性に大きな波及効果をもたらします。
感情リテラシーを高める研修後の事例
事例①:パワハラ問題が絶えなかった製造業~「怒りの構造を知る」ことで職場が穏やかに
ある製造業では、ベテラン管理職の厳しい指導が原因で、若手社員の離職が続いていました。特に、現場での「怒鳴り叱責」が常態化しており、社内アンケートでは「上司が怖い」「意見が言いにくい」という声が多数。
会社は状況を重く見て、管理職全員に怒りのマネジメント研修を実施しました。研修では、怒りを「悪」として否定するのではなく、「怒りの奥にある一次感情(心配・不安・期待)」を理解するワークを重視。
受講後、管理職たちは「なぜ自分が怒ってしまうのか」を言語化できるようになりました。ある課長は、「納期を守らない部下への怒りの裏に、自分が上に迷惑をかけたくないという焦りがあった」と気づき、怒りの矛先を感情ではなく課題の共有に変えるようになりました。
その結果、叱責の場面が激減。3か月後の職場アンケートでは「上司が話を聞いてくれる」「相談しやすい」と答えた社員が倍増し、離職率は前年より28%低下しました。
事例②:IT企業のプロジェクトチーム~感情を共有できる会議でエラー削減
あるIT企業では、開発プロジェクトの進行中に、チーム間の衝突が頻発していました。「営業が無理な納期を押しつけてくる」「エンジニアが言い訳ばかりする」と、感情のぶつかり合いが原因で情報共有が滞り、結果として納期遅延が常態化していたのです。
そこで、プロジェクトリーダーが取り入れたのが感情を言語化する定例ミーティングでした。
会議冒頭でメンバー全員が「今の気持ちを一言で表す」時間を設け、怒り・不安・焦りなどを率直に共有する仕組みを導入。加えて、怒りのマネジメント研修で学んだ「Iメッセージ(私は~と感じた)」のルールを全員で実践しました。
半年後には、感情的な衝突が目に見えて減少。特に「報告・相談が早くなった」「相手を責めずに課題を共有できるようになった」との声が多数上がりました。チーム全体のコミュニケーションが円滑化した結果、バグ報告件数は25%減少、納期遵守率は95%に改善しました。
事例③:医療現場の看護チーム~感情の可視化で離職率が半減
医療の現場では、命を扱う緊張感の中で怒りが生まれやすい環境があります。ある病院では、看護師間の感情的対立や叱責が原因で、人間関係の摩擦が深刻化していました。
そこで導入したのが感情日報という仕組みです。勤務後に「今日どんな感情が強かったか」を3行だけ書く欄を設け、怒り・悲しみ・疲れ・感謝などを共有。上司はそこからメンバーのストレス兆候を把握し、声がけを行うようにしました。
数か月後、「怒りの裏にあった焦りや無力感を共有できるようになった」との声が増加。スタッフ間で共感が生まれ、感情を表現することが「弱さ」ではなく「チームの強さ」として認識されるようになりました。結果として、看護師の離職率は1年で46%減少し、組織全体の士気も向上しました。
感情を扱える人が、チームを強くする
これらの事例に共通しているのは、怒りを抑えるのではなく、怒りを理解し、伝え方を変えるというアプローチです。
上司が自分の感情を整理して伝える姿勢を見せることで、部下も安心して意見を言えるようになります。心理的安全性が高まると、チーム内の対話が増え、問題解決のスピードも向上します。
つまり、感情リテラシーの向上は組織文化の変革につながるのです。怒りを上手に扱える上司は、単に穏やかな人ではなく、チームの信頼と生産性を引き上げる感情のマネージャーなのです。
「怒り」を恐れず、使いこなすリーダーへ
感情を持つことは人間らしさの証であり、怒りもまた重要な感情の一つです。しかし、それをコントロールできるかどうかが、リーダーとしての力量を左右します。怒りのマネジメントは単なる怒らない技術ではなく、相手を尊重しながら建設的なコミュニケーションを行うスキルなのです。
上司が感情を整えることで、部下は安心して働ける。結果として組織全体の信頼が高まり、チームのパフォーマンスが上がる。この連鎖こそが、今の時代のリーダーに求められる感情のマネジメント力です。
怒りのマネジメント研修~怒りの感情をコントロールし、部下指導を行う
部下の行動に対し、イライラしてしまうことは誰しもあることです。大切なのは、イライラしてしまった時に怒りの感情をそのままぶつけず上手に部下を叱り、成長を促すことです。
本研修では、自身の怒りの感情をコントロールするスキル(怒りのマネジメント)を身につけます。自分がどんな時に怒りの感情を抱きやすいのか、普段の自分の行動を振り返って考えます。
また、つい上司として怒りたくなるような場面を想定したケーススタディを通じて、具体的な指導方法を考えていただきます。
本研修の目標
- 怒りに対して、正しい認識を持つ(怒ること自体は悪いことではなく、コントロールすることが大切)
- 自分の怒りのサインに気づき、怒りの原因・兆候・傾向を把握する
- 怒りの感情をセルフコントロールし、適切な叱り方ができるようになる
よくあるお悩み・ニーズ
- ついイライラしてしまい、上手に部下を叱ることができない
- 怒りの感情と上手に付き合い、適切な部下指導をできるようになりたい
- 怒りをコントロールできず、イライラすることで周りの空気も悪くなってしまう
セットでおすすめの研修・サービス
リーダーのためのアサーティブコミュニケーション研修
リーダーの皆様には、相手を尊重しながらも、言いにくいことや言わなくてはならないことを伝える場面が多くあります。
本研修は、上司やメンバー、他部署など、リーダーを取り巻く様々な関係者に対して、よい関係を保ちながら主張をするためのアサーティブなコミュニケーションスキルを学ぶ研修です。
アサーティブコミュニケーションのスキルをベースに、イマドキ世代への依頼、年上のメンバーへの注意、気難しい上司への提案、他部署のリーダーとの交渉など、リーダーが直面する困難な場面でのコミュニケーションによる打開策を学びます。
部下とのコミュニケーション実践研修~心理的安全性の高い職場を作る
心理的安全性とは、「メンバー一人ひとりがチームに対して気兼ねなく発言できる、自然体でいられる環境・雰囲気」のことを指します。
心理的安全性が担保された職場では、一人ひとりが主体的に行動し、成果を上げることができます。
しかし実際には、メンバーがミスをすることを恐れ本音を言えず、悩みやストレスを抱えているというお悩みを多くおうかがいします。このような事態を打開する鍵を握っているのは、チームを率いる管理職・リーダーです。
本研修では、部下とのコミュニケーションの仕方を工夫することで、どのように心理的安全性を高めていくのか習得します。言いたいことを伝えるためのアサーティブコミュニケーション、本音で話せる環境を作るための1対1面談の活用方法を実際によくあるケースをもとに実践的に学びます。研修の最後には、自分のチームの心理的安全性を高めるための具体的な方法を検討していただきます。




