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「つながらない権利」~2026年法改正を見据えて人事が今すぐ準備すべき、勤務時間外連絡のガバナンス

スマートフォンやチャットツールの普及によって、退勤後・休日でも「いつでもつながる」働き方が当たり前になりつつあります。

その一方で、「帰宅して休みたいのに、メールや電話がいつまでも来る」「休日なのに責任をもって返信しなければならない空気がある」など、従業員の心身の負担やモチベーション低下につながる事例が増えています。

こうした状況を背景に注目されているのが「つながらない権利」です。海外では法制度化が進み、国内でも議論・検討が強まっています。とりわけ、2026年の労基法改正が現実味を帯びる今、企業として早めに制度設計を始めることは、働きやすさの確保だけでなく、生産性や採用力、離職防止といった経営課題の解決にもつながります。

本記事では、人事が今やるべきことを具体的に示します。

「つながらない権利」とは何か~国際的な背景と日本の現状

つながらない権利とは、勤務時間外や休日において、労働者が仕事関連のメール・電話・チャットへの対応を拒否できる権利のことを指します。この概念は、2016年のフランス労働法改正によって法制度化されて以来、欧州を中心に広がってきました。

日本では2025年12月時点で法的義務化はされていませんが、働き方改革やテレワークの普及によって、「働く人のウェルビーイング向上・過重労働防止・ハラスメント防止」といった観点から、この概念に関心を持つ企業が増えています。特に近年では、勤務時間外の連絡がストレスや離職の原因となるという認識が広がっており、導入の価値が再評価されています。

今後想定される2026年法改正~いち早く制度設計を始めるべき理由

多くの専門家が指摘するように、ICT(情報通信技術)の進展と働き方の多様化をふまえると、今後日本でも勤務時間外の連絡抑制を促す法改正やガイドラインの整備が起こる可能性があります。特に2026年の改正案では、「つながらない権利」のような勤務時間とオフタイムの明確な区分を制度として担保する動きが検討されているという情報が増えてきました。

このような流れから、人事部門では現状の連絡実態の把握、業務特性に応じた線引きルールの検討、社内ガイドライン案の策定などを先行準備することによって、法改正に伴う混乱を避け、スムーズな導入ができます。また、制度整備を先んじてアナウンスすることで、「働きやすい企業」というメッセージを社内外に強く打ち出せます。

人事が検討する「業務連絡の例外線引き」~緊急性・影響範囲で判断する

制度設計で最も難しいのが「どこまで連絡を例外とするか」の線引きです。これが曖昧だと現場混乱や不満につながりやすいため、できるだけ明確な判断軸を設けるのが望ましいです。

緊急性と影響範囲を両軸にする

例外と認めるべき連絡は、以下のような観点で判断するとぶれが生じにくくなります。

  • 緊急性:安全・事故防止、顧客クレーム、システム障害など、即時対応が必要な事象
  • 影響範囲:本人だけでなく複数人や顧客・取引先に影響する可能性のある事象

このような基準で判断すれば、「何となく」、「念のため」という曖昧な理由での連絡を抑えやすくなります。

職種・業種特性に応じた例外設定

すべての職種や業務が同じ基準で運用できるわけではありません。たとえば、医療、運輸、設備保守など緊急対応が前提となる業種では例外の範囲は広く設定が必要です。一方で、オフィス業務や事務中心の職場では、連絡頻度を限定するのが合理的です。

自社の業種・業務実態を分析し、「この職種ではこの例外」というように、職種・業務ごとのガイドラインを設計することが重要です。

「勤務時間外連絡=ハラスメント」にあたる可能性がある

単に残業手当や時間管理の問題にとどまらず、勤務時間外連絡はハラスメントの原因になりやすいという点は見過ごせない事実です。

返信強制や圧力~ハラスメント性のあるコミュニケーション

緊急性がないのに「今すぐ返信を」と求めたり、休日にも「確認しといて」といった指示を出したりすることは、受け手のプライベートな時間を侵害する行為と受け取られかねません。こうした行為は、たとえ悪意がなくても、精神的な負荷やプライベート侵害感につながり、ハラスメントと認識されるリスクがあります。

管理職の認識と行動が運用の成否を分ける

制度があっても、従業員がその意義を理解しなければ形骸化してしまいます。特に制度運用を定着させる管理職向けに、以下のような教育を実施するとよいでしょう。

  • 例外判断の基準とその根拠
  • 勤務時間外連絡が与える心理的負荷への配慮
  • 連絡手段と時間帯の配慮(たとえば深夜連絡の禁止、定型フォーマットの使用など)

このように行動規範を明文化し、管理職に浸透させることで、制度の信頼性と持続性が高まります。

制度導入をコストから「投資」に変える~生産性・採用・定着の好循環

つながらない権利に取り組む企業は、単に残業を減らす、福利厚生を整えるといったイメージ以上のメリットを得られます。

勤務時間内の集中力向上と効率化:ダラダラしたコミュニケーションをなくす

勤務時間外連絡が減ることで、オンとオフの切り替えが明確になり、社員は勤務時間内に業務を終わらせようという意識が高まります。これにより、業務の属人化やダラダラ残業の抑制につながり、生産性の向上が期待できます。

採用力・定着率の向上:つながらない権利がある組織は人を集められる

現代では、ワークライフバランスや働きやすさを重視する方が多いです。つながらない権利を制度化している企業は、そうした将来の採用候補者にとって魅力的な就業先となります。また、既存社員の離職予防にも効果があります。勤務時間外連絡を制限する取り組みを始めた企業では、離職率改善や心理的安全性の向上が報告されています。

人事が今すぐ始めるべき3ステップ~制度設計から運用まで

制度を形にし、現場に根づかせるためには、以下のプロセスが有効です。

ステップ1:現状把握と従業員の声収集

まずは、どの部署でどのような頻度・方法で勤務時間外の連絡が発生しているかを調査します。アンケートやヒアリングで「どのような連絡がストレスか」「どのような状況なら例外が必要か」を聞き取るとよいでしょう。

ステップ2:例外ルールと連絡フローの設計

前述の緊急性/影響範囲軸と、職種特性を組み合わせ、自社に合った例外ルール案を作成します。同時に、連絡手段を公式チャネルに限定する、深夜帯の連絡は禁止とする、例外時の承認フローを決めるなど、連絡の流れと制約を明確にします。

ステップ3:周知と管理職教育、運用後フォローアップ

制度を周知する際には、目的と意味を丁寧に説明します。特に管理職には、勤務時間外に連絡を入れることがハラスメントに相当する可能性があること、適切な判断、部下との信頼関係構築の重要性を伝える研修を実施します。また、導入後もしばらくは運用状況をモニタリングし、必要に応じてルールや運用を見直すフォロー体制を整備します。

よくある誤解とその対応~なんでも禁止は逆効果になる場合も

つながらない権利の制度化を考える際には、いくつかの誤解や注意点があります。

  • すべての連絡を禁止すればいいわけではない
    業務によっては、緊急対応が必要なものがあります。むやみにすべてを禁止すると、業務の遅延やトラブルが生じかねません。制度は柔軟性を持たせつつ、適切な線引きが必要です。
  • 制度は作って終わりではない
    形式的にルールを作っても、現場に根付かなければ意味がありません。管理職や社員の理解と合意を得て、運用を安定させることが重要です。
  • 一律禁止ではなく、職種・状況に応じた設計を
    営業、保守、顧客対応など、職種や業務内容によって連絡の必要性は異なります。画一的な制度では不都合が生じるため、職種や部署ごとにきめ細かな設計が求められます。

今こそ制度化を検討すべき~「つながらない権利」は企業の強みになる

つながらない権利は、もはや欧米だけのトレンドではなく、日本でも間違いなく現実的なテーマです。特に今後の労基法改正によって、勤務時間とオフの境界を守る制度設計が必要になる可能性があります。制度導入による働きやすさの向上は、従業員の満足度だけでなく、生産性や採用力、定着といった経営の基盤にも好影響を与えます。

とはいえ、制度を形だけ導入しても意味はありません。現場実態の把握、明確なルールづくり、管理職教育、運用体制の整備を段階的に丁寧に進めてこそ、つながらない権利は企業の強みになります。

ハラスメント防止研修~被害者にも加害者にもならないために

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よくあるお悩み・ニーズ

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セットでおすすめの研修・サービス

ハラスメントリスクアセスメント

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