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医療現場で深刻化する「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」への対応法と未然防止のためのコミュニケーション術

「患者さま第一」の姿勢が求められる医療現場。しかしその善意が、時に理不尽な要求や暴言にさらされることがあります。

近年、医療従事者を悩ませる「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」が深刻化しています。本記事では、ペイシェントハラスメントの見極め方から、冷静かつ効果的な対処法までを具体的に解説します。

悪質な迷惑行為「ペイシェントハラスメント」とは

ペイシェントハラスメントとは、患者やその家族から医療従事者に対して行われる、悪質なクレームや不当な要求、暴言・暴力などの迷惑行為を指します。提供可能なサービスを超えた要求や、業務外の依頼、執拗な謝罪の強要などが典型例です。

こうした行為は、医療従事者の心身に大きな負担を与えるだけでなく、医療の質や安全にも影響を及ぼしかねません。

初期対応の基本姿勢:冷静さと記録が鍵

1. まずは「お詫び」で冷静な空気をつくる

相手が不快に感じた点について、まずは丁寧に謝罪することで、感情的な状況を落ち着かせることができます。謝罪はあくまで「感情の鎮静化」のための手段であり、事実関係の認定とは切り離して考えることが重要です。

2. 悪質と判断したら毅然と対応する

できないことを「できます」と言ってしまうと、後々さらに大きな問題に発展します。一次対応者の場合は、上司や専門部署に引き継ぐことを優先しましょう。二次対応者として何らかの回答をしなければいけない場合も、無理な要求には冷静に「できません」と伝えることが大事です。

3. 上司への報告と相談を徹底する

一次対応で患者さまとメインで接する方は、「自分だけが我慢すればいい」と抱え込まず、必ず上司に報告・相談をします。個人ではなく組織として対応する体制を整えることが、職員の安全と医療の質を守る第一歩です。

4. 記録を残す

対応する際は必ず日時、場所、相手の言動、継続性、対応履歴、目撃者の有無などを記録しておきましょう。相談時の資料や法的対応の証拠になります。

見極めのポイント4つ:それは本当にハラスメントか

二次対応者として、本当にペイシェントハラスメントに当たるのかどうかを見極めたい場合には、以下の4ステップが有効です。

  • STEP1:病院側に過失があるか
    まずは事実確認。サービスに不備があったかどうかを冷静に見極めます。
  • STEP2:患者側に損害があるか
    損害とは、金銭的な損失や精神的苦痛など。慰謝料や逸失利益も含まれます。
  • STEP3:過失と損害の因果関係はあるか
    過失が損害に直結しているかどうかを判断します。関係が薄い場合は、法的な責任を問うのは難しいケースもあります。
  • STEP4:要求に合理性があるか
    損害に対して要求が過剰であれば不当と判断できます。客観的な評価指標を活用しましょう。

「モンスター化」を防ぐコミュニケーション術

初期対応の仕方次第で、相手の態度がエスカレートするかどうかが決まります。一次対応者はできるだけ早急に二次対応者に引き継ぐことが重要です。また二次対応者は、以下のテクニックを活用することで、相手のいわゆる「モンスター化」を未然に防ぐことが可能です。

オウム返しで冷静さを保つ

相手の言葉をそのまま繰り返すことで、感情的な流れを断ち切り、冷静な対話に持ち込めます。

質問には質問で返す

「どう責任を取るつもりだ」と迫られたら、「どのような責任の取り方をお考えですか」と返すことで、相手に具体的な言葉を求めることができます。

言いにくいことを伝えるスキルを磨く

互いの意見の異同を整理します。同じ意見に関しては肯定の意思を伝えます。また、異なる意見に関しては、自分の意見とどのように違うのか、理由も含めて相手に伝えます。
× 「患者さまのお考えは間違っています」
○ 「患者さまのご指摘はごもっともですが、ご懸念には及びません。なぜなら~」

法律を味方につける:悪質なケースへの対応

悪質な言動には、法的な対応も視野に入れる必要があります。以下に、代表的な罪名と対処フレーズを示します。

  • 脅迫罪
    「ネットで晒す」などの発言には、「録音させていただいてもよろしいでしょうか」と冷静に対応します。
  • 強要罪
    土下座や退職要求などには、「それ以上は強要罪に当たります」と明確に伝えます。
  • 恐喝罪
    金品の要求には、「誠意とは具体的に何を指していますか?」と確認をします。
  • 業務妨害罪
    大声や暴力的な行為には、「これ以上続けるなら警察を呼びます」と毅然と対応します。

まとめ:組織としての対応体制を整え、医療現場の安全を守る

ペイシェントハラスメントは、個人の努力だけでは防ぎきれません。組織としての対応体制を整え、職員一人ひとりが「冷静に見極め、記録し、相談する」ことが重要です。相手の言動に振り回されず、適切な距離感と対応力を持つことで、医療現場の安全と信頼を守ることができます。

医療機関向けカスタマーハラスメント対策研修(半日間)

本研修ではカスハラの基本概念をおさえ、患者さまやご家族からの過剰な要求、長時間の拘束、威圧的な言動といった医療現場ならではの事例に沿って対応を考えます。

医療従事者の精神的な負担を軽減する観点から、組織全体でカスハラ対策に取り組む重要性について理解を深め、従業員を守るためのマニュアル作成のポイントも学びます。

本研修のゴール

  • クレームかカスハラかを見極められるようになる
  • 医療現場で起こりうるカスハラへの適切な対処法を習得する

よくあるお悩み・ニーズ

  • 患者さまやそのご家族からの理不尽な要求や暴言への対応に悩んでいる
  • カスタマーハラスメント(カスハラ)により、メンタルヘルス不調者が出ている
  • カスハラに対する組織としての方針を定めたい

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セットでおすすめの研修・サービス

管理職向けカスタマーハラスメント対策研修~従業員を守るための「判断基準」と「対応策」

カスタマーハラスメントは、業種によって発生環境が異なります。また、個々の組織の方針によって事情が大きく変わるため、法律で細かな基準やルールまでを定めることは困難です。

したがって、マネージャー自身が組織ごとの判断基準と対応ルールを独自に決め、オリジナルのガイドラインとして運用していくことが欠かせません。部下を守りつつ、顧客との良好な関係を築いていくために、自組織にフィットしたカスハラ対策を実行に移していただける実践的なプログラムとなっています。

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本研修では、指導の手順や、指導とハラスメントの違い、メンタリングの手法などを実践的に学びます。ケーススタディでは病院・医療機関で起こりうる、具体的な事例での指導方法を考えます。

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本研修では、メンタルヘルス及びストレスに関する適切な知識を身につけ、自身のストレスをコントロールする方法を考えます。

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