2019年6月03日
東大・京大卒などの名門大出身者やコンサルファーム出身者が、続々とキャリア相談に訪れるコンコードエグゼクティブグループ。近年、企業からの求人で顕著に伸びているのがデジタル事業を推進できる経営人材だという。同社の渡辺秀和社長に人材市場の動向や採用成功のポイントなどを聞いた。
コンコードエグゼクティブグループ 渡辺秀和 代表取締役社長 CEO
一橋大学卒。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVP受賞。東京大学×コンコード「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)他。
エグゼクティブやリーダー人材の採用支援を行っている当社には、AIエンジニアやデータサイエンティストのような技術分野のスペシャリストではなく、「デジタル事業を立ち上げられる」「デジタルマーケティングに精通している」「デジタルを理解している経営幹部」といった"デジタル経営人材"の求人が数多く寄せられています。
まず一つは、インターネット、AIやIoT関連のベンチャー企業からのCOO候補や事業責任者といった高いポジションの求人です。10年ほど前のベンチャー企業では見られなかったような高い年収水準を候補者に提示しており、採用競合の他社にとって非常に手強い存在となっています。ベンチャーキャピタルから資金調達に成功した企業が毎週のように当社へ採用の相談に来るような状況で、上場前の段階から優秀な人材を次々と採用しています。
もう一つは、デジタル事業の強化を急いでいる大手企業です。保有するビッグデータの活用や既存ビジネスとデジタルを融合する取り組みが急務となっていますが、社内にデジタル事業に精通した人材がほとんどいないため、外部に求めています。以前からM&Aや海外事業の推進者などを採用する大手企業は増えています。外部からプロフェッショナルを採用するという大きな潮流の中の一つとして、デジタル経営人材も対象となっています。近年は、採用活動に取り組んだ大企業が、これらの経営人材の採用が予想以上に困難であることを実感して、高い危機感を持って相談いただくケースが増えています。

コンコード社による直近のデジタル経営人材の採用支援(例)
一つは年収水準に理由があります。デジタル事業の戦略子会社を設立して本体の社員とは異なる人事制度を設ける企業も見られますが、まだ一部に限られています。大手企業は年齢や周囲とのバランスで年収水準を考えざるを得ないという面が依然として強いです。
新規事業の多くがデジタル関連になっている中で、デジタル経営人材を獲得できるかどうかは企業を成長・存続させていくための生命線です。現在の給与テーブルを崩すのが難しいという事情はよく分かりますが、そうした社内都合を優先していると他社との競争に負けてしまいます。もちろん、これらの経営人材は年収だけで転職を決める訳ではありません。しかし、採用競合の他社と遜色ない年収水準を候補者に提示することは、最低限整えなければいけない要件となります。
デジタル経営人材の採用を考える上で、人材市場における「採用ブランド」を理解することはとても大切です。世間一般に認知度の高い大手企業がデジタル経営人材にとって働いてみたい企業、つまり、採用ブランドが高い企業では必ずしもありません。自社に対する自らの評価とデジタル経営人材の評価に大きなギャップが生じていることも珍しくないのです。
例えば、今であればディープラーニングの研究開発で知られるユニコーン企業プリファード・ネットワークスの求人などは、多くのデジタル経営人材が高い関心をお持ちになるでしょう。優秀なメンバーとともに社会に大きなインパクトを与えていけるのではないかと感じるからです。一方、財閥系の有名企業の求人なのに、興味を持つ人がほとんど出てこないということも起こります。もちろん、今、人気のあるベンチャー企業が今後もそのブランドを維持できるか否かは分かりません。
しかしながら、有名だけど旧態依然としていると認識されている企業は、採用上不利であるという実態は理解しておく必要があります。ブランドは、採用に掛かるコストや時間に大きな影響を与える重要なファクターです。
デジタル経営人材は、「どのようなチームで仕事ができるのか」という点を重視する方が多いのが特徴です。先ほど紹介したプリファード社に多くの候補者が興味を持つのは、技術者をはじめ優秀な人材がそろっているからです。そして、そうしたメンバーと一緒に技術を事業化していけば社会に大きなインパクトを与えることができるという期待が人材市場での高い採用ブランドにつながっています。
では、そのようなチームが社内にいない場合はどうすればよいのでしょうか。私たちのクライアントのある企業では、事業の核となるデジタル経営人材を採用する際に、その人材だけを採用するのではなく、一緒に働いていたメンバーもまとめて採用することで強力なチームを作り上げることに成功しました。経営人材も優秀な部下が一緒にきてくれることでスムーズに意思決定できましたし、デジタル事業がすぐに立ち上がり成果が出たので採用企業もたいへん満足しています。そして、こうした魅力的なデジタル経営人材を採用したことで採用ブランドが高まり、優秀な人材がさらに集まってくるという採用の好循環をつくることができています。
また、入社後も既存の企業風土や働き方になじませようとするのでなく、彼らが異分子のままであり続けられるような職場環境を用意することも重要です。細かな点ですが、服装や勤務時間などのワークスタイルも自由度を高める必要があります。
採用ターゲットの一つは、ベンチャー企業でデジタル事業の経験を持つ人材です。こうした人たちの中にはエンジニアのバックグラウンドを持ちながら、企画やマーケティングを担っていることもあります。技術とビジネスの両面を理解している貴重な存在です。大学を卒業していない人材もいますが、学歴ではなくデジタル事業における知識や経験が最も重要です。従来の自社の採用基準にとらわれていると、貴重なデジタル経営人材を逃すことにもなりますので注意が必要です。
もう一つの採用ターゲットは、コンサルティングファーム出身者である「ポストコンサル」です。近年、コンサルティングファームにはさまざまな業種のクライアント企業からデジタル関連の相談が増えていますので、当該領域のプロジェクト経験を有するコンサルタントが数多くいます。一般的に言えばデジタル人材の採用に慣れていない企業の場合、ポストコンサルを採用ターゲットにした方がスムーズかもしれません。ポストコンサルの多くは大手企業をクライアントとして仕事をしてきた経験があり、大組織での働き方に馴染みやすいからです。
まずは、人材市場における自社の採用ブランドの実態を知ることが必要です。デジタル経営人材対象のイベントや勉強会などに参加し交流してみることも良いでしょう。彼らが求めていることを知れば、これまでの人事制度では採用が上手くいかないことが実感できるはずです。
また、人事担当者が独力で人材市場の実態を把握するのは大変だという場合には、人材紹介会社などの採用のプロフェッショナルを活用するのも有効でしょう。提示すべき年収水準、入社後の働き方やキャリアパス、権限の大きさといった優秀なデジタル経営人材が望んでいることが分かります。
経営者の強い意思でデジタル経営人材の採用に取り組んでいる企業がある一方で、厳しい採用の実態を知らず、意識が追いついていない企業もまだ多いように思います。優秀な人材を採用するためには社内都合ではなく、人材市場に向き合って人事の仕組みを変えていく必要がありますが、それには経営者の決断が必要です。
人事担当者には優秀な方が多いので、デジタル化を進めていかなければ企業が生き残れないことに気づいていると思います。そうした人事担当者に求められるのは、デジタル経営人材の採用の危機感を経営者に訴え、これまでの人事の仕組みを変えるために動くことです。

デジタル経営人材の採用を成功させるための6つのポイント
配信元:日本人材ニュース
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