
前編では、自ら希望しない人事異動や役割転換を命じられた方に、新たな役割への移行期としての「トランジション」を乗り越える3つのステップについてお伝えしました。
■トランジションとは(前編)~人生の雨の日に向き合う3つのステップ
トランジションは、外的に役割転換すれば終わり、という単純な話ではありません。自分自身の再定義や再方向付けを行う期間であるため、完了するまでには時間がかかります。この間に、早く新しい環境に慣れなければと焦り、急いで何かを始めてもあまり良い結果は生まないと、トランジション理論の提唱者ウィリアム・ブリッジズ氏も述べています。 混迷の移行期を乗り越え、少しでも早く次のステップに進むきっかけをつかんでいただくために、今回はトランジション期の過ごし方のアドバイスをお伝えします。ぜひ参考にしていただければと思います。
ブリッジズは、「終焉」のステップにおける「通過儀礼」の必要性を説いています。例えば、身内の誰かが亡くなったら、一定期間喪に服し、追悼の儀式を行います。きちんと儀式を行うことで、「喪失」を客観的に認識し、受け入れていく素地をつくることができます。
別の部署へ移る前には、これまで自分が心血を注いできた業務をしっかりと終わらせるための「儀式」を行いましょう。以下2点の具体的な実践は、突然命じられた異動など納得がいかない変化の場合でも、自分の思いに区切りをつけるのに役立ちます。
・自分の抱えている業務を整理する
これまで特に疑問を抱くことなく続けていた業務を改めて見直すと、不要なタスクや今の時代に即さない手順が見つかるかもしれません。クリティカルな視点で、自身の価値観やこれまでの仕事のやり方を疑ってみましょう。手放すべきスキルが明確になるはずです。
・マニュアルを作り、引き継ぐ
マニュアルを作るということは、組織に「ナレッジ」を残すということです。自分のやってきた業務は誰かに継承する価値があると認められることで、高い自己効力感を持って終わらせることができます。そして、引継ぎをするにふさわしい人材は他にもいるという実感は、自分はその役割を手放すべき時が来ているという現状認識につながります。
どんな変化を迎えたとしても、自分の本質的な部分はそれほど変わらないはずです。例えば、中立圏で行った自分探しの中で思い出した、自分の若い頃や学生時代に身につけた強みやこだわりは、トランジションによって目的や目標を見失ってしまった時の新たな指針となります。
仕事をするうえでの自身の「こだわり・やりがい」「行動指針」のことを「キャリア・アンカー」と言います。自分のキャリア・アンカーを知ることで、自身のモチベーションが上がる仕事の進め方が明確になります。
次のワードの中から、自分が重要視するものを選んでください。そのワードが属しているキャリア・アンカーの特性や行動指針が、今後の働き方を考えるうえでの参考になると思います。
(1)専門スキル (2)奉仕 (3)チームワーク (4)顧客満足
(5)使命感 (6)承認 (7)インセンティブ (8)地域貢献
(9)業務知識 (10)スペシャリスト (11)挑戦 (12)執着心
(13)評価 (14)昇格 (15)協調 (16)成長
(1・10)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「専門性」
「専門性を高めたい」という欲求が強く、それを満たせる仕事に就きたいと考える傾向にあります。様々な業務を広く経験するよりも、特定の業務に深く関わり、その分野で専門性を高めることが、仕事への意欲を掻き立てます。
(2・8)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「社会貢献」
「自分の仕事を通して社会をよくしたい」という欲求が強く、それを満たせる仕事に就きたいと考える傾向にあります。会社や自分の仕事の意義、理念やビジョンを知ることで、仕事の社会的意義付けを行うことができ、働く意欲が高まります。
(3・15)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「人間関係」
仕事において人間関係を重視します。自分と合う人と働く、あるいは良好な人間関係の中で働くことでモチベーションが高まります。人によっては、ライバルや刺激を与えてくれる存在が働く意欲を高めることもあるでしょう。
(4・9)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「サービス・商品」
自分の好きなサービス・商品を取り扱うことが、働くうえでの重要なモチベーションとなります。自社のサービス・商品に深く携わることより、それらに対する広い知識を持つことで、働く意欲が高まります。
(5・12)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「責任感」
責任感こそが、モチベーションの源です。組織の任務や自分の責務を全うしたい、という強い意志を持って仕事に取り組みます。「自分が何とかしなければいけない」と感じた時に、働く意欲が高まります。
(6・13・14)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「承認欲求」
他者から認められたい、という強い欲求を持っています。相手に自分の存在を知ってもらい認めてもらうことを望み、自身が必要とされていることを実感できるような仕事や職場で働くことで、モチベーションが高まります。
(7)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「お金・収入」
お金を稼ぐことがモチベーションの源です。自身の働きに対して納得のいく賃金を得られることで働く意欲を保ち、高い成果を出せば出すほど、それに見合った報酬を得られる職場や環境で働くことを好む人もいるでしょう。
(11・14・16)を選んだ方のキャリア・アンカーは ・・・ 「やりがい・達成感」
やりがいや達成感がモチベーションの源です。まずは自分が何をしている時にやりがいを感じ、何を成し遂げた時に達成感を得られるのかを把握し、そのうえで自分で目標を定めて仕事を進めることで、働く意欲が高まります。
「トランスファラブルスキル」とは、ビジネススキルの中で、業種・業界などを超えて活用できる汎用性の高いスキルのことです。
※トランスファラブル(transferable)とは「移動できる、持ち運べる」の意味
社員に求める評価項目や人材要件は、組織ごとに違います。そのため、所属が変わった場合は、その職場で必要となるスキルを新たに獲得しなくてはなりません。しかし、トランスファラブルスキルを所有していれば、新しい職場でもそれらを活用していち早く活躍することができます。
以下のトランスファラブルスキルのリストの中から、自分が持っているスキルをチェックしてみましょう。さらに、自分のスキルのレベルが高いと認識するものについては、新しい職場での活用方法を具体的に考えてください。
(1)ヒューマンスキル(対人スキル)
・傾聴力 ・質問力 ・話す力、プレゼンテーション
・交渉力 ・後輩指導 ・調整力 ・クレーム対応
(2)業務遂行スキル
・ビジネス文書 資料作成 ・パソコン・OAスキル ・タイムマネジメント
(3)概念化・論理スキル
・ロジカルシンキング ・問題発見、解決 ・判断力 ・マーケティング ・企画力
(4)リーダーシップ・マネジメントスキル
・リーダーシップ ・業務管理 ・リスクマネジメント ・目標管理
・労務管理 ・財務の知識
例)後輩指導
係長を介して新人・若手指導を行ってきたので、新しい職場でも係長と連携して指導を進めていきたい。前の職場でつかっていた育成計画表も職場になければ使用する。
自分の心の中を整理するには、言葉に出してみるのが一番の近道です。トランジション経験者なら、きっと当事者の気持ちに寄り添って話を聞いてくれるでしょう。
経験者とのマッチングは、組織にベテラン世代を対象としたメンター指導の制度があるとよいかもしれません。人生のロールモデルとなるメンターを探す制度は、若い世代だけでなくベテラン世代にも必要です。
しかし、トランジションによって人が経験する内的な変化は千差万別であり、誰かの経験がそのまま自分の役に立つものではありません。それでも、不安な期間を過ごす当事者にとっては、その混迷期を通り抜け、新しい役割に前向きに取り組めている人がいると知ることで、希望が持てるようになります。
ベテラン世代になると、管理職からの降格や、技術職から営業職といった畑違いの職種への転換などネガティブな変化を経験する人が増えます。さらに近年では、仕事のデジタル化・自動化により多くの労働者の仕事が消失することが予想されており、これまでまったく無縁だったIT部門への転換を命じられる可能性も高まっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するための人材戦略として、自組織の人材への職業能力の再開発や再教育を行うことを「リスキリング」と言います。
ベテランになるほど自分が習得した知識を捨てることは苦しいものです。しかし、予測できない形で襲ってきた変化に対して、「業務命令だから仕方ない」「早く次に進もう」と軽く済ませようとするのは、対処の仕方として適切ではありません。なぜ今自分にとって変化が必要なのか、トランジション期にその理由を立ち止まって考えてみることが大切です。
自分の意思ではない変化を受け入れるための考え方として知っておきたいのが、「プランド・ハプンスタンス・セオリー(計画された偶然理論)」です。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提案したキャリア論で、「キャリアの80%は、予期しない偶然の出来事によって形成される」とされています。
自分のキャリアの大半が偶然によって決まるなら、「ラッキーな偶然」をできるだけ引き寄せたいものです。そのためのキーワードが5つあります。
(1)好奇心
自分の知らないことなど、どのようなことでも積極的に関心を持つ
(2)持続性
一度はじめたら、手応えや結果を出すまで、あきらめず続ける
(3)楽観性
意に沿わぬ異動や転職を、自分のキャリアや人生の「好機」と捉える
(4)柔軟性
どのようなことでも受け入れられる許容力と柔軟性を持つ
(5)冒険心
大変でも、それを乗り越えられれば、新たな成長があると考え、恐れずチャレンジする
組織の命令で新たに行うことになった仕事を「マイナス」に捉えるのではなく、「自分の新たな可能性を試す機会」として積極的に活用すればよい、と考え方を切り替えれば、ネガティブな変化も「ラッキーな偶然」にすることができます。
たとえ自分が望まない異動でも、これまでのキャリアで培ってきた知識や経験は決して無駄にはなりません。「予期しない偶然」を、自身の成長につなげていきましょう!
■関連記事一覧
更新
奨励金だけでは社員は伸びない~キャリア自律を促す資格取得支援の4つの新常識
奨励金だけでは社員のキャリアアップは不十分です。本記事では、学習サポートやキャリア活用、社内コミュニティ活用など、社員の成長と離職防止につながる資格取得支援の新常識を解説します。
更新
70歳まで活躍するためには?キャリアを持続させる3つのコアスキル
時代の変化に対応する即応力と、長く活躍するための普遍的なコアスキルが求められています。本記事では、3つのコアスキル(コンサルティング、プロジェクトマネジメント、データリテラシー)を効果的に習得するためのステップについて解説します。
更新
内省で変わる若手社員~強み発見と役割自覚で、働く意欲とキャリアデザインを高める
若手社員が日々の業務を振り返り、自分の強みや役割を再認識する「内省(リフレクション)」の重要性と効果を解説します。内省を通じてキャリアデザインや働く意欲を高める方法や、企業が支援する際のポイント、具体的な研修の活用法まで詳しく紹介します。
更新
社員の金銭トラブルを防ぐ!人事部門が講じるべき予防策~お金の基本を知ることはオトナのたしなみ
社員の金銭トラブルは、個人の生活にとどまらず職場や取引先に悪影響を及ぼします。金融リテラシー不足が背景にあることも多く、人事部門には予防と対応の両面での役割が求められます。トラブルの背景、組織に及ぶリスク、そして人事部門が取るべき具体策や金融教育の導入方法をまとめたページです。
更新
予測不可能で成功法則がないVUCA時代を生き抜く「越境」というキャリア戦略
VUCA時代に求められる「越境」というキャリア戦略。個人の主体的なキャリア形成を促し、組織全体の活力を引き出す具体的なヒントを、ジョブ・キャリアクラフティングとエフェクチュエーションの視点から解説します。
更新
MBAの本当の価値とは?~単なる知識の習得でなく、「思考のOS」をバージョンアップし、キャリアを拓く
MBAの価値は知識を得ることに限りません。むしろその本質は、「思考」のバージョンアップにより視座を高めることにこそあります。あなたのキャリアを切り開くMBAの学びについて解説します。
更新
仕事を面白くする3つのコツ~離職理由になりやすい担当業務・人間関係・待遇の不満を前向きにとらえ直す
今や転職が当たり前の時代。「仕事が面白くない」「やりがいを感じられない」と感じたらすぐに転職を考えるケースも少なくありません。しかし、一度立ち止まり、「逆に面白くできないか」と考えるための「技」をご紹介いたします。
更新
キャリア自律を後押しするEAST理論と、手間がかからない研修運用の仕組みで、組織の成長を実現する
社員が主体的に学び成長する「キャリア自律」を実現するには、制度設計と運用の工夫が欠かせません。EAST理論を活用し、事務局の負担を抑えながら学びを促進する具体策をご紹介します。
更新
MBA視点で人事の価値を高める~人事部長が「会社の戦略」と「個人のキャリア」を結ぶ人材育成の3ステップ
企業の人事部長がより高度な人材育成を行うための、MBA視点の有用性を解説します。人事部長が経営の視座を獲得することで、会社の戦略と社員のキャリアを接続する「経営と現場の架け橋」になることができます。
■関連研修シリーズ
■関連商品・サービス一覧
更新
部下・後輩モチベーション向上研修~3つの観点から仕事のパフォーマンスを上げる(冊子教材付き)
更新
研修企画・教育体系構築のポイント~人材育成は組織の未来づくり(スライド付き)
更新
キャリアデザイン研修~自律的なキャリア形成に向けた主体的な学習計画(半日間)
更新
<課題解決ワークセッション>教育体系ツールをつくろう!(2日間)
更新
<課題解決ワークセッション>離職防止策策定(2日間)
更新
働く高齢者のための安全と健康管理
更新
主体性発揮研修~6つの行動で仕事の向き合い方を変える
更新
キャリア支援面談研修~相談者に寄り添い、共に方向性を考える(1日間)
更新
【金融経済教育シリーズ】支え合う社会の仕組みを知ろう~ふるさと納税・社会保障制度
下記情報を無料でGET!!
無料セミナー、新作研修、他社事例、公開講座割引、資料プレゼント、研修運営のコツ
※配信予定は、予告なく配信月や研修テーマを変更する場合がございます。ご了承ください。
配信をご希望の方は、個人情報保護の取り扱いをご覧ください。
無料セミナー、新作研修、他社事例、公開講座割引、資料プレゼント、研修運営のコツ

登録は左記QRコードから!
※配信予定は、予告なく配信月や研修テーマを変更する場合がございます。ご了承ください。
配信をご希望の方は、個人情報保護の取り扱いをご覧ください。