トランジションとは(前編)~人生の雨の日に向き合う3つのステップ

トランジションとは(前編)
~人生の雨の日に向き合う3つのステップ

トランジションとは、日本語で「移行」「変化」「過渡期」という意味の言葉です。「人生の転機を上手く乗り越えるためのプロセス」として、1994年にアメリカの人材系コンサルタントであるウィリアム・ブリッジズが提唱した「トランジション理論」は、今日でも人生の節目における様々な変化に悩む多くの人に影響を与えています。

今回は、このトランジション理論をベースとして、自ら希望しない人事異動や役割転換を命じられ、まさに「人生の雨の日」を迎えていると感じている方に、新たな役割への移行期としての「トランジション」を乗り越える3つのステップについてお伝えします。

新しい役割を前向きに受け入れて飛躍できるか、それとも前のやり方を引きずったまま変われないのかは、トランジションの過ごし方がカギを握っていると言えます。 今まさに変化の時を迎えている方はもちろん、将来起こる変化について知っておきたい若い方、トランジション当事者の上司や人事担当者の方も、ぜひ参考にしていただければと思います。

1.トランジション理論の3つのステップ

就学、就職、転職、転勤、昇進、結婚、出産・子育てなど、人の生涯には様々な節目がありますが、そのどれもが人生の移行期、すなわちトランジションにあたります。

ブリッジズ氏は、トランジションを「外的な出来事」ではなく、「内面の再方向付けや自分自身の再構築をすること」と定義しています。変化とは「状況」が変わることであり、その変化によって「心理的に変わる」のがトランジションというわけです。

トランジションには、3つのステップがあります。

【ステップ1】終焉(何かが終わる時期)
【ステップ2】中立圏(混乱や苦悩の時期)
【ステップ3】開始(新しい始まりの時期)
ブリッジズのトランジョンプロセスの図

転職や引っ越しなど転機となる出来事によって新天地に向かったとしても、人はすぐに新しい習慣を身につけたり、新しいやり方に適応できたりするわけではありません。なぜなら、人の心には、「終わり」と「始まり」の間に「中立圏」と呼ばれる期間が存在するからです。

この期間にいる人は、「古い自分」でも「新しい自分」でもない、「何者なのか分からない自分」と向き合っています。再スタートに向け新しいことを始めても上手くいかなかったり、非常にモヤモヤとして居心地が悪い気がするのはそのためです。しかし、この期間を意識的に過ごすことで、「古い自分」と「新しい自分」を融合させ、新しい立場に相応しい行動を取ることができるようになるのです。

それでは、それぞれのステップでどのような変化が起きるのか、職場における役割転換の例で詳しく見ていきましょう。

2.ステップ1:終焉

外的な変化によって、これまで慣れ親しんできた活動や人間関係、環境などから引き離され、「何かが終わる」ことから始まります。この時、心の中では以下のような動きがあります。

a.離脱(disengagement)
・慣れ親しんできた場所や社会的秩序から"引き離される"感覚に襲われる
b. アイデンティティの喪失
・これまでの役割と結びついていた古い習慣や行動パターンが解体される
・それらによって強化されていた自分のアイデンティティが解消される
c. 覚醒(disenchantment)
・これまで過ごしてきた世界が「現実」ではないと気づく
d.方向感覚の喪失(Disorientation)
・目的や目標を見失い、これからどこへ進むべきか分からなくなる

【職場におけるアイデンティティの喪失の例】
・マーケティング職から品質管理の部署へ異動になったAさん
 →「新企画を生み出すクリエイティブな自分」の喪失
・管理職から専門職へ役割転換となったBさん
 →「部下に対してリーダーシップを発揮してきた自分」の喪失

周りから見ると、「役割」が変わっただけのように思いますが、当事者にとっては、組織における自分の存在証明のようなものを奪われてしまうことに等しく、それは想像以上に辛いものです。しかし、一度決まった辞令が覆ることは普通ありません。大切なのは、今起きていることを否定せず、これまでの自分は一旦リセットされたのだと受け入れ、次のステージを見据えることです。真の変化は、ここから始まります。

3.ステップ2:中立圏

古い自分が終焉したことを理解したものの、まだ新しい自分にはなれていない、"何者でもない自分"で過ごす期間を「中立圏(ニュートラルゾーン)」と呼びます。これまで大切にしてきたかつての習慣や行動パターンはもはや価値を持たず、まるで「生きる意味」を失ってしまったかのような、深刻な喪失感や空虚感に襲われます。

しかし、その空虚感から逃れようともがくべきではない、とブリッジズ氏は論じています。むしろ、その虚しさの中にどっぷりと浸かり、自分が今このような状況に陥っている意味をきちんと理解することが、「本当の自分」に生まれ変わるためには必要です。

ブリッジズ氏は、ニュートラルゾーンの意味を見出すための方法として、以下の行動を勧めています。

・一人になれる特定の時間と場所を確保する
・ニュートラルゾーンの体験を記録する
・自叙伝を書くために、ひと休みする
・この機会に、本当にしたいことを見出す など

これまでの人生を振り返り、誰にも邪魔されず自分自身と徹底的に向き合う時間をつくることで、これまで気づかなかったり、忘れていたりした「本当の自分」が見えてきます。それこそが、ニュートラルゾーンというものが存在する意味だといえます。

【これまで気づかなかったり、忘れていたりしたこと】
・昔、ビーズアクセサリー作りにはまっていたAさん
 →凝ったデザインを考えるだけでなく、ビーズの数やパーツの種類を間違えず、 コツコツ作ることが楽しかった
 →もしかすると、品質管理の仕事も向いているかも......
・高校時代、生徒会の副会長だったBさん
 →時に暴走しがちな会長の良き相談相手となり、生徒会の運営を支えている自負があった
 →リーダーを支えるフォロワーシップがあるのかも......

仕事の状況や家庭の事情によっては、一人になれる時間と場所を確保するのは難しいかもしれません。出勤前や退社後にカフェに寄る、週末にドライブに出かけるなど、出来る限りの時間のやりくりを考えてみましょう。自分自身としっかり向き合うことで、古い自分と新しい自分をつなぐキーワードを見つけられたら、いよいよトランジションの最終局面を迎えることとなります。

4.ステップ3:開始

中立圏で「自分探し」がしっかりとできたら、新たな始まりを迎える準備はもう整っています。気負わず、少しずつでもよいので、「こうしたらいいのかも」と思うことを実践してみましょう。

しかし、いざ新しいことを始めようとすると、「もう少し準備がいるのでは」と先延ばしにしたがる自分に気づきます。「古い自分」が本当にいなくなることに怯えているのかもしれません。変化に対する「内的抵抗」が自分の中に起き、過去と現在を行きつ戻りつしているうちに、少しずつ「古い自分」と「新しい自分」が融合し、新しい立場に相応しい行動を取ることができるようになります。

「古い自分」と「新しい自分」が融合したら......
・品質管理の部門で新しい仕事を始めたAさん
 →前職のマーケティングでデータを扱うのは慣れている。 数値を使って、品質管理を定量的に分析してみよう
・専門職として、管理職のフォローに回ったBさん
 →今の上司はまだ若く経験が多くない。自分の経験をどんどん伝えていこう

最後に ~トランジションから抜け出した人は確実に成長している

「何かが終わると、人はニュートラルゾーンでしばらく(休暇の)時を過ごし、それから新しい何かが始まる。人生というものは今までもずっとそういうふうに変化してきたし、これからも変化し続けるだろう。トランジションの時期を革新と変革の時にしよう。トランジションから抜け出してきたとき、あなたはトランジションに入った時よりも強くなり、世界によりよく適応しているだろう」

出典:ウィリアム・ブリッジズ著 倉光修 小林哲郎訳『トランジション――人生の転機を活かすために』 P.115
 パンローリング株式会社  2014年4月3日

順調なキャリアを重ねていた日々が突然終わると、まるで人生の終わりが来たかのように絶望する人もいるかもしれません。
しかし、「雨」は「曇り」となり、やがて曇り空に陽が射します。そのような天気の回復のように、人生も必ず良い方向に移り変わっていきます。人は何度でも新しい自分を始めることができるのです。

人生100年時代と呼ばれる現代は、過去に生きてきた人よりもさらに多くのトランジションの機会に見舞われるでしょう。トランジション理論を知ることで、長い人生を通じて持続的に成長できる可能性を見出していただければ幸いです。

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