GRIT(グリット)~努力は才能を凌駕する

GRIT(グリット)~努力は才能を凌駕する

現在でも関心が高いですが、4~5年前に「やり抜く力(GRIT)」という言葉が注目されました。やり抜く力(GRIT)とは、「自らやり遂げると決めたことに対して、困難にも屈せず、継続的に努力して成果を上げること」を指します。

最近、「若手の継続する力、やり抜く執着心が落ちている」というお話をよくうかがいますが、これは、若手だけの問題ではなく、自分も含め、全世代に共通する課題だと思います。

そうなった要因ははっきりとはわかりませんが、便利な世の中になったということが大きく関係していると思います。現在はWEBの検索でほとんどのことが調べられますし、そのWEBページを見れば、書籍を読まなくても、自分に必要な情報を得ることができます。楽にいろいろなことができるようになると、泥臭く、愚直に粘り強く、長期間一つのことに打ち込むことに逡巡してしまうのは、仕方が無いことかもしれません。

1.GRIT(グリット)とは

GRIT(グリット)とは、先ほど説明したように、一言でいうと「やり抜く力」ですが、さらに細かくその要素を因数分解すると、以下の4つとなります。
「Guts」(闘志)、「Resilience」(粘り強さ)、「Initiative」(自発)、「Tenacity」(執念)
一つずつみていきましょう。

① Guts(闘志)

Guts(ガッツ)は前向きで熱い気持ちと言い換えることができます。人を動かす原動力となるマインドです。このような気持ちを瞬間的に持つことはそれほど難しくありませんが、ガッツを継続することは困難です。熱い気持ちを継続するためには、正しく前に向かって進めるように目標を立てることや、自分を勇気づけてくれる上司・先輩・同僚などの存在が重要となります。

②Resilience(乗り越える力)

Resilience(レジリエンス)は「困難にぶつかっても、しなやかに回復し、乗り越える力」のことです。このようなマインドを持っていると、何が起きても柔軟に対応し、物事を継続することができます。

③Initiative(率先力)

Initiative(イニシアチブ)は、自分から物事を積極的に行う率先力のことです。何事も成長できるチャンスだと捉える楽観性や、自分で自分の限界を作らず、チャレンジする気持ちが率先力を生み出します。

④Tenacity(粘り強さ、執念)

Tenacity(テナシティ)は、粘り強さ、執念です。「自分がこれをやり遂げなければならない」「断られても諦めない」「相手に嫌な顔をされてもひるまない」といった断固たる決意 (determination)が粘り強さや執念を産み出します。

2.やり抜くためには持久力が重要

ここで、ほんの少し昔を振り返ってみましょう。今より少し前、残業しても良い時代がありました。毎日17時過ぎに出先からオフィスに戻り、お客さまに聞いたことをまとめたり、新しく提案する資料を作ったり、時にはカップラーメンを食べながら同僚と意見交換したりもしました。「まだやってるのか?あんまり根を詰めるなよ」などと上司に言われながらも、思う存分試行錯誤し、納得するまで考え、実行し、結果が出れば評価される。頑張っていることがわかりやすく体現でき、達成感を感じられる働き方ができた時代です。

しかし、業績低下による残業代の削減や、働き方改革による長時間労働の抑制が進み、いまややり切った達成感を感じることが難しくなっているのではないでしょうか。そのような状況下でモチベーションを下げずに働くためには、文化祭の前日のような瞬発的な盛り上がりではなく、持続的に達成感を感じるやり方に変えていく必要があります。

まず、達成感は、残業をしたり徹夜をしたりすることで得るものではないと思考を転換するところから始めましょう。短期集中的な頑張りではなく、長期的な計画で目標に向かって努力し、確実に達成する地道な頑張り方にシフトします。必要なのは瞬発力よりも持久力です。

コツコツとした努力が素晴らしいと誰もが知っていても、実際に継続できる持久力を持った人はそれほど多くありません。年初に「今年こそ〇〇をやるぞ!」と目標を掲げても、春頃にはその気持ちも薄れ、夏は言い訳を作って先延ばしし、そのうちなし崩しになる......。「3日坊主」という言葉があるくらい、継続することは難しいのです。

3.継続を阻害する要因とその対策

ではなぜ、人は目標半ばで継続できなくなってしまうのでしょうか。それは以下のような要因が考えられます。

①興味が無いことをやっているから
②難しすぎる目標を掲げるから
③やらされているから
④続けても成果が出ない
⑤続けることに意義を見出せなくなった

このような継続を阻害する要因を防ぐ対策についてみていきます。

①興味が無いことをやっているから⇒興味があることを目標にする

やり抜く人は興味を持ったことを追いかけています。逆説的に言うと、興味がないことを続けることは難しいと言えます。最初は「〇〇さんのようなプレゼンができるようになりたい」というちょっとした憧れでも構いません。自分の興味がわいたことを目標にしましょう。

②難しすぎる目標を掲げるから⇒ちょうどよい目標を掲げる

あまりに簡単な目標だと達成感は得られませんし、達成することが難しいような目標を掲げてしまうと挫折する可能性が高くなります。本人が「これなら頑張れば達成できる」と感じられ、長期的に取り組む類のことを設定することが重要です。 また、なんとなくのイメージではなく、できれば数値で定量的に測れる目標だと、攻略したぞ!という達成感が出ます。

③やらされているから⇒自分で掲げた目標なら努力できる

他人が決めたことを続けるのは困難です。しかし、自分で決めたことなら、人間は継続することができます。与えられたミッションであったとしても、それを達成するための具体的な目標は自分で立てるようにしましょう。

④続けても成果が出ない⇒意図を持った努力をする

継続することと、なんとなく続けていることには明確な違いがあります。成果につながる継続とは、機械的なルーティンではなく、明確な意図を持った努力をすることです。 例えば、練習の内容を記録する、定期的な振り返りを行う、目標を細分化してひとつずつ克服する計画を立てるなどです。ただ漫然と続けるのではなく、記録したり、そこから振り返ったり、改善を試したりなどの意図的なチャレンジが必要です。

⑤続けることに意味を見出せなくなった⇒社会的貢献など有意義な目的をもつ

組織や社会にとって意味がある・誰かの役に立つことは、仕事に意義を与えます。近年SDGs達成への取り組みが注目されていますが、価値がある目的や、誰か・何かの役に立つ仕事は誇りを生みます。やればやるほどポジティブな達成感を伴うので、情熱を持って仕事に没頭できます。

周囲に反対されたり、途中であきらめそうになったりしても、動機が大きな意義につながっていると、初心に立ち返り、長期的に継続してやり抜こうと思えます。仕事に対し、深い意義を感じることはワークエンゲイジメントを向上させます。
※「ワーク・エンゲイジメント」......ポジティブで達成感を伴う仕事上の心的状態

4.成長志向と固定思考

さて、ここまでのプロセスをみて頂いて、何故ここまでして継続しなくてはならないのかと疑問を感じた方もいると思います。そこで成功した人材に関するこんな研究結果をご紹介します。

アメリカの心理学者アンジェラ・ダックワースは、陸軍士官学校や子どもたち、民間企業や医師、弁護士などあらゆる方面で調査をしました。途中で辞めてしまう人と卒業する人、テストで勝ち残る生徒、成功者に共通する特徴を調べた彼女は、「人が成功するのは能力や身体力、IQとは関連性がなく、長期的にやり抜く力があること」を発見しました。

また、「偉業を成し遂げた人物に共通する特徴」を研究したスタンフォード大学の心理学者キャサリン・コックスも、「知能のレベルは最高ではなくても、最大限の粘り強さを発揮して努力する人は、知能のレベルが高くてもあまり粘り強く努力しない人より、はるかに偉大な功績を収める」と述べています。 (アンジェラ・ダックワース著、神崎朗子訳『やり抜く力~人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける、ダイヤモンド社、2016年、113p』

やり抜く力がある人は、自分の限界はここまで、と決めず、能力は努力次第で向上させることができると信じています。これを「成長思考」と言います。 一方、自分の能力は変えることができないという考えが「固定思考」です。

<成長思考と固定思考>
「成長思考」
・もともとの知的能力のレベルにかかわらず、かなり向上させることができる
・知的能力はつねに大きく向上させることができる

「固定思考」
・知的能力は人の基本的な性質であり、ほとんど変えることはできない
・新しいことを学ぶことはできるが、知的能力自体を向上させることはできない

成長思考の人は、ポジティブな心理から挑戦を続けるのでやり抜く力も強化されていきます。固定思考の人は、持って生まれた知的能力は向上しないという思考回路なので、挫折すると自分には能力がないからだと解釈してしまいます。ネガティブな気持ちから他責(人のせい)にして工夫しようとしません。ますますやり抜く力は育たないという悪循環にはまります。

つまり、成長思考を持って継続することができる人は、能力やIQに関係なく成功を手にすることができるというわけです。

5.やり抜く力を鍛えるメリット

「継続してやり抜く力」の重要さはお分かりいただけたかと思います。やり抜く力を伸ばすことは、個人に、そして組織にはどんなメリットがあるのでしょうか。一つずつみていきましょう。

①試行錯誤して成長していく

人が仕事を通じて成長するには、自分で考え、工夫を重ね、やってみてまた考える過程が必要です。

<人が仕事を通じて成長するフロー例>
ア.まずは自分でやってみる
イ.仕事の難しさと奥深さを知る(壁を感じる)
ウ.課題について、自分で本を読んですり、研修を受けたり、職場のその道の達人に話を聞いたりして成長を図る
エ.仕事の本質を知って、自分なりの工夫ができるようになる
オ.また自分なりに仕事の難しさや課題を感じる(新たな壁)
カ.壁を乗り越えてさらに成長する→また新たな壁が現れる→乗り越えて成長する......という繰り返し

常にもっと良くしよう、もっといいものを作ろうと目標を立て、達成します。壁を乗り越えた自信は、次の挑戦をやり続ける原動力になります。

②当事者意識が醸成される

やり抜いたかどうかは他者が決めるものではありません。日々の鍛錬を怠れば何より自分が一番に気づきます。自分の目標にコミットし、それを達成するために、主体的に努力を積み重ねます。自分が主導権を持って努力する過程をコントロールしていると、当事者意識や責任が育まれます。

③持続性のあるモチベーションが得られる

明確な目標に向かって着実に前進している実感を得ることは、毎日ただ漠然と働くよりもやりがいを感じられます。モチベーションは内的に発生したものほど持続します。自分で決めた目標を達成するために、新たな挑戦や工夫を繰り返すことをジョブ・クラフティングと言います。 ジョブ・クラフティングとワーク・エンゲイジメントは大きな関係性があり、喜びを持って創意工夫することがますますやり抜く力を強めていきます。
※「ジョブ・クラフティング」......従業員が自身の仕事を主体的に形作るプロセスのこと

④周りに良い影響が広がる

目的にまい進する姿は「あの人のようになりたいという憧れ」につながり、ロールモデルとなったり、「あの人にできるのであれば、自分にもきっとできる」と目標とされたりするなど、周りに良い影響を与えます。また、小さな挑戦を応援する組織風土になると、失敗や挫折を恐れずにチャレンジする精神が広がっていきます。

■個人をサポートする体制がつくられる
人は、一人で孤独に走り続けるよりも、誰かの励ましを受けながら頑張る方が力を発揮できるものです。周囲のサポートによって仕事をやり遂げた時ほど、大きな達成感とやりがいを感じることができ、組織への愛着も高まります。また、組織・チームに自分が貢献できていると感じると自己効力感も高まります。 最近はリモートワークの人が増えたことで、周囲のサポートを感じにくい環境が広がりつつあります。働き方も働く環境も大きく変わるなかで、チームの一体感を改めて醸成し、組織をまとめていくためにも、長期的にチャレンジできる体制づくりが求められています。

まとめ

最終的に成果を上げる人材が、生まれ持った能力やIQの高さとは関係なく、当たり前のことをコツコツと成し遂げた人だと聞いて、どんな感想を持ったでしょうか。華やかな成功の陰には長期的な探求心や継続した努力が必ずあるはずです。

やり抜くとは、計画性を持ったプロセスを長期的に繰り返すことです。一つひとつはどれも当たり前で簡単なことですが、それを継続させることは、夢や情熱を持った当事者でなければ難しいものです。だからこそやり抜く力を持つ人は強く、周囲にも良い影響を与えます。

あきらめない限り、まだプロセスの途中です。やり抜く力は誰でもいつからでも伸ばせます。ただひたすら地道に誠実に、粘り強く努力し続けることが、大きな成果を生むのです。

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