システム障害は防げますか?レジリエンス(回復力)の高い組織は、場当たり対応で疲弊しない

システム障害は、どれだけ対策を講じても完全に防ぐことはできません。それにもかかわらず、多くの企業が「ゼロリスク」を前提にした運用を続け、ひとたび問題が起きると、責任追及や表面的な処分に終始してしまいます。このような対応は、根本的な改善につながらず、むしろ新たなトラブルを生む悪循環を招きかねません。
重要なのは、障害を完全に防ぐことではなく、いかに速やかに、しなやかに立ち直るかというレジリエンス、すなわち回復力に焦点を当てることです。
なぜ、優秀な人が揃っていても障害は起きるのか~曖昧な合意と心理的安全性の欠如がトラブルを招く
システム障害が多発する背景には、技術的な欠陥だけでなく、組織運営やプロジェクト管理における構造的な問題が潜んでいます。それがシステムの「回復力」を奪い、脆いものに変えてしまいます。
多くの組織で共通する、障害の根本原因は以下の3つです。
1.仕様の曖昧さが招く連鎖的なバグ
要件定義フェーズにおいて、「このくらいでいいだろう」「後で調整しよう」といった曖昧な合意で進めてしまうことが、障害の最大の引き金です。プログラミングのバグ自体は小さな問題かもしれませんが、そのバグが「顧客が求めていた機能と違う」という致命的な手戻りにつながるのは、初期の仕様合意が揺らいでいたからです。
2.心理的安全性の欠如による報告の遅延
「こんな初歩的なミスを報告したら怒られるのではないか」「自分のせいにされたくない」という恐怖心が組織内に蔓延していると、小さな兆候やミスが隠蔽されがちです。発見が早ければ簡単に修正できた問題が、報告が遅れることで雪だるま式に肥大化し、大規模なトラブルへと発展します。
システム担当者だけでなく、ベンダー担当者も含めたチーム全体で、ミスを報告することをポジティブに捉える文化の醸成が大切です。
3.場当たり的な対応で疲弊する運用体制
障害が発生するたびに、開発チームが緊急対応に追われ、本来の予防策や改善策に取り組む時間が削られてしまうという悪循環が発生しがちです。運用フェーズに入ってから、開発時と同じ人員が「保守」として巻き込まれ、疲弊することで、次期プロジェクトの品質にも悪影響を及ぼし、全体として組織の生産性を低下させてしまいます。
フェーズ別3大施策~漏れない要件定義・ミス報告の賞賛・予防専門部隊
これらの構造的な課題を打破し、障害件数を削減するために、PM(プロジェクトマネージャー)や部門長が取るべき戦略はシステムライフサイクル全体にわたる予防策の確立です。
1.予防フェーズ:「手戻りゼロ」を目指す超具体的な要件定義
障害の8割は、開発工程に入る前の要件定義で決まります。ここで必要なのは、「顧客が何をしたいか」だけでなく、「顧客がしたくないこと・絶対に起きないでほしいこと」まで徹底的に定義し尽くすことです。
2.開発・テストフェーズ:「恐怖心を捨てる」フィードバック文化の醸成
ミスは「見つけるのが早ければ早いほど良い」という原則を徹底するための組織設計が必要です。重要なのは、「ミスをした人」ではなく「ミスを発見し、全体を救った行動」に光を当てることです。PMや部門長が率先して、開発チームやベンダーに対し、「ここで報告しない隠蔽こそが最大のリスクである」というメッセージを伝え続けることで、透明性が向上し、潜在的な問題を早期に顕在化させることが可能になります。
3.運用・保守フェーズ:開発チームから独立した「予防専門部隊」の設置
開発と保守を同一チームが行うと、どうしても「緊急度の高い保守」が優先され、「重要度の高い予防・改善」が後回しになります。予防と保守を分離し、専門チームが継続的に健全性を監視する仕組みが必要です。
ゼロリスク幻想を捨て、企業の信頼を高めるレジリエンス文化をつくる
システム障害は、すべてを排除しようと無理をすれば、かえって事態を悪化させます。トラブルが完全に消えることはありません。技術的な予防努力に加え、障害を未然に防ぎ、発生時に影響を最小限に抑え、そして迅速に回復するというレジリエンス文化を組織に根付かせることが、企業の信頼と継続的な成長を支える鍵となります。
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