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自治体の業務効率化は「業務の可視化」から始まる~行政DXに求められる可視化力

人口減少と高齢化が進む日本では、働き手が減る一方で住民ニーズは複雑化・高度化しています。防災、福祉、子育て、まちづくりなど、限られた人員と予算で多様なサービスを維持することが、自治体の喫緊課題となっています。

しかし現場では、「法令遵守」「公平性の担保」「失敗を避けたい」という行政特有の文化から、前例踏襲が根強く、紙やハンコを使った業務が今なお多く残っています。

さらに、住民のなかには高齢の方や障がいのある方も多く、すべての手続きを一律にオンライン化することは難しい事情もあります。こうした背景のなかで、「いまの業務が本当に効率的か」を可視化し、改善点を明確にすることが、行政DX実現の第一歩です。

行政DXの定義とDX実現の3段階

行政DXとは、単にデジタル技術を導入することではなく、住民サービスと職員業務の質を同時に高める改革を指します。総務省が示すデジタル化の定義は、以下の3段階に整理できます。

段階1:アナログ情報のデジタル化~デジタイゼーション(Digitization)

ハンコ・ファクスなどアナログな情報をデジタルデータに変換する段階

例:申請書をPDF化する、押印を電子化する

段階2:デジタル情報を活用した業務改善~デジタライゼーション(Digitalization)

デジタル化されたデータを活用し、業務プロセスを最適化・効率化する段階

例:申請情報を庁内で共有し、決裁までを自動ルート化する

段階3:デジタル情報を活用した組織変革~デジタルトランスフォーメーション(DX)

データ活用や制度設計の見直しを通じて、行政サービス全体の仕組みや組織文化を変革する段階

例:住民データを活用して、AIが窓口の混雑予測や職員配置を最適化する

DX実現の3段階

デジタルトランスフォーメーションの定義

出典:総務省「デジタル・トランスフォーメーションの定義」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html
(最終アクセス:2025/12/11)

DXは「技術導入」ではなく、「行政運営の構造改革」である点が重要です。

業務改善・組織変革には業務の可視化が前提条件

DXや効率化を進める前に、まず問うべきはこの3点です。

  • 業務マニュアルは整備されていますか?
  • 属人化していませんか?(特定の人しか手順を知らない業務はありませんか?
  • 各作業にどれくらいの時間や工数がかかっているか把握していますか?

多くの自治体では「回っているから問題ない」と見過ごされていますが、業務の実態が見えなければ、改善も自動化も進めようがありません。業務の可視化とは、現場の見えない作業を見える形にし、判断・改善できる状態にすることです。

業務の可視化から改善・定着までの具体的な方法

行政の業務は法手続きや他部門との連携が多く、複雑になりがちです。以下の手順を踏むことで、誰でも取り組める業務フロー可視化が可能になります。

1.目的と範囲を決める

まず「何のために」「どの業務を」見直すのかを明確にします。例としては、「来庁者の待ち時間を短縮し、市民サービスを向上させるために、窓口対応時間を見直す」ことなどが挙げられます。目的が曖昧だと、分析が形骸化します。

2.現状を把握する

担当者へのヒアリング、書類の流れ、システム入力の手順を調査します。可能なら、1件あたりに要する時間・手戻り回数・関係部署数を定量化します。Excelやタイムスタディシートを活用すると便利です。

問題原因分析シート

出典:東京都デジタルサービス局「区市町村における行政手続デジタル化支援事業 令和3年度事業報告」P.13
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/business/kushichoson-dx/digital-support
(最終アクセス:2025/12/11)

3.プロセスを図で整理する

業務の流れを図式化します。代表的な手法は次のとおりです。

  • フローチャート
    工程の順序を矢印で表現。手軽に全体像をつかむのに最適。
  • スイムレーン図
    部署・担当者ごとに「レーン」を分け、部門間の連携や滞留を明示。
    部署を超えるやり取りや、ボトルネック箇所を発見しやすくなります。
  • BPMN(Business Process Model and Notation)
    国際標準の記法。イベント(●)・タスク(□)・判断(◇)で流れを表します。
    複雑なプロセスでも統一された形式で共有できます。

業務フローイメージ例

出典:東京都デジタルサービス局「区市町村における行政手続等デジタル化ハンドブック」2.0版 P.178
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/business/kushichoson-dx/digital-support
(最終アクセス:2025/12/11)

このように図に起こすことで、ムダ(不要な工程)・ムリ(担当者負担)・ムラ(作業のばらつき)を具体的に把握できます。

4.可視化した業務を改善・定着する

可視化した結果をもとに、改善策を立案・実行し、成果を検証します。

  • 不要な手順の削除(業務辞退)
  • 手作業のデジタル化(デジタイゼーション)
  • プロセスの再設計(デジタライゼーション)

改善後は、処理時間・エラー率・住民満足度などをKPIとして定期的に確認します。こうして業務改革の土台を整えることが業務改善への第一歩となります。

まとめ~業務の可視化はDXの出発点

本記事では、自治体の職員の方向けに、業務効率化の一歩目である業務の可視化のポイントについてご紹介しました。行政DXは、いきなりシステム導入から始まるものではありません。まずは「業務を可視化」し、現場の事実に基づく改善を積み重ねることが何より重要です。

当社インソースでは、業務の可視化や業務効率化、自治体DXなど、実践的な学びを強みとした業務改善への直結を支援する多彩なサービスを展開しています。ぜひご活用ください。

業務フロー作成研修~業務の視覚化で、改善やリスク管理につなげる

画像・写真

業務の「見える化」を通じて、非効率なプロセスや潜在的なリスクを発見し、改善につなげる具体的な方法を習得します。業務フローの作成と活用により、属人化を防ぎ、組織全体の生産性を向上させる力を養います。

本研修のゴール

  1. 現状の業務を漏れなく洗い出し業務プロセス上の非効率な工程やリスクを発見することができる
  2. フローチャートを用いて、誰もがわかりやすい業務の流れを作成することができる
  3. 作成した業務フローを実際の現場で検証し、実情に合わせた内容に改善することができる
  4. 業務フロー作成に連動させ、業務の改善提案やマニュアルの整備を行うことができる

よくあるお悩み・ニーズ

  • 自部署の仕事が、どの部署からきて、どの部署に流れていくのかがわからない
  • 仕事の目的をもっと明確化して、リスクの防止や部下のモチベーションアップへつなげたい
  • 業務引継ぎをすることになったので、後任者がわかりやすい業務フローを作りたい

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セットでおすすめの研修・サービス

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行政においてBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が求められている背景やどのような姿勢で推進していくべきかを学びます。研修内のワークでは、書面で受理した申請書をExcelの名簿に手入力して管理しているといった具体的な業務事例をもとに課題を洗い出します。

学んだことを実践し、実際のBPRでも発揮できる課題発見力を身につけられる研修です。

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業務改善のポイントや基本手順をおさえ、柔軟な発想力やデジタルの知見を深めることの重要性を理解します。また、自分一人ではなく周囲を巻き込みながら改善を進めるための、周知力・調整力・関与力の3つのスキルを解説します。

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