メンタルタフネスとは~能力を最大限に発揮する、コンディション調整

メンタルタフネスとは
~能力を最大限に発揮する、コンディション調整

「メンタルがタフ」と聞いて、皆さんはどんな様子をイメージするでしょうか。メンタルが弱いことはネガティブなイメージでとらえられがちですが、では強いメンタルとは何なのかと聞かれると、いわゆる根性論や精神論で語る方も多いのではないでしょうか。

しかし、今回お話しする"メンタルタフネス"は精神論ではありません。自分の持つ能力を最大限に発揮する、セルフコントロールのことです。一流アスリートも実践するメンタルの整え方を、ぜひご一読ください!

1.なぜビジネスパーソンにメンタルタフネスが必要なのか

プロスポーツ選手のようなアスリートは、試合という本番で確実に結果を出さなければなりません。選手がみな等しく食事管理や筋トレをしているのであれば、勝敗を分けるのはその時の精神面だけ、ということになります。

突然のトラブル、プライベートのごたごたなどで気が散っていれば、試合中の集中力に欠け、ミスを招きペースを崩すことになります。何かに気持ちを乱されることなく、メンタルをコントロールし、自分の持っている潜在的な能力を十二分に引き出したい、というのはアスリートの切実な願いです。

試合に向けて体調管理し、十分な休息や調整も必要とされるアスリートに比べ、ビジネスパーソンは一日の大半を仕事が占め、疲れを十分に回復しきらないまま勤務を続けることが多いと思います。メンタルタフネスは、休みなく活動するビジネスパーソンの皆さまにこそ身につけていただきたい技術と言えます。

2.良い成果を生み出す8つの心理状態

そのように忙しく、気持ちが休まらないビジネスパーソンに必須なスキルがメンタルタフネスです。メンタルタフネスとは、自分の持っている能力をいかんなく発揮するために、心理状態を良い方向に変えることができる能力のことです。

職場の人員に余裕がなく、少ないメンバーで多くの業務を行わなければならない、成果を早期に求められる、など、現在はストレスフルな時代です。メンタルタフネスはそのような時代において、安定して良いパフォーマンスを発揮するためのスキルと言えます。

プロアスリートのメンタルトレーナー、ジム・レーヤーは、「行動の質は、それを遂行する時の感情の状態(心理状態)を反映している。」と言います。つまり、良い行動をとったから良い心理状態になるのではなく、良い心理状態の時に良い行動が生れる、ということが、メンタルタフネスの前提です。

アスリートやビジネスパーソンのパフォーマンスに影響を与える、"良い心理状態"とはどんな状態なのでしょうか。

良い心理状態とは、下記の8つのような状態が挙げられます。

1.精神的落ち着き
落ち着いていて、冷静。自分のことを俯瞰的、客観的にみることができる状態
2.肉体的リラックス
肉体的にリラックスしており、緊張がみられない状態
3.エネルギーがあり活性化している(エンゲージ
落ち着いているが、心と身体は活性化している状態
4.楽観的
楽観的。どのような困難・挑戦でも、それに立ち向かおうとする姿勢がある状態
5.自信がある
パニック、不安、怒り、緊張をする場面であっても、確固たる自信により冷静な状態を保つことができる状態
6.楽しんでいる
やっている本人が楽しんでいる状態。楽しむことは何物にも代えがたい大切な要素で、ポジティブな気持ちを生み出すエネルギー源になる
7.無理をしていない
心と体の調和がとれている時は、簡単にやっているように思えるし、相手にもそう見える
8.自然である
素晴らしい行動をしている時の動作は、直観的・本能的で自動的なもの

先ほども述べましたが、良い行動ができたら8つの心理状態になるのではなく、良い心理状態でいるから良い行動ができるのです。しかし、日々ストレスフルな生活をするビジネスパーソンは、上記のようなコンディションでばかりいられるわけではありません。

通常、人間の心理状態は、大きく見て4つの状態に分けられます。それぞれの心理状態によって、脈拍や身体の生理的反応が変わり、行動を左右します。

図を使って解説します。縦軸は、上に行くほどエネルギーが高く、下に行くほどエネルギーが無い状態です。横軸は右に行くほどポジティブ(快)の状態で、左に行くほどネガティブ(不快)な状態です。※ここで言うエネルギーとは、「気合が入っている」「活気がある」といった状態です

【4つの心理状態】

                                                ※参考:ジム・レーヤー、ピーターマフラリン著、高木ゆかり訳『ビジネスマンのためのメンタル・タフネス』阪急コミュニケーションズ、1992年、39~43p

A.ロー・ネガティブ
①心理的エネルギーの状態
エネルギーはなく、筋肉が緊張している。消耗しきっており、抑圧されている。
②ストレスや危機への反応
放棄し、あきらめる反応:自分にはできないと無抵抗で引き下がる
③身体の状態
筋肉は緊張状態。疲れを感じている。

潜在能力の100%のうち、ロー・ネガティブな状態では、10%の力しか出せない

事例1:Bさん(ロー・ネガティブ状態 あきらめ)
今日も提出物が仕上がらなかった。仕事が遅いと上司に思われるのが怖くて、報告することもできない。呼吸が浅くなり、動悸が激しくなる。プライベートの誘いが友人の都合によって一方的にキャンセルされた。急に疲れを感じ、自分だけが損をしているような気がして泣きたくなってきた。

B.ロー・ポジティブ
①心理的エネルギーの状態
エネルギーはない。落ち着いていて、のん気。休息に適している。
②ストレスや危機への反応
逃避反応:そのうち楽になるだろう(他人任せ、自主性がない)
③身体の状態
リラックスして筋肉は緊張していない。呼吸は安定している。

潜在能力の100%のうち、ロー・ポジティブな状態では、25%の力が出せる

事例2:Aさん(ロー・ポジティブ状態 逃避)
Aさんの実績は、今月も部署の達成目標に届きそうにない。そのせいか上司の機嫌が悪いようだ。しかしAさんは、先輩が契約してくるだろうとのん気に構えていて、明日には上司の機嫌も直るだろうと感じている。

C.ハイ・ネガティブ
①心理的エネルギーの状態
エネルギーに満ちているが筋肉が緊張状態。思い通りにならない事に怒ってしまう。
あらゆる成人病リスクが高くなり、怒りが暴走するハラスメントのリスクも否めない。
②ストレスや危機への反応
ストレスに対し戦いを挑む 不安、怒りっぽい、フラストレーション
委縮反応:逃げ出さず、そこにとどまる。困難に対し戦いを挑む意欲はある
③身体の状態
筋肉は緊張状態。 消火器系から血が引く アドレナリンの急増

潜在能力の100%のうち、ハイ・ネガティブな状態では、65%の力が出せる

事例3:Cさん(ハイ・ネガティブ状態 怒り)
部下が進捗状況を報告してこない。Cさんはイライラし、うんざりしているが、怒ればパワハラだと思われるので、我慢している。動悸は激しく、肩や首に力が入る。部下が「ちょっとよろしいでしょうか」と話しかけてきたので「今時間がないんだけど何?」と乱暴に答えてしまった。

D.ハイ・ポジティブ
①心理的エネルギーの状態
エネルギーにあふれ、行動自体を楽しむ余裕がある。リラックスしているが集中していて、周りの状況がよく把握できる。
前向きな意欲にあふれていて、しかもそれをコントロールできている。
②ストレスや危機への反応
チャレンジ反応:ストレスは新たな挑戦と考える。成し遂げるための方法を見つけるし、それがだめでも別の方法があると前向きに考えられる。
③身体の状態
リラックスしている。筋肉は緊張していないがエネルギーにあふれている。

潜在能力の100%のうち、ハイ・ポジティブな状態では、85~90%の力が出せる

事例4:Dさん(ハイ・ポジティブ状態 ベストの力を発揮する)
集中力があり、落ち着いている。クレームの電話に対し、深呼吸して対応した。Dさんが落ち着いた態度で対応したので、怒っていた顧客もだんだんと落ちついた。次の商談まで時間が無かったが、デスクにある緊急用の軽食を取って空腹を満たした。部下が浮かない顔をしているのに気づき、声をかける余裕があった。

大半の人は起こる出来事に対して自動的に反応し4つの状態を行き来しています。ストレスに対処する場合の神経の自然な反応により、私たちの心理状態は常にネガティブに傾きがちですが、それが普通であると理解してください。

メンタルタフネスは、無理やりポジティブに持っていくのではなく、ネガティブに傾きがちな心理に自ら働きかけ、心理状態を今より1段高めることが大事です。 行動を起こす前に、心理状態をまず整え、良いコンディションで行動に移ることが重要です。

3.ネガティブよりもポジティブが良いワケ

成果を上げられる心理状態という観点で言えば、ハイ・ポジティブとハイ・ネガティブは同じです。 ハイ・ネガティブ状態の時は、エネルギーに満ち、意欲もあるので、ロー・ポジティブ、ロー・ネガティブの状態よりも上手に行動します。しかし、ハイ・ネガティブは、不安な感情や怒りを抱えての行動なので、良いパフォーマンスが長続きせず、安定しません。

ここで、ハイ・ネガティブからハイ・ポジティブに心理状態のレベルをどのように1段階上げるかということが重要となります。

4.望む心理状態を行き来し、柔軟に出来事に対応するための準備

心理状態を1つ上の段階に上げるためには、まず、現在の自分の心理状態を正確に把握することが重要となります。

■自分の傾向、限界などを客観的に把握する

今の自分の状態は4つの心理状態のどこかを把握するクセをつけましょう。規則正しい生活をして、自分のパターンやルーティンが決まっていれば、そこを起点に、心理状態の上げ方を考えることができます。

また、日記を書くことも有効な手段です。日記は自分の定点観測です。体調や気持ちについて残しておくことで、後で読み返した際、自分が陥りがちなパターンを確認することができます。
・自分の心理状態が快くなるのはどのような状況か
・ネガティブに移行しやすいのはどのような時か
・どの程度の困難とまで自分で対処できるか
など、日記をつけると自分の傾向、限界などを客観的に把握することができます。

<自分の傾向、限界の具体例>
・睡眠時間を確保しないとパフォーマンスが下がる
・空腹なほうが集中できる
・朝型なので、午後三時ごろ眠気に襲われる
・夜型なので、午前中は自分の意識が仕事に切り替わりにくい
などの傾向・限界を把握し、対処法を考えて心理状態が下がらないようにすることが必要です。

■心理状態をコントロールするツボを把握する

人には心理状態が上がる、下がるツボがあります。それを把握することで、自分で心理状態をある程度自分でコントロールできるようになります。

アスリートの「ルーティン」のように、心理的な落ち着きを生む仕掛けで、状態を安定させることも有効です。
ただし、ルーティンやジンクス・ゲン担ぎなどにあまりこだわりすぎると、心的制約となり、ストレスをためてしまうことになるので、注意も必要です。

<心理状態を上げるツボの具体例>
・昼休みに15分仮眠すると、午後眠気に襲われにくい
・自分の意識を仕事モードに切り替えるために、仕事のはじめにストレッチをする
・気分が乗らない日には、好きな音楽を音量全開で聞いて気分を上げていく
・汗を流すと寝つきがよく、翌日仕事のパフォーマンスがあがるので仕事終わりにジムに行く
などがあります。これをすると心理状態が上がる、という自分だけのツボを見つけましょう。

5.メンタルタフネス・コントロール

上記のような自分の心理状態を上げるツボの他にも、簡単な呼吸法やエクササイズがあります。心理状態を1段階上げるために行う、職場でもできる、メンタルタフネス・コントロールについてみていきましょう。

■呼吸をコントロールする

呼吸は自分でコントロールできる最も簡単な方法です。緊張状態にある時、肩は上がり、呼吸は早くなります。リラックスにはリラックスしている時の呼吸を、やる気に満ちたいならエネルギーに満ちた呼吸を再現しましょう。

・あくび呼吸
職場で思い切ってやるには少し躊躇しますが、あくび呼吸というものがあります。
これは、ロー・ネガティブから、ロー・ポジティブに移行させるのに効果的です。

手順は以下の4つのプロセスとなります。
1.立ち上がって、両手を高く頭の上に向かって伸ばす
2.できる限りたくさんの空気を吸い込む
3.元気よく吐き出す
4.これを3回、4回繰り返す

短い休息時間であってもリフレッシュすることによって ロー・ネガティブから、ロー・ポジティブ状態に移行できます。気持ちが沈んでいる時はこの呼吸法でリフレッシュを図りましょう。

・エネルギー呼吸
これは、ロー・ポジティブからハイ・ポジティブへ移行させるのに効果的です。
手順は以下の5つです。
1.腕を身体の横にして、リラックスしながら姿勢を正して立つ
2.ゆっくりと落ち着いて規則正しく息を吐きながら、両腕を外側に肩の高さまで上げる。そして両腕を身体の前にもってきて、頭の上に持ち上げる。
3.息をしばらくの間止める
4.ろうそくを消す時のように、口から吐き出す。吐き出しながら、頭、両肩、首を落とす
5.5~10回これを繰り返す

比較的良好な状態ではあるが、活発に動けないような時など、ロー・ポジティブからハイ・ポジティブへ移行させるのに効果的です。ぜひお試しください。

・エクササイズ
簡単なエクササイズとして、絞り出す動作がハイ・ネガティブから脱するのに効果的です。
手順は以下の6つです。
1.机から椅子を離して胸の前で腕を組む
2.肺からすべての空気を絞り出す もっともっと絞り出す
3.腰を前かがみに折って、8つ数えるまで絞り出す
4.腕と上半身をリラックスさせ、息を吸い込み、少しずつ腕を頭の上に伸ばす
5. 8つ数えるまで、できるだけ遠くに腕を伸ばせるだけ伸ばす
6. このサイクルを3回繰りかえす

怒りを感じたり緊張状態にある時に、緊張を緩めるエクササイズです。

この他にも、笑いを活かしたり、顔の表情筋を動かしてリフレッシュするなど、様々な働きかけ方があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。出来事にいかに反応するかは、今の自分の心理的エネルギー状態が大きく関わってきます。心理状態によって出来事を好機と取るかストレスと取るかも変わってくるのです。

リラックスしてポジティブな状態であれば、変化を新しい冒険と捉え、楽しんで挑戦できます。ストレスは、成長するためのポジティブな物質になり、ベストな力が引き出されます。

ここで1つ注意点があります。いくら心理状態をコントロールしても、能力そのものがなければ始まりません。心理状態のセルフコントロールとともに、日々の地道なスキルアップなど、自己研鑽が必要となります。

感染症の流行・社会情勢・電車の遅延・人間関係のトラブルなど、人生は予測できない出来事の連続です。どのようなことに出くわしても、自らのコンディションを整え、自分で「快」な状態を作り出すためにメンタルタフネスの知識を活かしていただければと思います。

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