研修を語る
2022/12/22更新
壁を乗り越える研修シリーズを語る ~困難・障壁に負けずに成長して「働く楽しさ・喜び」を実感するためには
◆対談者
小林(WEB制作部門)
矢野(テキスト作成部門)
村上(テキスト作成部門)
「壁を乗り越えるシリーズ」とは
◆小林
どんな人にも、働く上での悩みや困りごとといった「壁」があると思います。インソースは「働く喜びを実感できる社会を作る」という理念を掲げており、研修を通じて多くの方々に働くやりがいや楽しさ、ヒントを得ていただきたいと考えています。
「壁を乗り越えるシリーズ」は、そんなインソースの理念をこめた研修です。まずは、この研修の開発を担当した矢野さんから、「壁を乗り越えるシリーズ」の概要について説明いただきたいと思います。
◇矢野
はい。このシリーズは、25歳、27歳、30歳、40歳それぞれの異なる「壁」に応じた解決方法を学ぶ研修と、「壁を乗り越えるワークショップ」の全5種類があります。モチベーションアップだけでなく、キャリアデザインの一つとして研修を企画される企業もあります。
◆小林
それでは、中身について聞いていきたいと思いますが、「壁」を感じるとはどのような状況なのでしょうか?
◇矢野
「壁」というキーワードだけで考えると、様々な意味合いがあると思うのですが、業務としてぶつかっていく難しさというよりも、このシリーズに関しては「気持ちの面」を壁として捉える方が大きいかなと考えます。
開発に先駆けて実施した社内アンケートでも、「何となくモヤモヤする気持ち」「漠然と不安に思う」など、仕事のモチベーションにも影響してくるような悩みが多くありました。そのため、テキストではそのような仕事の悩みを壁と考えて、内容を設計していきました。
◆小林
アンケート項目の中には、体力とか世代に関する悩みも散見されましたね。
◇矢野
そうですね。モチベーションに関わる悩みや不安が多かったのですが、体力の問題や、中には「役職が上がったけれど、それに相応しいスキルがないことが壁です」といった、具体的な業務に関わる悩みもありました。それらも含めて「思うように働けなくて困る」というのが、壁になってくるのかなと思います。
◆小林
ちなみに私は現在46歳なのですが、同年代のアンケート結果では体力に関する悩みが多く上がっていました。病気を抱えている方などは仕方ないですが、そうでないなら、個人的には体力云々の話をするほどの歳ではないなと思ってしまいます。
◇矢野
そうですね、40代以降を中心に体力の悩みは聞かれたんですが、どちらかというと体力そのものというよりは気力の面が大きいという方もいました。加齢による体力の低下を気力でカバーしてきたという方も、気力を維持できなくなると、体力の低下による影響が大きくなってしまいます。そう考えると、やはり体力だけでなく気力の問題も重要なのかもしれません。
キャリア・プラトーに近年、変化が起こっています
◆小林
私は、働く上での「壁」と聞くと、関連するものとして、まず「キャリア・プラトー」を連想します。プラトーというのは高原や台地という意味ですが、ビジネスの文脈では、階段の踊り場のように、本人の成長が横這い状態で停滞して、モチベーションが下がっている状況という意味となります。
◇矢野
まさに今回のテーマである「壁」に深く関連していますね。
◆小林
キャリア・プラトーが出現したのは、高度成長期が終わった70年代頃。企業の業績が低下し始めて、これまで増える一方だった管理職のポストが減ってきたのが原因です。当時の管理職候補者はちょうど団塊の世代あたりで、人数はたくさんいるけれど、ポストがなくて昇進できない人が増えてきたわけです。
それ以降、ずっとその問題は続いてきたのですが、2010年ごろから少し状況が変わってきました。これまでのキャリア・プラトーは、昇進できないことでモチベーションが下がる問題が主でしたが、その原因が多様化してきました。
◇矢野
ここ10年くらいで意識が変わってきたということでしょうか。
◆小林
そうなんです。「仕事はこれくらい頑張ろう」「プライベートも充実させたい」というワークライフバランスに対する従業員の考え方と、所属する企業の求める働き方が合わずにやる気をなくしてしまったり、このまま今の仕事を続けてもキャリアアップできないと感じて意欲が失われたりするなどのケースが増えました。
キャリア・プラトーは、大きく「昇進に関わる停滞」と「本人の仕事の意欲・キャリアの停滞」の2つに分かれますが、近年では後者の方が増えてきたのではないかと考えます。前者については、昇進が停滞しないように管理職のポスト(職位)を十分に用意できれば良いですが容易ではありません。
◇矢野
そうですね。ポストを作ってくれと言われても、増えすぎてしまうと困ります。
打開策は、上司と部下との密なコミュニケーション
◆小林
そうすると、キャリア・プラトーの問題は、現実的には、後者の「本人の仕事の意欲・キャリアの停滞」を防ぐということが、現実的に有効な施策となります。いくつかありますが、まずひとつは、停滞している理由を本人と上司がしっかり話し合えていないのが大きいと思います。1対1で面談するなど、密なコミュニケーションを取って、これからどうしたいか、きちんと要望を聞くことが一番大事なことだと私は思います。
◇矢野
それは大切なことですね。
◆小林
あとは、人によってやりがいやこだわりに対する価値観が違うので、それをなるべく生かす形で仕事をさせることも重要です。ただ、これに関しては矢野さんも管理職として理解していただけると思うのですが、その人のこだわりややりがいを発揮できる内容で、仕事を依頼できるというケースは極めて稀です。
◇矢野
そうですね。そんなにうまくいかないのが実情です。
◆小林
じゃあどうするかというと、ひとつの手としてルーティンとチャレンジで仕事を分けて依頼します。ルーティンの仕事は、組織から求められる自らの役割としてしっかりとやってもらう。その上で、自分がやりたいことにチャレンジしてもらう。3ヶ月や半年などのスパンであれば、そういうやり方も可能だと思います。
そのためには、上司が部下としっかり会話をして、どのようなことにこだわり、やりがいを見出すのかを把握しておくことが前提となります。こうした上司と部下とのコミュニケーションは、チームで仕事をする上で非常に重要です。キャリア・プラトーが発生する要因の多くは、こういう基本的なコミュニケーションが出来ていないことが要因だと思います。
上司と部下との距離感
◇矢野
そうですね。先ほどの何かにチャレンジさせるという対策も、コミュニケーションが不足していると、得意不得意が把握できずに何をやりたいかもわかりません。ただ、近年は仕事とプライベートをきっちり分ける部下が多いため、踏み込み方に関して上司側が引いてしまう場合もあるのかなと思います。
お客さまのご要望を伺っていても、そう感じることがあります。当社の研修テキストでは、上司側からの自己開示についても取り上げることが多いですが、「プライベートも考慮したいので、伝え方に注意したい」という話が企業側から上がってくることもあります。皆さん、気にされているポイントだなと感じます。
◆小林
プライベートを上司が把握するかどうかに関しては、無理に踏み込まなくていいでしょうね。そこまで理解して欲しいと望んでいるのであれば、部下も自分から話をするでしょうし、プライベートに触れなくても、ある程度のコミュニケーションは取れるのではないかと思います。
◇矢野
そうですね。部下を知るひとつの要素ではありますが、そこにこだわる必要はないかなと思います。やはり、部下とコミュニケーションがとれているかが大事ですね。
壁は考え方によっては、成長のチャンス
◆小林
部下が壁を感じている場面に出くわしたら、逆にこれはチャンスでもあります。上司がしっかりサポートして壁を越えさせれば、部下が成長できるわけですから。
停滞してしまう人って、考え込んでしまっているわけですから、基本的に真面目なんですよ。そこまで考え抜かずに妥協して中途半端になっている人の方が多いと思います。「壁を感じません」という人も結構いますよね。
◇矢野
アンケートでもそういう回答がありました。壁を感じないのはいいことなのでしょうけど、成長のチャンスを逃している可能性もあるということですよね。
◆小林
そうですね。壁って、自分でこうしようと動いたからこそ見えてくるものだと思います。それを感じられないのは、動いてないからじゃないでしょうか。チャレンジできていないというか。
◇矢野
アンケートの中で壁を感じている人に、どうやって乗り越えたのか聞く項目があったんですが、やはり皆さん何かしら対策を講じているんですよね。その動きが、経験値を上げるのだと思います。そう考えると壁自体は悪いものではなく、むしろあった方が良い気がします。
◆小林
そうですね。壁って、後から考えてみるとそんな大したことじゃないですし。
◇矢野
わかります。振り返ってみると「大丈夫だったな」と思いますが、その時はすごく大変に思えるものですよね。
◆小林
私の場合はウェブ5年、テキスト4年を経て、34歳で営業に異動したときが大変でした。営業は初めてなのに、入社10年目だから業務知識があると思われて、新人なら許してくれるようなことでも、34歳だと許してもらえなさそうということで辛かったですね(笑)
◇矢野
社歴が長いと、周りの目が「できる人」という風になってしまいますもんね。
◆小林
あれは私の壁でしたね。不安で自分にプレッシャーをかけ過ぎていたのかもしれません。失敗を恐れて余計なことをいろいろしました。ただ、「元の業務に戻してください」と、逃げずに頑張ったのがよかったです。
その壁を乗り越えたきっかけは、今でもよく覚えています。その頃は営業先で失敗しないよう毎回準備万端にしていたんですが、ある日突然「今から来てください」と言われて、仕方なく何の準備もなく行きました。そしたら、普段通りにできたんです。その時「必要以上に恐れることはない」と気づいて、それからは普通にできるようになりました。
◇矢野
壁を乗り越えた瞬間ですね。その間、どれくらいかかりましたか。
◆小林
3ヶ月くらいかかった記憶があります。その間は精神的に苦しくて、食事もあんまり食べられないくらい。今は太ってきましたが(笑)
◇矢野
本当ですか。それだけ仕事に対して緊張感があったんですね。環境や仕事内容の変化は、壁として感じるもののひとつかもしれないですね。
◆小林
そうですね。そして、それを乗り越えられると自信になりますし、また新しい壁が来ます。そういう変化が定期的に来るのはいいですね。新たな壁は現在より一段高いところにあって、成長しないと見えない。そういう感じなんじゃないかと思います。
◇矢野
壁があるのは、すごくいいことのような感じがしてきました。
◆小林
矢野さんもご経験あると思うんですが、長いキャリアの中では、やりたくない仕事もしなければなりませんが、でも、そういう「ちょっと難易度高いな」とか「めんどくさいな」「やったことないな」っていう嫌なことほど、逃げずにやっといた方がいいですよね。
◇矢野
それは言えます。やはりちょっと難しい仕事の方が、成果を得た時の喜びが大きいです。それが壁だとすれば、乗り越えた時の達成感も大きくなりますよね。
ひとつ壁を越えれば、世界が変わることもある
◆小林
部下や後輩に成長のために頑張ってもらわないといけない場面ってありますよね。もちろん積極的にやってくれる人もいますけど、「ちょっと無理です」という人もいます。「無理だ」と言われると、管理職としては困ってしまうものですが、矢野さんはそういう時にどうしますか?
◇矢野
そうですね。無理強いはできないので、いかに「やってもいいですよ」と言ってもらえる方向にもっていくかが大事だと思います。どうしてもやりたくないと拒否された場合には一旦引くこともありますが、迷っているレベルであれば、取り組みに対してのフォローや、業務に当たっての支援や指導を日頃より厚めにすることが、上司側ができる工夫なのかなと考えます。
◆小林
私も同じです。「一人にさせないから頑張って」と言うことですね。その場合、やはり大事になるのは信頼関係で、「そう言いながら助けてくれないだろう」と思わせてはだめだと思います。
◇矢野
あまりやりたくない仕事を、どのようにやってもらうかは本当に難しいですよね。その人が、今回のテーマである壁、「それは成長の機会になるかもしれないからチャレンジしてみよう」と思ってもらえるかどうかだと思います。
失敗が不安に繋がるのは誰しもありますが、失敗に寛容な職場風土があると、チャレンジしてみようという気持ちも出やすいと思います。そうでない場合は「壁になるからやめよう」となるかもしれません。そう考えると、職場風土も大事になってくるのかなと思います 。
◆小林
「壁」について、実に様々な角度から意見が聞けて勉強になりますね。村上さん、ここまでの流れで何か気になったことなど、ありますでしょうか。
◇村上
ありがとうございます。本人目線と上司目線から、いろいろ聞けて面白かったです。「壁は悪いものじゃない」に関しては、当社は研修の会社なので前向きにチャレンジする人が多いと思うんですが、そうじゃない人には難しいというのが学びでした。ちょっと宣伝っぽくなりますが「壁を乗り越える研修シリーズ」は、壁の乗り越え方を学ばせると同時に、壁を歓迎するマインドを醸成する効果もありそうです。
◆小林
あまり悪い方向に考えずとにかくやってみる、というようなマインドは重要ですね。先ほど、わたし自身の壁の話をしましたが、実は営業をやる前まではチャレンジすることにある種の恐怖心がありました。ですが、壁を乗り越えてからは何でもやれるようになりました。そういうひとつの出来事でガラッと世界が変わる可能性もあります。
◇矢野
確かに、ひとつ乗り越えることが大きな転機になって、それ以降が前向きになれることはあるでしょうね。
◆小林
一番苦手なところを乗り越えると、より良い結果が期待できるかもしれません。
◇矢野
確かにありそうですね。そこにチャレンジしようという気持ち次第だと思います。一歩踏み出してみる感覚というか。
◆小林
壁を乗り越えたり、キャリア・プラトーになるのを防ぐためには、上司のサポートだけでなく、会社の制度などハード面も大事だと考えます。自分で頑張って仕事をしたことがしっかりと評価されると感じることができれば、モチベーションも保たれ、壁に遭遇してもそれを乗り越え、継続的に成長できるようになるのではないでしょうか。
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