運のいい人材を育てる方法~松下政経塾の思想に学ぶ、行動と思考の変革を支える人事施策

成果を生み出す社員には、ある共通点がある。それは専門性や経験値だけではなく、チャンスを引き寄せ、周囲の協力を得ながら物事を前へ進める力である。いわば、仕事における「運の良さ」とも呼べる特性であり、ビジネスの世界ではしばしば高い成果と結びつく。
この運の良さは生まれ持った才能ではない。多くの場合、日々の行動習慣やものの見方によってつくられる。松下政経塾でも、未来を切り拓く人材を育てるために、強い目的意識、主体性、肯定的な行動を重視してきた。
本稿ではこの思想をヒントにしながら、既存人材を運のいい人へと育てるための具体的なアプローチを紹介する。特に人事部の立場から、どのような仕組みや環境整備をすればよいのか、実行可能な方法に焦点を当てて語りたい。
参考:松下政経塾『入塾選考基準の「運のよさ」とは?』(最終アクセス:2025/11/27)
行動量と挑戦を後押しする場づくり~小さく試す経験を積ませる
運は「動く人」に集まりやすいというのは、なんとなく想像できるのではないだろうか。誰もに運を巡らせるためには、組織が従業員に意図的に「行動の機会」を設計する必要がある。運が良いといわれる人は、決して偶然だけに頼っているわけではない。行動量が多く、試行回数が多いため、結果的に好機に出会う確率が高まっている。松下政経塾では、塾生が自らテーマを設定し、現場に赴き、小さな検証を繰り返す。行動によって学びを得る姿勢が、成果につながる基盤となっている。
企業においても同じ構造が成り立つ。既存人材が日常の業務を超えて挑戦できる環境を整えることで、運の良さにつながる機会を増やせる。特に、以下のような取り組みが有効である。
- 社員が興味を持ったテーマで小規模プロジェクトを立ち上げられる制度
- 他部署と協働するミニタスクを設け、行動領域を広げる機会
- 仮説検証を促すためのレポートフォーマットや振り返りの習慣
このように、失敗を許容しながら行動量を増やすと、自然と成功体験や偶然の出会いが生まれやすくなる。
自ら動くことを肯定する風土~組織として価値ある行動を称える
行動を促す制度があっても、心理的にためらいがある環境では人は動かない。松下政経塾では、自主性や主体性を尊重する文化が根づいている。塾生は自ら動き、自らの言葉で考え、結果に責任を持つことを求められる。
企業においても、人が主体的に動く風土が重要である。ただ、精神論では行動の変化は起こらない。人事部が積極的にメッセージを発信し、挑戦することが組織として価値のある行為であると示す必要がある。経営陣からの支援や、挑戦を称賛する仕組みがあると、社員は迷いなく一歩を踏み出しやすくなる。
ポジティブ思考を育てるための環境設計
運の良さは「物事を肯定的に捉える習慣」に大きく影響される。自分は運が良いと感じられる人は、物事を前向きに捉え、次の行動に変換する速度が速い。これは単なる明るさではなく、建設的な思考のクセが備わっているためである。松下政経塾でも、失敗を自らの学習材料とし、改善のための行動を考え続ける姿勢が求められる。
自責と建設的思考のバランスを整える
企業において、こうした考え方を浸透させるためには、自責思考を過度に押しつけないことが重要である。自責の名の下に自己否定が強まると、チャレンジ精神が弱まり、運を逃す行動が増える。人事部ができるのは、建設的な振り返りの型を整備し、物事を肯定的に整理できるよう支援することである。例えば、以下のような振り返り方法がある。
- 起きた事実、良かった点、改善点を分けて記録
- 原因探しよりも、次に取る行動を明確にする
- 第三者との対話を通じて視野を広げる
このように、ポジティブ思考は特別な才能ではなく、適切な枠組みがあれば誰でも習得できる。
言葉の使い方を変える研修や仕組み
人の認知は言葉に影響される。使う言葉が変わることで物事の捉え方が変わり、行動も変化する。松下政経塾では、理念や使命を自らの言葉で語る訓練が繰り返し行われる。これは単なる暗唱ではなく、自分と社会をどう結ぶかを考え続けるための思考訓練である。
企業の場合、社員が肯定的な言葉を選べるよう支援する取り組みは有効であり、ポジティブな認知と行動を育てる助けになる。具体例としては、
- フィードバック研修で、相手の強みを言語化する訓練
- 会議で肯定的な表現を必ず一つ加えるルール
- ネガティブ表現をリフレーミングするワークショップ
などが挙げられる。
言葉は思考を形づくり、思考は行動を変え、行動は運の良さにつながる。人事部門が意図して設計することで、組織全体の思考習慣を変えることができる。
目的意識を持たせることで偶然をつかむ力が高まる
明確な目的を持つ人ほど、同じ出来事でもチャンスに気づきやすくなる。
松下政経塾では、社会課題を解決するという揺るぎない目的意識が教育の中心である。目的意識があることで、日々の活動の意味が明確になり、偶然の出会いや情報が価値あるものに見えるようになる。ビジネスの現場でも同様で、目的意識の強い人ほど好機をつかむ力が高まる。自分の目指す方向性がはっきりしているため、必要な人脈や情報を自然と集めやすい。運のいい人に見える背景には、この目的志向が隠れていることが多い。
社員の目的を言語化させる仕組み
社員の目的意識を強めるためには、単なる面談では不十分だ。日常的に目的を言語化する機会をつくり、少しずつ言葉を磨いていくプロセスが必要である。人事部ができる取り組みとしては、以下が挙げられる。
- 期初に個人ミッションを定義し、上司やチームメンバーと共有する
- 半年ごとに目的をアップデートし、達成度と関連性を確認する
- 目的と日常業務を紐づける「補助シート」を活用する
こうした仕組みによって、社員は目的を持って仕事に取り組むようになり、結果的に偶然のチャンスに気づきやすくなる。
周囲から応援される行動を定着させる~信頼の蓄積が運を連れてくる
運のいい人は他者から支援を得やすく、これは日頃の行動がつくり出す。
仕事における運は、他者の協力によって生まれることが多い。たとえ同じ能力の社員であっても、普段から信頼を築いている人ほど情報が集まり、協力者が増え、好機が巡りやすくなる。松下政経塾でも、塾生同士の助け合いや、外部関係者との信頼構築を重視する風土がある。共に学び、共に活動する仲間が信頼を育て、その後の活動の支えとなっている。
組織として信頼を築く行動を支援する
信頼は個人の努力だけでは育ちにくいこともある。組織が意図して信頼を築く行動を支援することが重要である。例えば、挨拶や返答のタイムラインを整えるコミュニケーション教育、他部門との情報共有を促す定例交流会の開催、メンター制度や横断プロジェクトによる協働機会の創出などだ。
信頼につながる小さな行動を組織として支え続けると、社員同士のつながりが強まり、自然と応援される人材が増えていく。
運の良さは偶然ではなく、行動と思考の積み重ねによって生まれる
本稿では松下政経塾の思想をヒントに、行動量の増加、ポジティブ思考、目的意識、信頼関係づくりという四つの視点から、運のいい人材を育てる方法を解説した。運の良さは偶然ではなく、行動と思考の積み重ねによって生まれる特性である。
人事部が制度設計や研修、風土づくりを意図して行うことで、既存人材を運のいい人へと育てることは可能である。個人の資質ではなく、組織として育てる力を発揮することが、これからの人材育成ではより重要になる。
仕事の意欲向上研修~ポジティブシンキングを仕事に活用する
ポジティブマインドは仕事に対するモチベーション向上だけでなく、周囲との良好なコミュニケーションも可能にします。本研修は、ポジティブシンキングの手法を習得し、様々な領域への展開を促すことを目的としています。
よくあるお悩み・ニーズ
- 自分の仕事の悪い点ばかりが気になってしまう
- 職場の同僚や上司・先輩に対して、ついつい否定的な態度をとってしまう
- 周囲の方と協力して仕事を進めたいが、そもそもコミュニケーションをとるのが苦手
本研修の目標
- 自分の考え方の傾向を認識し、モチベーションのコントロールができる
- 自分の失敗を多角的な視点で評価し、気持ちを切り替えることができる
- 積極的になコミュニケーションで、自身の肯定感構築とチームメンバーのモチベーションアップにつなげられる
セットでおすすめの研修・サービス
一人ひとりの特性と組織全体の傾向を「見える化」giraffeアセスメント
giraffeは、オンラインで114問の設問に回答いただくことで一人ひとりの特性や個性を見える化するアセスメントツールです。
組織全体としてどんな特性の傾向が強いのか、人材のバランスとあわせて可視化することで、自組織で活躍する人材像の分析につながります。
組織のレジリエンス強化研修~全従業員の自走力アップで変化に応じる(1日間)
本研修では、構成するすべての「人」の力を最大限に発揮するレジリエンスの高い組織づくりについて、事例を交えて学びます。
レジリエンスとは困難や変化に適応して回復し持続的に成長する力であり、組織においても適用できるものです。セルフマネジメントできる従業員の育て方や権限移譲を進めるポイントをおさえ、デジタル時代に求められるフラット化した組織への変革を目指します。
松下幸之助に学ぶ部下の育て方研修~リーダーとしての覚悟を決め、部下の自主性を伸ばす(1日間)
部下の育成を考える研修でありながら、「自分の社会的使命とは何か」を考えていただく点が本研修の大きな特徴です。
松下幸之助氏の「人を使う」上での考え方は、一見すると現代でいうところの支援型リーダー的な側面を持つようにも感じられますが、その実、自分にも他者にも厳しく責任を問うものであり、半端な覚悟で成せるものではなかったと解釈しています。





