共感疲労とは何か~「寄り添いすぎて壊れる」従業員を守る人事部の実践策

「人のために動くことができる優しい社員ほど、ある日突然、疲れ果ててしまう」
職場でこのようなケースを見聞きすることが増えています。顧客や同僚に真摯に向き合うあまり、心身のエネルギーを使い果たしてしまうという状態が、「共感疲労」です。近年では医療・介護などの対人支援職だけでなく、営業、カスタマーサポート、総務、人事など、幅広い職種で見られるようになりました。
この記事では、共感疲労の正体と発生メカニズムを整理したうえで、人事部門ができる具体的なケアと予防策を解説します。社員一人ひとりの「思いやり」を守りながら、持続可能な働き方を支援するためのヒントを提供します。
共感疲労とは:他者の痛みを「自分ごと」として抱えてしまう状態
共感疲労とは、他者の苦しみやストレスに強く共感しすぎた結果、自分自身が心理的・身体的な疲弊状態に陥る現象を指します。英語では「compassion fatigue(コンパッション・ファティーグ)」と呼ばれ、もともとは心理職や医療職における専門用語として使われてきました。
しかし近年では、顧客対応を担う営業職、クレーム対応を行うカスタマーサポート、他者支援を行う人事・総務部門などでも発生しています。背景には、「顧客満足度を最優先」「チームの和を壊さない」など、日本特有の他者を優先する文化が関係しています。
共感疲労が起こる職場の特徴~「誰かのため」に過剰に頑張る構造
共感疲労は、単に個人の性格や忍耐力の問題だと片付けられるものではありません。なぜなら組織文化や評価の仕組みが、他者のために頑張りすぎる行動を助長しているケースも多く見られるからです。たとえば、顧客対応の現場で「どんなクレームにも笑顔で対応」と求められたり、チーム内で「困っている人を放っておけない」雰囲気がある、感情労働が多く一人になって休息したり誰かに相談できる場が確保されていない⋯⋯。
こうした環境では、他者への共感や支援が「業務の一部」になり、社員自身の感情や限界を見失いやすくなるのです。
共感疲労の兆候とリスク~心理面・行動面に現れるサインを見逃さない
共感疲労の初期段階では、本人も疲労を自覚していないことが多くあります。人事部門をはじめ管理職には、メンバーの次のような変化に早めに気づくことが重要です。
- 感情の起伏が激しくなり、苛立ちや無力感を訴える
- 以前ほど他者に共感できなくなる
- 仕事への集中力や意欲が低下する
- 遅刻・早退・休職が増える
- 休日も疲労が抜けず、睡眠の質が落ちる
共感疲労が長期化すると、バーンアウト(燃え尽き症候群)や離職につながる恐れがあります。特に「責任感が強く、他人のために行動することができる優しいタイプ」の社員ほど、限界を感じても助けを求めにくい傾向があります。
人事部が講じるべき3つの対策
1.感情労働を「見える化」し、ケアを制度化する
共感疲労は、感情を使う労働=感情労働に深く関係しています。しかし多くの企業では、成果指標や労働時間は可視化されても、感情的負担の大きさは把握されにくいのが現状です。人事部としては、以下のような取り組みを検討するとよいでしょう。
- 感情労働を伴う業務を洗い出し、定期的に負荷を測定する
- 感情的ストレスを共有できるミーティングや面談を設ける
- 感情面を含めた人事評価・フィードバック制度を見直す
感情労働を「見える化」することで、社員の頑張りを正当に評価し、サポートの対象として扱えるようになります。
2.上司・人事が「共感の境界線」を教える
共感そのものは組織の強みですが、過剰な共感は支援の質を下げることがあります。たとえば、部下や顧客の感情に引きずられて冷静な判断を失うケースです。
人事部は研修や面談の中で、以下のような考え方を浸透させると効果的です。
- 「共感」と「同一化」は異なる
- 他者の感情を理解しても、自分の感情とは切り離す
- 支援者が健康であることが、最終的に相手を助けることにつながる
このように「共感の境界線」を教えることは、心理的安全性を守るうえで極めて有効です。
3.組織全体で「支え合い」を再設計する
共感疲労を防ぐには、個人の努力だけでなく組織全体の支援構造が欠かせません。感情的に負荷の高い業務を分担できるチーム制の導入、日常的な1対1面談や半期ことの定期面談での心理的フォローの推進、メンタルヘルス研修やEAP(従業員支援プログラム)の活用などを検討します。
「助けを求めることは弱さではなく、職場を守る行動である」というメッセージを明確に発信することも、人事部の重要な役割です。
思いやりを「持続可能な力」に変えるために
共感疲労は、優しさと責任感の裏返しから生まれる現象です。他者のために尽くす社員こそ、最もケアを必要としています。人事部門は、共感を「疲弊の源」ではなく「組織の力」として機能させるために、環境整備・教育・制度の3方向からアプローチすることが求められます。
社員が安心して感情を共有できる場を設け、支え合いの文化を再設計することで、職場全体のエンゲージメントと定着率の向上につながります。
ラインケア研修
「ラインケア」とは、職場のライン上にいる事業管理者(部長・課長等の各部署の管理職も含む)が、部下の心の健康をケアするために、相談対応や職場の環境改善などに取り組むことを言います。
労働安全衛生法第69条や労働契約法第5条を根拠に、使用者には安全配慮義務と健康配慮義務があることが定められています。不調の兆しを早期に発見し、迅速に対応することが何より重要です。症状が軽いうちに改善策を講じられるように努めましょう。
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