【2026年は観光業の転換期!】➁市場の地殻変動~国別に異なる消費行動から考える観光商品設計とマーケティング戦略

第1回目のコラムでは、日本の観光業が置かれている状況について語ってきました。
稼働率はすでに高水準となっており、「もっと売る」余地は少なく、「1人あたりの価値を上げる」しかないフェーズにあります。そうしなければ、スタッフが疲弊→クレーム対応が増える→十分な教育もできないことで離職が増え、設備更新も先送り→サービスの質が下がり、価格を上げられない悪循環を作ってしまいます。
需要超過=価格調整すべき状態~適切に儲けるために
価格戦略とはいくら取るかではなく、「誰に、どんな価値を、どの量だけ提供するか」を決めることです。価格を上げても選ばれる事業者となるための条件として、①理由のある価格、②比較されにくい体験、③ストーリーがあることが必要です。
やみくもに高くではなく、ユーザーが「納得して払うことのできる」繁忙期価格、時間帯別価格、数量限定、付加価値商品などを設定・企画し、周知や説明をすることが重要である、とインソースは考えます。
シリーズ第2回の本コラムでは、現在起きているインバウンド市場の地殻変動を整理し、観光事業者が商品設計(誰に?どんな価値を?どのくらいの量?)や、マーケティングをどのように見直すべきかを解説します。
インバウンド市場の地殻変動。市場ごとの消費行動を捉える
コロナ禍を経て日本の観光地には再び多くの海外旅行者が訪れ、局所的なオーバーツーリズムが問題視されるまでに回復しています。しかし2025年後半ごろから、現場で観光客と接している事業者の多くの方が「以前とは客層が変わっている」という確信をもっているようです。顧客の出身エリアによって、
- 使うお金の使い方が違う
- 求める体験が違う
- 滞在の仕方が違う
などがあります。こうした変化は単なる印象ではなく、インバウンド市場そのものが大きく変化していることを示しています。観光経営において重要なのは、単に訪日客数を見ることではありません。どの市場の旅行者が増えているのかを理解することです。
中国中心市場から多市場への変化~ターゲットを定める
コロナ禍以前、日本のインバウンド市場は中国人旅行者の存在感が非常に大きいものでした。訪日客数、消費額、団体旅行など、いずれの面でも影響が大きく、多くの観光事業者が中国人旅行者を主な顧客として、観光商品やマーケティングもこの市場を前提に設計していたのではないでしょうか。家電量販店や百貨店に何台もの大型バスが横付けされ、大量の購入品は空港にシャトル輸送されるなど、かつてはよく見られた光景も、いまではすっかりなくなってしまったように感じられます。
インバウンド消費動向~タイ、台湾や米国、カナダ、東アジア・東南アジア・欧米・オセアニアが伸長
以下は観光庁の「インバウンド消費動向調査」から抜粋したものですが、2025年においては2024年同時期よりも買い物代が約3%少なくなり、その分宿泊費の割合が増えていることがわかります。
出典:国土交通省観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年年間 調査結果の概要」より抜粋
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001992584.pdf(最終アクセス:2026/3/25)
いわゆる台湾有事の可能性によって、2025年後半から緊張感が高まっている日中関係。それでも2025年の1年間を通して見ると最も大きな市場ではありました。
出典:国土交通省観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年年間 調査結果の概要」より抜粋、一部インソースにて加工
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001992584.pdf(最終アクセス:2026/3/25)
日本政府観光局 訪日外客数(2025年12月推計値) によると、中国人客が33万400人と前年同月比45.3%減少しています。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260121_1615-1.pdf(最終アクセス:2026/3/25)
ただ12月の訪⽇外客数は韓国、タイなど7市場で単月過去最高を更新したほか、台湾や米国、カナダなど14市場で12月として過去最高となり、中国客の減少を他の国・地域からの増加が補ったかたちです。東アジア・東南アジア・欧米・オセアニアが伸長しています。
これからの商品企画は「相手が納得できるか」で戦略立てる
これまで述べたとおり2026年3月現在の訪日市場は、多様な地域からの旅行者で構成されています。東南アジア、欧米、オーストラリア、台湾、そして韓国。つまり日本のインバウンド市場はかつてのような一つの巨大市場ではなく、多様な市場の集合体になっていて、観光商品を設計する際に市場ごとの消費行動の違いを理解する必要が出てきたというわけです。相手の特性を知り、そのニーズにマッチするものを提供できれば、納得感をもって相応の報酬を受け取ることができるはずです。
国ごとに異なる旅行スタイルと消費行動
欧米豪の旅行者は体験型消費を求めている~長期間滞在でエリア移動もいとわない
欧米やオーストラリアの旅行者は、日本滞在中に体験型の消費を好む傾向があります。例えば、工芸品を作るワークショップなど地域文化を体験、ガイド付きのネイチャーツアー、食文化体験などが挙げられます。こうした旅行者は、単に観光地を巡るだけではなく、その土地ならではの文化や生活に触れる体験に価値を感じ、価格が多少高くても、質の高い体験には喜んでお金を払いたいと思う方が多いようです。
2025年データではドイツ・英国・豪州の1人あたり消費額は約39〜40万円前後と高い水準をマークしています。長期バケーションを取得することができることから、日本での滞在期間も1週間以上~1カ月ほどのロングステイで複数のエリアを転々としながら日本国内における文化の違いを味わう方もいらっしゃいます。
自分好みに旅程を自由にカスタマイズし、自分にとって満足度が高くなるように設計することから、団体旅行はほぼありません。リピーターともなれば日本のローカルと同じように過ごしてみたい、本国の人はまだ知らない自分だけの日本の魅力を見つけたいと思い、探求心や知的好奇心も旺盛です。そもそも本国の物価が日本に比べ圧倒的に高いので、「こんなに素晴らしいものがこの価格で提供されるの?」とびっくりしています。
<欧米諸国市場の商品設計のポイント>
- 長期間滞在
→本国よりも安いラグジュアリーホテル/料理や洗濯ができるコンドミニアムなど - 歴史的、文化的なものに関心が高い
→世界遺産や無形文化財、匠の技などに触れることを好む。付加価値の高い経験 - 都会も田舎も両方楽しむ
→最新テクノロジーにも素朴な田園風景にも両方の良さを見出す。時間のかかる地方への移動もいとわない
東南アジア市場は買い物や食の満足度が重要
一方で、シンガポールやタイ、マレーシアなどのアジア市場では、ショッピング、グルメ、目的地へのアクセスの良さなどが旅行満足度に大きく影響します。都市観光巡りや品質の良い製品を求めて買い物を楽しむ旅行スタイルが多く、6~7時間のフライトで往復し、5日間~1週間ほどの滞在期間を選択する人が多いようです。
このエリアからの旅客の特徴はやはり「若さ」です。特にいまや世界第4位の人口となったインドネシアは経済発展がすさまじく、人口の平均年齢がとても若いです。ミレニアム世代以下が消費の主役で、つまり今ここの市場の傾向をつかんでおくことで、今後のさらなる成長を取り込むことができます。SNSを利用している人が大変多く、有名インフルエンサーが紹介していた商品を手に入れることに喜びを覚えたり、多くの人が「良い」と感じる映えスポットを巡ることなども好みます。
多様性を重んじる文化で育ち穏やかでフレンドリーな人が多いことから、逆にその配慮が感じられない状況に陥ると不快感を覚えることもあります。
<東南アジア市場の商品設計のポイント>
- 短期間滞在
→「映える部屋」「Wi-Fi完備」が必須条件。大人数の家族旅行の場合はみんなで一緒に過ごせ、本国から持ってきた食材を調理できる一軒家・フロア借り民泊なども人気 - 買い物が主たる目的、飲食費にかける予算は他のエリアよりも低い
→ネット上の好評価・口コミが情報源。旅行中感じるストレスは宗教上の慣習を守れないこと。宗教上制限されているために食事に苦労する - 若く、都会派が多い
→本国の都会に住む富裕層が訪日。友人同士~家族や親族などのパーティで行動。モダンなシティエリアでの映え体験を望む
韓国・台湾市場は短時間、目的は数が少なく単価は控えめ
物理的に距離の近い韓国、台湾からのお客さまは、週末を利用して日帰りや1泊2日の弾丸スケジュールで日本に訪れます。LCCを利用した福岡や大阪、東京への短期間・高頻度の個人旅行が主流です。リピーターが多く、国内旅行とほぼ同じような感覚で気軽に遊びに来てくれています。
特に韓国市場は1人当たり旅行支出が全世界平均の半分以下です。「また来れる」のは間違いないから、今回はなるべくリーズナブルに、あのエリアを厳選して開拓してみよう!といった具合に旅を企画します。20代~30代の若い世代は交通機関やSNSでのサービス予約等もスムーズに使いこなしてはいるものの、アナログなコミュニケーションとなるとやはり不安を感じています。
<韓国・台湾市場の商品設計のポイント>
- 超短期間滞在
→シャワーを浴びて寝るだけで十分。宿泊場所は朝早くから夜遅くまで動ける立地かが重要 - 日本語が少し話せる方も。お互いがお互いの国のことを結構知っている
→日本人以上に日本の日用品に詳しいこともある。普段使いのちょっとした良いものを調べて購入する、知る人ぞ知る美味しい一食に並ぶことなども好む - 都会ステイ→近郊の自然豊かなエリアに注目
→東京~大阪間のゴールデンルートは既に行きつくしたというベテランが、徐々に大都会から少しだけ足を伸ばし始めている
出典:国土交通省観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年年間 調査結果の概要」より抜粋
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001992584.pdf(最終アクセス:2026/3/25)
「誰に売るか」を決めない観光商品は売れない
日本の観光商品は誰に向けた商品なのかが曖昧なものが少なくありません。できるだけ多くの人に売れる商品を作ろうと頑張りすぎて、かえって何の特徴もなくなってしまうこともままあります。ですがこれでは現在以降の多用なインバウンド市場では通用しません。市場ごとに求める体験やサービスは異なるのですから、わざわざどのターゲットにも微妙に響かないものにしてしまっている可能性があります。
ターゲット市場を決めることが商品設計の出発点
観光商品を設計する際には、次の問いを必ず立てましょう。
- どの市場の旅行者に来てほしいのか
- どのような体験を提供するのか
- どの価格帯で販売するのか
この3つを明確にすることで、商品設計の方向性は見えてきます。例えば欧米市場をターゲットにするのであれば、「マインドフルネスの境地=宿坊や味噌づくり体験、ガイド付き酒蔵巡りプログラム」などのように体験価値を重視したストーリー性のある商品が好まれます。一方東南アジア市場では、「ハラル対応のブッフェツアー@キラキラ夜景会場」などが魅力的に映る可能性が高いです。
市場理解はマーケティングだけでなく経営の問題~ユーザへ届く企画
観光ビジネスでは、商品開発とマーケティングが密接に関係しています。市場を理解しないまま商品を作っても、その価値が伝わらなければ売れません。逆に、市場の特徴を理解していれば、商品設計の段階で差別化を図ることができます。
中国以外の市場は「目的消費 → リピート/推奨消費」に繋がりやすく、顧客LTV(顧客生涯価値)の向上がポイントです。直販予約の優遇やメンバーシップ制度、SNSでのフォロワープログラムを活用しましょう。良い商品を持っていてもそれがターゲットに伝わらなければ意味がありません。多言語パンフレットの制作やWebサイトの改修、SNSチャネル等の最適化は必須です。
サービスを提供する現場と経営が定期的に意見を交わし、内容と価格を最適化
多くの観光事業者に共通する課題の一つが、市場理解を担う人材の不足です。現場は日々のオペレーションで忙しく、海外市場の動向を体系立てて分析したり、プロモーションの効果を振り返る余裕もないかもしれません。とはいえ、インバウンド市場の多様化を肌で感じているのは、現場のメンバーです。
「このSNSチャンネルの投稿を翻訳ツールで読んで予約したと言っていた」「なんてことはない▲▲に、これはどういう意味があるのか?と質問された」「この料理はどんなふうに作られているのかを尋ねられ、納得するまで絶対に食べなかった」こんな声から顧客のニーズや困りごとを「誰に、どんな価値を、どのくらいの量で」の経営方針や商品企画にアウトプットし、繰り返し検証と改善を図ることが望まれます。
幸いなことに需要超過となれば、価格調整すべき状態といえ、単価アップができる段階です。業務負担は増やさない、でもエンドユーザーが納得・満足して、気持ちよくお金を出してくれるポイントはどこなのかを、しっかりと捉えましょう。
顧客視点の生かし方研修~商品・サービスの開発・改善につなげるために(1日間)
顧客視点で発想することの重要性は誰もが理解しているのに、常にその視点を持ち続けることは難しいもの。
本研修では、顧客視点の真の意味をあらためて理解するとともに、顧客に価値を提供するための課題解決の考え方と手法を身につけます。お客さまを苛立たせる杓子定規な対応、社内事情の押し付け、競合他社との無意味な比較など
よくあるお悩み・ニーズ
- 顧客視点の重要性をよく耳にするが具体的にどうすればそれが身につけられるのかが分からない
- 顧客満足の実現と営利企業としての企業論理との折り合いのつけ方が悩ましい
- 顧客視点を新商品や新サービスの開発にどのようにつなげていけばよいのかが分からない
本研修の目標
- 「顧客にとっての価値とは何か」を考える視点が身につく
- 「顧客への価値提供」と「企業としての利益」の折り合いの付け方が分かる
- 正しい課題の捉え方とその解決に向けた当事者意識の重要性が理解できる
セットでおすすめの研修・サービス
マーケティング研修~STP・4Pから学ぶ売るための仕組み作り
「売る仕組み」を作るためのマーケティングの流れを理解するプログラムです。まずは外部環境と内部環境を分析し、現状を把握します。
そのうえで、有効な市場開拓を実践するための戦略を考え、商品を磨くブランディングを体験します。4Pから具体的な活動を検討する戦術へのブレイクダウンを仕方までを解説し、机上の空論にとどまらない、成果につなげる実践策とはどのようなものかを学びます。
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