「ゆるブラック組織」に陥らない、働きやすさと働きがいをバランスさせる人事の取り組み

最近、SNSやビジネスメディアで「ゆるブラック組織」という言葉を目にする機会が増えています。過剰な労働やハラスメントが蔓延するブラック企業とは対照的に、見た目は穏やかで働きやすそうな職場のはずなのに、社員が成長せず、モチベーションがどんどん下がっていく⋯⋯そんな状態を指します。
多くの企業が定着率の高さや残業削減を評価指標に掲げる中で、気づかないうちにこの「ゆるブラック化」が進行しているケースも少なくありません。本記事では、ゆるブラック組織の特徴とリスクを整理し、人事部門が取り組むべき改善策を具体的に解説します。
成長が止まる職場、ゆるブラック組織の実態
評価も競争もない職場が生む静かなモチベーション低下
ゆるブラック組織の特徴は、居心地の良さが先行し、成長意欲が失われていくことにあります。たとえば、成果を問われない人事制度、曖昧な評価基準、挑戦よりも安定を重視する空気感。こうした環境では「頑張っても何も変わらない、だったら努力するだけ無駄」という諦めが生まれ、社員のモチベーションは徐々に低下します。
特に中堅層では努力が報われない環境に慣れてしまい、「このままでいい」と現状維持を選ぶ傾向が強まり、組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすことになります。
成長機会を奪う、優しすぎるマネジメント
上司が部下に厳しいフィードバックを避け、失敗を恐れさせないよう配慮しすぎることも、ゆるブラック化の一因です。もちろん心理的安全性は大切ですが、「安全すぎる」環境では、問題意識や挑戦欲が生まれないという逆説が存在します。
本来マネジメントの役割は「叱ること」ではなく、社員が成長できるよう適切な負荷を与えることです。優しさが行き過ぎると、社員のキャリア形成を阻む壁となりかねません。
ホワイトハラスメントとの違い
こちらも耳にすることが増えた「ホワイトハラスメント」とは、対象者の上司や同僚が良かれと思って「家庭があるから、持病があるから、まだ若くて知識が少ないだろうから⋯⋯」といった理由で、本人の能力に合わない過小な仕事しか与えない、過度な業務調整を強いる行為のことをいいます。
ゆるブラックは働きがいの欠如が問題で、ホワイトハラスメントは過小な要求が問題であり、両者は異なる概念です。
なぜ「ゆるブラック化」は起こるのか
働きやすさ偏重の人事施策~いまも、これからも組織に愛着をもたせられるか
近年、多くの企業は「働きやすさ」の追求を強化してきました。残業削減やフレックス制度、在宅勤務の拡大などは多くの従業員に歓迎されています。
しかし、働きやすさだけを重視しすぎると、働きがいが失われることがあります。メンバーが「会社に貢献できている」「自分の成長を実感できる」と感じられない環境では、一時的な心理的満足度は高まっても、中長期的なエンゲージメントは下がっていくのです。
人事制度の形骸化と育成投資の停滞
もう一つの原因は、評価・育成制度が形骸化していることです。年功的な昇給が続き、チャレンジした人もそうでない人も同じ評価になってしまっていることも多々あります。
OJTが機能せず、教育も形式的に行われているような状態では、「自分の頑張りが認められない」と感じる社員が増え、次第に組織全体が保守的になります。結果として「定着率は高いが、成長率は低い」――そんなゆるブラック化が進むこととなります。
人事部が取るべき3つのアクション
1.働きやすさと働きがいの両輪で職場環境を設計する
人事部が最初に見直すべきは、働きやすさと働きがいのバランスです。制度面では、柔軟な働き方を維持しつつも、目標設定やキャリア支援を強化することが求められます。たとえば、在宅勤務でもチームで挑戦を共有できる仕組みや、目標達成を称賛する文化づくりが効果的です。快適に働ける環境と成果に応じて評価される環境を両立させることが、人材の成長を促します。
2.評価とフィードバックの再設計
次に重要なのは、成果を正しく可視化し、建設的に伝える評価制度です。メンバーへのフィードバックを、できなかった点を指摘する場ではなく、「どのようにすれば次に活かせるか」を対話する場に変えることがポイントです。また、成果だけでなくプロセスを評価軸に加えることで、挑戦を促す文化が根づきます。失敗を恐れず行動した人が評価されるようになれば、組織は前向きな方向へ動き出します。
3.成長支援を「任せる」から「設計する」へ
ゆるブラック化の背景には、「社員の自主性に任せすぎる」人材育成があります。もちろん自律的な学びは理想的ですが、現実には、明確な方向性を示さなければ多くの社員が何を学べばよいかわからず、結果として成長機会を逃してしまいます。
人事部は、階層別・職種別の育成ロードマップを設計し、研修・OJT・評価を一体化した仕組みを整える必要があります。育成を仕組み化することで、成長を個人任せにせず、組織として支える文化を構築できます。
ただ働き手に優しい組織から「強く優しい組織」へ
ゆるブラック組織は、社員が疲弊するブラック企業とは異なりますが、成長の停滞という深刻なリスクを抱えています。人事部門が働きやすさと働きがいを両立させる方針を明確にし、評価制度と育成施策を連動させることが重要です。
本当に社員に優しい組織とは、単にストレスが少ない環境ではなく、挑戦し、成長できる機会を提供し続けられる組織です。優しいだけの職場から、「強く優しい職場」へ。今こそ人事がその転換点をつくる時期です。
エンゲージメント診断
本アセスメントは、貴組織内での仕事、つまり成果を上げるうえでの満足度・働きやすさを、当人がどれくらい感じているかを測ります。自分を含めた身の回りの環境を、組織・仕事・チーム・上司・(業務)負荷・制度の6項目に分けて数値化し、関係性や状態を可視化します。
エンゲージメントの見える化に留まらず、不満の原因を探る問いを設定したり、設問自体を人事部門の関心事にあわせてカスタマイズしたりも可能です。
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