エンゲージメント調査の意義と活用法~人的資本経営の実現に向けて

人的資本経営が注目される今、従業員の定着や継続的な成長、働きやすく成果の上がりやすい現場づくりに、どのように活かしていくかが重要になっています。エンゲージメント調査は、単なるアンケートではなく、人的資本経営を推進するための「変革の入口」として機能します。
本コラムでは、人的資本経営の基礎知識やエンゲージメント調査の意義、実施後の活用方法までを整理し、エンゲージメント向上のための実践のポイントを解説します。
人的資本経営が求められる背景
人的資本経営とは、人材をコストではなく資本と捉え、投資対象として開示・活用していく経営のあり方です。上場企業においては2023年3月期決算より、有価証券報告書において人的資本に関する情報開示を求められています。
こうした状況のなかで、単に教育投資額やダイバーシティ関連指標を示すだけでなく、従業員がどのくらい前向きに働いているのかを「エンゲージメントスコア」として数値化することにより、生産性向上を見据えた視点を得ることができます。エンゲージメントは人的資本経営を進めるうえで欠かせない要素といえます。
エンゲージメントが経営指標として重要な理由
エンゲージメントとは「従業員が組織や仕事に対して持つ心理的なつながり」を指します。ここで重要なのは、エンゲージメントには大きく2つの側面があるという点です。
- ワークエンゲージメント:仕事そのものに対して熱意や没頭感を持ち、活き活きと取り組む状態を指します。心理学や産業保健の領域で研究が進められており、個人の働き方に焦点を当てた概念です。組織においては、疲弊や燃えつきの早期発見・対策に有用です。
- 従業員エンゲージメント:組織や経営方針への信頼や共感を持ち、組織に貢献したいという意欲を示します。経営戦略や人事施策と密接に関係し、組織全体の方向性と強く結びつく概念です。採用力や定着率の向上、組織文化の強化に寄与します。
両者は相互に関連しながらも異なる焦点を持ちます。ワークエンゲージメントは「仕事に向き合う個人の活力」、従業員エンゲージメントは「組織との心理的なつながり」を表すものと捉えると理解しやすいでしょう。
エンゲージメントがもたらす組織成果
両者のエンゲージメントが高い組織は以下のような成果につながりやすいとされています。
- 離職率の低下
- 生産性や業務効率の向上
- 顧客満足度の改善
- 管理職の成長促進
このように、エンゲージメントは単なる「職場の雰囲気」を超え、「経営の成果を左右する指標」として捉えるべき存在です。
調査は「目的」ではなく、「変革の入口」
エンゲージメント調査を導入する企業は増えていますが、調査を実施すること自体が目的化してしまうケースも見られます。大切なのは「変革の入口」として位置付けることです。
調査結果を「従業員の声を聞いた」という証拠にとどめるのではなく、自社ならではの組織文化を再構築するための出発点として活用します。従業員が「自分の意見が組織改善に生かされている」と実感できる仕組みが必要です。
調査後のフィードバックと活用が成果を左右する
調査を終えた後、最も重要なのは結果をもとにしたアクションです。特に有効なのが、部署単位でのフィードバックです。
- 部署ごとの数値や傾向を共有する
- コメントや自由記述の内容を整理する
- 部署の現場に合った改善行動を話し合う
このプロセスを丁寧に行うことで、現場が主体的に改善に動き出すようになります。フィードバックを実際にファシリテートする役割は、課長や部長といった部門の責任者が担うことが望ましいでしょう。
一方で、人事部やプロジェクトメンバーは、全社横断の課題に対する改善策を立案するとともに、部門長と面談します。良い結果はもちろん、悪い結果であっても隠さずに伝えることで、部門内での改善活動を本気で進めてもらえるよう働きかけることが重要です。
継続的なエンゲージメント調査活用で組織を変革
一度きりの調査ではなく、定点的に実施し、推移を追うことが人的資本経営の実効性を高めます。改善策を打ち、効果を測り、次の手を考える――このサイクルを回すことで、組織は着実に変革していきます。
まとめ
エンゲージメント調査は、人的資本経営の実現に不可欠な経営指標です。調査を「形式的なアンケート」で終わらせず、従業員の声を出発点に組織文化をつくり直す姿勢こそが成果を左右します。
結果を部署単位でフィードバックし、改善のサイクルを根付かせることが、持続的な価値創出へとつながります。なお、本コラムでは実効性のあるエンゲージメント調査の手法全般について述べましたが、今後は調査設計、分析、フィードバック、施策立案に関する具体的なノウハウも発信してまいります。
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