人的資本経営を成功させるための3つの実践ステップと、人事部が取り組むべき「戦略的人事」への転換
「ヒト」を単なるコストではなく、価値を生み出す資本と捉える、それが「人的資本経営」です。日本企業でも注目が高まるこの考え方を実践するには、理念だけでなく、戦略と仕組みの整合が欠かせません。
本コラムでは、人的資本経営のガイドラインに沿って、経営戦略と連動した人材育成を進めるための具体的なポイントを紹介します。
人的資本経営とは何か
人的資本経営とは、従業員を「費用」ではなく「投資対象」として捉え、人材を通じて企業価値を高める経営手法です。これは、ESG(環境・社会・ガバナンス)の「S(社会)」に位置づけられ、持続的成長の鍵とされています。
経済産業省が示す「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」では、人的資本経営を「企業の戦略と人材戦略を一体的に考えること」と定義しています。単なる人事制度改革ではなく、経営そのものの在り方を変える取り組みといえます。
人的資本経営のガイドラインを踏まえた実践ステップ
人的資本経営を実践するには、次の3つのステップが基本です。
1.経営戦略と人材戦略の連動
経営方針を実現するために、どのような人材が必要かを明確にすることが出発点です。例えば、デジタル化を推進する企業であれば、データ分析やDX推進人材の育成計画を経営計画に組み込みます。経営戦略と人材戦略が分断されていると、人的投資の成果が見えづらくなります。
2.人材データの可視化と活用
人的資本経営のガイドラインでは、社員のスキル、経験、エンゲージメントなどを「見える化」することが求められています。人事データを定量的に把握し、採用・配置・育成・評価に活かすことが重要です。可視化は「説明責任」と「改善」の両輪を支える基盤でもあります。
3.人材育成とエンゲージメントの強化
人的資本経営における人材育成とは、単なる研修実施ではなく、「個人の成長を企業の成長に結びつける」設計を指します。学び直し(リスキリング)やキャリア自律支援、心理的安全性を高める組織風土の形成を通して、組織に還元するような動きが、今まさに企業に求められています。
今求められるのは「戦略的人事」への転換
人的資本経営を実効性あるものにするためには、「人材施策を行っている」という状態から、「経営課題を人材で解決している」状態へと進化させる必要があります。その鍵となるのが、戦略的人事への転換です。
人を通じて企業の未来を描く
人的資本経営における人材育成は、全員一律ではなく、経営戦略に基づいた「選択と集中」が重要です。将来の事業を担う中核人材には、より高度で長期的な育成プログラムを用意し、現場を支える人材には実務直結型の教育を行うなど、目的に応じた設計が求められます。
人的資本経営の本質は、単に「教育に投資する」ことではなく、「人を通じて企業の未来を描く」ことにあります。経営と人事が連携し、データと実践に基づいた育成を積み重ねることで、真に持続可能な企業成長が実現します。
人事部門に求められる「戦略パートナー」への進化
こうした取り組みを推進するためには、人事部門自身の役割も変わらなくてはなりません。制度運用や事務管理が中心だった人事から、経営と現場をつなぐ「戦略パートナー」へと進化することが期待されています。
人的資本経営に必要な視点~学びと実務をつなげる
人事部門の重要な役割の一つが研修の設計と実行です。研修は、長期的な視点を持ちながらも、短期的に成果の上がるものである必要があります。「研修内容が自分とは全く関係ない」と感じてしまうと、長期的に必要なものであっても、頭には入ってきません。すぐに現場で活用できる、今の受講者に必要な研修を行うことで、スキルアップが業績の向上にも、受講者のエンゲージメントの向上にも結びついていきます。
組織の理念やビジョンなどを従業員に浸透させる
まずは、組織の描いている未来について、従業員にも徹底して理解してもらうことが必要です。この未来への共感度が高ければ、主体的に、この未来に対して活動をしてくれる人材が増えます。さらに、社会的な存在意義(パーパス)や、具体的な行動指針(バリュー)、これらの達成に必要な人材要件などとも合わせて伝えることで、より具体的な行動につながりやすくなり、長期的に組織の業績向上につながります。
人材教育における投資対効果(ROI)の定量化
人的資本経営においては、人への投資額やエンゲージメント、重要ポストの人材要件などに加え、人材教育の費用や受講状況、効果についても、適切に開示をしながら経営を進めていくことが求められています。「結果」の適切な測定は、さまざまな因子が混在して難しい研修についても、「反応」や「行動」の内容であれば、調査・開示ができる場合があります。
具体的には、以下のような研修効果の測定や事後フォローの方法があります。
- 研修後アンケート
- レポート(報告書)
- 試験、テスト
- 意識、行動変容チェックシート(意識や行動の変化について、研修の前後に測定)
- アクションプランシート(研修中、または研修後に3カ月程度の行動プランを策定)
- 代理指標調査
代理指標調査とは、研修前後の業務成果を定量的に測定します(研修実施前に関連データを調査しておく必要があります)。定期的に取得している指標の改善を、研修の主たる目的としている場合に有効です。例えば、CS研修の場合は、お客さま対応品質レベルを、クレーム対応研修の場合は、重大クレーム数を測定することが挙げられます。
(半日研修)人的資本経営を知る研修~ESGのS(社会)を重視する人材戦略
ESGのE(環境)ではなく、S(社会)に視点を置いた「人的資本経営」について学んでいただく研修です。人事部門だけでなく、経営層や経営管理部門、IR部門など、組織の経営に密接に携わっている方々に、人的資本経営とは何かを知っていただきます。
そして、これらを推進していくために必要なガイドラインやステップを学び、自組織に置き換えて今後の経営戦略、人材戦略に活かせるようになっていただきます。
よくあるお悩み
- ESG経営やSDGs推進と言われているが、環境問題脱炭素の対策以外は考えられていない
- 人的資本経営について、何となく必要だと思っている状況で、基本的なことから学んでいきたい
- 人事部門や経営管理部門のこれからのミッションとして、ESG経営、人的資本経営の推進をしていきたい
本研修のゴール
- 人的資本経営とは何かを知り、自組織に置き換えて課題・障壁を考えられるようになる
- 人的資本経営におけるKPI、人的資本の定量化を意識できるようになる
- 人的資本経営を推進するにあたって、何から取り組むべきか考えられるようになる
セットでおすすめの研修・サービス
人的資本経営に必須のHRテック「Leaf人的資本管理」
人材を価値の源泉である「資本」と捉え、教育や研修を「投資」と考える人的資本経営は、世界的に注目を集めています。
日本でも、有価証券報告書への非財務情報の記載が求められるようになり、企業には人的資本の状態や、人材戦略が経営戦略にどう結びつくかを、ステークホルダーに説明する責任が生じています。その際、大きな負担となるのが人的資本データの整理です。複数の人事関連システムを利用している場合、必要な情報の収集・集約に多くの工数がかかります。
こうした課題を解消するのが「Leaf人的資本管理」で、基幹システムと連携し、人的資本を一元管理するとともに、目的に応じた帳票出力を可能にします。
ESG基礎研修~組織のパーパスから考えるESGへの取組みと開示
ESGとは、投資家などのステークホルダーが組織の価値を適正に評価したいときに用いる組織の非財務面の指標です。
本研修では、2024年に英国規格協会が発行したパーパス主導型組織のガイドライン(PAS 808)をはじめとするESGの最新動向や課題にも焦点を当てています。評価の対象とされる、組織側で押さえておくべき着眼点を提供します。
管理職向け従業員エンゲージメント向上研修~働きがいのある職場づくりでチームの活性化をはかる
チームの活性化、生産性向上、ひいては離職防止への一手として「従業員エンゲージメント」が注目されている中、管理職のさまに、部下のエンゲージメント向上の3つのポイントと具体的な方法をお伝えする研修です。
働きがいのある職場をつくり、チームの活性化を目指します。







