MBA視点で人事の価値を高める~人事部長が「会社の戦略」と「個人のキャリア」を結ぶ人材育成の3ステップ

企業の中長期的な成長を支えるのは、言うまでもなく「人」です。特に、新規事業の創出や全社的な変革が求められる現代において、既存のスキルセットだけでは限界があります。経営戦略と深く連動した、戦略的な人材育成、すなわち「教育体系」の設計が不可欠です。
そのための強力な武器となるのが、MBAの学びで得られる「経営視点」です。MBAとは、Master of Business Administrationの略で、日本語では「経営学修士」と呼ばれる専門職大学院の学位のことです。経営に関する理論と実践を体系的に学び、ビジネスリーダーを育成することを目的としています。
本記事では、なぜ今、人事部長にMBA視点が必要なのか、そしてその視点をいかにして教育体系に活かし、社員と企業の成長に繋げていくのかを解説します。
人事部長こそ「経営の共通言語」であるMBA視点を学ぶべき
「なぜ、人事がMBAなのか?」その問いに対する答えは明確です。MBAは単なる学位ではなく、経営の全体像を捉える「共通言語」と「思考のフレームワーク」を与えてくれる学問だからです。
経営層が用いる言葉や考え方を理解できるようになることは、あらゆるビジネスパーソンに有用です。その中でも、人材育成を担う人事部長にとっては特に重要です。人事の判断は、経営戦略と社員一人ひとりのキャリア形成を結びつける役割を担うからです。
「人事の理屈」から脱却し、「経営の理屈」で語る力を手に入れる
これまで「感覚的」あるいは「慣例」で語られがちだった人材育成の必要性、つまり「人事の理屈」を、経営の言葉で論理的に説明できるようになる。これが、人事担当者がMBA視点を持つ最大のメリットです。
では、このMBA視点は、人事の実務においてどのように価値を発揮するのでしょうか。「経営層との共通言語」「全体最適視点」「施策への多角的アプローチ」という3つの観点で見ていきましょう。
経営層・事業部門との共通言語の獲得
これまで専門外だった戦略論、マーケティング、財務会計といった領域を体系的・横断的に学ぶことで、経営層や事業部門のメンバーと同じ言語で議論できるようになります。
「この事業戦略を実現するためには、どのようなスキルセットを持つ人材が、何人、いつまでに必要か」といった議論を、財務的なインパクトも踏まえながら具体的に展開できるのです。
全体最適の視点の獲得
MBAで多用されるケーススタディでは、複雑な状況下での意思決定を疑似体験します。
例えば、ある製薬企業が製品への毒物混入に対し、莫大なコストを度外視して全製品を回収した事例があります。この判断の裏には、企業理念、顧客からの信頼、社会的責任、短期的な損失と長期的なブランド価値など、無数の要素が絡み合っています。
こうした議論を通じて、部分最適ではなく全体最適の視点から人事施策を立案・評価する能力が養われます。個別の研修をバラバラに導入するのではなく、全社的な戦略の中でどう位置づけられ、どのような相乗効果を生むのかを設計できるようになるのです。
人事施策への多角的なアプローチ
MBAで学ぶ各分野の知識は、人事の仕事に直接的なヒントを与えてくれます。
例えば、「マーケティング」のフレームワークを応用すれば社内研修の魅力をより効果的に伝えられ、参加率の向上につながります。また、「ファイナンス」の知識を活かして教育投資のROI(投資対効果)を算出すれば、予算獲得の説得力も増します。
このように、他分野の知見を応用することで、人事施策はより戦略的で効果的なものへと進化します。
MBA視点を実務に活かす「インプット→構造化→言語化」の3ステップ
上記で示したように、MBAで得られる価値は「共通言語」「全体最適視点」「多角的アプローチ」という形で人事業務に役立ちます。
しかし、それらを知識として理解するだけでは十分ではありません。実際の人事業務に落とし込み、経営に貢献する形に変換する必要があります。そのためのプロセスが「インプット→構造化→言語化」という3つのステップです。
Step1:人材面の課題を「自分ごと」として捉える
まずは、自社の経営状況を正確に理解することから始めます。
決算説明資料や中期経営計画に目を通し、自社のビジネスモデル、収益構造、そして今後の戦略を把握します。「なぜ今、この事業に投資しているのか」「経営が掲げる目標に対し、人材面での課題は何か」を常に自問自答し、経営戦略を「自分ごと」として捉えることが第一歩です。
Step2:現場の声の裏にある本質を構造化する
次に、現場から寄せられる「声」を構造的に捉えます。
例えば、複数の部署から「部下のマネジメントに苦労している」という声が上がった場合、それを単なる「マネジメント研修の要望」として処理するのではなく、「なぜ今、マネジメントの課題が顕在化しているのか?」を掘り下げます。事業フェーズの変化、組織構造の問題、評価制度との関連など、背景にある要因を多角的に分析することで、本当に必要な打ち手が見えてきます。
Step3:人事施策を経営貢献のストーリーで言語化する
最後に、企画した人事施策を経営の言葉で「言語化」します。
「この研修を実施することで、中期経営計画における〇〇という目標達成に、このように貢献します。具体的には、参加者の行動変容によって△△というKPIが□%改善し、最終的に××円の利益インパクトが見込まれます」というように、施策と経営目標との繋がりを論理的かつ定量的に示すことで、経営層の理解と協力を得やすくなります。
会社の戦略と個人のキャリアを結びつけることで「使われる」制度になる
「制度のための制度」になっていないか?
人事が陥りがちな罠の一つに、「制度設計そのものが目的化してしまう」というものがあります。立派なスキルマップやキャリアパスを設計しても、それが現場の社員にとって「自分ごと」として捉えられず、活用されなければ意味がありません。
MBA視点は、この課題を解決する上でも役立ちます。事業全体の流れや収益構造を理解しているからこそ、現場の社員が直面している課題や、彼らが求めるスキルアップが、会社のどの部分の成長に繋がるのかを明確に示せます。
会社の戦略と個人のキャリアを接続すれば、社員の学習意欲は高まる
例えば、会社の重点戦略が「海外市場の拡大」であれば、それに基づき「グローバル人材育成プログラム」を設計し、「この研修で得られるスキルは、今後新設される海外拠点のリーダーポジションに繋がる可能性があります」と、会社の戦略と個人のキャリアを結びつけて説明することで、社員の学習意欲と納得感は飛躍的に高まります。
現場のリアルな声を拾い上げ、それを経営戦略という大きな文脈の中に位置づけて教育体系に反映させる。このアプローチこそが、教育体系を「使われる仕組み」にするための鍵です。
まとめ:攻めの人事で、「経営と現場をつなぐ架け橋」になる
本記事では、これからの人事部長に求められる「MBA視点」について、その重要性から実践方法までを解説してきました。
まず、なぜMBA視点が必要なのか。それは、経営の「共通言語」と「思考のフレームワーク」を手にすることで、人事が経営の戦略パートナーへと進化するためです。 次に、その視点を実務に活かす具体的なステップとして、経営情報をインプットし、現場課題を構造化し、施策の価値を経営の言葉で語るという3つのプロセスを提示しました。 そして、この視点を持つことで初めて、「会社の戦略」と「個人のキャリア」が接続された、真に「使われる」教育体系を設計できることを明らかにしました。
人事は、ただ制度を運用するだけの存在ではありません。社員一人ひとりのキャリアに寄り添い、その成長を企業の持続的な成長へと繋げる、企業の要となる存在です。MBA視点を「羅針盤」とし、社員と企業の輝かしい未来を描く「設計図」としての教育体系を構築していくこと。それこそが、現代の人事・教育担当者に課せられた、最も重要でやりがいのある使命と言えるでしょう。
「MBA視点」を学ぶ第一歩。多忙なあなたへの「現実的な選択肢」とは
ここまで見てきたように、MBA的な経営視点は人事にとって大きな武器となります。しかし、実際に大学院に通い、多大な時間と費用をかけて本格的なMBAを取得するのは、誰にとっても簡単なことではありません。
そこで有効な選択肢となるのが、MBAで培われる経営視点の「エッセンス」を、実務に活かせる形で効率的に学ぶことができるプログラムです。インソースが提供する「プレMBA」のようなプログラムは、多忙なビジネスパーソンが、経営の全体像を掴むための第一歩として最適な機会となります。
神戸大学MBA教授陣に学ぶ~経営学の実践知【インソース×RIAMビジネススクール】
このプログラムは、経営学の幅広い分野を体系的に学びながら、自社や自身の役割に引き寄せて考えることを促します。
教授陣からの直接のフィードバックや他の受講者との議論を通じて、学びを現場に持ち帰り、組織に浸透させることで、次世代リーダーの育成や企業全体の成長力強化につながるのが大きな魅力です。 経営視点を磨き、組織の未来を切り拓く一歩として、本プログラムをぜひご活用ください。
セットでおすすめの研修・サービス
教育体系・研修体系見直しサービス
従業員の声を反映し、現場が納得できる教育体系を実現いたします。各社(職場)ごとの人材要件や能力要件をふまえた成果物を納品します。体系構築から具体的な教育手段まで一気通貫でご提案が可能です。
(半日研修)キャリア自律推進研修~個性を活かし、As is-To Beギャップを埋める組織づくり
今、社会や組織から働くわれわれ一人ひとりに対して、「自律的なキャリア形成(キャリア自律)」を求める声が高まっています。
しかし、その意味するところを正しく理解できている人は意外と少なく、その結果、自ら主体的に学ぼうとする姿勢や、組織から与えられているチャンスを活かそうとする意識がなかなか高まっていかない現状があります。
本研修は、組織と働き手とのこれからの関係について正しく認識し、健全な危機感を持ちつつ、主体的なスキルアップのきっかけとしていただくことを目的としています。
(半日研修)人的資本経営を知る研修~ESGのS(社会)を重視する人材戦略
本研修は、ESGのE(環境)ではなく、S(社会)に視点を置いた「人的資本経営」について学んでいただく研修です。
人事部門だけでなく、経営層や経営管理部門、IR部門など、組織の経営に密接に携わっている方々に、まずは人的資本経営とは何かを知っていただきます。そして、これらを推進していくために必要なガイドラインやステップを学び、自組織に置き換えて考えていただくことを通して、今後の組織の経営戦略、人材戦略に活かせるようになっていただきます。







