サイロ化は自然発生する組織のひずみ~人事が主導して全体最適に立て直す方法
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組織が一定規模に成長すると、多くの企業でサイロ化やセクショナリズムが問題として顕在化します。
部門同士が協力せず、情報が共有されず、同じ組織の中で異なる方向を向き始める――こうして業務効率が低下し、顧客価値の毀損につながります。
サイロ化は単なる部門同士の不仲やコミュニケーション不足ではなく、企業の成長フェーズに応じて自然発生する構造的な問題です。そのため、叱責や号令で改善できるものではなく、組織設計、人材育成、評価制度を含む総合的なアプローチが必要になります。
このコラムでは、サイロ化が起こる原因と影響を整理したうえで、成長フェーズ別にどのような予防策や改善策を講じるべきかを提示します。さらに、皆さまがご自身の所属組織のサイロ化度合いを簡単に確認できる診断チェックリストもご用意しました。最後に、人事部門が主導して全体最適を実現するための具体的な施策も解説します。
サイロ化は成長のどの段階で発生するのかを把握する
サイロ化は一夜にして起こるのではなく、組織の成長段階に沿って徐々に進行します。人事が最初に理解すべきは、どのフェーズでどのような問題が表れやすいかという全体像です。
創業初期はサイロ化が起こりにくい
創業期は役割が明確に分かれておらず、少人数で同じ方向に向かって仕事を進めるため、情報の断絶が発生しづらい状況にあります。全員が顧客の顔を知り、同じ目的を共有しているため、サイロ化はほとんど発生しません。
部門が増える成長期にサイロ化が加速する
組織が拡大し、専門部署が立ち上がると、業務の専門性が高まり、部門ごとに固有のKPIが設定されます。この段階から縦割り意識や業務の分断が始まりやすく、次のような状態が発生します。
- 部門ごとに異なる目標が生まれ、優先順位が揃わなくなる
- 部門の責任範囲が固定化し、相互支援が起こりにくくなる
- 情報共有が必要最小限に留まり、連携工数が減る
いわゆるセクショナリズムが見え始めるのはこの時期です。
成熟期は「部門間の壁」が常態化し組織全体の停滞を招く
組織が成熟期に入ると、サイロ化は日常的な業務の前提になり、次のような影響が表れます。
- 顧客の声が部門をまたぐにつれ歪んで伝わる
- 部門目標の達成に固執し、全体最適が損なわれる
- コストや工数が増加し、意思決定が遅延する
- 社員が組織全体の成果より部署内の評価を優先する
こうした状態が続くと、市場環境の変化に対応できず、競争力の低下を引き起こします。
サイロ化を引き起こす根本原因を特定する
サイロ化の原因は単純なコミュニケーション不足ではなく、構造的な要因が絡み合っています。人事は表面的な現象ではなく、根本原因を捉える必要があります。
部門ごとのKPIと評価制度の不整合
サイロ化の最大要因は、部門ごとに成果指標が異なり、相互協力が評価されないことです。営業は売上、開発は品質や納期、管理部門はコスト削減といったように、部門の目標設定が個別最適になっている状態では連携が生まれません。
情報共有の仕組みが設計されていない
組織が大きくなるほど、自然発生的な情報共有では限界が生まれます。情報をどこに蓄積し、どのように共有し、誰が判断するかといった仕組みが整っていないと、部門ごとにローカルルールが生まれ、連携の障壁となります。
権限と責任の境界が固定化される
各部門が独自の判断基準で業務を進めるようになると、部門としての独立性が強まり、責任範囲に他部門を巻き込まなくなります。このように、権限が強い部門が意思決定を独占する構造は、サイロ化の加速要因になります。
組織文化としての「自部門優先」
長年同じ体制が続く中で、「部門の守備範囲を守ることが良い」という暗黙の文化が育つことがあります。こうした文化は、制度だけでは解消できないため、人事の介入が必要になるのです。
サイロ化がもたらす具体的な悪影響を定量・定性で理解する
サイロ化は単なる連携不足ではなく、企業価値に直結する深刻な影響を生みます。
顧客体験の断絶
部門ごとに顧客情報が分散し、顧客の声が統合されないため、体験がばらつきます。顧客サポートと営業が連携していない、商品企画に現場の声が届かないなど、顧客満足度の低下を招く要因になりかねません。
コストの増加と生産性低下
同じ作業を各部門で重複して行う、ツールが異なる、判断フローが複数存在するなど、非効率な運用が常態化します。これにより業務のスピードが落ち、コストが増大します。
組織全体の意思決定の遅延
必要な情報が部門間で共有されず、意思決定に時間がかかる状態が発生します。特に新規事業の立ち上げや市場環境の変化が大きい時期には致命的です。
自社のサイロ化度合いをチェックする診断リスト
読者の皆さんが自社の状況を具体的に把握できるよう、簡易チェックリストを作成しました。各項目を「はい/いいえ」で確認するだけで、自社のサイロ化傾向がわかります。
- 部門間で共通のKPIや目標が設定されている
- 部門横断プロジェクトが直近12か月以内に実施されている
- 部門間で情報共有用の共通プラットフォームが整備されている
- 部門間の評価や報酬制度に連携行動が反映されている
- マネジメント層が部門横断で意思決定を行う文化がある
- 他部門との調整に過度な承認プロセスが存在しない
- 顧客情報が部門ごとに分断されず一元管理されている
- 社員が自部門の利益より組織全体の成果を意識して行動している
- 情報や知見を共有する定例会議やワークショップが定期的に開催されている
- 部門間の成功事例や学びが組織全体で横展開されている
診断の目安
- 8〜10項目が「はい」なら、サイロ化は低い状態
- 5〜7項目が「はい」なら、注意が必要
- 0〜4項目が「はい」なら、早急な改善施策が求められる
人事が主導してサイロ化を解消する具体的な施策
サイロ化の解消は人事が中心となって進めるべき組織開発テーマです。次の施策を段階的に実行することで、全体最適を促す組織に変えていくことができます。
連携行動を評価に組み込む仕組みをつくる
部門間の連携を評価制度に反映することで、自部門優先の行動を是正できます。具体的には次のような仕組みが有効です。
- 部門横断プロジェクトへの参加を評価する
- グループ全体のKPIを設定し、連携行動を定量化する
- 他部門からの評価をフィードバックとして組み込む
制度の運用と合わせて、上司の評価観のアップデートも必要になります。
部門横断のプロジェクト運営と共通プラットフォームの整備
異なる部門が協働する経験を増やすことで、相互理解が深まります。さらに、情報共有の基盤として、ドキュメントや顧客情報の蓄積先を統一することも重要です。
マネジメント層への意識改革と共通言語の導入
サイロ化は現場レベルだけで解消できません。管理職同士が共通の理念、同じ顧客観、同じ優先順位を持つことが前提になります。そのために、人事は管理職研修、ミドル層へのリーダーシップ育成、理念浸透施策を組織的に設計する必要があります。
組織文化の転換を促す内製化施策
サイロ化が根深い組織では、文化の転換が最も重要な課題となります。仕事の進め方、問いの立て方、部門間の関係性を見直す機会を継続的に提供し、心理的安全性の高い協働文化を醸成することが求められます。
サイロ化は構造的な課題!人事の介入で全体最適に変えられる
サイロ化は組織の成長段階に応じて自然発生するため、放置しても改善されません。人事が一歩踏み込み、評価制度、情報共有の仕組み、組織文化の転換を含めた多面的な施策を講じることで、全体最適を実現できます。
組織が複雑化し、事業のスピードが求められる今こそ、サイロ化の解消は企業成長の重要テーマです。現在の組織の状態を把握し、まずは小さな改善から始めましょう!
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マネージャーは、現場の旗振り役であると同時に、経営と現場をつなぐ「翻訳者」です。
本研修は、その重要な役割を果たすための力を養う場です。
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WEB化すると入力形式はそのままに、シンプルで書きやすい評価シートに生まれ変わります。
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