エンゲージメントとは何か?「人的資本経営」の鍵を握る2つの視点と理解のヒントを詳しく解説

近年、ビジネスの現場で「エンゲージメント」という言葉を耳にする機会が増えています。多くの企業がその向上を重要な経営課題と位置づけ、サーベイの導入や改善施策の検討に取り組んでいます。
一方で、「従業員満足度と何が違うのか」「なぜこれほどまでに注目されているのか」といった疑問を抱く方も少なくないでしょう。
この記事では、エンゲージメントの基本的な意味から、社会的背景、そして理解の鍵となる2つの重要な概念までを、順を追って解説していきます。
エンゲージメントの基本的な意味は、満足度ではなく貢献意欲を測ること
従業員満足度が職場環境や待遇などへの文字通り「満足度」を測る指標であるのに対し、エンゲージメントは「組織や仕事に対してどれだけ主体的に関わり、貢献しようとしているか」を示す指標です。従業員一人ひとりの力を最大限に引き出し、組織全体を活性化させ、結果として企業の持続的な成長につながるという点が、経営層から現場まで広く注目される理由です。
エンゲージメントが重視される背景~人的資本経営という大きな流れ
エンゲージメントがこれほどまでに重視されるようになった背景には、「人的資本経営」への移行という、日本企業全体を包む大きな潮流があります。これは、人材を単なるコストではなく、企業価値を生み出す資本として捉える考え方です。
例えば、経済産業省が公表している「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と連動した人材戦略の実践が重要課題として示されており、その中でエンゲージメントは「組織と個人をつなぐ要素」として明確に定義されています。また、非財務情報可視化研究会(内閣府)の「人的資本可視化指針」においても、エンゲージメントは開示が推奨される項目のひとつに含まれています。
エンゲージメントが高い従業員は、仕事に前向きに取り組み、離職しにくくなる傾向があるため、企業にとって長期的な貢献が期待できる存在となります。こうした点からも、エンゲージメントは人的資本経営を実現するための重要な要素と位置づけられているのです。
エンゲージメントを正しく理解するための2つの視点
エンゲージメントを正しく捉えるには、「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」という2つの概念を区別して考えると理解しやすくなります。
1.ワークエンゲージメント:仕事そのものへの愛着
ワークエンゲージメントは、従業員が仕事内容そのものに対してどれだけ前向きに関わっているかを示す、個人的な心理状態を指します。学術的には、「活力」「熱意」「没頭」という三つの要素が揃った状態とされており、仕事からエネルギーを得て粘り強く取り組む姿勢や、誇りと意義を感じながら熱心に働く姿、そして時間を忘れるほど集中している様子が含まれます。
このワークエンゲージメントを高めるための理論として、「JD-Rモデル(Job Demands-Resourcesモデル)」が知られています。このモデルでは、仕事の資源(Job Resources)や個人の資源(Personal Resources)を充実させることが、エンゲージメント向上につながるとされています。
たとえば、上司からの支援や成長の機会、公正な評価、同僚との良好な関係性などが「仕事の資源」にあたり、自己効力感や粘り強さといった心理的な強さが「個人の資源」に該当します。
一方で、仕事の要求度(Job Demands)が過剰になると、心身に大きな負担がかかり、燃え尽き(バーンアウト)につながるリスクが高まります。そのため、資源を充実させると同時に、過度なプレッシャーや精神的・肉体的な負担を適切に抑えることが、従業員の前向きな働き方を支える土台となります。
2.従業員エンゲージメント:仕事を含む組織全体への愛着
一方、従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントを含む、より広い概念です。仕事内容への愛着に加えて、所属する組織やその理念・方針に対する納得感、貢献意欲などを含んだ総合的な状態を指します。
たとえば、仕事にはやりがいを感じているものの、会社の方針や評価制度に不満がある場合、個人のパフォーマンスは高くても、組織全体の目標達成に向けた一体感は生まれにくく、結果として離職につながる可能性もあります。
このような背景から、組織全体の課題を正確に把握するためには、仕事内容だけでなく、組織、チーム、上司、制度、業務負荷など、複数の視点からエンゲージメントの状態を測定し、課題を可視化することが求められます。
エンゲージメントスコアは「健康診断の結果」と考える
エンゲージメントサーベイを導入すると、ついスコアの上下に一喜一憂してしまいがちです。しかし、スコアはあくまで「組織の状態を示す指標」であり、目的ではありません。血圧のように、今の状態を知るための「健康診断の結果」と捉えるのが正解です。
大切なのは、スコアの裏にある課題を見つけ、改善策を考え、実行していくこと。このプロセスこそが、エンゲージメント向上の本質です。
まとめ:エンゲージメントは組織の成長エンジン
エンゲージメントは、人的資本経営を実現するうえで欠かせない要素の一つです。その中には、仕事への熱意を示すワークエンゲージメントと、組織への貢献意欲を示す従業員エンゲージメントという二つの側面があり、それぞれを理解することで、自社の課題をより鮮明に捉えることが可能になります。スコアは目的ではなく、組織の状態を可視化し、改善へとつなげるための手段です。
エンゲージメントの向上には、即効性のある解決策は存在しませんが、概念を正しく理解し、現場との対話を重ねながら地道な改善を続けることで、従業員がいきいきと働き、組織が持続的に成長するための強固な基盤が築かれていきます。
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