
今回は、【実際のコミュニケーションの場面】を想定し、自分の「率直な考え」を「対等な立場」で相手に伝えるためのポイントをお伝えします。
職場では、上下関係を全く意識せずにコミュニケーションするのは難しいものです。部下が上司に対して気を遣うのは普通のことですが、状況によっては上司の方が部下に嫌われるのを恐れて率直なことを言えない、というケースも往々にして起こります。どちらかが「優位性」という梯子の上にいる状態では、真にアサーティブな対話を進めることはできません。
双方ともに梯子を外したフラットな状態(=必要以上に卑屈にならない、相手を見下さない)での対話を実現するには、まずは「話を始める側」の意識を変えることが重要です。それでは、具体的なケースで見ていきましょう。
若い部下に嫌われるのを恐れ、厳しい指導ができないと悩んでいた上司のAさん。そんなことではいけないと、毎朝、定時ギリギリに出社してくる2年目社員のBさんに対して注意をしようとしましたが......
■NG例
上司A「今朝も遅刻寸前だったね。どうしてもっと余裕を持って出社できないんだ」
部下B「すみません。でも定時には間に合っているので、大丈夫ですよね」
上司A「(声を大きくして)そんなことじゃ困るな!もう新人じゃないんだし、私だってこんなことは言いたくないんだよ」
部下B「......」
上司A「それと、先週頼んだプレゼン資料はどうなった?進捗の報告もないし、この調子じゃ来週の会議に間に合わないんじゃないの!?」
部下B「それは一生懸命やってます!」
上司A「結果が出てないんじゃ、どうしようもないね」
日頃からBさんに対して感じていた不満を、上司という立場の優位性に乗じてそのままぶつけてしまったAさん。率直な感情を伝えることは大切ですが、「感情的になる」のとは、少し違います。
何に対して不満に感じているのかを具体的に伝え、自分の状況や相手に対して感じている感情を「正確に知ってもらう」ことが、アサーティブの第一歩です。さらに、上司として毅然と注意すべきだ!という思い込みから、Bさんに反論の余地を一切与えず、批判の言葉を先行させています。このように攻撃的な態度で対話をしても、Bさんに防御の姿勢を取らせてしまうばかりか、Aさんに対する恨みを誘発しかねません。まずは、アサーティブに話すための3ステップでAさんの心の中を整理してみます。
■ステップ1 問題状況の整理 ~何が問題となっているか
・Bさんが毎朝遅刻寸前に出社してくること
■ステップ2 問題に対する感情の整理 ~問題に対してどのように感じているか
・上司として不満を感じている
→日中は不在にしがちなので、自分にとって朝の時間は非常に貴重だ。Bさんへの業務指示や確認は朝一番に行いたい。それなのに、いつもBさんが来ていないことが不満
■ステップ3 問題の解決方法の整理
~どのように改善・解決したいか、相手にしてもらいたいことを整理
・定時にはすぐに働けるように、10分前には出社してほしい
・遅れそうなら事前に連絡してほしい
ステップ2で自身の「不満」を正確に描写してみることで、ステップ3ではどうすればその不満を解消できるのか、具体的な提案を考えることができます。
■アサーティブな例
上司A「Bさん、ちょっと話したいことがあるんだけど」
部下B「はい、なんでしょうか」
上司A「今朝に限らず、Bさんはいつも定時ギリギリに出社してくるね」
部下B「すみません。でも定時には間に合っています」
上司A「確かに遅刻はしていない。でも、私は不満に感じている。なぜなら日中は営業訪問やミーティングで不在がちになってしまうので、私にとって朝の時間は非常に貴重だ。Bさんへの指示・確認も朝一番でやりたいんだ」
部下B「そうだったんですね。じゃあ明日から早めに来るようにします」
上司A「そうしてもらえると本当に助かる。定時にはすぐに働けるように準備してほしいので10分前には出社してほしい。もし遅れそうな場合は、すぐに連絡をしてくれると安心だ」
このように、相手を批判するような言葉は避け、誰にとっても合理的だと考えられる解決策を提案できれば、相手も前向きに指摘を受け入れようという気持ちになります。
正社員のCさんとアルバイトのDさんは、年齢も近く、仲が良いのですが、仲が良すぎるあまり、CさんはDさんに仕事のお願いがしづらくなっています。例えば、Dさんにも電話に出てもらった方が、自分の仕事が中断されず助かるので、思い切って話をすることにしました。
■NG例
Cさん「ねぇ、Dさん。ちょっと聞いてほしいことがあって」
Dさん「何ですか~?」
Cさん「これからDさんにも電話が鳴ったら出てほしいんだけど」
Dさん「えーっ、それは社員さんの仕事じゃないんですか!?」
Cさん「それはそうかもしれないけど......とにかくDさんがちゃんとしてくれないと、私が部長に怒られるんだから」
Dさん「それ、八つ当たりですか!?」
Cさん「(感情的になって)そんなわけないでしょ!!」
Cさんは、Dさんとの良い関係にひびが入ることを恐れています。だから、これまでDさんにも電話に出てほしい、という率直な思いを伝えられられずにいました。一方、社員としてDさんを指導しなくてはならないという意識もあり、上に立つものとして自分の感情をありのまま開示することができずにいます。そのため、反発してきたDさんに対して「そうかもしれない」と曖昧にごまかそうとしたり、二人の間の話に部長を介在させて自分の本音を隠そうとしています。Dさんとアサーティブに向き合うためにはどうすればいいのでしょうか。
■アサーティブな例
Cさん「Dさんに聞いてほしいことがあります」
Dさん「何ですか?」
Cさん「これまでDさんと仕事のことであまり真面目に話したことないから、少し緊張しているんだけど」
Dさん「いったいどうしたんですか?」
Cさん「実は、これからはDさんにも電話に出てもらいたいと思っていて」
Dさん「それは社員さんの仕事だと思ってました」
Cさん「そう思われてしまったのは、はっきり言えなかった私の責任です。でも、私が電話に出てばかりだと自分の仕事に集中できなくて困ります。だからDさんの力を貸してもらえないですか」
Dさん「分かりました。でも、どんな風に出ればいいんですか?」
Cさん「それはこれから私が教えます!」
まず、対話の入口として、「緊張している」という素直な感情を言葉にしてみましょう。社員だから弱いところを見せられない、と構えるのではなく、むしろ自分の感情を率直に開示することで、DさんもこれからCさんが話すことを真摯に受け止めようという気持ちになれます。そして、Dさんにも電話に出てほしいという思いをこれまで伝えられなかった責任は自分にあると認めることで、Cさんには「自分をごまかしていない」ことに裏付けられた自信が生まれます。社員という立場の優位性を持ち出さなくても、率直な思いを伝えられるようになるには、自分への信頼感を高めることがとても重要です。
Fさんは最近異動してきた元管理職の部下。仕事中にぶつぶつ独り言を言ったり、キーボードを強く叩く癖があり、職場のメンバーからうるさいと苦情が出ている。そこで、マネージャーのEさんが話をすることにしました。
■NG例
Eさん「Fさん、ちょっといいですか」
Fさん「はい」
Eさん「あの......ご自分で気づいていらっしゃるか分からないんですけど、その......」
Fさん「言いたいことがあるなら遠慮せずに、はっきり言ってもらっていいんだよ。Eさんはマネージャーなんだから」
Eさん「実は......Fさんが仕事中に独り言を言うのがうるさいって、他のメンバーから私のところに苦情が来ていて」
Fさん「そうなの?自分じゃ全く気づかなかった」
Eさん「それと、キーボードを叩く音もうるさいって......」
Fさん「他の人もそう言ってるの?」
Eさん「そうですね......2,3人くらいでしょうか......」
Fさん「へー、そうやってみんな陰で俺のことバカにしてるんだな」
Eさん「私が言ってるんじゃないんですよ!」
上記の例で一番良くないのは、Fさんに気を遣うあまり、Fさんへの指摘を自分ではなく他のメンバーからの言葉として伝えていることです。これではFさん一人に対してEさんたち複数人、という数の優位性が生じてしまい、対等とは言えません。
会社の大先輩であるFさんに対して失礼なことは言えない、これがEさんの本音です。この本音を開示したうえで、どうしたらFさんの気持ちに配慮しながらアサーティブに指摘ができるか考えてみましょう。
■アサーティブな例
Eさん「Fさん、どうぞ座ってください」
Fさん「何ですか、改まって」
Eさん「大先輩であるFさんにこのような指摘をするのは大変心苦しいんですが、実は、仕事中にFさんがぶつぶつと独り言を言っていて、私はどうしても気になってしまうんです」
Fさん「それは済まなかったね、自分では気づいてなかったよ」
Eさん「それと、キーボードを叩く音もだいぶ周りに響くので、気をつけてもらえますか」
Fさん「他の人もそう言ってるの?」
Eさん「気になっている人もいるかもしれませんが、私はひょっとしてFさんが何かストレスでも抱えてるのではないかと心配しているんです」
Fさん「そういうわけじゃないけど......とにかくこれからは気をつけるよ」
Eさん「突然こんなことを言ってすみません。もし私に何かできることがあったらおっしゃってください。ところで、データ入力は今週中に終わりそうですか?」
Fさん「ああ、もうほとんど終わってるから、明日にはメールで送れるよ」
Eさん「Fさんに任せておけば私も安心です。今日はありがとうございました」
上記のような、「大変心苦しい」という率直な感情表現には、Fさんを先輩として尊重するEさんの思いが感じられます。さらに、Fさんの置かれている状況に思いを馳せ、「何かストレスでも抱えてるのでは」と気遣っていることを伝えてみましょう。Fさんの抱えている問題に正面から向き合う姿勢を見せることで、EさんもFさんの指摘を素直に受け止められるようになります。
また、言いにくいことを伝える時は、必要以上にこの話題を引きずらないよう、言うべきことを伝えられた後は、サッと話題を切り替えるのもポイントです。最後は信頼や感謝を伝える言葉で締められると、今後も良い関係性を築くことができます。
いつも部下のHさんの予定も聞かず、突然仕事を突然振ってくるG課長。急な依頼は断わりたいのですが、力の強い上司相手になかなか切り出せません。逆にこちらからの依頼は後回しにされがちで、Hさんのストレスは限界です。 パワハラ気質の上司に思いを聞き入れてもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
■NG例
Hさん「G課長。今話しかけてもよろしいでしょうか」
G課長「(パソコンに向かったまま)今ちょっと忙しいんだけど、後じゃダメ?」
Hさん「そのままでいいので聞いてください。G課長からの仕事の依頼について、当日急に頼まれても困ってしまうので、何とかしてもらえませんか」
G課長「何とかしてって言われてもさぁ、こっちも上司として優先順位は考えてるつもりだけど」
Hさん「だったら私がいつもお願いしている書類のチェックだって、上司として優先してやるべきじゃないですか?」
G課長「うるさいなぁ、今Hさんとそんな話している時間ないから!」
立場が強い相手と対話をするうえで肝心なのは、まず相手の注意をこちらに振り向けることです。このケースでも、パソコンに向かったまま話を聞いてもらうのではなく、話をする状況をこちらから設定しましょう。「どうせ聞いてもらえてない」と感じながら話を続けても、対等な気持ちで向き合えません。また「何とかしてもらえませんか」という曖昧な言い方では、相手に行動の変化を促すのは難しいでしょう。
自分がいかに大変な状況で、相手に何をしてほしいと思っているか、あるいはこちらもこういうことをするから、そちらにも〇〇をしてほしい、などもっと具体的に伝える必要があります。
■アサーティブな例
Hさん「G課長。今少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」
G課長「(パソコンに向かったまま)今ちょっと忙しいんだけど、後じゃダメ?」
Hさん「とても重要なことなので、5分ほどで構いません。もし今が無理でしたら、いつだったら時間が取れるか教えてください」
(G課長はパソコンに向かったまま。Hさんはじっと待っている)
G課長「(Hさんの方を向いて)......分かったよ、今話を聞くよ」
Hさん「ありがとうございます。とても言いづらいことなんですが、G課長からいつも急に仕事を頼まれるので、困っているんです」
G課長「こっちも優先順位をつけてお願いしてるつもりだけど」
Hさん「そうだとは思います。でも、私も綿密にその日の計画を立てているので、急に予定を変えられると焦ってしまうんです。ですので、前日までに依頼をしても大丈夫か確認してもらえると助かります」
G課長「分かったよ。でも状況によっては急にお願いすることもあるから」
Hさん「もちろん、できる場合は承ります。ただし、対応が難しい場合もあるので、そのときはご相談させてください」
上記の例では、「いつだったら時間が取れるか教えてください」とG課長にボールを投げることで、Hさんは会話のイニシアティブを取ろうとしています。そして、G課長の意識をこちらに向けさせてから、今の率直な思いと具体的な要望を伝えています。
強い相手に対して率直な思いを伝えるのは、とても勇気が要ることです。しかし、自分の"本気"を相手に分かってもらうためには、具体的な感情をしっかり伝えることは外せません。「返報性の原理」と言われるように、こちらがこれだけ"本気"を見せたら、相手も同じように返さないといけないと思い、話に真剣に向き合おうとしてくれます。そこで初めて、対等な立場で対話を始めることができます。
また、これはアサーティブの哲学には外れますが、交渉という意味でも、本気で相手にぶつかると、相手の機先を制することができ、話を自分のペースで優位に進めることができます。
参考:アン・ディクソン 『それでも話し始めよう アサーティブネスに学ぶ対等なコミュニケーション』
いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介した4つのケースは、いずれも身近によくある「難しいコミュニケーションの場面」であったと思います。言いたいことが言えずに悩んでいる皆さまの参考になれば幸いです。自分の率直な思いを伝えることで、その後の状況や相手との関係性が良い方向に変われば最高ですが、必ずしもこちらの望み通りになるとは限りません。例えば最後のケースだと、この先もG課長は急な依頼をしてくることは十分考えられます。だとしても、自分にとってこれまで重荷、懸案であったことに対し真正面からぶつかり、しっかりと自己開示できた、という事実は決して揺るぎません。
アサーティブコミュニケーションを身につけることで、自分への信頼感を高めるとともに、上下関係のある相手とも「対等な関係」を築いていけるという手ごたえを感じられたら、それは大きな前進と言えるのではないでしょうか。
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