2年目から3年目の若手社員には、担当する業務の「主体者」となって進めることが求められます。それまで上司や先輩の指示にただ従うことの多かった若手も、さらにレベルの高い「壁」に立ち向かっていかなければなりません。
そこで今回は、「いんそうす商事」(仮)の若手社員、太郎さんと花子さんがぶつかってきた「4つの壁」を、1年間のストーリー形式でお伝えします。若手指導に取り組む皆さまの参考になれば幸いです。
いんそうす商事の若手社員、太郎さんと花子さんが、ぶつかった壁は、以下の4つです。
2人がぶつかった4つの壁
●時間の壁 ~春
●業務改善の壁 ~夏
●主体性の壁 ~秋
●OJTの壁 ~冬、そして春へ
2人の悩みに対して、先輩が具体的にどんな言葉をかけたら克服につながったのかを、「先輩の言葉」としてご紹介いたします。実際に指導する際の声かけやアドバイスの参考にしていただければ幸いです。
太郎
「上司からは残業を減らせと言われるけど、突発的な仕事を頼まれることも多く、自分の仕事が終わらない!」
◆先輩の言葉◆
新人時代と違い、担当業務は増える一方です。しかし、使える時間そのものは 増やせません。限られた時間を効率的に使えるよう、自分の仕事の進め方を今一度見直してみましょう。
仕事の進め方を見直すには、PDCAサイクルの活用がおすすめです。ポイントは、最初から完璧を目指さず、計画にある程度の見通しが立ったら即座に行動に移すこと。 行動をしてみて、初めてわかることもあります。そこから見つけた改善点から自分の行動を適宜修正し、その質を上げていきましょう。
■PDCAサイクルの例
【目的】業務効率向上/残業削減 【目標】18時退社
PDCAの手順は、1回で終わりというのではなく、サイクルを回し続けることが重要です。評価・検証した改善案を次の計画に反映させ、行動につなげましょう。
花子
「仕事をどれだけやっても完璧と言える自信がなく、気がつけばいつも期限ギリギリになってしまうんです......」
◆先輩の言葉◆
仕事において、「質」と「量」は反比例の関係にあります。どちらを求めればよいか悩ましいですが、一人前の社員にはその両方が求められます。しかし、どちらも追及するあまり、期限に間に合わないのは本末転倒です。
質と量のバランスを取るためのポイントは、「凝り過ぎない」こと。満点を取ろうと思わず、 70点ぐらいで一旦上司に報告し、指示を仰ぐことも大切です。 もしくは、8割終わった時点で、いったん仕事を「寝かせて」みるのもよいでしょう。 時間をおくことによって冷静になり、「質」への凝り過ぎを避けられます。1日寝かせると、新たなアイデアが浮かぶこともありますよ!
太郎
「チームの業務改善リーダーを命じられたけど、これといった問題点が見つかりません!単に人を増やせばいいんじゃないですか?」
花子
「今のやり方は、確かにやりにくいところもあるけれど、昔からこうだし、慣れればいいだけのことだと思うんです......」
◆先輩の言葉◆
業務改善には、より効率のよい職場づくりと、個人としての働きやすさの向上を達成する という2つの目的があります。ぜひ若手のうちから、業務における問題点の改善に積極的 に取り組み、解決を目指す意識を身につけましょう。
■問題を洗い出すための3つの観点
(1)日常で感じる「素朴な疑問」
日々の業務に関して、常に「素朴な疑問」を抱き、これを解き明かそうとする意思が重要 です。その「素朴な疑問」を常に書き留め、原因や解決策を考える習慣を身につけましょう。
【素朴な疑問の例】
・会議資料のコピーは慣例で用意しているけど、本当に必要?
・別の部署で作成したデータを、もらった部署が再度チェックする必要はある?
(2)ムリ・ムラ・ムダを考える
仕事がやりにくいと思う時、そこにはムリやムダが必ずあります。ムリやムダがあるとミスも 起こりやすくなります。自分の今までの経験を振り返って考えましょう。
【ムリ・ムダ・ムラの例】
ムリ:効率が下がるほどの辛い環境(暑い、寒い、遠い etc.)
ムダ:ファイル名が統一されておらず、必要書類を探すのにムダな時間がかかる
ムラ:メンバーの商品知識に差があり、顧客からの質問に対する返答がバラバラ
(3)相手の立場で考える
仕事には、組織内のメンバー、取引先、お客さまなど、必ず「相手」が存在します。すべての 関係者に迷惑や不便をかけていないか、相手の立場になって考えると、新たな問題点に 気づくことができます。
また、問題を洗い出したら、それを数値化して「見える化」してみましょう。客観的な数値を把握 することで、思ってもみなかった現状に気づくかもしれません。
【数値化できる例】
クレームの数、手戻りの数、残業時間、作業にかかわる人員の数
職場の問題解決を求められるのは、職場の運営に直接参加してほしいという上司の期待 の表れです。業務に慣れると、つい「こんなもんだろう」と思いがちですが、若手のうちに 感じた「疑問の芽」を大事に育て、やがて大きな組織改革を実現できる人材になること を期待していますよ!
太郎
「大きなミスはしなくなったし、言われたことはすぐにやっている。なのに上司や先輩から"まだまだ"と言われるのはなんでだろう」
◆先輩の言葉◆
新人の頃は、指示されたことをできるだけ正確・迅速に実行し、また指示をもらうことが基本でした。 しかし、2年目から3年目になると上司や先輩に指示されなければ動けない、または仕事の詳細を指示されないとできない、という「指示待ち人間」のままではいけません。
また、指示されて仕事を行う場合でも、言われた通りに行うだけの「受動的」 な行動と、仕事の目的を考え、それを意識しながら行う「能動的(=主体的)」 な行動では、仕事の結果にも、また将来の自身の成長にも、大きく差がつきます。
■主体性を持ち、能動的に働くためにやるべきこと
(1)自分のできることを探す
上司からの指示に対し、まずは自分のできることを考え、提案する習慣を身につけま しょう。また、提案したことは言いっぱなしにせず、最後までやり遂げる責任感と実行力が必要です。
【提案の例】
上司「会議の書類を20部コピーしてもらえる?」
部下「予備はいりますか?」「ホッチキス留めした方がいいですか?」
「関係者にはデータを事前に送っておきましょうか?」
(2)会社における自分の仕事の目的を考える
会社はお客さまに商品・サービスを提供し、その対価を得ることで売上を上げます。売上を上げるプロセスの中で、様々な仕事が発生します。
【例】
・(お客さまに販売するために)営業活動を行う
・(販売促進のために)広告宣伝を行う
・(社員に給与を払うために)給与計算を行う
・(仕入先に代金を支払うために)経理処理を行う
皆さんにとっては、「~を行う」の部分を手抜かりなく行うことが「仕事」であり、「目的そのもの」かもしれません。しかし、会社全体の視点で考えたとき、仕事の目的となるのは、その前提となる「~のために」の部分です。 皆さんが目的と考えている業務は、会社にとっては、適正に利益を出し、会社運営を円滑に行うための「手段」なのです。
自分の仕事は何のためにあるのか、その目的をきちんと理解することで、単に業務をこなす だけでない「主体的な社員」へとレベルアップできますよ!
花子
「次のプロジェクトリーダーを任されたけど、できればまだ先輩にやってほしいです」
◆先輩の言葉◆
「補助的な役割」だった新人時代と違い、皆さんはすでに組織の成果を上げるための 「主体者」になっていることを強く意識するべきです。そのうえで、その役割を受け入れ、 「主体者」としての行動をとることが求められています。
役割を積極的に受け入れるには、その役割を自分が果たせるという自信が必要です。 「経験」を通じて小さな「成功体験」を重ねることが自信につながりますよ。
【例】
・大勢のお客さまの前でプレゼンテーションをすることができた
・メーカーから生産中止とされた素材について、代わりの品を探して手配できた
困難な状況で失敗することもありますが、成功すれば大きく成長できます。 まずは、困難な状況を乗り越える勇気を持つことです。新たな役割を成長するための 「試練」や「チャンス」と考え、積極的に挑戦していきましょう!
太郎
「今度の新人のOJT担当になったけど、自分の時はどんな風に教わっていたのか覚えてないです!」
◆先輩の言葉◆
皆さんが新人だった時、どんな気持ちだったか思い出してみましょう。 「初めての仕事」や「人間関係」にうまく適応できるか不安を抱いていたのではないでしょうか。 まずは自分の経験を振り返り、「たぶん新人はこんな時不安になるだろうな」と 思うことについて整理してみましょう。
当時役に立った先輩のアドバイスや、自分なりの気づきを思い出し、それを新人に伝えて あげるのが、一番身近な先輩である皆さんにできることです。 さらにOJT担当者としては、以下の2点を意識しておいてください。
■「OJT担当者」として求められること
(1)組織としての方向性を理解する
OJTを通じて新人・後輩に伝える「仕事の考え方」は、組織の方針と合致していなければ
なりません。まずは部署としての育成方針を上司と確認したうえで、新人の育成に携わることが大切です。
(2)覚悟と責任を持つ
「新人の間違いは全て自分の責任」という覚悟を持って指導に取り組むことで、新人から
の信頼が生まれます。ひいてはそれがOJT担当者のリーダーシップや自信の源泉となります。信頼関係ができると、新人たちの仕事に対する積極性やモチベーションの向上にもつながります。
花子
「私の時は先輩から対面で直接教えてもらえたけど、今年はリモートで OJTしなくてはならない。どうやってやればいいのかな......」
◆先輩の言葉◆
これまでのOJTで実践されていたことから、リモートで意識的にやらなければならないことを 考えてみましょう。
■リモートによるOJTで気をつけること
(1)OJT計画
OJT計画を立てる際には、リモートで指導可能な業務かどうかよく検討しましょう。例えば、 オフィス以外の拠点や現地へ赴かないとできないことは、その機会をつくるしかありません。 しかし、オフィスにいないと指導できないと思いがちな業務でも、簡単にあきらめてはいけません。 例えば、オンライン通話をつないだ状態で電話応対の練習はできるかも、といった風に、リモートでも実践できる工夫をしてみましょう。
(2)指示の出し方
これまでのように口頭ではなく、メールやチャットで指示をする機会が増えます。端的で 分かりやすく、伝わりやすい文章を書くことを心掛けましょう。
(3)コミュニケーション
リモートでどのように関係性を築けばよいのか、新人は大いに不安を感じています。 OJT担当者の方から意識的にオンラインで声をかけてあげましょう。ちょっとした 雑談でも、まずは話しかけやすい雰囲気をつくることが重要です。
いかがでしたでしょうか。これで太郎さんと花子さんの1年間の成長ストーリーは終わりです。新人のころより頼もしくなった2人に対して、周りの上司や先輩は目を細めて喜んでいます。
しかし、「わざわざ言わなくても信頼していることはわかるだろう」、「いちいち感謝を伝える必要はないだろう」と思っては良くありません。
若手のモチベーションをさらに引き出し、パフォーマンスを上げるためには、「きちんと部下をほめる」、「丁寧なフィードバックを行う」といった当たり前の行動を実直に実践することが重要です。言語化したフィードバックは、若手の「承認欲求」を満たし、さらなる成長や帰属意識につながっていきます。上司や先輩の方々に、いま一度意識していただくとよいかもしれません。
ぜひ貴社の太郎さん花子さんへの指導の際は「先輩からの言葉」をお役立ていただけますと幸いです。自身に求められる役割を受け入れ、主体性を持った若手社員とステップアップできるよう弊社でもサポートいたしますので、何かお困りの際はぜひご相談ください。
<関連リンク>
【コラム】新人がぶつかりやすい「4つの壁」~新入社員の6か月間の成長ストーリー
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