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アサーティブコミュニケーション研修を語る

2023/01/10更新

アサーティブコミュニケーション研修を語る

◆対談者

小林(WEB制作部門)
泉(テキスト作成部門)
村上(テキスト作成部門)

「アサーティブ」の概要と目的

小林:

アサーティブコミュニケーションの研修は、インソースの研修の中でも必ずトップテンに入るほど人気があり、公開講座も月に2~3回以上開催されています。一般的にコミュニケーションと言うと「傾聴」「質問」「話す」が基本となりますが、アサーティブコミュニケーションはその応用編とも言えるものです。

アサーティブは、奥が深く人間味にあふれる面白いテーマですので、今日はいろいろ話をしていきたいと思います。

泉さんは、アサーティブコミュニケーション研修のテキストを担当されていますので、その概要についてまずご説明いただければと思います。

泉:

アサーティブコミュニケーションは、「自他ともに尊重する」というのが一番のポイントかなと思います。ただし「アサーティブ(assertive)」という言葉を英語の意味で考えると、「自分の意見をはっきり述べる」「断言する」などになります。そこが私としては「インソースが解釈している意味とニュアンスが違う」と感じ、最初は衝撃を受けました。

私は、自他を尊重するというのは、自分の意見も相手の意見も同様に大事にするという意味で「柔と剛」のような考え方ではないかと思っております。そして、それらをいかにうまくコミュニケーションの中で折衷できるか、それがアサーティブコミュニケーションなのかなと考えています。

小林:

アサーティブコミュニケーションを使う目的については、どのようにお考えですか?

泉:

やはりベースには「自分の考えを通したい」という気持ちがあると思います。ただ、それをそのまま「私はこう考えているから、こうなんです!」と伝えたところで、相手から反発されますし、ただ自己主張すればいいというものではありません。自分の考えは伝えつつ、それを良い方向に導いて解決に結び付ける。その目的を達成するために必要な土台になるのが、アサーティブコミュニケーションではないでしょうか。

「アサーティブ」は主張すること?

小林:

私も泉さんの意見とほぼ同じですが、端的にいうと、アサーティブは、「相手を変化させること」が目的で使われるスキルだと思っています。でも、そうなると「自他尊重」だと相手を変化させるのが難しいような気がしますが、泉さんは「自他尊重」の自分を尊重するとは、どういうことだとお考えですか?

泉:

考えを相手に理解してもらおうとする際、自分の意見の中にある「核」の部分を大事にする。それが自分を尊重することではないかと思います。

小林:

「率直に言う」ということでしょうか。

泉:

そうですね。「自分の考えはこれです」というところを、崩さずに伝えるということですね。

小林:

誤魔化さずに勇気を持って、ストレートに伝えることは、僕も大事だと思っています。率直に本気でぶつかることが、アサーティブコミュニケーションの大事なところで、それは即ち自分に誠実であることであり、自分を尊重することにもなるのではないでしょうか。

泉:

はい。やはり自分の意見をストレートに伝えるとき、自分が持っている核を傷つけずに大事にしていると、相手にも伝わるのではと思いますね。

小林:

泉さんがおっしゃる「核」というのは、心の中で思っている本音を伝えるってことでしょうか。

泉:

そうです。ただし、直球でドーンと投げるのではなく、いったん形勢を見渡した上で、ジャストのタイミングで投げかけるのが大事だと思います。アサーティブコミュニケーションの研修では、その手段を学んでいただけます。

小林:

では次に、自他尊重の「他の尊重」を考えてみたいのですが、先ほど泉さんが自分の意見を通したいけれどそのままでは通らないので、相手を尊重して伝えましょうとおっしゃいました。この場合の尊重というのは、具体的にどのようなものでしょうか

泉:

個人的には、「相手を受容する」ということが尊重だと考えます。受容と言っても、言われた通りにするのではなく、相手の核になる部分を一旦受け止めて、その上で自分なりの言葉で「こう変化させてはどうか」という提案をする。そのように相手を受容する気持ちが、他の尊重につながるのではないかと思っています

こちらが一方通行だと、相手も一方通行になってしまうので、歩み寄りは必要だと思います。相手を受け入れることで「じゃあ、貴方の言うことも聞いてみよう」という気持ちになってもらう。そういう心情の変化を促すことはできるんじゃないでしょうか。

人間って感情が周囲に伝播しやすいですよね。あくびが人に移るとか、赤ちゃんが一斉に泣き出してしまうとか。人間にはそういうシンパシーがあるので「受け止める土壌がありますよ」ということを伝えることで、相手も同じ気持ちになってもらえたらと思います。

アサーティブは切羽詰まった際に使う切り札

小林:

先ほど泉さんも言われていたように、本来のアサーティブは、「自他尊重」というニュアンスとは意味合いが違う場合もあります。調べてみて面白いなと思ったのですが、アサーティブの元になっている単語「assert(アサート)」は日本で「主張する」と訳されますが、英語にはこの「主張する」という単語にたくさんの種類があります。

【一例】
assert:証拠などはないものの確信をもって主張する
insist:権威や論証により思慮分別に基づいて強く主張する
persist:自分の意のおもむくままに、また自分の信念などに基づいて強く主張する
afferm:証拠などにもとづいて確かであることを断定する
protest:疑いなどに対して抗議しながら主張する
maintain:しっかりした信念に基づいて主張する

これは、英語圏ではいかに「主張する」ことに対して、こだわりがあるか、関心が高いかを示すものだと思います。その中でassertは「証拠などはないものの確信をもって主張する」という意味で、何も手持ちの武器がなく、ただ人間力全開で相手に訴えかけないといけないような、英語の「主張する」という単語の中で最も苦しい意味の言葉です(笑)

泉・村上:

確かにそうですね(笑)

小林:

要するに、アサーティブというのは「分かってもらうしかない」という、崖っぷちの主張なんですね。私たちの仕事でも、他部署に無理なお願いをしなければならなかったり、社長に何とか話を通さないといけなかったりなどの差し迫った場面があると思いますが、そうした苦しい場面のコミュニケーションで使われるスキルがアサーティブだと思っています。

泉:

そういう状況は、確かにあります。(頷く)

DESC法はアサーティブが失敗した場合の交渉方法

小林:

また、「私はこれくらい困っている」ので、「あなたにこうして欲しいです」というように、相手に伝わりやすく、共感してもらいやすいように整理して話せることも、アサーティブで重要です。

そういう意味で、私は「自他尊重」の「相手を尊重する」というのは、相手と自身を「対等」に捉えることだと思います。相手を自分と同じくらい重要な存在として、一対一で率直に向き合い、熱意を込めて相手に言いたいことを伝える。それがアサーティブの本質の部分で、DESC法(※)などアサーティブに付随するものは、それがうまくいかなかった時の手段かなと考えています。

※DESC(デスク)法とは...
アサーティブコミュニケーションの4つのステップ「描写する(Describe)」、「表現する・共感する(Express)」、「提案をする(Specify)」、「さらなる提案をする(Choose)」の頭文字を取ったもの。

泉:

今の話を伺って、「押してもダメなら退く」や「急がば回れ」のような発想に近いのかもしれないと思いました。DESC法は研修でも取り上げていますが、確かにそうかもしれませんね。

小林:

本気で向き合う強さって、ありますよね。相手に本気で来られたら、こっちも中途半端で返せません。「返報性の原理」ではないですが、人間は本気で来られたら、その人間に対して同じような熱意、本気さで返さないいけないのではないかと圧を受けます。そうした圧が相手を変化させます。

泉:

そういう意味では、アサーティブは提案する時や訴えかける時が、鮮度を増すような気がします。いかに核の部分、本音のところを正面突破させるか。

小林:

逆に本気で率直に話していないから、失敗している例も多いですね。本当にここを変えてほしいという点は、はっきり言わないといけないのに「あの人はこう言ってるので、そうした方がいいと思います」と言うと、伝わらないどころか無責任や他人事のように感じて、相手に伝わりません。

I(アイ)メッセージの有効性

泉:

そういう場合は、I(アイ)メッセージの活用が必要ですね。「○○さんがこう言ってたから、こうしてください」ではなく「こうしてもらうと、私がすごく助かるからお願いしたい」と言った方が相手に響きますので、やっぱりYOU(ユー)メッセージよりIメッセージが強いなと思います。

小林:

Iメッセージに関しては「自分個人としての意見なので、相手が受け容れやすい」という説明をすることがありますが、私は、自分でしっかりと話してくれている、という熱意が伝わるから、受け容れてもらいやすくなるのだと思います。

泉:

評価者研修など、目標設定を任されている管理職向けのテキストにも「自分の言葉で語る」という項目がありますが、これはいわゆるIメッセージです。自分なりの言葉で「私がこう考えるからついてきてほしい」とか「一緒に頑張って欲しい」と言われることで、部下は奮起します。それに通じるものがありますね。

小林:

「私は」というテイストで話すと、「考えて話してくれてる」「借りものの言葉じゃない」と思えますから、真実味や人間味が増しますね。

ビジネスでもプライベートでも有効なスキル

泉:

私の場合は、テキストの開発をする仕事柄、普段からアサーティブコミュニケーションを、どのように日常の中で生かせるか、自分自身でも意識するようにしています。その結果、とてもコミュニケーションが楽になったと感じます。

「楽」というのは、イージーの意味の楽というのもありますが、楽しいという意味でもあります。アサーティブを意識することで、相手も受け止めやすくなりますし、自分の意見で正面突破していくことにも通じるため、コミュニケーションがうまく機能して、話がしやすくなるのを実感しています。

小林:

確かに泉さんは、相手がどういう状況かを理解して話されるタイプだと思います。そういうコミュニケーションができるからこそ、楽しいに繋がるんでしょうね

泉:

そうですね。例えば「ちょっとこれお願いしたい」とかいう場合も「分かってはいるけど、すみません。今これをお願いしないといけない状況です」という感じで言うことは心がけています。

小林:

「自分がいかに困っているか」「あなたにこうして助けて欲しい」という所をストレートに言葉にして、しっかりまっすぐ伝える。ビジネスに限らず、本当に切羽詰まっている時、平時のコミュニケーションではどうしようもない時、腹を括って言うしかないという場合に、アサーティブはその真骨頂を発揮します。

泉:

伝家の宝刀みたいな感じですね。私の場合は、普段の生活の中でもアサーティブなシチュエーションがあります。家族とのやり取りを例にすると、ただ「明日、起こして」では嫌がられますので「明日、起こしてくれるとすごく助かる。いつもありがとう」という風に言うことで、柔らかく受け止めてもらえます。そういう意味では臨機応変なスキルなのかもしれません。。

小林:

確かにプライベートでも有効ですね。アサーティブの研修を受講された方が、研修後のアンケートに「家に帰ったら奥さんに小遣いの値上げ交渉をしてみます」と書かれていたこともあります。

泉:

面白いですね(笑)

小林:

つまり、状況を選ばず使えるスキルということです。もちろん、ビジネスの階層も選びません。若手は上に言いにくい場面があるでしょうし、管理職になると複雑な折衝をしないといけません。そういう時も、臨機応変に活用できると思います。

泉:

相手が忙しい、話しかけにくいといった状況の場合も使えますね。「それでも今言わなきゃいけない」という時は必ずありますので「お忙しいところ申し訳ありませんが」から切り出します。これは完全にアサーティブだなと思います。

告白と同じで、終わらせないと次にいけない

小林:

ここで村上さんにもご意見を聞いてみたいと思います。これまでの話を受けて、どのように思われましたでしょうか。

村上:

ありがとうございます。そうですね、私はアサーティブを日常的に使えるスキルと考えていたので、困った時や切羽詰った時、緊急性がある、後に退けない、そういう状況で有効に使えるという意見を聞いて、新しい視点を得た気がします。

小林:

アサーティブの有効性でもうひとつ「区切りをつける」ということもあります。やはりモヤモヤしているのは誰でも嫌ですから、例え失敗したにしても、本気で相手に意見をぶつけることは、一区切りつけることになります。何かを終わらせないと、次に進むことができないので、そういう自分の気持ちを変えたり、行動を変えたり、成長したりするためにもアサーティブコミュニケーションが重要になると思います。

泉:

なんだか告白と似ていますね(笑)

小林:

そうですね(笑)

泉:

結果がどうであれ、きちんと終わらせてこそ、次の恋に踏み切れます(笑) これからもアサーティブコミュニケーションを活用して、仕事にプライベートにと存分に活用したいと思います!

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