あらためて知っておくべきマネージャーの役割と行動の基本|新任マネージャーの方法論2
著名な経営学者であるドラッカーは「組織の成果に責任を持つ者がマネージャーである」と、また、同じくミンツバーグは「マネジメントを行う者はすべてマネージャー」と述べています。主任であっても、係長であっても、経営者であっても、結果に責任を持つ人は皆マネージャーという考え方は、とても共感できます。マネージャーの役割はここにあります。組織の中で成果に責任を持つ人、「責任者」です。
ミンツバーグは、こうも指摘しています。「マネジメントとは『いまいましいことが次々と降りかかる』仕事なのだ。(中略)マネジメントは、永遠にひとときも解放されることのない仕事だ。マネジメントに仕事を忘れる自由はなく、仕事をすべて片づけたという解放感は、たとえ一時的にでも味わえない」
昨今、組織の中で自由に生きる人が持て囃されていますが、マネージャーと呼ばれるみなさんが仕事を忘れず片付けるからこそ、この国もこの社会も、みなさんの組織も維持されているのです。
マネージャー共通の行動原則~利益を残す行動を取ること
組織の成果に責任を持つ者がマネージャーとすれば、注意すべき事は、ちょっと消極的に聞こえるかもしれませんが、組織が潰れる事がないように仕事をしていく事です。つまり、「1円でも多くのお金を組織に残す」行動、これこそがマネージャーの行動原則です。
ゼロからインソースを起業したちょうど1年後、倒産する一歩手前までいきました。銀行口座の預金残高が、ほぼゼロになりました。売上は入ってこないのに、家賃や社員の給与などの支出はどんどん出ていきコントロール不全になっていました。
私は、この時にマネジメントとは組織が潰れる事のないようにコントロールする責任者で、1円でも多くお金を残す係だと学びました。
利益を残すには「か・け・ふ」が大事
企業は経営の失敗により、取引先や社員に支払うお金がなくなると潰れます。今まで通り堅実に経営していても、世界のどこかで発生する金融危機、災害、伝染病、戦争などの要因によっても潰れてしまいます。現代においては過去には問題にされなかった様な人権侵害、失言、不正会計などコンプライアンス違反が原因で、大企業であっても一夜にして滅んでしまう時代なりました。
そんな時代にマネージャーが意識する事は、伊藤忠商事の岡藤会長が大事とおっしゃっている「か・け・ふ」でしょう。
- か:かせぐ(売上向上)
- け:けずる(コストダウン)
- ふ:ふせぐ(さまざまなリスク管理)
マネージャーの利益を残す行動~定型業務の事務職マネージャーもできる
「私の仕事は伝票処理を行う3名の事務員と外注先の取りまとめなので、決まった書類を確実に作成することが仕事であり、利益を残すとかできないし、何ら関係ない」とおっしゃるマネージャーもいるかもしれません。ですが、職種にかかわらず、マネージャーはコストを下げるか、利益をあげるか、を念頭に行動すべきです。
1.部下指導を懸命にやる事で「けずる」と「ふせぐ」ができる
さきほどのマネージャーが熱心に部下指導を行い、部下をゼロから一人前の処理ができるように教育すれば、業務が増えても外注費を増やさなくても済みます。また、マネージャーの熱心な指導に部下が感激し、退職防止ができた場合、人材採用コストと初期教育費として最低約500万円程度の損失を防ぐことができます。
2.カイゼンやDXを主導すれば「けずる」ができる
さきほどのマネージャーが自らの経験、学習した知識、データに基づき、業務改善した結果、事務員1名を異動することができれば、ざっくり人件費として年間500万円程度の支出減となります。また、DX化に成功し、事務員2名を削減できれば、1年間で1千万円程度のコスト減となります。
3.業務を懸命にやれば不祥事が「ふせぐ」ができる
さきほどのマネージャーがチーム全体を鼓舞して、1枚1枚の伝票に目を光らせ、経費不正の発生を未然に防げば、経費削減とコンプライアンス違反を未然に防ぐことで、組織を救う事ができます。たった1枚の伝票とバカにできません。会計不正の損失は想像を絶する巨額になります。民間企業なら存亡の危機、公的企業であっても改組、解散の危機を招きます。
大きな利益を産む細部の積み重ね~いつも「か・け・ふ」に気をつける
私は、会社全体で毎日の様に発生する面倒な事を、全部システム化しようと決めています。
一例として、過去の資料や提案書の探索作業をシステム化しました。一般的にホワイトカラーが資料を探す時間は労働時間の2割、年間300時間にもなると言われています。このシステム化により当社では、年間2億円の人件費削減になっています。(10年間なら20億円!)
重要なのは、「資料を探す」など、ありふれた事にも、あえて注目し「か・け・ふ」がないか考える事です。「これをシステム化したら、なんぼもうかるのかな?」と世知辛い感じがしますが、貨幣価値に換算しながら仕事ができれば優秀なマネージャーと言えます。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
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