チームのベクトルをそろえる~8つのステップ|新任マネージャーの方法論5
ある企業の新任部長さんから「新任部長として組織のベクトルはどうやって揃えるのですか?」というご質問をいただきました。突然、部長になり、年上の部下ばかりとの事。こんな場面には私も何度も遭遇してきました。やりにくい事は想像に難くないですね。以下、私の方法論を書いてみました。
ベクトルを揃える8つのステップ
私は一人でいるのが好きなタイプで、相手に気に入られる様な人懐っこさもなく、特段気遣いが上手でもありませんが、私でもできた方法を整理してみると、以下の様なステップでベクトルをあわせてきたと思います。
- マネージャーとしての信念を持つ
- 仕事の方向性、方針を示す
- 一人でもスタートを切る
- 部下一人一人の「できること」をヒアリングする
- 部下一人一人の強みを生かし、成果を上げてもらう
- チームとして成果が出始めると、ベクトルは揃う
- 会議・ミーティングを定期的に入れ、ベクトル強化
- マネージャーが個々のメンバー支援を強化する
1.マネージャーとしての信念を持つ~例えば「楽しく働きながら会社の利益を上げる」
チームのベクトル合わせの基本はまず、マネージャーが仕事上の信念を持つことです。この信念を拠り所として、人を率いていきます。組織目標の達成とメンバーへの貢献への強い意志を示す信念を持つべきだと考えています。私は、共に働くメンバーが仕事を通して自己実現し「仕事が楽しい」と感じる状況を作る事と、「利益を上げること」の両立を目指すこと「楽しく働きながら、会社の利益を上げる」を信念にしています。
「利益を上げる」は、営業部門なら分かりやすいですが、管理部門でも、例えば、人事部門なら、今まで人材紹介会社に一人採用するのに何百万円も支払っていたのを、Web改善やハローワークの活用で、低コストで安定的に優秀な人材が採用できる方法を構築するなど改善を実施すれば、管理部門でも成り立ちます。マネージャーとして組織目標達成とメンバーへの貢献が両立する信念をとにもかくにも作り、大事にします。
2.仕事の方向性、方針を示す~汗かいて「勝てる策を示す」
次に「チームとしての勝ち方」を「自分の考え」として披露します。施策を思いつかなかったら、いろんな人に支援してもらって「自分の考え」を作ります。
「自分の考え」を作る上で役に立つのは、社内外で同種の仕事をやっている諸先輩の方法論を書物や実際に会って学ぶ事です。「どうやったから、うまくいくか」「どうすれば失敗するか」を頭に入れます。そっくりそのまま応用できることはまずないので、自部署の状況を踏まえ、行間を埋めて、だんだんと自分の考えにしていきます。さらに現実解に落とすため、部下にも仕事の進め方をじっくり聞き、修正をかけて現実的な方法に仕上げていきます。自ら汗をかいて作っていくのが重要です。
3.一人でもスタートを切る~まず率先垂範
勝ち方を施策として作ったら、たった一人でも施策をスタートさせるのです。カリスマ性も何もない人が部下に振り向いてもらうには「一人でがんばって仕事をしていて、かわいそうだ」と思われ、「しかたないのでちょっと手伝ってあげよう」に持っていくのが一番簡単です。
その際、無言で「背中を見せて働く」のもカッコいいですが、個人主義の部下たちから「そういうタイプなんだ」と思われないように「チームとして大きな成果を上げるために、今私はこんな事をやっている」とチームミーティングで何度も何度も情報共有を徹底します。
「面白そうだな」とメンバーが考え出したらしめたものです。
4.部下一人ひとりの「できること」をヒアリングする
並行して必ず実施すべきなのは、部下一人ひとりとの面談です。上手な面談の方法は他の章に譲るとして、ベクトル合わせの面談で重要なのは、部下一人ひとりの経験、成功体験を聞き、彼らが得意な事、できる事を見出す事です。自ら考えた施策を遂行する上で、この部分を担ってもらえば、きっとうまくやるに違いないと思う点を探すのです。部下に期待し、成功のチャンスを与えたいと考えながら面談します。
5.部下一人ひとりの強みを生かし、成果を上げてもらう~同士を増やす
面談で部下一人ひとりの強み、得意な点が分かれば、ミッション実現のために片棒を担がせるための小さな頼み事をするのです。「○○さんならきっとご経験があると思うので、この点を教えて欲しい」など、期待して依頼し、施策達成の同士になってもらうのが大事です。
部下が簡単なことでもやってくれたら、感謝を伝える。これが大事です。
6.チームとして成果が出始めると、ベクトルは揃う
マネージャーがお膳立てをして、メンバーに活躍してもらえば、ベクトルはだんだんそろってきます。メンバーが一部でも施策を担い成果を上げれば、マネージャー方針への信頼感は醸成されていきます。もうチームのベクトルは揃っていると思います。
7.会議・ミーティングを定期的に入れ、ベクトル強化
会社員の総意として「長い会議は悪」です。皆が知っている内容を反芻する会議を延々やるのは良くないと思います。デジタルツールを活用して情報共有すれば十分です。一方、施策実現のための作戦会議を定期的に入れるのは重要です。会議で役割分担を決め、施策実現の場にするのです。マネージャーが伝えたい、言いたいことを準備して「定期的に」伝えるのです。重要な事はマネージャーの言葉で10回は言わないと伝わりません。会議はチームのベクトル強化の場にするのです。
8.マネージャーが個々のメンバー支援を強化する~さらにベクトル強化
メンバーのベクトルが揃ってきたなという時は、さらに面談を強化します。堅苦しい面談でなくても良いので、メンバー一人ひとりと話す時間を取ります。仕事に対する不安、健康問題、金銭的な課題、家族の問題、今後やりたい事なども話してもらえるようになっていると思います。そういったプライベートな課題に対してもできる限りの支援をする様に努めます。
それぞれの立場で、心の安定や経済的豊かさに繋がる支援に努めます。親切な対応がチームのベクトルをより強いものにします。
根強い反対者はどうするのか?~信念に従い施策を進めるだけ
「部下が自分の言う事を聞かない」これは結構辛いですね。若い時は気に病んだりしていましたが、キャリアを重ねる中で得た結論は「気にしない」です。
私の経験では、ほとんどの場合、組織の8割ぐらいの人がいれば、まず、仕事は進められます。急に異動や退職で人が減っても当面なんとか仕事が回るのはそのためです。リーダーの言うことを聞かない人が、一人、二人いても、熱心に施策を推進し、成果を上げる事に集中するのです。
根強い反対者であってもチームで実績が上がってくれば、必ず、なんとなくベクトルを合わせてくれるようになります。みんな勝ち馬に乗りたいのです。その際「お前は反対者」と遺恨を持たず、温かく迎える事が重要です。戦力は多ければ多いほど成果を早く上げる事ができます。リーダーはどんな状況でも信念に従い、成果を上げることに集中すればよいと思います。部下全員が反対者であってもやることは同じです。
ベクトルは揃えるものでなく、揃うもの
ベクトルが揃っていたから勝てるのではなく、小さな成功や達成感がベクトルを揃えていくのだと思います。マネージャーは小さな成功や達成感を実現する準備をすればいいのです。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
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