「自分で考えて」は本当に良い指示か?~相手を慎重に見極め、自由度に緩急をつける

職場で「自分で考えてみてほしい」とメンバーに伝える場面は少なくないでしょう。
主体性を引き出すための言葉として用いられることが多いですが、残念ながら「どんな相手に対しても効果的に働くかというと、そうではない」ということを、指導者の立場にある方にはぜひ知っておいていただきたいです。
例えば業務知識やノウハウを十分に持っていない新人にとっては、「自分で考えて」「任せる」といった曖昧な指示は、何をしたらいいのか分からず動けなくなるパニックの原因になります。一方、長年の経験を持つ者の中には、上席者よりも自分の方が実業務に精通しているという状況を背景に、「自分で考えて」を個人の裁量として拡大解釈し、品質の低い成果物を作り出す恐れがあります。
本稿では、効果的に考える力を育みチームや部署の成果を高めるには、相手の理解度や個性を適切に見極めたうえで、指示の解像度を調整することについてまとめます。
業務知識が不十分な状態で「自分で考えて」と指示した場合
入社間もない社員・職員や経験が浅いスタッフ、中途採用された方などは、まだ必要な知識やスキルが揃っていません。この段階で「自分で考えて」と伝えるのは、何をどう工夫して進めていけばよいか判断できず、混乱させてしまうだけです。悩むだけで行動に移せず、指導者に丸投げされた、突き放されたと不信感を抱くこともあります。
本人は主体性を磨くよりも安心感を求めている
入社間もない社員はまず正確に業務をこなすことができたという自信を得たいと考えています。そのため、具体性に欠ける指示は不安を増大させ、失敗してしまうことを恐れて取り組まない、という方向に走ることもあります。最初の段階では個別具体的な指示と安心できる環境が、モチベーション維持に必須です。
これくらいはできて当然、のレベルは人によって異なる
たとえ同世代であっても常識と思うことには差があるもの。5歳、10歳と年次が違うだけで、経験してきたことは大きく異なります。こう言えばだいたい伝わるはずという思い込みは、自分勝手な一方通行のコミュニケーションを生みます。
組織基準教育が不十分な状態で「自分で考えて」と指示した場合
豊富な経験を持つ社員は、自らのやり方に自信を持っています。場合によっては管理職よりも実務に詳しいことも少なくありません。しかし、その自負が強すぎると、定められた手順や品質基準を軽視し、自分の判断で「自分がやりやすいように」進めてしまうことがあります。すると成果物の品質が安定せず、顧客や社内からの信頼を損なう可能性があります。
全体最適の視点で考えられる参謀に対しての指示なのか
「自分流」を押し通すと、チーム全体のスキル共有が進まず、属人化が進行します。結果として、誰か一人に依存する危うい組織体制となってしまいます。部署方針、組織方針を正しく汲んだ、いわゆる「良い塩梅」を実践できる信頼のおける参謀なのかどうかをしっかりと確かめたうえで適宜改善を促したり、提言を求めたりと調整をかける必要があります。
指導時の心がけ~相手の理解度を見極めることを省略しない
新人には「基礎づくり」を優先
圧倒的に知識と経験が不足している新人には、まず明確な指示と手順を示し、成功体験を積ませることが大切です。そのうえで、部分的に「どう工夫できるか」を問いかけ、少しずつ自分で考える習慣をつけさせます。段階的に本人裁量を広げることで、自信と主体性をバランスよく育てます。
業種や業務内容にもよりますが、最初は5W1H(6W3H)を指示構文に組み込んだティーチング的な指導を、配属から6カ月ほどを経過したところで「どう思う?」を使うコーチング的な指導へと移行するのがおすすめです。すこし汗をかく、背伸びをする程度の挑戦を定期的に投入し、本人がうまく成長曲線を描けるように導いていきます。
ベテランには「組織基準を守る仕組み」を設ける
経験豊富なベテランに対しては、自由度を持たせつつも、組織として譲れない基準を改めて明示することが重要です。定期的なレビューやチェック体制を設け、成果物が基準を満たしているかを確認する仕組みを整えることで、個人の独断による逸脱を防ぐことができます。
そのベテランメンバーが不在となる場合を想定し、自身が業務を代行できるようにしておきたい、と時々その業務に介入するのも有効です。
面倒だからと指導の手を抜くこと=中長期にわたるリスクを生じさせる
相手の状況を見ずに「自分で考えて」と一言で済ませるのは、指導する側の負担を減らしたい気持ちの表れでもあります。短期的には楽になっても、いつまでも育成が進まず組織力は高まりません。
自信がないまま現場に放り出され失敗を重ねた新人は、今後もこの組織で生きていけるだろうかと思い悩みます。ベテランの独自ルールを放置すれば、組織全体が混乱し、クライアントや顧客からの信用を失います。「自分で考えて」という言葉を用いるときには、相手の理解度や状況を見極め、その判断が適切だったかどうかを最後まで見届ける気概で構えておく必要があるのです。
もちろん個別具体的な部下指導は現場で日々の最適解を選択しますが、好ましい指導のかたちや活用できるノウハウ・情報を人事部門から定期的に提供し、指導者サイドへの意識醸成を図りましょう。
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