自由度の高い仕事が成長を阻害する?~「制約」が若手の主体性を育む理由

働き方改革以降、多くの企業が「自由度の高い働き方」を推進してきました。残業時間の削減、リモートワークの推進、個人の裁量を重視した業務設計など、一見すると若手にとって働きやすい環境が整ってきたように思えます。
しかし実際には、この「自由」が若手の成長を阻害しているケースも少なくありません。なぜなら、自由度が高い環境で成果を出すには、判断の基準となる「フォーマット」が必要だからです。経験豊富なベテラン社員は、若手時代に先輩からたたき込まれた仕事の「フォーマット」を持っており、また長年の経験を通してその「フォーマット」を自分仕様にカスタマイズしています。一方、経験の浅い若手社員には、そうした「フォーマット」がまだありません。
経験者と未経験者の決定的な違い
ベテラン社員が自由度の高い環境でも迷わず行動できるのは、過去の経験から培った「判断基準」を持っているためです。どれを優先すべきか、どの順番で進めるべきか、どこでリスクを取るべきか。こうした「判断基準」は、実際の業務経験を通じて蓄積されていきます。
対照的に、若手社員にはその「判断基準」がまだありません。「判断基準」の無い中で自由度の高い仕事に取り組むと、当然ながら失敗の確率は上がります。とはいえ、今のベテランたちも、若い頃に失敗を重ねた結果、今の「判断基準」を獲得できたのであり、そこは甘んじて受け入れざるを得ないのですが、今の若手たちは、学生時代も含めて失敗経験そのものが少ないため、失敗に対する恐怖感が必要以上に増幅されてしまう傾向があるのです。
制約があるからこそ人はクリエイティブになれる
「あれをしろ、これはするなと制約ばかり与えていたら、創造性が妨げられるのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、適切な制約があるからこそ、人はクリエイティブな発想ができるという研究結果も数多く存在します。
制約やルールには、次のような効果があります。まず、明確な枠組みがあることで「何をすればいいか」が明確になり、行動へのエネルギーが高まります。次に、制限を設けることは「放置しない」「関心を持っている」というメッセージとなり、若手の心理的安全性を高めます。そして、適度な負荷をかけることで、筋力トレーニングにおける超回復のように、能力の成長が促進されるのです。
無茶ぶりは成長の母
「必要は発明の母」という言葉がありますが、この「必要」というのも広義での制約のひとつと考えられます。これにならって人材育成に当てはめると、「無茶ぶりは成長の母」と言うことができます。本人にとって想定の範囲内の課題に取り組んだところで大した成長は図れません。想定外の分野や予想を超えた難易度の課題に取り組まされることで、自分でも気づかなかった新たな能力が開花するのです。
前向きに受け入れられる制約の与え方
では、具体的にどのように制約やルールを設定すればよいのでしょうか。重要なのは、若手が制約を「不自由な縛り」ではなく「成長のための支え」として受け入れられるようにすることです。
効果的な方法として、いくつかの選択肢を提示してその中から主体的に選ばせる、制約条件を明示した上でその範囲内で自由に考えさせる、目指すべきゴールを与えた上でそこから逆算で計画を立てさせる、といったアプローチがあります。制約で縛る部分と創意工夫させる部分を明確に切り分けて取り組ませることが成長を促すキモとなるのです。
そして、指示を出す際に大切なのは、制約を与える際に必ず「期待」も一緒に伝えることです。「この課題にチャレンジすることでこんな力が身につくはず」「あなたならできると信じている」というメッセージを添えることで、若手は前向きに取り組むことができます。
成長段階に応じて指導スタイルも変えていく
経験値の浅い段階の部下には「強い制約」をもって仕事をさせることが有効ですが、成長段階に応じて徐々にその縛りの強度を下げていく必要があります。リーダーシップ理論の一つである「SL理論」では、部下の成熟度に応じて「指示的」「説得的」「参加的」「委任的」と指導スタイルを変えることの重要性が説かれています。
特に入社数年の若手社員は、まだ業務の全体像が見えておらず、判断基準も十分に形成されていない段階です。この段階では、ある程度の「マイクロマネジメント」が必要です。ネガティブに捉えられがちな「マイクロマネジメント」ですが、細かく関わることで若手は「見守られている」「サポートされている」と感じ、安心して挑戦できる環境が生まれます。
一方で、経験を積み、自律的に判断できるようになった段階では、徐々に制約を緩め、より大きな裁量を与えていく(=自由度を上げていく)ことが重要です。成長の段階に応じて、支援のスタイルを柔軟に変化させることが、効果的な育成の鍵となります。
逆張りの部下指導研修~ルールと制約で部下の成長を促す
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よくあるお悩み・ニーズ
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