
営業活動で活用するスキルの代表格として、リレーションの構築、ヒアリング、ソリューション提案、そして「クロージング」があります。クロージングは、最も受注に近いスキルであるにもかかわらず、その他のスキルと比べてあまり熱心な教育がされていいないのではないでしょうか。
その理由はいろいろと考えられますが、実際のクロージングの場面が、それまでの顧客と営業との経緯が複雑に積み重なったものであることによります。個々のお客さまの、様々な事情を含みこんだものであり、簡単にそのノウハウを普遍化できない、ということにも理由があると思います。
クロージングは、受注に至る最後のお客さまとの生々しい攻防が繰り広げられる緊迫した場面です。営業担当者自身の人間そのものが問われるという点も、クロージングを普遍的なスキル・ノウハウとしてまとめることの障壁となっているといえます。
今回は、そうした複雑なクロージングのスキルについて、できるだけ実際に起こりそうなシチュエーションに沿って、具体的に解説していきます。最後までお付き合いいただければと思います。
まず、最初に全体像を把握するために、営業プロセスを段階別に振り返ってみましょう。図のように、事前準備から始まり、ヒアリングをし、その後、提案・交渉・クロージングのプロセスを経て、受注に至るという形で続いていきます。

営業は、お客さまの課題やご要望を聞き出し、それを解決する提案を行います。
しかし、お客さまが、自分の求めているものが何かはっきりとわかっていない場合、または、こちらの提案したいことがお客さまの本当に解決したい課題とズレている場合、提案は曖昧なものとなってしまいます。
成約率の合否は、お客さまの課題にどれだけ的を射たものを用意できるかにかかっています。ヒアリングでお客さまが仰っている「困っていること」や「やりたいこと」の話を、プロとしてさらに膨らましたり、掘り下げたりして、本質的な問題・原因が何かを見極める意識をつけることが求められます。
ヒアリングを重ね、課題を解決するための提案をしますが、その提案の精度を上げるために、お客さまの感触を確かめる「テストクロージング」というものがあります。
テストクロージングをすることで、事前に受注確度(どのくらいの確率で自社商品を買ってくれるのか)を把握することができます。
事前に受注確度を把握すると、下記のようなメリットがあります。
1. 受注確度の高いお客さまに集中できる
2. 受注確度の低いお客さまへの対応を検討できる
■テストクロージングの具体例:お客さまの検討度合いをはかる
お客さまが情報収集段階なのか、すでに商品の購入を計画的に考えているかを確かめます。
例えば、営業担当者が、「これから、〇〇のご提案をいたしますが、予算や提案内容が御社とマッチしましたら、いつごろからスタートされたいとお考えですか」とお客さまに質問したとします。その反応から、お客さまの検討度合いを確かめることができます。
お客さまの反応: 「まだ企画段階ですね」「上司に確認はしていません」
⇒立ち消えになる可能性あり
お客さまの反応: 「まだ情報収集段階です」「他社さんにもお声掛けしています」
⇒複数社による企画競争
お客さまの反応: 「予算が合えば、すぐにでも実施したいと思っています」「まだ御社にしか声を掛けていないですね」
⇒予算・内容が合えばこの場で決まる可能性もある
お客さまの反応: 「予算も内容も良ければ、御社で決めたいと思います」
⇒かなり受注確度が高い
このように、お客さまの反応を見て、この後どのような点を重視した提案をするか、(または提案しないか)などを判断します。
テストクロージングで確度を高め、提案を行った後、何回かお客さま先に訪問をしますが、その際に、受注に持っていく最後の詰めがクロージングです。提案がお客さまに好評で、すんなりと受注になればクロージングの必要はありません。しかし、お客さまの反応が芳しくない時にクロージングが必要となります。
クロージングの目的は「成約の壁=成約を阻む要因」を取り除き、成約率を向上させることです。
「このお客さまは、クロージングするのが難しそう...」
「検討中です、と言われるばかりでなかなか成約までたどり着かない」
と、クロージングに苦戦する場合、重ねてきた商談のプロセスで「成約の壁」を解消できていない可能性があります。
成約の壁を取り除くために、具体的にどうすればよいのか、ケース別で考えていきましょう。
(1)お客さまが自社の商品・サービスに満足していない場合
提案を行ったが、お客さまが提案内容に満足していない、または、内容のズレを感じている場合は、再度、違う切り口、内容でアピールし直す必要があります。
ア.提案内容をお客さまが理解しているか確認する
今一度、ご要望の内容と提案内容の概要、勘所をお伝えし、お客さまの理解にズレがないか確認しましょう。
イ.しっかりお客さまの立場からメリットを伝える
お客さまは商品が欲しいのではなく、商品を使用して得られるメリット・恩恵になることを期待して購入します。そのため、お客さまの立場に立った、自社商品を使用するメリットを伝える必要があります。お客さま視点のメリットをしっかり説明できていれば、たとえ価格が他社より高かったとしても受注できることがあります。価格に見合った商品であるという根拠を説明しましょう。
ウ.お客さまにとってわかりやすい説明をする
お客さまの理解度に合わせて、商品の説明を変える必要があります。たとえば説明をする際に、専門用語を多用すると、お客さまが話についてこられなくなることがあります。相手にとって理解しやすく、判断・反応が容易にできる、シンプルなセールストークを心がけましょう。
(2)「見積金額が他社よりも高い」と言われた場合
他社よりも高い、と言われた時にそのまま引き下がっていないでしょうか。ここで必要なのは、その言葉が意味する本質を聞き出すことです。
ア.「他社より高い」はむしろチャンス!
「見積金額が他社よりも高い」と伝えてくるお客さまの立場になって考えてみましょう。どのような場合にこのような言葉を伝えてくるのでしょうか。
「そもそも商品を買う気がない」「商品は他の会社の方が断然いい」というのであれば、わざわざこのような言葉は選びません。
「買いたい。商品についても他社よりも良い。しかし値段を下げてほしい」という時にお客さまはこのようにおっしゃいます。価格交渉に持ち込んで、受注につなげるようにしましょう。
イ.価格交渉を行う場合
価格交渉に持ち込み値引きを行う場合、社内に持ち帰り価格の調整をする必要があります。適正な価格を提示するため、また社内で上司の了承をスムーズに取るために、お客さまはいくらであれば、購入していただけるのかを必ずヒアリングしましょう。
(3)他社の商品の購入に傾いている場合
決めかねている理由が他社の商品との比較である場合、自社ができることを全力・全速力でアピールすることが必要になります。
ア.他社より負けているポイントを聞き出す
なぜ他社の商品に傾いているのか、ヒアリングします。他社より負けているポイントが明確な場合、一旦自社に持ち帰り、会社の先輩や上司の力を借りれば、逆転することができるかもしれません。
特に「価格」など、負けている点が明確な場合には上司の指示を仰ぎます。
イ.スピード勝負で畳み掛ける
提案中は、他社の侵入を防ぐためにも、早め早めに手を打ちお客さまの興味を引き続けることを意識します。
お客さまからのご要望に対しては、下記のようなスピード感で対応します。
「すぐに」→「5分以内」
「後ほど」→「30分以内」
「後日」→「2日以内」
お客さまに自分の印象が残っているのは48時間だと考えましょう。その間に次のアクションを起こします。
成約率の高い営業は、お客さまとの間で持ち上がった懸案事項には、商談から帰って即座に対応しています。形勢を変えるにはスピードも大きな要素です。
自分(営業)ではどうにもできない理由で"負けて"しまう場合もあります。例えば、成約の壁が価格である場合、引き下がらずに、ねばって切り返しても下記のような理由で、成果につながらないことも往々にしてあります。
1.交渉コスト(時間、労力)が多大にかかる
2.大幅値引きを要求され、結果的に粗利が低くなる
失注した場合は、きれいに負けて、継続フォローで成果を出す方法があります。
お断りしたお客さまも実は「痛み」や後味の悪さを感じています。 「もっと予算があれば買ってあげていたのに」「上司が反対しなければ、買ってあげたのに」と思ってくださっている場合もあります。
お断りされた後は、お客さま先に訪問する足が遠のくのが通例ですが、ここで踏ん張って、アプローチを絶やさず、次のチャンスを待ちましょう。
クロージングの目的は、一言でいうと、「成約率を上げるため」です。 もちろん、最初から購入するつもりのお客さまであれば、営業担当からのアプローチの必要なしに購入が決定することもあります。しかし、購入を迷っているお客さまの場合、「検討させてください」と言われるがまま放置しておくと、当然成約につながる可能性が低くなります。迷っているお客さまに決断を促すために、クロージングは必要です。
今回は、「成約率を上げるために営業としてできること」をいろいろお話ししました。難しいテクニックというよりは、少しの工夫や配慮ですぐに実践できることを多く取り上げています。ぜひ一つでも、今後の営業活動に活かしていただければと思います。
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