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VUCAでは説明できない、人や組織が壊れやすくなるBANI時代に人事部が考えるべきこと

これまでは、変化への対応力があれば組織は生き残れると考えられていました。しかし近年、多くの組織が「対応はしているのに社員がどんどん疲弊する」「制度を整えても職員に主体性が生まれない」という壁に直面しています。

背景にあるのが、VUCA(ブーカ)からBANI(バニ)への環境変化です。BANIは単なる不確実性ではなく、「人や組織が壊れやすくなる状態」を説明する概念として注目されてきており、企業教育にも変化が起きています。従来の知識習得型教育だけではなく、レジリエンス、心理的安全性、主体性発揮支援など、人間の感情や行動に踏み込む育成が重視され始めているのです。

本記事では、なぜBANI時代に人材育成の前提が変わったのかを整理しながら、企業が取り組むべき教育設計について具体的に解説します。

BANIは変化ではなく「壊れやすさ」を説明する概念

VUCAが説明していたのは外部環境

VUCAという言葉は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った概念です。1990年代の冷戦終結後に米軍で使われ始めた用語ですが、日本では「不確実で複雑な時代」として2000年以降広く浸透しました。

この時代にビジネスパーソンに求められたのは変化対応力であり、市場変化を読む力、素早く意思決定する力、前例に依存しない柔軟性など、企業も個人も「変化に適応できれば生き残れる」という前提で考えられていました。しかし2026年現在は、多くの組織の現場では別の問題が起きています。

2010年代半ば以降になると、デジタル化(DX)やパンデミック、世界的な環境・社会情勢の変化など、それまで以上に急激に予測不可能な要素が増えてきました。すると組織が変化に対応するまでの間に、社員が疲弊し、考えられなくなり、動けなくなってきたのです。一つの課題を乗り越えた(変化に対応した)としても、すぐに次の困難が襲ってくる。この心的ストレスをうまく扱える人はそう多くはありません。

新しい概念BANIとは~追加されたAnxiousが意味するもの

BANIは、Brittle(脆弱性・もろさ)、Anxious(不安な)、Nonlinear(非線形性)、Incomprehensible(不可解な)の頭文字を取った概念です。

  • Brittle:一見揺るがないと思われていた強固なシステムも、ある日突然壊れてしまう
    例)パンデミック時のグローバル・サプライチェーンの断絶等
  • Anxious:上記のような予測不能な事象が起こることへの恐れや不安感が常にある
    例)不安を煽るようなデマ投稿、サイバー攻撃による物流管理システムのダウン等
  • Nonlinear:原因と結果が単純な比例関係、因果関係になく、小さな出来事が予測できないほどの大きな影響を及ぼす可能性がある
    例)バイト(新人)テロ、個人SNS投稿による炎上リスク等
  • Incomprehensible:起こっていることや状況があまりに複雑で、全体を掴むことが極めて困難になる
    例)情報過多やAI活用によるブラックボックス化で、人が判断を下せなくなる等

ここで重要なのが、「Anxious」という感情概念が含まれている点です。VUCAには、人間の感情は登場しませんでした。あくまで外部の状況を明確に表して、環境分析をするための言葉だったからです。しかしBANIが扱っているのは、その脆弱で不安定な環境下で、人間や組織がどのような状態になるかです。BANIの状況下では次のような現象が増えています。

  • 正解が分からず(判断できず)意思決定が止まる
  • 失敗リスクを恐れて行動しなくなる
  • 常に接続できる環境によって心理的な負担が高まる

問題は環境変化そのものを人間の認知や感情が処理しきれなくなっていることにあります。この変化が、人材育成の前提を大きく変え始めています。

知識教育だけでは動ける人材が育たなくなった理由

せっかく研修で学んでも、現場でなかなか実践されない

私どもインソースは問題解決研修やロジカルシンキング研修を数多く提供してまいりました。現場での活用場面を想像できるように、受講者の職種やお客さまの事業領域に即した演習カスタマイズなども承っております。当日の受講者満足度は高いのですが、残念なことに、「現場に持ち帰ってみたものの十分な活用ができていない」というケースが少なくありません。

実践に必要なスキルを得たにもかかわらず、なぜそうなってしまうのか。それは、受講者が次のような心理が働いてしまう職場環境にいる可能性が高いからではないかと考えます。

  • 改善提案しても否定されるかもしれない
  • 余計なことをして責任を負いたくない
  • 間違えてしまう可能性があるくらいなら黙っていた方がいい

この状態では、どれだけ知識を学んでも主体的な行動にはつながりません。つまりBANI時代の教育は、知識付与だけでは不十分といえます。

考える力より「考え続けられる力」が重要

従来型教育は、正しい知識を持つこと、それに基づいた判断を早く下すことを重視していましたが、現在の現場ではそもそも正解が存在しない場面が増えています。不安がある中でも考え続ける、不完全な情報でも判断する、失敗しても立て直すというレジリエンスやメンタルタフネスが求められることになった、というわけです。

レジリエンスは折れない力ではなく、しなやかに戻る力

強い人材を求めるほど組織は疲弊する

このようなBANI時代に突入したことでメンタルが強い人材が必要だという議論が増えましたが、絶対に折れない強い人材を求めるほど組織は疲弊します。そして、「絶対に折れない」ことを目指すのがレジリエンスではないことを強調しておきたいと思います。

  • 落ち込んでも自分で回復できる
  • 失敗しても何度も再挑戦しようとする
  • 他者を頼りながら立て直しや改善を考えられる

こうした柳のようなしなやかな弾力性、回復力、再起力を持ち合わせることを目指すべきではないでしょうか。

個人のレジリエンスは組織環境で大きく変わる

同じ失敗をしても、「挑戦した結果だから次につなげよう」と先輩が声をかけてくれる組織と、「なぜ失敗したのか」だけを追及される組織では、再挑戦率が大きく変わります。レジリエンスは、個人能力だけでなく、組織文化によって左右されるのです。そのため近年は、レジリエンス教育と心理的安全性がセットで語られるようになっています。

心理的安全性は優しい組織をつくるためのものではない

本当の目的は「思考停止」を防ぐこと

心理的安全性という言葉は、「居心地の良い職場づくり」と言い変えられることが多いですが、この本質・目的は、社員が安心して発言できる状態をつくり、組織の思考停止を防ぐことです。BANI時代では、一人の管理職がチームや課の業務の全てを判断することは困難です。だからこそ、現場の違和感を共有でき、失敗を早期に報告でき、異論を発することのできる状態を作っておくことが重要といえます。

主体性は本人の意識改革だけでは生まれない

主体性が低い原因を本人の意欲不足だと叫ぶ組織は少なくありません。とはいえ実際は、当事者が「動くほど損をする」ことに気づいてしまい、さらに意欲不足を嘆く上席者がそんな環境づくりに加担しているという、何とも皮肉なケースがあることを見逃さないでいただきたいです。

  • 良かれと思って改善提案をしても、様々な理由をつけられて結局採用されない
  • 挑戦すると、余計な仕事が増える(なのに評価が変わらない)
  • 成功率を上げる支援はなかったにも関わらず、失敗すると強く責任を追及される

こうした環境では主体性は当然失われます。主体性とは、個人の資質のみならず、後天的な組織設計の影響を強く受けるものなのです。

BANI時代の人材育成はスキル教育から行動設計へ変わる

知っているだけではもう足りない。行動できるかがカギ

これからの人材育成では、知識量そのものよりも、行動できるか・継続できるか・周囲と協働できるかがポイントとなるでしょう。そのためにはやはり

  • 小さな成功体験を積ませる
  • 失敗を振り返る場をつくる
  • 上司が支援型マネジメントへ転換する

といった人材育成が必要で、これは単なる教育プログラムの構築だけでは完結できず、現場運営や組織文化まで含めて設計する必要があります。

>後編「AI活用がさらに心理的負荷を高める?BANI時代の人材育成で「効率化」だけを追い求めてはいけない理由」はこちら

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