なぜ若手は「手段の目的化」に陥りやすいのか~官僚制の逆機能を成熟組織の構造から読み解く

若手が言われたことしかやらない、仕事の目的を考えない、効率ばかり重視するというお声を多くのお客さまからうかがってきました。これは本当に若手だけの問題なのでしょうか。
例えば、「ところでこの資料って、何のために必要なんですか?」若手社員がそう口にすると、場が少し凍る。誰も答えずにいると、ベテランが一言「必要かどうかじゃなくて、そういうもんなの」とつぶやく。会議のための会議、承認のための承認、報告のための報告。多くの歴史ある組織では、こうした場面が日常になっているように推察いたします。
組織が「目的を考えなくても事業が回るように」なっていませんか?
インソースは、組織が「目的を考えなくても事業が回るように」なってしまったときに、官僚制の逆機能が起こり始めると考えます。この官僚制の逆機能とは、一般的には「ルールが増えすぎて組織が硬直化する現象」のことを指しますが、実際の現場では、もっと複雑で人間的な背景があるのではないかと思います。
本記事では、老舗企業や行政機関、プロジェクトマネジメントの現場を例にしながら、なぜ手段と目的が入れ替わってしまうのかを深掘りします。若手が「考えない」のではなく、「考えなくなってしまう」組織の構造について、一緒にみていきましょう。
最初のルールは善意から始まる~官僚制が必要とされた時とは
官僚制というとネガティブな印象を持たれがちです。しかし本来は、組織を安定的に運営するための極めて合理的な仕組みです。特に大規模組織では、ルールがなければ業務品質を維持できません。
- 属人化を防ぐ
- 判断基準を統一する
- 不正を防止する
- 新人でも一定水準で動けるようにする
こうした目的のために、手続きや承認フロー、フォーマットが整備されていきます。最初のルールは当然ながら善意から生まれているのです。
ベテランたちは失敗の記憶を鮮明に持っている
たとえば、ある企業で報告ルールが厳しくなった背景には、過去の重大トラブルがあるかもしれません。品質事故、顧客からのクレーム、情報共有不足による炎上⋯⋯ベテラン社員は、こうした経験を実際にしています。だからこそ、「確認を増やそう」「リスクを判断してもらうために承認をもらおう」「記録を残そう」と対策を一所懸命に考えます。
これは組織防衛として極めて自然な行動です。若手から見ると一見非効率に見えるルールも、過去の痛みから生まれている場合が少なくありません。問題は、そのルールが長年運用される中で、徐々に役割を変えていくことです。ここに官僚制の逆機能の本質があります。
善意の仕組みが「自己防衛装置」に変わる瞬間
品質管理→責任回避に変わる
たとえばレビュー工程。本来は品質向上のために存在するステップですが、成熟組織では次第に別の意味を持ち始めます。「一応確認はした」「承認フローは通している」「ルール通りに進めた」だから大丈夫なはず、と。
徐々にレビューは、「より良い成果を上げるため」ではなく、「自分が責任を負わないため」に使われ始めます。これは悪意のある人材がたまたまその場面に存在した・増えてきたという偶然によって引き起こされたものではなく、組織の中で関係者が合理的に振る舞った結果、自然とそうなるのです。
プロジェクト会議→免責の場になる
プロジェクトマネジメントでも同じことが起きます。たとえば週1回、新商品開発の定例進捗会議があったとしましょう。直近で起こった問題を様々な役割を持つメンバーがそれぞれの立場から捉え、考え、最適解を導き出し、それによって困りごとを解消することが当初の目的であったとします。
しかし実際には、聞いていないと言わせない、責任の範囲や所在を明確にする、上司説明用の証跡を残す等のためにこの会議の場が使われることが増えてきます。すると、いわずもがな会議資料はどんどん増える。担当者はプロジェクトを進める時間より、説明資料を作る時間の方が長くなる。これは典型的な「手段の目的化」の事例です。
これら2つに共通している厄介なことは、誰も悪気がないことです。むしろ全員が合理的に行動した結果として、組織全体が最適化していっただけといえます。
若手は考えないのではなく、考えなく「なる」
ここで若手社員の話に戻ります。多くの管理職の方は、最近の若手は目的意識が弱くて言われたことしかしない、と感じていることでしょう。でも、少し見方を変える必要があるかもしれません。
若手の学びは完成済みの制度で形作られた世界から始まる
昔から組織に所属しているベテラン層は、なぜこの会議が必要なのかや、なぜこの承認フローができたのかなど、「ルールがなかった時代」を知っています。その必要性が身に染みているのです。一方で、今の若手は違います。社会人になった瞬間から、
- 定められたフォーマットを使う
- この順番で承認する
- この言い回しを使う
- この会議に参加する
という完成済みの制度環境に自身を置くことになります。すると「なぜ」が抜け落ちやすくなる。つまり若手は、わざと目的を無視しているわけではなく、そもそも目的を学ぶ機会が少ない場所に投入されるという厳然たる事実を、受入れ側が認識しておく必要があります。
目的よりも「正しい処理」が評価される
さらに現代組織では、失敗(=リスク)防止と効率化が重視されます。結果、現場の新人教育も、ミスしない、漏れなく処理する、ルール通りに動くことに重点が置かれた設計になりがちです。冒頭でもお伝えしましたが、このこと自体は悪いことではなく、一定の品質を保つには必要です。ただ、その代償として、「なぜこの仕事をやるのか」を考える機会がさらに減ってしまいます。
つまり若手は、もともと考えないのではなく、「考える必要がない環境」にうまく適応してしまっている面があるのです。
コスパ志向の若手が増えたのではなく、組織が変わった
ここで誤解してはいけないのが、「最近の若手はコスパ重視だから問題だ」という単純な話ではないことです。
会社が人生を保証しない時代~問題は「意味を考える余白」が消えたこと
かつての日本企業では、会社への長期コミットが前提でした。終身雇用・年功序列・会社中心の人生設計。だから、仕事に全力投資することは合理的な判断でした。当然ながら今は違います。会社が個人の人生を保証しない時代に、「仕事だけに人生をフルベットしない」のは自然な適応です。ワークライフバランスやコスパ・タイパを重視することは、全くもって怠慢ではなく現代の環境変化への対応ともいえます。
本質的な問題は、熱量の低下ではありません。仕事の意味を考える余裕が、組織から消えていることです。現代組織は非常に合理的です。オンボーディングの標準化、マニュアルの整備、評価基準の明文化、業務フローの固定化など、涙ぐましい改善によって、誰でも一定の品質で働けるようになり、皮肉なことに、同時に「自分で考える余地」が減っていきます。かつて生産性向上を目指した優秀な人たちが、組織を効率化していったことが、目的思考が育ちにくい環境を生んでしまうのです。
目的思考は実は危険な行為でもある~「空気を乱す」ととられる
さらに重要なのは、目的を考えること自体が、成熟組織では時にリスクになることです。もし若手が本気で目的を考え始めたら、「この会議、やる意味ありますか」、「そのKPI、成果につながっていますか」、「時間がかかる承認プロセスを減らせませんか」など、空気を全く読まずに、まっすぐに言うかもしれません。
しかし成熟組織では、こうした発言は時に歓迎されません。なぜなら既存制度を揺さぶるからです。すると若手は「目的を考えるより、ルール通りに正確に処理したほうが可愛がられる」「疑問を口にすると軋轢を生む」と学習してしまいます。これは個人の問題というより、組織文化の問題です。
官僚制の逆機能を防ぐ組織は「目的」を会話している
では、どうすればよいのでしょうか。重要なのはルールをなくすことではなく、目的を話し合うことのできる組織に戻すことです。
「なぜ」を話せる管理職がいるか
成果を出している組織では、管理職が「なぜ」を熱く・何度も説明しています。なぜこの会議が必要なのか、なぜこのルールがあるのか、なぜこの仕事をするのか、この対話があるだけで、若手の仕事理解は大きく変わります。逆に、「決まりだから」で会話を打ち切りがちな組織や部署では、手段の目的化が進みやすいといえます。
不要な制度を見直せる
もう一つ重要なのは、「制度を変えてよい」という感覚です。成熟組織では、一度作られた制度は固定化されやすいものです。しかし、本来ルールは目的達成のための単なる道具・手段に過ぎません。手段が目的を邪魔し始めたのならば、当然ながら見直す必要があります。この視点を持てる組織は、官僚制の逆機能に陥りにくい傾向があります。
成熟組織ほど「目的」を問い直すべき
官僚制の逆機能は、単なるルール過多ではありません。それは、善意から始まった仕組みが、長い年月をかけて自己防衛装置へ変化していく現象です。そして今の若手は、その完成済みの環境で育っています。「最近の若手は自分で何も考えない」と嘆くのではなく、
- なぜ目的思考が育ちにくいのか
- なぜ手段が固定化するのか
- なぜ制度が変えられなくなるのか
を組織側がじゅうぶんに理解し、相応の施策を講じることが必須です。成熟した組織ほど、定期的に「そもそもこれは何のためにやっているのか」を敢えて問い直す機会を設けることが大切です。それができる組織だけが、変化が大きく心理的な負荷が大きい時代でも、柔軟に成果を出し続けることができます。
リーダーシップ研修~激動の時代に求められる考え方と強かなマインド
激動の時代の最中にあって、リーダーにはこれまでにない「タフさ」が求められています。
この新たな時代における生き残りを目指すうえで、これまで組織運営を支えてきた「官僚主義」の負の面をどう克服していくかが課題です。守りに軸を置いた発想を転換し、組織にイノベーションを起こしていくことのできる強いリーダーを目指すための、考え方とスキルを習得します。
よくあるお悩み・ニーズ
- かつてない変化の最中にあることをリーダー層に認識させたい
- 組織内にイノベーションを起こせるようなリーダーを育成したい
- 旧来のやり方を打破する覚悟とその手法を理解させたい
本研修の目標
- あらためて官僚主義のリスクや負の面がどのようなものかを学ぶ
- 変化の激しい今の時代におけるリーダーの役割を理解する
- 変化の時代のリーダーに求められる考え方とスキルを習得する
セットでおすすめの研修・サービス
変化の時代の初級管理職研修~不確実性の中で柔軟に計画を遂行する
事実上の「標準」だった官僚制マネジメントが次第に機能しづらくなってきました。今やプロジェクト型の組織運営を前提とした「バックキャスティングでの計画策定」「アジャイルな計画推進」といったマネジメント手法が主流となりつつあります。
本研修ではこうしたデジタル時代の変化を捉えたうえで、それに柔軟に対応しながら成果を上げるための考え方とスキルを学びます。
なぜなぜ分析研修~考えるクセをつける
物事の表面的な部分ではなく、本質を考える習慣をつけたい方におすすめのプログラムです。「なぜ」で事象の根拠を論理的に考え、ロジックツリー、特性要因図などの手法を用いて真因を探る練習をします。
様々なフレームワークを使って、自分なりの解決策を検討することで、現場での実践につなげます。





