「本部の正論」が現場に届かない理由~「本部と現場の壁」を生む認識ギャップとは

チェーン展開の小売や飲食業の店舗では、本部が打ち出した方針や施策が思うように現場へ浸透しないという課題が生じていることが少なくありません。
顧客満足度向上のための接客強化、売場改善、関連販売の推進、新たな販促施策など、本部は企業全体の成長を見据えてさまざまな取り組みを企画します。しかし現場では、「理屈はわかるが実際には難しい」「本部は店舗の状況を理解していない」といった声が上がることがあります。一方で本部側も、「なぜ実行してくれないのか」「何度伝えても現場が変わらない」と悩んでいます。
本部と現場のどちらかが間違っているわけではありません。問題は、双方が見ている景色が異なり、必要なマインドやスキルに対する認識にもズレが生じていることです。本記事では、本部と現場の壁が生まれる原因を整理しながら、本部のメッセージを現場で実践につなげるためのインソースの考え方と具体策を語っていきます。
本部は理想を語り、現場は現実を見ている~「正しい施策」が実行されない本当の理由
本部と現場の壁は、決して対立意識だけで生まれるものではありません。むしろ多くの場合、本部も現場も会社を良くしたいという思いは共通しています。それにもかかわらず施策が浸透しないのは、両者が日々向き合っている課題が大きく異なるためです。
本部が見ているのは会社全体、現場が見ているのは今日の店舗運営
本部は企業全体の利益やブランド価値、将来の成長を見据えて施策を立案します。市場環境の変化や競合分析、顧客ニーズの変化などを踏まえながら、「今後必要となる取り組み」を考えています。一方、現場が向き合っているのは目の前のお客さまです。人員不足への対応、クレーム処理、新人教育、売場管理、在庫確認など、店舗運営には日々多くの業務があります。
本部が半年先や一年先を見ているのに対し、現場は今日を乗り切ることに集中しています。この視点の違いが、本部と現場の認識のズレを生む最初の要因です。
本部が考える「正しいこと」と、現場ができることは一致しない
例えば本部サイドが、接客品質を向上させたい・顧客との会話を増やしたい・関連販売を強化したいと考えることは自然です。しかし現場では、慢性的な人手不足・レジ対応の増加・ベテランスタッフの退職・新人育成の負荷 などの課題のほうがよほど影響が大きいと認識しています。
本部が「接客時間を増やそう」と伝えても、現場からすると「そのための時間をどう確保するのか」という疑問が生まれます。このことから本部は「なぜ実行しないのか」と現場に不満を感じ、現場は「現実を見ていない」と憤慨します。施策への反発というよりも、実行可能性への不安が生じているのです。
現場は反対しているのではなく、実践方法が見えない
現場が求めているのは理論ではありません。実践方法です。例えば接客強化であれば、何を変えるのか、どのタイミングで改善策を実施するのか、どの程度実践すればよいのかや成功している店舗はどうしているのかといったことがわからなければ動けません。本部が必要性だけを説明し、具体的な実践方法を示さない場合、施策は現場に届かないということです。結果「また本部の理想論だ」という受け止め方をしてしまいます。
「必要なマインドやスキル」の認識差が施策浸透を妨げる
本部と現場の壁をさらに大きくするのが、必要なマインドやスキルに対する認識の違いです。
本部はマインド(As Is-To Be)を求め、現場は方法(How To)を求める
本部が現場に求める言葉としてよく挙がるのが、主体性・当事者意識・顧客視点・チャレンジ精神などです。もちろんこれらは重要な要素です。しかし現場からすると、「主体性を持てとは、どういうことか?」という状態になりやすいのです。
主体性はスキルではなく、結果として現れる行動特性といえます。そのため、主体性を求めるのであれば、問題発見力・課題設定力・改善提案力・コミュニケーション力など、具体的なスキルに落とし込んで説明し、納得してもらったうえで協力を仰ぐ必要があります。
マインドだけでは行動は変わらない
店長会議やエリアミーティングなどで、本部からの営業戦略や方針を伝えることは重要ですが、それだけで行動変容を起こすことは難しいでしょう。
例えば「お客さま目線を持とう」というのは、実はとても抽象的なメッセージです。メッセージの受け手によって、解釈(何をもってお客さま目線を持てたと言えるか)が異なってしまいます。どのような声掛けが有効なのか、売場をどう改善するのか、接客のどこを変えるのかが腹落ちできなければ、現場は行動に踏み切ることができません。なぜならいま現在のオペレーションを崩してしまう施策なのかもしれないからです。
両者が歩み寄るためには、マインド教育とスキル教育の両輪が必要といえます。
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