戦略的に「距離をとる」~人事部門がパーソナルスペースの理解促進を仕掛けるべき理由

職場での「適切な距離感」をつかみ損ねることで、思わぬトラブルを招いたりストレスの原因になることがあります。
近づきすぎることで相手に不快感を与えたり、離れすぎることで信頼関係が築きにくくなったりすることもあるのです。本ページではハラスメント防止や信頼関係の構築などで活用できるパーソナルスペースの理論を語ります。
パーソナルスペースとは~無意識のうちに周囲との距離を調整する行動
知っておくべき4つの距離
パーソナルスペースとは、心理的に他人に侵入されると不快感を覚える空間のことで、人間が自分自身の心理的境界を保つための自然な仕組みです。文化人類学者エドワード・T・ホールは、人との距離を大きく四つに分類しました。
- 密接距離(0〜45cm)
ハグや親しい会話など、最も親密な相手とだけ許容される距離です。この距離では声のトーンや呼吸、表情の細部まで感じ取れるため、心理的な緊張感も強くなります。職場では極めて限定的な状況でしか適さず、近づきすぎると圧迫感を与える可能性があります。こういった距離感でのコミュニケーションを繰り返していると、パワハラやセクハラと捉えられかねません。 - 個体距離(45〜120cm)
一般的な会話や面談で適切な距離です。相手の表情や声は十分に把握でき、心理的に安心感が保たれる範囲で、特に上司と部下の個別面談や同僚との日常的なコミュニケーションに最適です。 - 社会距離(120〜360cm)
業務上の打ち合わせや会議など、ある程度の距離を保ちながら情報交換を行う場合に適しています。この距離では個人のプライバシーを守りつつ、集団でのやり取りもスムーズに実施できます。複数人のメンバーが参加する対面ミーティング、顧客との商談などに相応しい距離です。 - 公共距離(360cm以上)
講演や説明会など、多数の人に向けて情報を発信する場で用いられる距離です。この範囲では個人間の心理的な影響は最小限に抑えられ、視覚・聴覚的な情報に集中できます。全社員が集まるような式典、ステークホルダーへの説明会などで活用します。
パーソナルスペースが仕事にどのように影響するのか
この距離感の理解がコミュニケーションの快適さや信頼関係に直結します。無意識に相手のスペースを侵すとプレッシャーを与えたり、逆に社会距離や公共距離で話すと心理的な距離を感じさせ、本音を聞きだせなくなることがあります。不要な摩擦を生じさせたり、ハラスメントリスクも高まる可能性があります。
また、育った文化や性別によって心地よいスペースは異なるため、国際的な職場や多様な社員が働く環境では、この違いを知っておくことが無用な衝突やトラブルを回避する対策の一つになり得ます。さらに、パーソナルスペースは学習意欲とも深く関わっています。社員がお互いに心地よい距離を保てる職場では、緊張やストレスが軽減され、意欲的な自己研鑽が促されます。距離感が適切でない環境では社員は防衛的になり、周囲への提言など建設的な意見の発信などがなされなくなります。
このように、パーソナルスペースは単なる物理的距離ではなく、心理的境界線としての役割を持つ重要な概念であり、職場環境や組織文化に直接影響する要素といえます。社員一人ひとりが自分のスペースを理解し、相手のスペースを尊重することは、ハラスメント防止や信頼関係構築、効率的なコミュニケーションのために欠かせない基礎となります。
パーソナルスペースを社員に学ばせることで得られる5つのメリット
パーソナルスペースを社員に学ばせることで得られるメリットは次の5つです。
- ハラスメント防止と心理的安全性の向上
- 信頼関係の構築とコミュニケーション改善
- 多様性理解と国際的対応力の向上
- マネジメント・面談スキルの強化
- 組織文化の成熟と生産性向上
これらの効果は、単なる知識習得ではなく、実際の行動や環境設計に反映されることで組織全体のパフォーマンスの向上につながります。
職場での具体的な活用法
オフィス設計の工夫
- 執務室のデスクは一人ひとりのスペースを確保できるように設置する
- プロジェクト会議では、メンバーからの意見が出やすいように島型に配置する
- コミュニケーション活性化をねらいとして、フリーアドレス制を導入する
- パーテーションや観葉植物で視覚的な境界をつくる
リラックスできる空間の確保
- 集中できる静かなエリアと会話しやすいリフレッシュスペースを分ける
- お茶やコーヒー、日持ちのするお菓子などを提供する
マネジメント層の意識改革
- リーダー、管理職が個体距離と社会距離を意識して個別面談や日常的なフィードバックを行う
- 相手に寄り添う場面では正面ではなく斜め45度の角度に座る
- メンバーに公平に接していることを印象づけたい時は、あえてフォーマルな会議形式をとる
適切な距離感は組織全体のパフォーマンスの向上につながる
コミュニケーション相手との信頼の度合いや親しさなどでも変わってきますが「適切な距離感」を実践する際には、自身の立場やその時の状況に相応しいかを判断軸の中心に置くことが望まれます。
良好な職場環境を維持すること、組織全体の成果を最大化すること。そのための一つにパーソナルスペースの知識を持たせることは大変有用です。
部下とのコミュニケーション実践研修~心理的安全性の高い職場を作る
心理的安全性とは、「メンバー一人ひとりがチームに対して気兼ねなく発言できる、自然体でいられる環境・雰囲気」のことです。
言いたいことを伝えるためのアサーティブコミュニケーション、本音で話せる環境を作るための最適な1対1面談の実施法を学ぶプログラムです。
よくあるお悩み・ニーズ
- メンバーが失敗を恐れ、リスクを取ってチャレンジしようとしない
- 普段からコミュニケーションが少なく、若手から意見が出にくい
- メンバーの仲は良いが、馴れ合いになってしまい、成果を出すことへの意識が低い
- 本音で話すことができておらず、メンバーが何に悩んでいるのかわからない
本研修の目標
- 心理的安全性の鍵を握る管理職・リーダーが、まずは自分の行動を変える必要があることを自覚する
- アサーティブコミュニケーションの4つのステップを学び、言いたいことを自他を尊重しながら伝えられるようになる
- 1対1面談で部下の本音や悩みを把握し、主体性を引き出せるようになる
- 情報と成功体験を共有する文化の作り方を学び、チーム全体の心理的安全性を向上させることができるようになる
セットでおすすめの研修・サービス
(管理職向け)ハラスメント防止講座~信頼関係を築き、ハラスメントが起きない組織を作る(スライド付き)
ハラスメントの正しい基礎知識を得たうえで、よりよい職場作りを実現することを目的とした管理職向けの内容です。
パワハラ・セクハラをはじめとする現代の多様なハラスメントや、労務管理における基礎を学びます。加えて、「采配力」「コミュケーション力」「常識力」「仕事力」の4点から成る部下との信頼関係の構築方法もお伝えします。
対人関係構築研修~円滑なコミュニケーションのためのスキルを習得する
対人関係の構築を促進するためのテクニックや考え方を身につけていただく研修です。
相手と適切な距離感を保ち、良い関係を築くには具体的にどのような行動をすれば良いのかを、明日から取り組める基本的なものからタイプ別の対応法まで、じっくりワークを通じて学んでいただきます。
個室型オンラインブース/ミーティングブース・ライト(天井開閉式)
仕事の集中スペースやオンライン会議などに使える1畳程度の広さがある個別の空間を、簡単に作って設置することができる「個室型パーソナルブース」です。
素材には、再生古紙を複合成型した建材用の強化段ボールが採用されています。段ボール製とは感じられないほどの高級感と耐久性に、さらに、長く使い続けるためのメンテナンス性や臨機応変な設置(組立てと分解)に対して、高い評価をいただいています。遮音性を高めたミーティングブース・サイレントもございます。



