社員の金銭トラブルを防ぐ!人事部門が講じるべき予防策~お金の基本を知ることはオトナのたしなみ

支給された給与以上にお金を使いつづけると...多くの人にとってその先は想像に難くないですが、何が起こるのか想像ができない・わからない、これまで真面目に考えたことがない、その深刻さを適切に認識できていない方も一定数いらっしゃいます。
いつもお金に困り、借金を抱えるなどの金銭トラブルに直面すると、その影響は本人だけにとどまりません。勤務態度が乱れたり、職場の同僚に無心をするなどで人間関係を悪化させたり、さらには売上金を横領するケースもあります。
背景には金融リテラシー不足があり、本人が問題を大きくしてしまうケースも少なくありません。ここでは、金銭トラブルが企業に及ぼす影響、人事部門が果たすべき役割、そして再発防止に向けた制度構築や金融教育の導入について解説します。
金銭トラブルによる組織の重大リスク~「個人の問題」では済まされない
勤務態度や集中力の低下~仕事どころではなくなり、他者との連携がとれなくなる
借金や支払いの悩みを抱える社員は、業務中も精神的に不安定なことが増えます。頻繁に携帯電話端末にかかってくる督促電話に出るために席を立ったり、何かに追い詰められているような様子が見られます。
本来集中するべき業務に打ち込めず、判断力の低下から手戻りが増えて仕事が進まないことや、遅刻や突発的な欠勤が増えることもあり、チーム全体の生産性が悪くなります。
社員間の関係悪化~立場の違いによってはハラスメントと捉えられる
お金の貸し借りは、職場の信頼関係を壊す大きな要因のひとつです。「小さくない金額なのに返済してくれない」「上司だから頼まれて断れなかった」といった不満が積み重なり、職場の雰囲気を悪化させます。
「私人間の金銭貸借契約」は個々人の問題ではありますが、結果として協力体制が崩れ業務に支障をきたすようになったり、パワハラともとれる状況が起こっているようであれば、人事部門は介入せざるを得ません。
不正行為やコンプライアンス違反のリスク~内部統制の効かない組織と認識される
深刻な借金を抱えた社員が、不正経理や横領といった不適切行為に走る可能性があります。取引先担当者にキックバックを要求する、立場の弱い下請業者を脅して本来の契約金額よりも安い支払いに応じさせ、差額を着服するなどの行動を起こすこともあります。
こういった情報が明るみに出れば、被害にあわせた関係先との取引停止や契約解除のみならず、全てのステークホルダーから「事業を適切に履行できない組織」と判断されることとなります。企業全体の信用を傷つけ、事業継続が許されない深刻な問題につながります。
金融リテラシーが低い社員が抱える3つの課題
金融教育の遅れ~ぶっつけ本番で生計を立てる新人
日本では家庭や学校で体系的に金融教育を受ける機会が少なく、社会人になってから初めて生計を自分一人で立てる方も多いです。被扶養者からいきなり一人暮らしの世帯主になり、投資やローン・保険といった基礎知識を持たないまま実生活を送り、支出をコントロールできない場合もあります。
ほとんどが反省を糧にPDCAサイクルを回して家計改善を図ることができますが、中には行動を変えられず、カードなどの借入を増え続ける方もいます。
「見えないリスク」を理解できない~ただの数字で表されるお金
例えばクレジットカードのリボ払いは利便性が高い一方で、高額な利息を負担しなければなりません。金融リテラシーが低いと、こうした仕組みを正しく理解できず、気づいたときには返済困難な状況に陥ることがあります。
現金(キャッシュ)で収入・支出を管理せず、あくまで数字の増減で生活費を工面することが一般的になった現代では、お金の重み・利息の怖さをイメージしづらくなっています。
老後資金やライフプランへの無関心~「どうにかなるだろう」と課題を先延ばしに
目先の収入と支出だけに意識が向き、将来の備えを軽視する社員も少なくありません。気候変動による異常気象や大規模災害、AI技術の急速な進化、さらには社会・経済の急激な変化に対応するために、組織さえも事業方針を変える可能性があります。
生活のあり方などもこれから変わるかもしれないが「その時はその時で誰かがどうにかしてくれるだろう」と自身のキャリアデザインに無関心でいることは、結果的に長期的な不安やトラブルの芽を残すことと同義です。
人事部門が取るべき4つの対応策
早期発見の仕組みを整える~トラブルを報告したがるメンバーはそういない
金銭トラブルは表に出にくいもの、だからこそ社員の変化に気づける体制が重要です。定期的な1対1面談の機会をつくり、業務のことだけではなくプライベートの生活や将来への不安を話せる場を設けることが有効です。
信頼関係を築いておくことで、社員が問題を隠さず相談しやすくなり、トラブルが大きくなることを抑制できます。
福利厚生や相談窓口の整備~第三者に相談できる安心感を与える
社内に金融トラブル専門窓口を設けたり、外部の専門家と提携した相談体制をつくって周知することで、社員が安心して支援を求められる環境を整えられます。また、福利厚生とのひとつとして生活設計や家計管理を支援するセミナーを提供するのも効果的です。
「貸し借り禁止」を就業規則に定める~断る口実に規則を使わせる
財布を忘れて昼食を買えない、公共交通機関に乗れないといった低額のことであれば、貸し借りは本人同士の判断に任せてもよいかもしれませんが、高額のやり取りは避けるように促します。
その際有効なのが就業規則の服務規律内で、「社員同士の金銭の貸し借りを禁止する」「連帯保証人になることを禁止する」と定めてしまうことです。どうしてもお願いを断り切れない人の良い方、弱い立場にある従業員を守る手段として機能させます。
金融教育を定期的に実施する~実感がないと人は変われない
例えば内定者や新入社員の年次では、社会人として独り立ちをするための必要最低限の生活に関わる知識を付与し、その後はキャリアステージに応じた金融教育を継続的に実施することが重要です。
10~20代では給与管理や基本的な資産形成、30~40代の中堅層には住宅ローンや教育費、50代以降のシニア・ベテラン社員には老後資金の活用の仕方など、ライフイベントに合わせた内容を提供すると実効性が高まります。
まとめ:社員の金融リテラシー不足を補い、組織のリスクヘッジを
ここまで述べてきたように、社員の金融リテラシー不足を補うことは、組織のリスクヘッジ施策の一つです。
人事部門においては、予防のための制度構築と教育で関与することが求められます。社員の安定した生活と企業の持続的な成長を目指しましょう。
金融・生活 リテラシーアセスメント
金融リテラシーとは、金融商品・サービスを利用するうえで必要な知識や判断力のことです。資産形成力の向上、金融・経済の全般知識と理解、家計管理とライフプランニング力の向上を目的に、現在の状況を把握することのできるWebテストです。
<設問例>
【選択問題】資産運用による利益の得方には、大きく分けて2つある。1つは「資産を保有することで利益を得る」、もう1つは「資産の売却で利益を得る」である。「資産を保有することで利益を得る」をあらわす言葉はどれか。
- インデックスゲイン
- アクティブゲイン
- キャピタルゲイン
- インカムゲイン
【正誤問題】可処分所得とは、給与や賞与から所得税や健康保険料などを差し引いた手取り額のことである。
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