あの担当者がお客さまの怒りを鎮められるのは魔法ではない~裏にある「見えない準備」

ドラマのように鮮やかなクレーム対応ができる人は、決して「その場のアドリブ」だけで対応しているわけではありません。
怒りを鎮める開口一言も、感情を受け止める共感のフレーズも、混乱を整える質問の順番も、実はすべて「事前の準備」が支えています。
いくつかの印象的なクレーム対応事例を見ながら、その裏側にあった準備も見ていきましょう。
事例1:怒り心頭のお客さまを、一転して安心させる逆転対応
開口一番、お客さまが強い口調で不満をまくしたてます。平日の夕方、回線が混み合う時間帯にかかってきた電話で、受話器を取った瞬間から「もう何回目だと思っているんですか!」と声が室内に響くほどです。
担当者はかぶせず、遮らず、お客さまの声だけに集中し、落ち着いた表情で丁寧に相槌を打ちながら最後まで聴き切ります。お客さまが一息ついた瞬間、担当者は「お気持ち、もっともです」と静かに共感します。
すると、張りつめていた空気がふっと緩み、お客さまは「⋯⋯いや、こっちも言い過ぎたかもしれない」とトーンが落ち着き、最終的には協力的な姿勢へと変わっていきました。
裏側には「準備」と「トークスクリプト(台本)」が存在します
- 第一声トークスクリプト
「お電話ありがとうございます。担当の◯◯でございます。まずは状況をお聞かせください」
→遮らず、話していただくという「姿勢」を最初の3秒で伝わるように設計 - 感情受け止めの共感ワードを事前に用意
「お気持ち、ごもっともです」「ご不便をおかけしました」など
→感情を鎮める「安全なフレーズ」を先に準備しておく - 話を切り返すタイミングの練習
→お客さまが呼吸を変える瞬間=共感を差し込むべきポイント、と想定して練習
「遮らない姿勢」を示すことと「感情の受け止め」をすることが、お客さまの怒りを鎮める最短ルートです。
事例2:解決策を出しても不満が続くお客さまが、最終的に納得
商品の到着遅延をめぐる問い合せで、担当者が代替案を提示しても、「それは他社なら無料ですよね?」とため息交じりに返され、会話が前に進みませんでした。
それでも担当者は落ち着いて、複数の選択肢を整理して提案しました。「A案ですと今日中、B案ですと明日確実に、C案は費用が抑えられます」
すると、お客さまはようやく少し考える間を持ちます。その後、お客さまの態度は軟化し、「じゃあB案でいいです。説明ありがとうございました」と納得した様子も見られました。
裏側にある「準備」とは
- 解決策を3パターン準備
→A:迅速案、B:丁寧案、C:妥協案 - 「まずは3つだけご提案させてください」とトークスクリプトを用意
→話の主導権が奪われにくくなる - 「お客様のお考えに近いものはありますか?」と締める言い回しを準備
→顧客が「自分で選んだ」と感じられる構造の設計
こちらからの押し付けでなく、「複数の選択肢」を提示して「選ぶ余地」を作ると、お客さまは納得しやすくなります。
事例3:ミスがあったのに、顧客から「ありがとう」が出る結末
発送手続きの入力漏れで商品が予定日に届かず、お客さまは「大事な場面で使う予定だったのに」とかなりお怒りです。
担当者は胸がざわつくのを抑え、言い訳を一切挟まず、落ち着いた声で謝罪・説明・再発防止策の順に一つひとつ丁寧に伝えました。
すると、お客さまの眉間のしわが徐々にゆるみ、最後には「ここまで丁寧に言ってもらえるとは思わなかった。ありがとう」という言葉が返ってきました。
裏側にある「準備」とは
- 謝罪の順番を暗記
共感→謝罪→事実→再発防止 - 謝罪文のテンプレを事前に作成
「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。状況を正確にお伝えしますと──」 - 「言い訳に聞こえるNGワード」を先にリスト化
「本来は」「通常は」「普段はやっているのですが」など - 再発防止の説明に使う簡潔フレーズを準備
「今回の件を踏まえ、〇〇を改善いたします」
こちらのミスの時こそ「言い訳ゼロ」で順序立てて伝えることで、誠実さが最も強く伝わります。
鮮やかなクレーム対応は準備と技術でできている
鮮やかなクレーム対応は、特別な才能からではなく、再現可能な「技術」から始まります。重視される「臨機応変」もその上に初めて成り立つものです。
準備しておくほど本番で迷わず、相手の感情に丁寧に寄り添えるようになります。「いざ」という瞬間に慌てないためにも、常に自分なりの「準備」を磨き、更新していたいものですね。小さな準備の積み重ねは、あなたの対応力を大きく変えていくことでしょう。
クレーム対応研修~臨機応変なコミュニケーションでリスクを低減する
組織戦略として応対品質向上に取り組む企業が増える中、サービスレベルの差が広がり、意識の低い組織の問題が目立つようになっています。期待水準を下回ったうえに不適切な対応が重なると、顧客離反や泥沼化、SNS拡散によるブランド毀損を招きます。
クレーム対応スキル向上はリスクマネジメントの一環であり、組織として取り組むべき領域です。本研修では「準備」に焦点を当て、厳しい場面でもお客さまの意向や要望を汲んだ対応ができるようになることを目指します。
よくあるお悩み・ニーズ
- クレーム対応時に、何を話せばよいか分からなくなることがある
- 伝えたいことを簡潔に相手に伝えることが苦手
- お客さまの気分を害さず、スムーズにコミュニケーションを取りたい
本研修の到達目標
- 人と人とのふれあいを考慮して、当意即妙なコミュニケーションがとれる
- お客さまの前提知識に合わせて分かりやすく説明できる
- トークスクリプトの基本を学び、クレーム対応のポイントを流れで押さえられる
対象者
- クレーム対応のスキルを高めたい方
- コミュニケーションに苦手意識のある方
セットでおすすめの研修・サービス
共感力発揮研修~スムーズに仕事を進めるために理解と思いやりを示す
「共感力」をキーワードに、相手の感情や心理状態に共感し、自分の思いを適切に伝える技術を習得します。尊重・傾聴・想像の3要素を職場で起こりうるケースで考え、相手を深く理解する方法を学びます。
豊富なワークを通して、共感の示し方や共感しづらい場面の対応も検討します。
プレゼンテーション研修~相手を動かす3つの要素を習得する
プレゼンテーションの目的は、情報を示し理解・納得を得て行動につなげることです。
本研修では、話の構造を整理する「内容づくり」、間やスピードなどの「伝える技術」、資料を効果的に使う「手段」の3要素を実践的に学びます。
(半日研修)非言語コミュニケーションで「伝わる力」を鍛えるインプロ・ワークショップ
変化の激しい不確実な環境では、柔軟に対応し協働する力が欠かせません。そこで注目されているのが、即興で展開する演劇手法「インプロ」(インプロビゼーション、improvisationの略)です。台本のない状況で互いを受け入れながら新しいストーリーを生むプロセスを通じ、柔軟さや即応力、チームの協働力を実践的に高められます。
インプロはアイスブレイク、即興ワーク、振り返りの3段階で構成され、創造的思考力、コミュニケーション力、チームビルディングを育む手法として人材育成の現場で広く導入が進んでいます。インプロの手法を用いたワークショップに興味がありましたら、ぜひ参加ください。100以上の現場での実践経験があるインプロバイザーが講師を務めます。





