仕組み化の勘所は「実数」を数えること|生産性向上の方法論1
「今月の好業績者はAさんで売上20%増です」
「で、いくら売上増なの?」
「30万円です」
「ふーん。では500万円以上増えた人はいるの?」
「はい。Bさんが該当します。ですが、前年比わずか5%しか増えていません」
「Bさんの方がよっぽど優秀じゃない。ぜひ、うまくいった方法を聞き、仕組化したい」
残念ながら、こんな会話が社内であったりします。ビジネスをする上で、危険なのが「『%』だけで語ること」だと考えています。経営者は決算書の内容を良くしていくのが仕事ですので、売上や営業利益の実額が課題であって、「%」じゃないのです。
また、業務上解決すべき課題は1件1件が問題であり、問題は1%なのでだいたいオッケー、などは絶対ダメなのです。
仕組み化のポイントは数えること
「仕組み化」は、再現性のある行動や判断を、属人性を排して誰でも遂行できるように制度化・マニュアル化・組織化することですが、一番の勘所は実数を数えることです。
あらゆる企業や組織で「何をどれだけやっているのか」を定量的に示すことが、全体の生産性向上や意思決定の迅速化につながります。
なぜ「数える」ことが重要なのか
1. 現状をリアルに把握するため~「感覚」を脱却する
業務の仕組み化を進める際には「営業の動きが悪い」「忙しい」「効率が悪い」「ミスが多い」といった現場の声があがります。しかし、これらの多くは感覚的なものであり、実際にどうかは定かではありません。そこで必要になるのが、現状を数字で把握するというプロセスです。
2. 問題・課題のありかを明確にする~「忙しい」も多様
例えば、「顧客からのお問い合わせが多すぎて本来の仕事ができない」と言う場合、本当に多いのか、対応能力にばらつきがあるのかは、件数や対応時間を数えて初めて明らかになります。「数える」ことは、思い込みから脱し、事実に基づいた業務改善を行うための出発点になります。
3. 改善の効果検証を実施するため
また、改善の効果を検証するためにも数値は欠かせません。改善前後で比較するには、定量的な指標が必要ですし、属人化した業務を他の人へ引き継ぐ際にも、数値を伴う説明があることで理解が格段に進みます。
4. どの程度のレベルで仕組み化するかの判断材料を得る
数えた結果、実施頻度が高い業務でないとシステム化など多額のコストをかけた仕組み化はできません。よって、頻度を数値で捉える事で、どの程度コストをかけて仕組み化をすべきか判断します。
システム化、SaaS導入時のマイルール
これは、私の基準ですが、システム化する際の基準は1日10件以上、月間300件の処理がある場合はシステム化するようにしています。システム化は声が大きい部署からなされることが多いので、現場にルールを明示することが重要です。
数えるための4つの視点
業務を数える際には、以下の4つの視点が役立ちます。
- 回数~その業務がどのくらいの頻度で行われているか(例:1日のメール対応件数など)
- 時間~1件あたり、または1日あたりにどれだけの時間がかかっているか
- 工数(人時)~何人でどれくらいの手間がかかっているか(例:2人×2時間=4人時)
- 成果~業務の成果として、どれだけの売上、納品、ミスが発生しているか
例えば、営業活動であれば、「1日あたりの商談数」「1商談あたりの所要時間」といった数値を把握することで、どのフェーズに課題があるのかを明確にできます。
一見数えられないものをどうするか?~定性的な情報の数値化
数値化が難しそうな「忙しさ」「満足度」「疲労度」「入社後の業績」といった定性的な要素も、工夫次第で数値化が可能です。
- 忙しさ~時間当たりの業務のタスク数、来店人数
- 満足度~アンケート(5段階または0〜10点)で測定
- 疲労度~万歩計で歩行量をはかる(歩数が多ければつかれる)
- 入社後の業績~社内で優秀な人の特性をアセスメントで数値化しておき、入社試験で同じアセスメントを実施し、数値評価
インソースでは、求職者の特性をアセスメント「ジラフ」で数値化し、その上で面接しています。その結果、面接だけでは見いだせない優秀な人材を採用できています。データは、感覚では共有しづらい現場の問題を、組織全体に伝えるための重要な材料になります。
また、記録した数値はグラフや表にまとめ、「見える化」することで、ボトルネックや改善余地が明確になります。
数値の取り扱いの注意点
- 意味ある数値を使う:
「多い・少ない」だけでなく、「何と比べて」「どこを目指しているのか」が重要です。 - 短期で判断しない~たまたまかもしれない:
一時的な数値ではなく、3か月・半年単位で傾向を捉える方が適切です。 - 数えるだけで終わらない~改善とセットで活用する:
数字は改善のための道具です。数えるだけで終わらず、次のアクションにつなげるべきです。
第二のポイントは「標準化」~4つの柱
業務の仕組み化において、「現状を数える」ことが第一歩だとすれば、その次に取り組むべき第二歩は「標準化」です。標準化とは、業務の手順や品質、形式などを一定のルールに基づいて整え、誰がやっても同じように実行できる状態にすることを意味します。これにより、属人化の解消、ミスの防止、業務効率の向上といった効果が期待できます。標準化の4つの柱があります。
1. マニュアル化(業務フロー図を含む)
業務マニュアルは、誰が業務を担当しても同じ品質で再現できるようにする基本ツールです。勘所は、以下の通りです。
- マンガ入りの業務フロー図が一番わかりやすい
マニュアルの勘所は第三者がぱっと見てすぐわかるかどうかにあります。インソースのマニュアル作成研修の講師をやっていて気付いたのですが、業務の流れを図式化した「業務フロー図」をマンガ入りで作成し、注意点などが吹き出しになっている様なものが、予備知識のない人でもわかり易いようです。 - マニュアル作成は更新される「仕組み化」もセットで考える
マニュアルは必ず、だんだんメンテナンスされなくなります。なので、「見える化」が絶対必要です。インソースではお客様も見る自社Webを商品マニュアルとして活用しています。こうすると、どこからでも見れるし、お客様からのご指摘もあったりするので放置されることはまずなくなります。
2. テンプレート化(文書、表、計画書など)
日常的に繰り返される文書作成や業務資料には、あらかじめ「型」を用意することで、作業効率と品質のばらつきを抑えることができます。テンプレートは仕組み化の命です。
- 一番優秀な人がテンプレートを作る
20年ぐらい前ですが、ハローワークの前で片っ端から声をかけて集めた人材でモーレツな営業会社を立ち上げた社長がいて、すぐ事業を軌道に乗せました。秘訣を聞いてみると、「営業が数字だけ変えればいい提案書を作ってもたせること」だそうです。テンプレートがあれば事業は成長します。一番仕事ができるのはその事業のトップなので、ぜひ、トップが作ってください。 - 時々見直す
事業内容や業務が多様化すればテンプレートは変えるべきです。私が仕事で一番よくみるテンプレートは「人事評価シート」です。残念ながら作成されたのが5年前、10年前で今の時代に合致していなものが散見されます。適正な人事評価ができているか不安になります。(インソースに依頼してくれれば安く早く最新にして差し上げるのに)
3. チェックリスト化(ミス防止・リスク予防)
業務が複雑になるほど、人的ミスのリスクが高まります。チェックリストを導入することで、確認漏れを防ぎ、リスク管理にもつながります。
- チェックリストはみんなで作る
チェックリスト作成研修を実施して気づいた点としては、経験や役職のレベルに応じて、リスクの観点が異なります。よって、ベテランだけでチェックリストを作るより、若手からベテランまでみんなで集まって作るのがおススメです。なお、リスクは洗い出せば洗い出すほど減ります。チェックリストはどんどん追加していきましょう。 - チェックリストは取り出しやすく、わかりやすく
今ではありませんが、過去の飛行機事故において緊急時対応のチェックリストが分かりにくい場所にあり、また、あいまいな表現であったため重大な事故につながった事がありました。特に緊急時のチェックリストなどは「すぐ取り出せて」「わかりやすく」が基本です。こういったものはスマホやPCに加えて、紙でも用意すべきす。
4. ITツールの活用、システム化
標準化をさらに強固なものとするためには、ITツールの活用、一歩進んでシステム化が究極の標準化です。お教えしたいことは山ほどありますが、リーダーが気を付けるべきことを何点か書かせていただきます。
- まずOAツール活用を
最近のMicrosoft 365(Excel、PowerPoint)やGoogle Workspaceはすごくよくできています。これらをうまく使うことで、ITの素人でも便利な標準化ツールができます。TVやネットでSaaSの広告がどんどん出ていますので、現場担当者がこれらを欲しがりますが、多機能で使いこなすのが難しかったり、思ったより安くないので、まずは必要最低限の機能をいつも使っているExcelなどで自作するのが良いと思います。(研修はインソースで多数提供しています) - 新人・若手を活用する
経験から申し上げると若手、特に新人はOAツールの操作方法を覚えるのが驚嘆するほど早いです。なので、入社直後にOAツールのエキスパートとして養成するのが合理的です。仕事を覚えつつ、標準化ツールを作ってもらえば、ベテラン社員から褒められ、新人・若手のやりがいにもなり一石二鳥です。 - 管理部門の仕事は生成AIでかなり楽になる
ご存じの通り、生成AIが急激に普及しています。入金消込や給与計算の事後チェックなど複雑な処理を現場のベテラン社員が時間をかけて事務処理をこなしていると思います。生成AIはルールに照らし合わせてチェックするのが得意なので、実験的に彼らのノウハウを覚えさせてみたところ、100%正確とは言わないまでも短時間でかなりの程度作業を自動化できました。日々忙しい現場担当者に生成AI活用をさせるのは大変ですので、新人・若手に生成AIの活用方法を学ばせ、トライしてみてはいかがでしょうか?(これも研修として提供する予定です)
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
生産性向上の方法論シリーズ





