株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)

KPIを活用すれば業績は持続的に向上できる|生産性向上の方法論7

ゼロから異分野で起業し、まがりなりにも業績を伸ばせているのは、KPIという言葉に30年ぐらい前に出会ったお陰でもあります。KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」とも訳されます。これは、企業や組織が目標を達成するための進捗状況を評価するために用いる指標です。今ではごく当たり前の用語ですが、銀行でコールセンターの仕事をしていたその頃にはアメリカから直輸入の最新の概念でした。インソースで若い人たちと一緒にビジネスを組み立てていく中でKPIの活用はとても役に立ちました。

30年前コールセンターでKPIに出会った

30年前、銀行でSEをしている時、新たに立ち上げたコールセンターのシステムを開発しました。コールセンターでは、呼損率(これは、電話がかかってきても取れなかった電話の割合)やオペレーターが1時間当たりどれだけ受電できたか、また架電できたかなど、仕事の結果ではなくプロセスの数字をKPIとして管理をしていました。

スーパーバイザーと呼ばれる管理者がKPIを通じて、オペレーターの業務をきめ細かくチェックし、センター全体の改善指標としても活用し、生産性や品質改善をはかっていました。

KPI評価は正しい努力が正当に評価される

KPI管理の大きな特徴は、仕事の成果を評価するのではなく、成果に至るプロセスの行動を数値管理することです。成果には運や偶然も影響しますが、KPIで管理するプロセスは「がんばればできる」ものであり、KPI評価は正しい努力が評価される管理手法と言えます。銀行で「仕事は成果だ、結果だ」と言われ育ってきた私にとって新鮮でした。

非正規雇用のみなさんにはKPI管理が効果的だった

30年前の銀行では、貸出額や収益などの多寡で評価が決まる厳しい成果管理が主流でしたが、急に銀行業務を担当する事になった非正規雇用のオペレーターのみなさんに適用するのはまず無理です。よって、行動プロセスを管理する方法は受け入れやすく、上手い方法だったなと思います。この経験をもとにKPIによる管理をインソースでも活用し、業績拡大にすごく役立ちました。

営業活動を因数分解してKPIを決めた~インソースの創業期

創業期、一定量の行動が売上と相関している事がなんとなく分かってきました。営業活動を詳しく記録し、営業プロセスを分析してみると、およそ6回の架電でお客様に会えるなど、行動に法則性があることが分かりました。

これを踏まえ、営業活動のKPIを設定していきました。

KPI営業を進めた創業期

この経験を基にKPIを設定し、若い社員をどんどん採用し、行動管理を中心とするKPI営業を進めました。未経験者には結果にこだわらないプロセス管理が効果的でした。

1. KPI営業が新人営業を育て、離職防止に役立った

営業をやった事のある人は分かると思いますが、新しく営業に出た当初は「永遠に売上獲得できないかもしれない。アポも全く取れないし」と思うものです。なので、6回架電すれば必ずお客様に直接会えるなど、できそうな行動を重ねれば成果が出ることを具体的に示し、成果重視ではなく、行動をKPIにしたことは良かったと思います。すぐ結果が出なくても、がんばっていれば成果が必ず出ることを知れば心が軽くなり、短期離職を防げるからです。

2. 新規先の獲得に効果が大きかった

売上確保最優先では既存顧客優先の営業活動になり、手間のかかる新規顧客の開拓が進みません。一方、架電数や訪問数をKPIとし、KPIをこなしていれば売上ゼロでも咎められないルールにしたので、架電数を稼ぐために幅広い先にアプローチする事になり、新規顧客獲得が進みました。

3. KPIを通じて全社一体になれた

KPIを全社で共有する事で、全社の営業活動が見える化でき、営業一人一人が組織の現状を知ることができ、主体的に改善に動けるようになりました。

現在、研修実施回数、WEBinsource獲得数などは、月次で投資家など外部の利害関係者に公表しています。

社長としては数字が悪いと投資家から問い合わせが増えてしんどいですが、積極的な開示をするのが上場企業の責務なのと外部監視があればやむなくがんばれるので、上場直後から続けています。

開発・広報部門もKPIマネジメントで見える化

KPIは営業部門だけでなく、全部門で導入すべきだと考えています。インソースではコンテンツ開発部門やマーケティング部門などほとんどの部署にKPIを設定し、投資家に公表しています。

内部の仕事も社外から見える化する事で、みんながんばるので、商品開発やWEBマーケティングも大きな成果を上げています。我ながらうまい手だと思っています。

>2025年9月期 連結業績及び中期経営計画「Road to Next2028」P.15(PDF)

KPI設定は全社視点を持つべき~立場が弱い部署が困らないKPIか要確認

KPI作りは経営者が深く関与することが大事です。一歩引いたところから全体を俯瞰し、全社利益と強く相関するKPIを設定する事が重要です。気を付けていないと、部門最適化したKPIが設定されがちです。

特に、本社管理部門の業務改善を目的としたKPI設定には要注意です。管理部門にとっては工数削減のための良いKPIでも、本社以外の部門の手間やリスクが増えるものなら本末転倒となります。立場が弱い部署が割を食うようなKPIが設定されない様に経営視点で全社最適化したKPIかどうかよく確認すべきです。

KPIは万能ではない~経営幹部、管理職は成果管理もすべき

KPIが伝統になってしまい、長年同じKPIを使ってしまうと、現状や外部環境にあわなくなってしまいます。当社でも創業から時間がたち、習熟した社員が増えたにもかかわらず同じKPIを使い続けた事による弊害が出た事もあります。

また、KPIだけ達成し、売上や利益などの達成はお留守になっている場合もあります。最終的に企業は売上や利益など成果を評価されるので、若手はKPI管理で良いとしても、管理職や経営幹部は成果管理も重視すべきです。

プロセス管理も成果管理も経営マネジメントであり、業績拡大のため、社員の現状、業務プロセス、顧客などを分析し、時々に変えていく必要があります。

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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)

1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。

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