部下に指示待ち時間を作らない|生産性向上の方法論4
『部下が指示待ちになり、自部署の生産性が低い』こういったご相談を受けることがよくあります。大抵の場合、2つの原因が存在すると考えます。また、2つの原因が複合している場合もあります。今回は、この問題について書きます。
原因1.部下の熟練度が低いので、多くの仕事を切り出して渡せない
原因2.そもそもタスクの切り出し方が間違っているので、手待ちが発生する
1. 部下の熟練度が低い~単調だが重要な仕事をこなさせることで熟練度をあげていく
銀行に入行した際、最初に命じられたタスクは、300枚もの手形の金額を集計し、手形交換所に15時の閉店後1時間で持ち出すという作業を与えられました。初日は集計するたびに計算結果が違い、結局、先輩に作業を代わってもうはめになり、焦りとふがいなさから涙が出てしまいました。年下の女性の先輩から「泣いてるの?大丈夫」と心配される始末。自分は事務作業に向いていない、もう辞めようとまで思いました。過日、100枚づつ確実に計算しのちに合算するという方法を思いつき、なんとか一人でこなせるようになった時は嬉しく、誇らしかった事を今でも良く覚えています。
熟練度が低い部下には、単調ではあるが、自らの裁量で工夫しながら行うタスクを与えて、一人前に育成していくのが良いと考えます。これは、20世紀を代表する知識人の一人で、1950年 ノーベル文学賞を受賞した、イギリスの哲学者、数学者のバートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872-1970)が提唱した「実りある単調さ(fruitful monotony)」という考えにも合致したものです。
その際、工夫して頑張ればできる難易度の量のあるタスクを与えて、その進捗をサポートしていくのが、部下が育つコツだと考えます。その際、部下が絶対にできないようなスケジュールとか目標を与えるのはハラスメントになるので注意をしてください。
2. そもそもタスクの切り出し方が間違っている
部下が指示待ちになる原因としては、上司が部下に渡すタスクの切り出し方が問題ではないかと思います。
社長をしていると、「俺のアシスタントをしてくれる部下をよこせ」と言う面倒な人が時々います。自分が思いついたときにコピーを取るとか、ファックスの送信をするとか、自分が会議で使う資料作成など、自分でもできるが、ちょっと面倒な指先のタスクを手伝ってくれる人が欲しいのです。こういった人の部下は、必ず指示待ちになります。指先のタスクを切り出して分業するのではなく、部下が、一人で自立して遂行できる業務を考え切り出すのが大事になってきます。
営業部門を例に話せば、部下を上司のアシスタントにするのではなく、上司が営業リストを作り、部下がその先にDMを出し、フォロー電話まで行うタスクを与えれば、部下はそのリストが終わるまで主体的にタスクをこなすことができます。こういう切り出し方を意識して行えば、指示待ちは減らせます。
タスクの切り出しは指導・教育とワンセットで
ただその際、営業レターの書き方を知らない部下であれば、先に丁寧に手紙の書き方を教えなければなりませんし、誰でもうまく話せる営業電話の方法を教えておかないと途中で嫌になってしまうかもしれません。つまり、タスクの切り出しと教育をセットで実行する事が大事です。
(ちなみに、誰でも上手く話せる営業電話は「お送りした資料は到着していますでしょうか?」です。到着している場合は「ご覧になっていかがですか?」と言えばいいし、「到着していない」と言われれば「また送ります」と言えば次につながります。)
なお、ベテランにタスクを切り出す際、「私にはできない」と言われがちです。ベテランになればなるほど失敗を予見し、チャレンジを怖がるからです。ベテランにも教育の機会を提供するのが重要です。プライドを傷付けず、成果をあげるには、「ゆっくり」教育がカギです。研修業で得た経験で申し上げれば、40代が新しい事を覚えるのにかかる時間は20代の2倍以上です。
関連する研修
リーダーシップ研修~チャレンジングな姿勢と強かな変革力
部下の熟練度に合わせた仕事の与え方について具体的に言及している研修です。
部下とのコミュニケーション実践研修~多様化する部下への関わり方
相手に合わせて仕事の渡し方を変えることの重要性を伝える研修です。
ベテラン世代の輝かせ方研修~年上の部下への関わり方を学ぶ
ベテラン世代への仕事の与え方のポイントを学ぶ研修です。
<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
生産性向上の方法論シリーズ





