【マーケティング】市場を予測しきれないとき、どう動くか~起業家の行動原則「エフェクチュエーション」に学ぶ

「市場や顧客について何をどこまで調べれば、施策や事業化に踏み切れるのだろうか」新しい市場への参入や新規事業を検討する際、市場調査や顧客ニーズの分析は欠かせません。
しかし、どれだけ調査・分析を重ねても、将来の市場動向や顧客の反応を正確に予測することはできません。判断の裏付けを求めて検証を続けるうちに、次の一歩を踏み出せなくなってしまうこともあります。
こうしたときに参考になるのが、「エフェクチュエーション」です。未来を予測してから行動するだけでなく、今ある資源や人とのつながりを生かして行動し、その結果から新たな機会を生み出していく考え方です。今回は、基本となるマーケティングの考え方を確認したうえで、先の見通しが立ちにくい状況で事業の可能性を切り開く視点を紹介します。
このコラムはインソースが開講している、1科目から学べるプレMBA「神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知」(東京・有楽町開催)より、講座の一部をご紹介しております。
マーケティングの基本
マーケティングは、市場や顧客を分析し、誰にどのような価値を提供するかを明確にすることが重要です。市場調査や顧客ニーズの分析を通じて仮説を立て、検証しながら戦略を具体化していくのが、基本的な進め方です。
こうした分析に使われる代表的なフレームワークのひとつが「STPマーケティング」です。STPとは、次の3つのプロセスで構成されます。
- セグメンテーション(Segmentation):
市場をニーズや特性などによって細分化する - ターゲティング(Targeting):
細分化した市場の中から、ねらう顧客層を選定する - ポジショニング(Positioning):
ねらう顧客層に対して、競合との違いを踏まえ、自社の商品・サービスの価値や位置づけを明確にする
このようなフレームワークを活用することで、市場の全体像を捉え、自社が注力すべき顧客層や競合との差別化の方向性を検討できます。
しかし、起業や新規事業では、そもそも次のような問題があります。
- どのような顧客ニーズが存在するのか、まだわからない
- どのような商品・サービスが受け入れられるのか、予測できない
- 仮に調べられたとしても、競合の動きや市場の構造そのものが、事業の進展とともに変化する可能性がある
つまり、予測の精度を高めようにも、その前提となる情報が十分に揃っていないことがあるのです。では、不確実性の高い場面では、どのように事業の可能性を探ればよいのでしょうか。
経験豊富な起業家の行動原則~エフェクチュエーション
そこで参考になるのが、起業家研究で知られるサラス・サラスバシー(Saras Sarasvathy)が、複数の事業を立ち上げてきた経験豊富な起業家27人の意思決定を分析して整理した「エフェクチュエーション(Effectuation)」という考え方です。この起業家たちに、仮想の新商品について市場の特定などの意思決定課題に取り組んでもらいました。
その結果、多くの起業家は、目標から逆算して手段を選ぶだけでなく、手元にある資源や人とのつながりを起点に、行動しながら事業の可能性を広げるという手段も用いていることがわかりました。
コーゼーションとの違い
エフェクチュエーションとよく対比されるのが「コーゼーション(Causation)」です。
- コーゼーション(Causation):
達成したい目標を定め、将来を予測しながら、目標達成に必要な手段を選ぶ - エフェクチュエーション:
今ある知識・技術・人とのつながりを起点に行動し、コントロールできる範囲で実現できる可能性を探る
この相対する二つの考えは、どちらか一方が常に正しいというものではありません。市場や顧客のニーズを予測できる場合には、調査・分析に基づいて計画を立てることが有効です。一方で、十分な情報を集めても先を読み切れない場合には、手元にある資源を生かして行動し、新たな機会を探ることが有効な選択肢となります。
エフェクチュエーションを構成する5つの原則
エフェクチュエーションでは、意思決定の考え方を次の5つの原則で説明しています。
①手中の鳥の原則(Bird in Hand)
いま、自分たちが持っているものを起点にするという考え方です。
新しい事業を考える際、理想的な市場や必要な条件を先に定めるのではなく、「自分たちは何者か、何を知っているか、誰とつながっているか」を出発点にします。保有する情報や技術、知識、これまで築いてきた組織内外との人間関係などを生かすことで、実現可能な行動を考えます。
②許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
失ってもよい範囲を基準に行動を決めるという考え方です。
将来の収益を正確に予測することが難しい場合でも、投入できる資金や時間、人員などの範囲をあらかじめ考えることはできます。仮に失敗しても「良い勉強になった」と思える程度の小さな投資であれば、不確実性が残る中でも最初の一歩を踏み出しやすくなります。
③クレイジー・キルトの原則(Crazy Quilt)
さまざまな関係者と協力し、事業の可能性を広げるという考え方です。顧客や取引先、協力者などと、それぞれの知識や技術、人脈などを持ち寄ることで、当初は想定していなかった事業の方向性が見えてくることがあります。関係者との協力を通じて、実現できることや目指す方向が変わるため、最初に描いた目標や方針に固執せず、柔軟に見直すようにします。
④レモネードの原則(Lemonade)
予想外の出来事を、機会として生かすという考え方です。
事業を進める中では、想定と異なる顧客の反応や、計画どおりに進まない出来事が起こります。そうした事態を単なる失敗として片づけるのではなく、新たなニーズや事業の可能性を発見するきっかけとして活用します。
⑤飛行機のパイロットの原則(Pilot in the Plane)
未来を予測することだけに頼らず、自らの行動によって未来を形づくるという考え方です。
市場の変化を完全に予測することはできません。しかし、自分たちが何をするか、誰と組むか、どのような価値を提供するかは主体的に選択できます。未来を待ち受けるのではなく、自らの行動によって方向を変えていこうとする姿勢が重要です。
この5つの原則は、不確実性の高い状況で、何を起点にし、どこまでリスクを取り、誰と協力しながら事業を進めるかを考える手がかりになります。
市場を分析するだけでなく、自ら機会を生み出す
市場や顧客を徹底的に分析しても、将来の反応をすべて予測できるわけではありません。大切なのは、わからないことが残る中でも、何かを手がかりに行動し、得られた反応を次の判断につなげることです。
エフェクチュエーションは、今ある資源を生かして行動し、顧客や協力者との関わりを通じて、事業の可能性を広げていく考え方です。分析によって市場を見極めるだけでなく、行動を通じて新たな機会を生み出す。この視点が、不確実性の高い状況で次の一歩を踏み出す助けになります。
分析と行動は、どちらかを選ぶものではありません。分析で減らせる不確実性は減らし、減らしきれない部分は行動で確かめる。市場を見極める力と、不確実な状況で機会をつくる力。その両方を使い分けることが、マーケティングを実践するうえで求められます。
もし今、「あと何を調べれば、踏み切れるだろうか」と立ち止まっているなら、「今あるもので、失ってもよい範囲で、何を試せるだろうか」と考えてみてはいかがでしょうか。問いを変えることで、次の一歩が見えてくるかもしれません。
経営の視野を広げる
マーケティングは、商品やサービスを売るための施策にとどまりません。市場や顧客を理解し、経営資源をどこに投入するかを判断し、顧客に提供する価値を形にしていく、経営活動の一つです。市場分析によって方向性を検討する場合も、限られた資源を生かして新たな機会を探る場合も、複数の視点を組み合わせて判断することが、より実践的な意思決定につながります。
今回紹介したエフェクチュエーションも、その一例です。「失ってもよい範囲」を決めるには財務・会計の視点が、「今ある資源」や「協力者」を生かすには組織・人材の視点が、限られた資源をどこに投じるかを決めるには経営戦略の視点が欠かせません。
こう聞くと、経営を一から学ぶのは大変そうだと感じるかもしれません。とはいえ、経営を体系的に学ぶためには、必ずしもMBAのような資格を取得する必要があるわけではありません。実際の経営課題を題材にしながら、経営について考えるための知識や視点を学び、日々の判断に活かしていく。そうした実践的な学び方もあります。
第3期プレMBAプログラム「神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知2026」
経営について改めて学びたいけれど、MBAのように長期間かけて学ぶのは難しい。経営の専門領域を個別に学ぶだけでなく、それらを経営という大きな視点から捉えてみたい。こうしたニーズに応える学びの場として、インソースでは、神戸大学MBA教授陣による「経営学の実践知」を提供しています。このコラムでは第2回、「【プレMBAコース2】マーケティング」の内容についてご紹介しました。
2026年度は、MBAのコア科目である戦略論、マーケティング、財務会計などに加え、「経営哲学」「ビジネスデータ分析」を含む全8科目を開講。各科目は1日で完結し、講義だけでなくケース討議・演習を通じて、経営学の知識を実際の判断につなげる構成となっています。経営を一つの専門領域だけから捉えるのではなく、さまざまな経営知を組み合わせて判断する力が求められる今、こうした実践的な学びを通じて、普段の経営を一段深く考えてみてはいかがでしょうか。
2026年度 開催概要

- 開講期間:2026年10月2日より、毎週金曜日 13:00〜18:00
- 会場:インソース 有楽町セミナールーム(JR有楽町駅より徒歩1分)
- 受講形態:1科目から受講可能(事前課題あり)※5科目以上の受講で修了証を発行
- カリキュラム(全8科目):
- 経営哲学>2026年10月2日
【プレMBAコース1】経営哲学:東洋思想から学ぶ、「正解のない経営判断」のための知恵<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - マーケティング>2026年10月9日
【プレMBAコース2】マーケティング:起業家的機会をとらえるエフェクチュアル・マーケティング<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - ビジネスデータ分析>2026年10月16日
【プレMBAコース3】ビジネスデータ分析:データという迷宮を、あるべき場へと接続する手法と実践<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - 財務会計>2026年10月23日
【プレMBAコース4】財務会計:ビジネスパーソンの共通言語である財務諸表の体系的な理解と分析手法<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - 組織行動論>2026年10月30日
【プレMBAコース5】組織行動論:多様性を活かし成果を生み出す、インクルーシブ・リーダーシップの実践<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - ビジネスエコノミクス>2026年11月6日
【プレMBAコース6】ビジネスエコノミクス:経済学の分析モデルを企業経営の意思決定に活用する実用的知見<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - 戦略論>2026年11月13日
【プレMBAコース7】戦略論:戦略理論とスピンオフ企業の事例から読み解く、新規事業創出の条件<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知> - 技術経営>2026年11月20日
【プレMBAコース8】技術経営(MOT):技術を基点としたイノベーションのための組織と人材マネジメント<神戸大学MBA教授陣に学ぶ経営学の実践知>
- 経営哲学>2026年10月2日
プログラムの詳細およびお申込みについては、インソース事務局までお気軽にお問合せください。
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