組織全体のパフォーマンスを底上げする「コンピテンシーモデル」の構築法~ハイパフォーマーの行動を可視化する

基礎的な教育体系は整備したものの、さらなる成果向上を目指したい―。そんな組織にとって有効なアプローチが「コンピテンシーモデル構築」です。
本コラムでは、単なる業務スキルの洗い出しに留まらず、ハイパフォーマーの成果に直結する「行動」を抽出し、組織全体のパフォーマンスを底上げするためのコンピテンシーモデル構築に向けた具体的なプロセスや効果、注意点を詳しくご紹介します。
なぜコンピテンシーモデルが必要なのか?~単純な業務分析では見つからない「鍵」
業績向上のためには、社員一人ひとりの能力向上が不可欠です。成果のばらつきをなくし、組織全体の平均値を引き上げるためには、明確な基準をもって教育を行う必要があります。一般的には、「スキルマップ」などの教育体系ツールを使用します。
ハイパフォーマーの「行動」に焦点を当てるアプローチ
一方、コンピテンシーモデルの構築は、スキルマップのように「何の業務ができるか」に着目するアプローチとは異なります。最大の特徴は、高い成果を出す個人が「どのような行動をとっているか」に焦点を当てることです。
単純な業務分析では見えてこない「成果の鍵」
基礎的な業務プロセスがすでに最適化されている組織がさらに上を目指す、いわば「基礎トレーニングはもうしているが、ライバルと差をつけるためのコツやテクニックが欲しい」場合に、このアプローチは極めて有効です。単純な業務分析では見えてこない、成果の鍵となる行動を発見することができます。
コールセンター、営業事務、経理などのバックオフィス業務など、業務内容が比較的定まっている仕事で特に効果を発揮します。
コンピテンシーモデル構築の具体的なプロセス
では、実際にどのようにして成果に繋がる「行動」を抽出し、モデル化していくのでしょうか。その具体的なステップを見ていきましょう。
STEP1:ハイパフォーマーの選定
最初且つ、最も重要なステップが「誰をハイパフォーマーと定義するか」です。この選定には重要な観点があります。
それは「必ずしも結果(売上など)を出している人が理想とは限らない」という点です。例えば、目先の成果だけを追い求め、社内の他者の売上を奪うような行動をとる人は、組織として目指すべき姿とは言えません。 選定基準は多岐にわたりますが、人柄も考慮すべき要素の一つです。
この選定には、リーダー層の価値観や、組織をどう作っていきたいかという経営陣の理想が強く反映されます。
STEP2:インタビューとアンケートによる行動特性の抽出
次に、選定されたハイパフォーマーへのインタビューをワークショップ形式で行い、「なぜその行動をとるのか」といった背景を深く掘り下げます。
そこで得られたヒントを元に数十項目のアンケートを作成し、対象部署の全社員に実施します。ハイパフォーマーとそれ以外の社員で回答の点数に大きな差が出た項目こそが、成果を分ける可能性のある行動の候補となります。
STEP3:コンピテンシーのレベル定義とモデルシート作成
絞り込まれた5~8項目程度のコンピテンシー候補について、行動のレベルを5段階で定義します。
- レベル1:やっていない
- レベル2:言われてやる(受け身)
- レベル3:通常
- レベル4:自分なりの改善を加え、創造的に行っている
- レベル5:組織や周囲の仕事のやり方まで変えるレベルで実践している
最終的に、各コンピテンシーと5段階のレベルについて、具体的な行動にまで落とし込んだ「コンピテンシーモデルシート」を作成します。
STEP4:組織への浸透と活用推進
コンピテンシーモデルの完成はゴールではありません。重要なのは、それをいかにして組織に浸透させ、活用していくかです。とはいえ、モデルが完成すれば、成果に繋がる行動基準が明確になるため、その後の取り組みは迅速に進めることができます。
作成されたコンピテンシーモデルシートは、OJTや目標管理といった既存の人材育成の仕組みと連携させることで、その効果を最大化します。
- 目標管理との連携:社員一人ひとりが具体的な行動目標として設定し、日々の改善活動を促すための明確な基準となります。「どの行動が成果に繋がるか」が分かっているため、的確な目標設定が可能です。
- OJT・研修との連携:OJTでは、上司がハイパフォーマーの行動を基準に具体的な指導やフィードバックを行えるようになります。また、研修の場では、単にモデルを説明するだけでなく、「なぜこのモデルを作ったのか」という背景や、「これを使えば自分の行動を成果の出やすい方向に変えていける」という目的を明確に伝えることが重要です。
- 伴走支援の活用:導入初期には専門家による「伴走支援」も効果的です。本来は上司が担うべき役割ですが、新しい仕組みの定着には困難が伴うこともあります。そこで、コンサルタントなどが直接従業員に対して使い方や意義を説明し、活用をサポートすることで、現場での確実な落とし込みを支援します。
【事例】ある専門事務職のコンピテンシーモデル
これは、専門家が提出する申請書類を審査し、規定上の不備や矛盾点を見抜く非常に複雑な事務業務の事例です。
成果に影響しなかった要素
普段から関連ニュースを見ているか、といった一般的な情報収集の行動は、ハイパフォーマーとそうでない人の間で差が出ませんでした。
成果に影響した行動
- 「過去の判断結果を振り返る」:ハイパフォーマーは、自分が「要確認」として差し戻した案件が、最終的にどう判断されたかを確認し、その経験を次の審査に活かしていました。
- 「申請者ごとの傾向を把握する」:ハイパフォーマーは、申請を出す専門家ごとの過去の傾向(どのような点で指摘を受けることが多いかなど)を独自に分析し、効率的に審査対象を見極めていました。
- 「意思決定者と直接交渉する」:ハイパフォーマーは、最終的な意思決定者との人間関係を構築し、書類だけでは伝わらない背景を直接対話で補足することで、判断を覆すことがありました。
- 「仕事を楽しむ」:全体を通して言えることとして、ハイパフォーマー達はこの複雑な業務をまるで「ゲーム」のように捉え、楽しんで取り組んでいる傾向がありました。
副次効果~組織内の目線が揃う
コンピテンシーモデルの構築は、組織のパフォーマンスに差を生み出すだけでなく、組織内の「目線を揃える」という副次的な効果ももたらします。
「サッカーチームのオーナーと監督で、欲しい選手像が違う」というような状況では、一貫したチーム作りはできません。このプロセスを通じて、組織として「どのような人材を目指すのか」という共通認識を醸成できるのです。
上層部が自身の成功体験に囚われ、過去のハイパフォーマー像を押し付けてしまうケースもあります。ビジネスの「ゲームのやり方」が変化している現代においては、今の時代に合ったハイパフォーマー像を定義し、組織の目線を未来に向けて揃えることが不可欠です。
まとめ:再現性のある「勝ちパターン」で組織を強化する
コンピテンシーモデルの構築は、一部のスタープレイヤーの才能に依存するのではなく、組織としての「勝ちパターン」を可視化し、誰もが実践できるレベルに落とし込む取り組みです。
ハイパフォーマーの行動を分析・体系化し、具体的な目標として全社で共有すること。これは、社員一人ひとりの成長を促し、組織全体のパフォーマンスを底上げする、再現性の高い人材育成の仕組みと言えるでしょう。
コンピテンシーモデル構築支援
本サービスでは、ハイパフォーマーへのインタビューを実施し、ハイパフォーマンスを実現する思考・行動特性を調査・分析することにより、ハイパフォーマーが持つ行動・思考特性(コンピテンシー)の顕在化をご支援いたします。
これにより、到達すべき業務遂行力の明確化と社員(職員)の自己啓発の推進、研修や日常的なOJTなど育成支援に活用していただけます。
どの組織でも当てはまるような一般的なモデルの構築ではなく、 貴組織の実務に直結したきめ細かいコンピテンシーモデルの構築をご支援いたします。
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