行政の「暗黙知」を可視化する3ステップ~経験依存から業務改善へ
行政の現場には、経験や感覚で培われた「暗黙知」が数多く存在します。
暗黙知が文書化されないまま属人化すると引き継ぎや業務改善を難しくします。
本コラムでは、暗黙知の可視化を通じて行政の業務改善を進める具体的な手法を解説します。
暗黙知の課題と組織的影響
「暗黙知」とは、長年の経験やノウハウ、直感、勘、イメージといった経験的知識として語られる知識のことです。「勘どころ」や「企業文化」のように、文書化されていないが、組織の中にいる人たちには共有されていないようなナレッジが典型的なものです。行政現場では、次のような形で多く見られます。
- ベテラン職員しかわからない「この地域特有の住民対応」
- 記録に残らない補助金事務の勘所やチェック方法
- 「○○課のあの人に頼めば早い」という非公式な庁内調整や「頼れる人脈」
- マニュアルにない「議会質問への裏対応」
こうした暗黙知は、現場の柔軟性を支える一方、担当者が異動・退職すると失われやすく、再現性の低下・ミスの増加を招きます。
暗黙知がもたらす3つの弊害~業務停滞・非効率な情報共有・改善の遅れ
行政における暗黙知には次のような問題があります。
- 属人化による業務停滞
特定職員しかできない業務が多いと、異動や退職時に業務が滞ります。 - 非効率な情報共有
口頭伝承や経験依存のため、業務の標準化・効率化が進まず、同じミスを繰り返す可能性があります。 - 業務改善の遅れ
手順や判断基準がデータ化されていなかったり明確でないと、どこを見直せば良いのかが分からず、改善やDXも進みにくくなります。
暗黙知は現場を支える一方で、組織の業務効率化を阻む要因にもなります。
暗黙知の可視化が業務改善につながる3つ理由~安定化・成長の促進・創造の加速
暗黙知を「可視化」することは、単に情報を残す作業ではなく、業務改善の出発点です。知識を明確にすることで、判断の根拠や業務の流れが共有され、業務の質とスピードが向上します。暗黙知の可視化は、以下のような効果を期待できます。
- 再現性と業務の安定化
業務手順や判断基準が明確になることで、誰が担当しても一定の品質で仕事を進められるようになります。属人化の解消により、異動・退職時にも業務が滞らず、安定的な行政サービスの提供が可能となります。 - 知識の継承と成長の促進
ベテラン職員の持つ勘所やコツを形式知として共有することで、新人育成のスピードと質が向上します。また、職員間での知識循環が生まれ、学び合う文化が組織全体に定着します。 - 業務改善と価値創造の加速
可視化された知識をもとに業務を分析することで、非効率な手順や重複作業を見直し、改善策を導きやすくなります。さらに、知識が資産として蓄積されることで、新しい発想や政策立案など、イノベーションの基盤にもつながります。
このように、暗黙知の可視化は「ナレッジ共有」と「業務改善」の両輪として機能します。
暗黙知を可視化するための3ステップ~目的の明確化・ナレッジ抽出・ナレッジ保存
暗黙知の可視化とは、個人に蓄積された知識や経験を組織で共有・活用できる形に変えるプロセスです。以下のような大きく3つのステップで進めることで、効率的かつ実践的にナレッジを可視化し、活用につなげることができます。
ステップ1 目的の明確化(状況に応じてマネジメントするナレッジが変わる)
まず、「なぜ暗黙知を可視化するのか」「どの業務でどのように活用するのか」といった目的と対象範囲を明確にします。暗黙知のマネジメントは、業務の性質によって重点が異なる点にも留意する必要があります。
- 定型的な業務の場合
手順や進め方を抜け漏れなく簡潔にまとめ、マニュアルなどの形で共有することが有効です。また、経験を通じて身につくノウハウもしくみとして業務プロセスに組み込むことで、誰もが短期間で高い成果を上げられるようになります。 - 判断やバランスによって成果に差がつく仕事の場合
手順だけでは成果が上がりにくい業務では、成果を上げている人の「コツ」や「ポイント」を抽出し、共有・展開することが重要です。これにより、属人的な判断を組織的な知として活かすことができます。 - 喪失しかねない貴重なナレッジを残したい場合
特定のベテランに依存している業務では、手順もノウハウも属人化しやすく、引き継ぎが困難になります。まずは業務の流れを明らかにし、そのうえで後継者教育や共同作業を通じて、経験知を移植・継承していくことが求められます。
ステップ2 ナレッジを抽出する(ヒアリングと行動分析)
次に、現場で働く職員や担当者から、業務の中に埋もれている暗黙知を掘り起こします。主な手法は次の2つです。
- ヒアリング:手順と判断基準に分けて洗い出す
暗黙知は本人も自覚していない場合が多いため、丁寧な聞き取りが重要です。業務の「手順」を確認したうえで、判断を要する場面では「なぜそうしたのか」「どんな基準で選択したのか」を深掘りします。「自分だったら同じ判断ができるだろうか」との視点をもって対話すると、表出していない知識を引き出しやすくなります。 - 行動分析:観察を通じて補う
実際の業務を観察し、本人が無意識に行っている動作や工夫を記録します。何気ない行動や反応の中に、本人が意識していない重要なノウハウが含まれている場合があります。ちょっとした行動における「なぜだろう?」といった点を観察することで、当人が意識していない重要な行動や姿勢が読み取れる場合があります。
ステップ3 ナレッジを保存する(形式化して伝える)
抽出したナレッジは、誰が見ても理解し、同じように実践できるようにわかりやすく整理して伝えることが大切です。ナレッジの内容が「順番に進む作業」や「決まった流れ」を持つ場合は、比較的整理しやすく、業務の流れをフローチャートで示したり、仕事の進め方をマニュアルとしてまとめたりすることで、再現性が高まり、引き継ぎや共有が容易になります。
一方で、「判断」や「選択の仕方」といった経験や勘に基づく内容については、その時の基準や考え方の枠組みをフレームワークとして整理すると、コツやポイントが伝わりやすくなります。判断の着眼点や注意点をチェックシートやガイドラインの形でまとめることで、状況に応じた対応がしやすくなります。
【図】フロー図の例 ~金融機関取引先への融資におけるフロー

暗黙知を可視化することで、「人に依存する組織」から「仕組みで動く組織」へと変化できます。行政現場の経験値は、単なるノウハウではなく「住民と向き合う力」の蓄積でもあります。暗黙知の可視化は、属人化を防ぐだけでなく、継続的な業務改善と組織学習のサイクルを生み出す仕組みとして非常に重要です。
インソースグループでは、こうした行政現場の課題に対応し、暗黙知の形式知化と業務改善の推進を支援する多様なサービスを提供しています。ぜひご活用ください。
暗黙知強化研修~「言葉にできない感覚」を鍛え、組織に浸透させる
言葉では表現・伝達しづらい「暗黙知」の重要性を再認識し、その伝え方を学ぶ研修です。暗黙知が形成されるプロセスをおさえ、いかにして自分のスキル・能力として蓄積し増やしていくかを考えます。また、独自開発した「暗黙知プロセス図」を作成するワークを通して、業務改善や部下指導に応用する方法を身につけます。
よくあるお悩み・ニーズ
- 自分のスキルやノウハウが、なかなか部下に伝わらない
- チームの人員の層が薄く、大事な仕事を任せられる人が限られている
- メンバー一人ひとりの実力を底上げしたい
研修のゴール
- 暗黙知の性質と鍛え方を理解する
- どうすれば部下の暗黙知を育てられるかがわかる
セットでおすすめの研修・サービス
ナレッジマネジメント研修~暗黙知を伝承する
「高い売上を継続する営業社員の方」「仕事を効率よくこなす事務職の方」といった優れた人材は、長年の経験・ノウハウ・直感・イメージといった「暗黙知」を持っているものです。
この優れた人材が持つ「暗黙知」を分析し、マニュアルなどに落とし込むことができれば、組織の大きな発展につながります。本研修では、顕在化・潜在化しているナレッジ(知識)やノウハウを共有する意義と、その手法を理解し、実際に共有するための具体的な方法や運用方法を学びます。
業務フロー作成研修~業務の視覚化で、改善やリスク管理につなげる
まず業務フロー作成の意味と作成方法を学びます。その後、特にリスク管理の観点から、実際に業務フローの作成方法を習得していただきます。行政のような非正規雇用の従業員の比率が高い職場や社員の異動が多い部署にとっては、特に役立つ研修です。
行政向け業務スクラップ研修~ボトムアップで進める業務改善(1日間)
自身の業務の棚卸、ムダ業務の検証、スクラップの実施という3つの手順に沿って学びます。研修内のワークで、自組織の業務について見直しを行い、最終成果物として業務スクラップ企画書を作成することで、研修後すぐに効率化に役立てることができます。








