
突然ですが、皆さまは「仕事」に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「働くことは楽しい」と考える人もいる一方、「やりがいがなくてつまらない」、「生計を立てるために我慢してするもの」、というネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。しかし、仕事が辛いのは当たり前だ、と無理に自分を納得させて働く状態が続くと、その人の心に少しずつダメージが蓄積し、やがて大きく健康を損なうことにもなりかねません。
組織のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態であること)向上が重視される現代、どうしたら自組織の従業員が、自分の仕事にやりがいを感じ、日々楽しく健康的に働けるようになるのか、弊社のお客さまからもよくお悩みをお聞きします。
そこで、近年多くの組織で注目されている、すべての働く人がやりがいをもって、活き活きと働くことを楽しみながら、組織の成長も実現させる「ワーク・エンゲイジメント」の理論についてお伝えします。
ワーク・エンゲイジメントとは、オランダの心理学者である、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授を中心に提唱された概念です。「働き手が仕事に誇りをもち、仕事にエネルギーを注ぎ、仕事から活力を得て活き活きしている状態」のことを指します。
シャウフェリ教授は元々、仕事に疲弊し、働く意欲を失う「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の状態を無くすことで、働く人の幸せに貢献したいと考えていました。しかし、人々が根本的に幸せになるためには、バーンアウトを失くす研究より、人生の大半を費やす仕事の時間が楽しくなる研究の方が必要なのではないか――そう考えたシャウフェリ教授がたどり着いたのが、ワーク・エンゲイジメント理論です。
■ワーク・エンゲイジメントの状態を表す「3つの局面」 ワーク・エンゲイジメントとは、ポジティブで達成感を伴う仕事上の心的状態を意味し、バーンアウトの対概念として位置づけられています。具体的には、以下の3つの局面が揃っている状態を指します。
・活力:仕事をすることで力がみなぎり、活き活きしていると感じる。 ・熱意:自らの仕事に誇りややりがいを持ち、仕事に熱中している。 ・没頭:自分の仕事に完全に熱中し、自分がすることに喜びを感じている。
この3つの局面が揃い、ワーク・エンゲイジメントを実現できている働き手は、仕事によってやる気がみなぎり、ワクワクしながら成果をあげることができます。我慢して働いている人と違い、自分の仕事に進んで努力し、工夫を重ねる意欲があるので、困難にぶつかっても粘り強く対応したり、新たなイノベーションを創出しやすくもなります。
■「フロー(状態)に入る」のと何が違う? ワーク・エンゲイジメントと似た状態に「フロー」があります。フローとは、人が完全に集中して、時間が経つのも忘れて夢中になっている心理状態をいいます。例えば、人がゲームなどに深く没入すると、並外れた集中力を発揮するとともに、満足感や自己統制感の高まりを感じることがよくあります。これがフローと呼ばれる状態です。
フローが特定の分野に対する短期のピーク経験を指すのに対し、エンゲイジメントの対象は広範囲に渡り、かつ熱中する状態が持続するという点が大きく異なります。
ワーク・エンゲイジメントは、以下2つの資源から生み出されると考えられています。
(1)個人の資源 「個人の資源」は、ポジティブな心理的状態を生み出すための資質や特性のことを指します。自己効力感(「私は達成できる」と自らを信じ、組織・チームに自分が貢献できていると感じる状態)や楽観性、レジリエンス(困難をしなやかに乗り越える力)といったものが該当します。
(2)仕事の資源 「仕事の資源」は、本人以外の外部(上司、先輩、後輩、顧客)から与えられる刺激のことで、目標の達成や、個人の成長、活動を活性化するための動因となるものです。仕事の資源には、自身に認められた裁量性や社会的な支援があること、正当な評価やキャリア開発の機会などが該当します。
この2つの資源が相互に影響し合うことで、ワーク・エンゲイジメントの状態が生み出されます。
そして、その状態が個人の業績アップや組織コミットメントの向上といった成果(アウトカム)につながり、アウトカムを得ることによって2つの資源が増強されると、さらにワーク・エンゲイジメントが高まる好循環が生まれます。
ワーク・エンゲイジメントは、働く人と組織それぞれにメリットをもたらします。
(1)働く人へのメリット・・・仕事のストレスを低減させる どんな組織にいても、自らの意思とは関係なく仕事を引き受けざるを得ない状況になることがあります。気が進まないままその仕事を続けても、モチベーションが下がり、ストレスが増えるばかりです。
ワーク・エンゲイジメント理論では、仕事の内容や、重い役割を任された際に発生する肉体的・精神的な負担感、ストレスのことを「仕事の要求度」といいます。
負担感やストレスと言っても、働く人にとって仕事の要求度が必ずしもネガティブに作用するとは限りません。困難な仕事ほど、"負けるものか"とモチベーションを高める「燃料」となり、個人の成長を促す場合もあります。
高い仕事の要求度を「燃料」に変えるために必要となるのが、仕事の資源と個人の資源です。この2つの資源によってワーク・エンゲイジメントの状態になっている人は、負担感のある仕事に対するストレス反応を低減させ、心身ともに健康で働き続けることが可能になります。
(2)組織へのメリット・・・組織全体の活性化 心身ともに健康で、やる気に満ちた働き手が多く存在すると、組織全体に活力があふれます。ワーク・エンゲイジメントの実現は、働く人のストレス軽減策や成長促進の要因になるだけではなく、組織全体のパフォーマンスや生産力を向上させる経営戦略にもなると言えます。
ポジティブな心理状態を生み出す個人の資源は、一人ひとりの内面にあるものです。しかし、自己効力感やレジリエンスといった個人の資源は、若いうちから豊富に備わっているのではなく、 仕事の成功体験を積み重ねることによって強化されるものです。まだ経験の浅い人に成功体験を積ませる ためには、周囲の支援、つまり外部から与えられる仕事の資源が欠かせません。
個人のワーク・エンゲイジメントを高めるためには、まずは仕事の資源を充実させるべく周囲の働きかけから始めることが有効です。
【仕事の資源を充実させるための働きかけ】
(1)仕事の成果を認める
自分の成果が他の人からポジティブに評価されることで、モチベーションが向上し、「また次チャレンジしよう」という前向きな気持ちになることができます。相手の記憶が鮮明なほど、褒められたことが印象に残るので、週に一度は相手を褒めることを心がけるとよいでしょう。
また、どれだけ成長できたか実感できるよう、できれば月に一度のペースでフィードバックするのがベストですが、難しければ半年に一度の評価面談の場で伝えましょう。
(2)相手の成長を促すコーチング 相手が仕事でつまずいていたり、悩んでいる時、「そんなこともできないのか」と上から目線で奮起を促すより、同じ目標を実現させる仲間として、相手を勇気づけるような声かけを行いましょう。これからどのように成長したいか、相手の未来に焦点を当てて話を聞くようにすると、相手は前向きな気持ちになることができます。
(3)個人に裁量を与える 組織の中で自ら意思決定できる範囲が広がると、より主体性を持って働くことができるようになります。相手の可能性を信じ、挑戦しようとするメンバーを支援、任せることで、相手の働きがいが高まるだけでなく、個人の潜在能力を引き出すことにもつながります。
(4)キャリア開発の機会を与える 相手の現状(強みややりたいことなど)と、組織からの期待を踏まえて、長期的な目標を設定する機会をつくります。ただ漠然と働くのではなく、目標を意識して働くことで身につけたい能力が明確になります。また、目標に向けて行動を起こし、達成したという経験が、達成感や成長実感を生み出し、モチベーションを高めます。
個人のワーク・エンゲイジメントは、周囲に「伝染する」と考えられています。これを「クロスオーバー効果」と言います。
長いキャリアにおいて、モチベーションが下がってしまう時期は誰にでもあります、そんな時でも、上司から部下へ、あるいはメンバー同士で、ポジティブな感情や行動を伝播しあえれば、浮上のきっかけを掴むことができます。
職場の誰かが仕事の意欲を見失っているのに気づいたら、周囲が「仕事の資源」を投入して再び活力を取り戻す。このような、ワーク・エンゲイジメントを高める体制が整った組織をつくることが、すべての従業員が長く健康的に働き続けるための重要な施策となります。
次回は、ワーク・エンゲイジメントの状態にある人が陥りやすい「ワークホリック」の問題や、長期的にワーク・エンゲイジメントを発揮するために必要な「ジョブ・クラフティング」についてお伝えします。
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