研修を語る
2024/07/18更新
(管理職向け)離職防止研修を語る ~部下との良好なコミュニケーションを考える
中小企業における若手の離職率
―離職防止のための研修ということですが、現実問題として企業における離職率はどれくらいなのでしょうか
弊社とお付き合いのあるお客さまに、課題としてどういうものがあるかをうかがうと、「社員がなかなか定着しない」というお悩みが多くあがりました。昨今では転職が当たり前になっていることもあり、自分の希望と合わない職場と判断した場合、社員が簡単に離れていきやすいようです。
この流れはかなり以前からあり、厚生労働省の雇用動向調査結果(※)によると、2020年の入職者は710.3万人、離職者は727.2万人で、離職率は14.2%。離職者が入職者を16.8万人上回っています。特に、大企業よりも中小企業にこの傾向は顕著で、30代くらいまでの比較的若い世代が目立ちます。
―それは企業にとっては深刻な状況ですね。本研修の受講者も、社員の離職にお悩みの組織が大半と考えていいでしょうか
そうですね。多くの方が「最近、社員の離職が続いている」「離職を予防したい」といった理由で受講されています。どちらかというと新卒よりも中途採用の社員が定着しない企業が多く、そのような組織には特におすすめしたいプログラムです。
―中小企業で離職率が高いとのことでしたが、受講者の企業規模も中小が中心ですか。業種、階層などにも特徴が見られますか
具体的なお悩みをお聞かせいただいた組織が中小規模の企業が多かったという背景はありますが、組織規模や業種に関しては特定しておりません。大企業でも離職率の増加は深刻な問題ですので、企業規模を問わずに受講いただけます。
階層に関していうと、本研修は管理職の方向けです。現場と直接コミュニケーションを取る係長や課長職クラスを想定しておりますが、それ以下の階層であっても部下を束ねる立場の方であれば、業務に役立てられると思います。
―離職防止というテーマで多くの会社が研修を展開していますが、その中でインソースの離職防止研修には、どのような特色がありますか
本研修に関しては、表題通りコミュニケーション面でのノウハウを中心にお伝えします。研修後、職場に持ち帰ってすぐに実践できるものを集めました。
会社の制度やルールを変えるのは難しくても、部下との良好なコミュニケーションであれば現場ですぐに取り組めます。なお、本プログラムの他にも採用者の早期活躍を支援する管理職向け研修と、半日間の人事担当者向け研修があり、会社の状況や課題に合わせてお選びいただけます。
豊富なコミュニケーション方法をご紹介
―この研修はサブタイトルに「部下との良好なコミュニケーションを考える」とあります。具体的にはどのようなことが学べるのでしょうか
現場で部下と接する管理職にとって、どのように管理・指導を行うのかは悩ましい問題だと思います。この研修ではそのようなポジションの方々へ向けて、いかに上手くコミュニケーションを取り、社員の離職を防ぐかというところに焦点を当てています。
―管理職にとっては非常に有用な情報ですね。その他にこの研修ならではのポイントがあれば教えてください
コミュニケーションに準じることではあるのですが、受講者が管理職層もしくはリーダー層を想定していますので、部下と1対1でやり取りする場面だけではなく、組織の風土づくりという面でも情報を組み込んでいます。
たとえば、ハラスメントにならない指導の方法など「こういう風にすれば、職場の雰囲気を良くしながら育成の精度も上がりますよ」といったヒントをお伝えします。部下との付き合い方も大事ですが、離職したいと思う雰囲気にならない職場のムード作りも重要だと考えます。
―テキストを拝見すると、部下との良好なコミュニケーションのためのテクニックが、非常にたくさん紹介されているのですが、その中でも最も重要な部分はどこでしょうか
離職防止研修のすべてに共通しているのが、細かなテクニックやアイデアなどを具体的に紹介するのと同時に、「相手を気遣うとはどういうことか」というマインドセットの部分を重要視しています。
会社の独自ルールを知らないばかりに居づらくなる人も
―コミュニケーションのノウハウの中で、最も難しい、あるいは注意が必要な点をあげるとしたら、どういった点でしょうか
どの部分が一番というよりも、各章それぞれにコミュニケーションにおいて見落としやすいところや指導のヒントを中心にご説明しています。例えば「思い込みで発信しない」というのは、自分ではなかなか気づきにくいものです。それを研修の中で振り返ることで、反省点の発見や今後の意識づけにつながると考えます。
また、弊社の多くの管理職研修で取り上げている「管理職が先に自己開示すること」や「褒める力をつけること」に関しても、具体的な信頼関係を築くうえでは非常に大切です。部下の話を聞く一方ではなく自分からも自らのありようをオープンにすることを苦手に感じる方も多いですが、離職防止のためのコミュニケーションにおいては、重要なカギとなります。
―研修のいちばん最初に「自身が誰かに気づかってもらいうれしかった経験」や「自身が人から教えてもらえず苦労した経験」を考えるワークがありますが、どのような目的で組み込まれているのでしょうか
このワークに取り組むねらいは、中途採用などで入社された方が、その会社の情報を十分に得られず苦労なさっていることが多い、という実情があるためです。例えば、どんな職場にも独自のルールがあると思いますが、それらをしっかりと説明されていないのであれば、当然失敗やトラブルを生みますよね。
そのような場合、入社した方が「事前に教えてもらいたかった」と思うのは当然ですし、さらに「自分だけが知らなかった」ことをネガティブにとらえ、離職につながることも往々にしてあります。逆に、誰かが気遣ってくれた・困っていることを察してもらえたと感じられたら、組織に良い印象を抱きます。小さなことですが、これが定着率の向上につながるのです。
―受け入れ側のメンバーが経験からフォローできることは多いですよね。しかし、在職期間が長くなるほど「自分も過去に経験したことだけど忘れていた」という方も増えてきそうですね
確かにそれはあります。役職が上がっていくうち、周囲から気遣われる立場になっていきますので、過去の苦しかった体験を忘れてしまいがちです。だからこそこの研修でしっかりと思い出し、自分はきちんと他者に気遣いができているのだろうかと、再確認する機会を作ることが重要だと考えます。
無意識の思い込み・決めつけは危険
―先ほど少し触れた「思い込み」が、第2章に登場します。管理職が注意すべきことのひとつとして取り上げられていますが、具体的にはどのような失敗をしている方が多いのでしょうか
管理職たる方はその組織での社歴が長く、年齢も高い人が多いと思います。そのような場合、どうしてもご自分の経験をもとに決めつけてしまうことが増えてきます。最も注意しないといけないのが、意識せずに自分の判断で「これが正しい」と思いこんでしまうことです。様々な組織の方からお話をうかがう中で、よく聞かれるよろしくない問題です。
―思い込みは他者から教えてもらわないと改善しにくいですね。他にも、受講者の皆さんから「コミュニケーションでここが難しい、過去にこういう失敗をしてしまった」などのお声がありましたらお聞かせください。
お話を聞いた中では、性別や年齢に関する思い込みが多い印象があります。「若い人はこういう風な考えをする」ですとか「この人の状況ならこうに違いない」といった具合です。自分の価値観を基準に話をすると食い違いが起こりますし、不快に思う人も多いので注意が必要です。
―テキストにも、思い込み発言や思考のクセをチェックする具体的なリストが掲載されていました。普段こういったチェックは行わないだけに、該当する項目があった人にとっては耳が痛いでしょうね
はい、ご自覚いただけるように細かい項目を設定しています。このリストをチェックしていただくと「そうだったのか」と反応される方が多いです。特に年齢を重ねた方ほど、わかっているつもりで気づきにくくなる傾向がありますので、思い込みの発見には有効な手段です。
自己開示=自慢話になっていないか
―思い込みや決めつけと並んで、「自己開示」がこの研修の大きなポイントだとうかがいました。これも年齢が上がるとともに難しくなってくると思いますが、どのようなアドバイスをもらえるのでしょうか
まず、自己開示が「自慢話にならないように」というのは、最も気をつけていただきたいです。本プログラムのテキストには自己開示シートを掲載していますが、こちらを活用してあらかじめ自分について話すことを整理していただくとよいです。プライベートな情報を書きこむ場合もあり、それは必ず共有してほしいと強制するものではありませんが、それぞれの立場の方が自分のことを客観視することで、チームや部署における自己の立ち位置や情報を第三者の目線で把握できます。
―自己開示や相手を褒めることが得意でない方は多いですが、やはりそれは日本の社会特有のものと考えていいでしょうか
ひと昔前よりは、ずいぶん「叱るよりも褒める」という文化が根づいてきているとは思います。ただ、それでも苦手な方は多いでしょうね。研修でもこういう時には具体的にどんな言葉をかけるとよいかを考えるワークを取り入れています。まずは簡単な声掛けからスタートすれば、コミュニケーションのハードルがぐっと下がるはずです。
―「設定されたシチュエーションに合う言葉を考える」というワークですか。部下へのねぎらいの言葉、もうひと頑張りしてもらうための言葉などの例がありますが、これらを自分で考えてみることが大事なのですね
はい、そうです。管理職の皆さんはお忙しいので、普段はなかなか上手く言葉をかけられないケースが多いと思います。ただ、部下側からすると上司に労ってもらったり、褒められたりするのは単純に嬉しいことです。こういう場面でこまめに声をかけると効果があるというのを実感してもらいたいですね。
離職防止には、職場の環境づくりも重要
―第4章は、ハラスメントについて取り上げられています。昨今はどの組織でも、非常に神経質にならざるを得ない課題ですね。各社もう既に何らかの対策を取っているとは思いますが、これも離職に関連してくることも多いのでしょうか
一般的な企業においては、弊社の研修やeラーニングなどで基礎知識を得て、対策を取っておられると思います。ただ、現実的には問題はなかなか減っていません。やはり継続的に学ぶ必要があることを示しています。
―ハラスメントがなくならない理由には根深いものがありそうですね。研修によってどのように克服していけるのでしょうか
皆さん「ハラスメントは良くない」ということはもちろん理解されています。ですから研修でハラスメント防止と掲げると当たり前で終わってしまい、当事者意識を持っていただけません。そこで本プログラムでは、アンコンシャス・バイアスと呼ばれる先入観からの思い込みや、怒りを抑制する方法などを盛り込んで違う方向からアプローチを試みています。
直接「ハラスメントをやめましょう」と伝えるのではなく、別の視点で気づきを得ていただけますので、受け入れてもらいやすくなるのではと考えています。
―たとえば怒り感情の抑制は、よく話題にあがっていますね。叱り方は間違えるとパワハラに直結するので、離職防止には欠かせない要素といえますね
はい、怒りのマネジメントとハラスメント防止はセットで扱うことが多い話題です。離職防止以外の研修でも、部下指導に取り入れることも増えました。
―最後の第5章では、発言しやすい環境がピックアップされています。今と昔では、職場の雰囲気もかなり変わり、ずいぶん発言しやすくなった感はありますが、この章では何を学べるのでしょうか
前述した「中途社員にルールが教えられない」という問題につながるのですが、「必要な情報が必要な人にきちんと行きわたる」というのが、発言しやすい職場環境には不可欠な条件です。情報を部署内の全員で共有できているかどうかで、職場の働きやすさは大きく変わってきます。相談しやすい職場の雰囲気づくりは、離職防止には何より大切なものといえるのではないでしょうか。
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