研修を語る
2022/12/22更新
300人企業のための階層別研修~係長編を語る
階層の定義がはっきりしていない企業が多い
―最初に「300人規模の」というタイトルについてうかがいます。いわゆる中小企業とか、中堅企業と言われる規模の組織にご所属の方向けということでしょうか
そうですね。300という数字については、あくまで目安として捉えていただければと思います。日本には現在約421万社の企業がありますが、その中で大企業と呼ばれるものは0.3%、あとの99.7%が中小企業(※)といわれています。この中には従業員数が1名という組織も含まれているわけですが、そのうち、300人くらいの従業員数を持つ企業に所属しておいでの係長級の方を想定し開発しました。
※参考:中小企業庁 最近の中小企業の景況について
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chushoKigyouZentai9wari.pdf
(最終アクセス:2022/05/27)
―300人企業の係長職の方は、どのような背景や課題感をもって、この研修に参加なさるのでしょうか
研修の副題に「~係長編」とつけてはいますが、この規模の組織においては、そもそも係長という役職を設けていないケースが多く、あってもあまり明確に定義がされていないというのが現実です。プレイヤー業務をメインとしつつ、チームリーダーとしての役割も兼務する人というのが、この研修で対象とする「係長像」です。
―組織が大きくなるにつれ、長と名の付く役職が増えていくものの、それぞれの定義があいまいなまま、単なる序列を表す符号になってしまっているところも少なくない気がします
はい、それが300人企業にとっての大きな課題だといえます。係長、課長、部長という階層を設定したならば、同時にそれらの階層ごとに求める役割と人材要件を定め、それに向けて人を育成していくことが、企業を成長させていくためには欠かせないのです。その一環として、この係長向け研修もお役立ていただきたいです。
―このプログラムの最も大きなポイントは、どの部分でしょうか
特徴的なものは「4つのSHIP」です。300人規模の企業で係長に求められる、リーダーシップ・フォロワーシップ・オーナーシップ・メンバーシップを軸として構成しており、それぞれの役割や必要な考え方を学びます。
係長はプレイヤーとしての役割が8割のポジション
―係長は、実は課長や部長のように、必ずしもどの企業にも存在する役職というわけではなく、組織によっては、リーダーやチーフなどと呼ばれることも多いですよね。強いて言えば、管理職の一歩手前に位置する、チームのまとめ役、といったポジションと考えればいいでしょうか
そうですね。さほど階層が深くないため、係長というポジション自体が存在せず、課長やマネージャーが最も下に位置する役職名であるケースも珍しくはありません。敢えてこの研修での係長を定義するとしたら、「部下と呼ぶ人が初めてできるポジション」とイメージしてもらうといいかもしれません。
―第1章の最初に、セルフチェックを通じた自身の「係長スキル」を確認するというワークがあります。これを通してどんなことがわかるのでしょうか
このワークのねらいは、自身の立ち位置を客観的に捉えていただくことです。多くの係長は、プレイヤーとしての力量を見込まれてリーダーのポジションを得ていることが多いこともあり、時間の割き方はもちろん、自身の存在意義としても「プレイヤー偏重」であることが多く、それをあらためて認識する設問を設定しました。
―プレイヤー寄りの自身の行動を改めさせることがこの研修の狙いということでしょうか
いえ、必ずしもそういうわけではありません。経営トップや部課長が係長に求めているのが「プレイヤーとしての高いパフォーマンス」であり、そのハイパフォーマーとしての行動姿勢を通してチームメンバーを引っ張っていって欲しいと思っているのであれば、それを否定する必要はありません。
―なるほど。マネジメントが主たる業務となってくる課長との違いはそこにあるわけですね。第1章の項目にも「課長や主任との違い」がありますが、別の見方をすれば、それらの役職との境目がはっきりしていない会社も多いということですね
多いですね。課長との違いとしては、労働法上における「管理監督者」であるか否かが大きいといえます。係長は一般的には管理監督者ではないので、チームを引っ張ったりまとめたりすることはあっても、人を管理する役割ではありません。とはいえ、部下指導を通して部下の状況を把握することは必要で、管理職である上司と連携しながらマネジメントの一端を担う、というのが実質的な役割といえるでしょう。
―チームを引っ張ったり、部下を指導したりすることが主たる仕事で、管理は直接的には係長の仕事ではないのですね。第1章の終わりにある「トッププレイヤーであることが指導力の源泉」という項目も、それにつながってくるのでしょうか
その通りです。300人企業では、課長でもプレイヤーを兼務しているのが普通です。係長の場合、プレイヤー業務が8でリーダー業務は2くらいの比率で取り組むことが求められるのが一般的ではないでしょうか。そのため、チームで最も高いパフォーマンスを上げる人が係長になり、リーダーとしての役割を任されることになるのです。パフォーマンスを維持しながらの兼務は大変ですが、尊敬される立場として指導力を発揮しましょうというメッセージを、この章ではお伝えしています。
リーダーシップとフォロワーシップのバランス
―第2章は、4つのSHIPのうちのひとつ「リーダーシップ」について学ぶ内容ですね。この章のポイントは何でしょうか
先ほど「係長には2割程度のリーダー業務が求められる」と申し上げました。それがこのリーダーシップで発揮されるものだと考えます。また、一部は後述するフォロワーシップにも関連してきます。研修では4つのSHIPの相関図を用いて説明をしていますが、それぞれが以下のように密接に関係して成り立っています。
―リーダーシップを支えるのは人間力である、という項目がありますが、なかなか難しいことだと感じます。研修の中でどのような示唆が得られるのでしょうか
おっしゃるとおり、人間力を定義するのは難しいですね。テクニックやスキルを高めれば身に付けられるものでもなく、マインド寄りの要素というのはどうすれば高められるものなのかが分かりづらい。そのうえで、敢えてどういった行動をとることがリーダーシップの発揮につながるのかを理解していただくことが、この項目の狙いです。
―そして次の第3章では、「フォロワーシップ」に言及される。上司に対する補佐をはじめとした、部下としての心得だと思いますが、リーダーとしての立場とバランスをどう取るのか、そのスタンスが難しそうですね
係長は、自分の部下に対してはリーダーシップを発揮しつつ、上司に対しては自分自身が部下の立場でフォロワーシップを発揮する、という立ち位置になります。両方の役割を相手に応じて使い分けつつ、その両方に対するアクションを統合させる、という結構難易度の高い振る舞いを実行しているのが係長なのです。
―テキストの中にこんなフレーズがありました。「責任を取るのは上司、実行するのは自分」。これは係長にとっては、ちょっと気が楽になる考え方ですね
はい。高みを目指して頑張ることはもちろん素晴らしいことですが、実際に会社が係長というポジションに求めていることは、そんなに無理難題ではないのです。責任はあくまでも上司が取るのだから、きちんと報連相さえしてくれれば、どんどん積極的に行動していって構わない。それが係長の皆さんに求められていることなのです。
どれだけの物事を「自分ごと」にできるかがカギ
―第4章では、「オーナーシップ」について語られています。組織の事業に対して個人が当事者意識を持って取り組む姿勢という意味だと思いますが、課長の監督の下で働く係長の立場では、主体性を持って働くことがなかなか難しい気もします
実はそういうふうに考えがちな方にこそ、オーナーシップの重要性を理解して欲しいのです。オーナーシップというのは、端的に言えば、プレイヤーとしての仕事を最高レベルで行っていくためのマインドということができるでしょう。オーナーシップ研修は、インソースの研修の中でも人気の高いプログラムのひとつですが、係長の一つ下にあたる主任級の方たちからも好評を得ています。「長」の役職名が付く立場かどうかには関係なく、いち仕事人として持つべきマインドといえるのではないでしょうか。
―この章に「オーナーシップのある行動とない行動の違いを確認する」というワークがあります。これはとても興味深い演習ですが、例としてどのような違いがあげられるでしょうか
オーナーシップがない行動というのは、「他人事」という意識がベースになっています。例えば、隣で何か問題が起きているのを知っても「自分が怒られる筋合いのものではないから放っておこう」と関わらないようなケース。あるいは、自分の仕事においても「前もこのレベルでOKをもらったので、無理にレベルを上げなくてもいいだろう」と向上心のない仕事のしかたをするケース。これらは明らかにオーナーシップがないといえるでしょう。
―忙しさを言い訳に、ついやってしまいがちな行動なので、耳が痛いです。逆に言うと、そういう場面でオーナーシップを発揮できる人だけが、次のフェーズにステップアップできるともいえそうですね
まさにその通りです。係長は、権限ではなくリスペクトを通してメンバーを引っ張っていくポジションなので、こうしたオーナーシップが発揮できているかどうかは、リーダーシップにも関わってきます。組織全体に関することを「自分ごと」と思えないような人がリーダーとして相応しいかということです。そういう意味でも、オーナーシップは係長の段階において、しっかり体得すべき考え方だと思います。
チームと自分自身、全体を見渡してみよう
―この研修では、300人規模の企業と大企業を比較する部分がいくつかありますが、オーナーシップの発揮しやすさに違いがあると書かれている項目があります。組織風土として、そんなに違いがあるものなのでしょうか
大企業の場合、組織の中で明確に役割が定義されているだけに、その定義の中で物事を考えようとしがちです。その点、300人規模の組織であれば、役割の定義が緩やかなことが多いため、良くも悪くも越権行為がしやすい側面があります。係長であっても、チャンスがあれば社長に提言するようなこともできなくはないのです。
―第4章の最後に「上司に疎まれることを厭わずに進言する」という項目がありますが、これなどは大企業ではちょっと難しいように感じます
そうですね。もちろん、社風による差も大きいとは思いますが、300人企業だからこそ、フランクに上司に提言ができる、というのはあると思います。それも、会社の問題を自分事と捉えるオーナーシップがあってこそ、ですね。
―最後に第5章ですが、「メンバーシップ」についての内容が展開されます。部下の貢献意欲を引き出すというと、マネジメントに近いように感じましたが・・・
もちろん、マネジメントにおいても必要な要素だとは思いますが、ここでいうメンバーシップとは、自分をメンバーの中に置いたうえで、その中で自分にはどんな振る舞いが求められるのかを考える、という感じでしょうか。ここでの振る舞い如何によって、今注目されている組織への「エンゲージメント」をも左右するのです。
―その他にもこの章では、同じ目的のために力を合わせて働く「協働」や、認知活動自体を認知する「メタ認知能力」などが並んでいます。個人の仕事であっても、チームや社内での役割を意識しながら進めていくかどうかで、成果に違いが出てくるということですね
全体を見渡すことは、特にリーダーとしては不可欠です。部下を指導するだけでなく、チームのメンバーとして自分自身がうまくやっていくためにも、全体を把握する能力が求められます。このメンバーシップを含めた4つのSHIPをバランスよく機能させることが、プレイヤーから一歩進んだ係長業務に必須のスキルだといえるでしょう。
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