研修を語る

ハラスメント防止研修を語る

2024/02/13更新

ハラスメント防止研修を語る ~ハラスメントをなくし、心理的安全性の高い職場に導くヒントとは

◆対談者

小林(WEB制作部門)
安西(テキスト作成部門)
村上(テキスト作成部門)

不適切な発言が許されない時代です

小林:

本日は「ハラスメント」についてお話していきます。インソースの研修でも、ハラスメント関係は毎年実施回数がトップ5に入る人気のテーマであり、特にここ5年ぐらいでニーズが大きくなってきました。

ハラスメントについては1985年に男女雇用機会均等法の制定を機にセクハラへの注目が集まり、以降も長きにわたり、働く上での課題となっています。そこで、まずはハラスメント問題の最新の傾向について、この分野のテキストを作成している安西さんに話を聞きたいと思います。

安西:

最近は取締役や社長など、上位の役職の方々の不適切な発言に関するニュースが多くなってきました。そのため研修で基本的な知識を学ぶだけではなく、リアルな事例を知って危機意識を持つべきだというのが、近ごろの傾向としてあるようです。

小林:

社長はもちろん役員クラスでも、外部で発言をする際は「そのまま公開されても大丈夫な内容か」を常に意識しているかと思います。それに加えて、今は組織内部であっても不適切な発言があれば関係者がネットに上げてしまう事例もあるので、自身の発言に対しては場所を問わず、問題がないよう注意が必要です。特に立場がある人にとっては、周囲から向けられる評価の目も厳しくなった気がします。

安西:

以前であれば「ああいう人だからこの発言も仕方がない」とスルーされてきた事でも、今は許されない時代になってきました。時代の流れを知り、価値観のアップデートをしていかないと、そういった発言ひとつでも組織としてのリスクになりかねません。

小林:

昔は情報発信源がマスメディアに限られていましたから、そこに載らない限り問題視されませんでした。しかし今は誰でも情報を拡散できるので、何が世の中に晒されるかわからない怖さがありますね。

古い価値観や偏見がハラスメントを生み出す

小林:

具体的な発言内容で「こういった事が、今どきは問題になりやすい」という例がありましたら、教えていただけますか?

安西:

何気なく言ってしまいがちなのは、やはりジェンダー関連が多いと思います。例えばマタハラですとか「男なのに」「女なのに」といった決めつけや、「父親は育児に関わらなくてよいのでは」などもありますね。

人は自分の持っている価値観を前提として発言し、過剰な保護をしてしまう場合があります。本人が活躍したいと望んでいることに対し、周囲がそれぞれの価値観から発言してストップをかけてしまう事例も多くあります。

小林:

お子さんがいる女性に対して、管理職が不用意に気を使って重要な仕事をさせない、などがそれに当たりますね。また、ジェンダー関連の発言は異性に対するものをイメージしがちですが、同性同士でも「もっと男らしくしろよ」など決めつけで発言していることもあります。

安西:

一緒だと思いますね。そもそも男と女というくくりでいいのか疑問ですし、主語を勝手にカテゴライズして話すのは、危険かと思います。

小林:

性別は関係なくその人を見る、というところは大事ですね。ただ、気を抜くと出てしまうことはあると思います。

安西:

ふとした時に出てしまうのは致し方ないところで、おそらくなくならないと思います。しかし、そんな中でも知識として「そういう発言はいけない」というのを、知っておくことが大事ですね。

小林:

そういう不用意な発言の根幹には、個人的に偏った考えや見解を持っている「アンコンシャスバイアス」があり、これは各人で気をつけていかないといけません。それと似た言葉に「ステレオタイプ」というのがあり、こちらは社会通念として定着してしまっています。つい出ちゃう、というのはこっちの方で「男らしく頑張れ」とか「関西人なのに面白くない」「九州人なのに亭主関白じゃない」などですね。

※「ステレオタイプの脅威」については詳しくはこちら

安西:

言った方は軽い気持ちかもしれませんが、言われた方は不快に思う人もいますよね。

小林:

相手との距離を詰める時、共通の認識でいることを伝えようとして、誤って不快にさせてしまうケースも多い気がします。善かれと思って言ったら、それがステレオタイプだった、というような。

安西:

周囲に同じような考え方の人が多い環境に長くいると、価値観がアップデートされにくいのかもしれません。弊社は比較的ダイバーシティが進んでいて様々な人が働いているので、多様な価値観に触れる機会が多いですが、そうでない場合は外部からの知見や働きかけがないと、自身で変わっていくのはなかなか難しいと思います。

心理的安全性の向上は、管理職の役目です

小林:

「うっかり言っちゃった」「つい出ちゃった」という場合、言われた本人が「嫌です」「不快です」と、はっきり伝えるのが一番いいと思いますが、仕事相手だとそうもいきませんね。そして、言った方は悪いと気づいてないことがほとんどです。

もし、言われた人が嫌だと言えない雰囲気であれば、周囲が代わりに伝えてあげたり、その場合も言った方の立場が悪くならないよう、後でさりげなく伝えたり、そういう職場の環境づくりも大切だと思います。これは、管理職の重要な役割ですね。

安西:

いま心理的安全性というキーワードも話題になっていますが、多分この辺りとつながっているのかなと思います。

小林:

私の場合は、何か変なことをすると周囲が注意してくれるので、そういう環境はできているようです。ただ、この環境を私自身が意識して作り上げたという感覚はあまりありません。管理職としてこのような組織風土を率先して作るためには、安西さんが言われた心理的安全性は重要なポイントになってくると思います。

安西:

メンバー各人が心理的安全性に寄与するというのが基本なのですが、やはりカギを握っているのはリーダーや管理職です。そのため、管理職自身が心理的安全性を向上させるために重要な立ち位置にいるということを、まずは認識することが大事ですね。そうでないと、メンバーがどれだけ意識をアップデートしても、風土として組織全体に定着させるのは難しいのではないでしょうか。

小林:

あとはやっぱり、日頃から1対1で話ができる関係を作っておくのも大切だと考えます。ただ、人数の多い部署の管理職は全員と話すのは難しいと思いますので、そういう場合は監督者やチームリーダー的な人が、一人ひとりと深いコミュニケーションを取ることでフォローができます。そういう部分が、シンプルだけど重要な気がします。

安西:

日々の日報で何か不安や不満を抱えていないか確認することでも、状況を察知できるかと思います。面と向かってのやり取りにこだわらずとも、文章でもある程度のコミュニケーションはとれますから。

小林:

色んな方法を駆使して、普段からお互いに対話することが大事ということですね。部下が相談しづらいと感じる管理職の中には、一方的に話して部下の言い分を聞かない人が多い印象です。そういう人は得てしてコミュニケーションがとりにくい。

安西:

何かを伝えた時に、きちんと聞いてくれなかったり、否定のリアクションが多い人だと、相談したくなくなりますよね。そういう日頃のコミュニケーション、言葉遣い一つ取っても、良い職場環境づくりには大事な要素です。

「なぜダメか」理由を知ることが重要

小林:

名前の呼び方も、ハラスメントの問題のひとつです。インソースでは原則として、役職や性別関係なく「さん付け」で呼び合うことになっています。

あだ名で呼んでいる職場もあると聞きますが、ビジネスの場であだ名はハラスメントと受け取られる場合もあります。

安西:

今までOKだった環境でも、今後はだんだんシビアになってくると思います。「〇〇ちゃん」という呼び方も難しいですね。

小林:

ちゃん付けはなぜダメかというと、「相手から一人前として見られていない」など不快に感じる人がいるからですね。そして、これらのNGは単純にダメだと覚えるだけでなく、なぜダメなのか理由を知ることが重要です。

安西:

確かにそうですね。「よくわからないけどダメだと言われたからやめよう」と思っている人は、きっとまた似たようなことをしてしまいます。

小林:

なぜダメなのか理由を知ると、意識が高まる気がします。インソースのハラスメント研修では、ハラスメントになるかもしれない「グレーゾーン」について受講者自身に考えてもらいますが、なぜダメなのかの理由をしっかりと学べるので、意識が高まるとともに、その他の言動にも応用が効くようになります。

安西:

そうですね。英単語のようにNG単語集として覚えるのではなく、理由で覚えた方が良いと思います。

小林:

暗記ではなくきちんと理解していないと、それとは違う言葉で類似のNG発言をしてしまい「これはダメって言われなかったのに」となりかねない。まあ、それは極端な例ですが。

安西:

研修の場でディスカッションなどをする中で、「ああこういう理由で駄目だったのか」と腑に落ちると、しっかり学びを持ち帰れるんじゃないかと思います。

心理的安全性の土台に、ハラスメント防止がある

小林:

ここで、ぜひ村上さんにも意見を聞いてみたいですね。これまでの話、どう感じられましたか?

村上

ありがとうございます。グレーゾーンに関する研修では、受講者から「これは大丈夫ですか」という、個別具体的なご質問をよくいただきます。グレーゾーンの境目を知りたいのだと思いますが、理由を理解して応用をきかせる事とは真逆の部分があると感じます。グレーゾーンに明確な境目はないので、判断軸を養うことがカギになると考えています。

小林:

「私はその言葉を使ってるけど問題ないですよ」という人もいるかもしれません。でも、本当に問題がないかどうかわからないし、その人が判断することではないですよね。相手が嫌と言えない雰囲気もありますし、仕事なので、少しでもダメな可能性があるなら、やめた方がいいと思います。

他者が不快に思う可能性があるなら、他に言いようがあるし、言わなくてもいいことがほとんどです。そして本当に言わなきゃいけないことならば、「誤解されるかもしれないけれど、私はこういう意味で言っています」と説明するべきだと思います。

村上:

不用意な発言に気をつけるというのは、社会人としてのリスク管理の基本ですよね。
ちなみに、先ほど心理的安全性の話が上がっていましたが、私からお二人にお聞きしたいことがあります。ハラスメントがない職場をつくることと、心理的安全性の高い職場をつくること、その二つの違いは何でしょうか?
私としては、両者はイコールではなく、同じ線の上で「マイナスから0に持って行く作業」がハラスメントのない職場づくり、「0からプラスに持って行く作業」が心理的安全性の高い職場づくりなのかなと解釈しました。まずは不用意な発言やハラスメントをしないことが、スタートラインかと。

小林:

質問の答えになっていないかもしれませんが、「心理的安全性」という言葉は少し誤解されやすいなと感じています。僕個人としては「心理的安全性が高い」というのは、職場にいる人が安心・安全を感じるだけでなく、そうした環境の中で高いパフォーマンスを発揮し、成果を出せる状態のことをさしているのだと思っています。
それに対して「ハラスメントのない職場」の意味を考えると、マズローの欲求五段階説じゃないけれど、安全欲求や社会的欲求といった低次の人間の欲求が満たされていないという問題を解決した状態をさしている。
両者を比べると、前提としている段階がだいぶ違うと感じます。

村上:

生理的安全とか、社会的安全とかはそうですよね。

小林:

心理的安全性が担保された職場は、ハラスメントがないことを前提として、管理職がやりがいなどをサポートする、ということだと思います。

(マズローの五段階説でいえば、「承認欲求」や「自己実現欲求」を満たす必要がある)

安西:

私も認識としては、小林さんと同じです。お客さまから「心理的安全性の研修をやりたい」というご要望が多いですが、その段階に至ってない企業も結構多い印象です。よくよく話を聞いてみると「そもそもハラスメント防止の研修を先にやる必要があった」というケースもあります。それらは地続きでつながっている概念ですが、心理的安全性を高めるには、土台があってこそだと思います。

リモートワーク時代のハラスメントとは

小林:

最後にリモートハラスメント(リモハラ)について話をしたいと思います。これは、内容は他のハラスメントと一緒なので、シチュエーションの問題ですね。セクハラ的なリモハラは「化粧してないの」みたいな発言、パワハラ的なものだと勤務時間を過ぎても連絡や指示をしてくるなど。

それ以外だと、ペットが映り込んで必要以上に叱責される例などもあります。
リモハラしてしまう人の傾向として、関わりが減った寂しさの余り、久しぶりに話せた喜びからついサービス精神旺盛になり、行き過ぎた発言に至ってしまうケースがあります。

安西:

悪気なく、余計なことを言ってしまうんですね。

小林:

そして受け取る側も、全員ではないけれど、リモートの環境で許容力が下がっていると問題が大きくなりやすいという、不幸な構図もあるように思います。

安西:

それはありますね。対面だったらハラスメントに該当しないようなことでも、リモートが故のトラブルが発生してしまうことはあると思います。

※「リモートハラスメント」についての詳細はこちら

小林:

先ほど「ついうっかり」不用意な発言をしてしまう件について話しましたが、言われた側の受け止め方も大事だと考えています。もちろん、ひどい発言ならしかるべき対応を取りますが、うっかりグレーゾーンに入ってしまうことは誰にでもあります。

ある時は失礼なことを言われた側も、次はうっかり不用意なことを言ってしまう可能性も十分にありますので、ある程度はお互い様ということで、相手が反省をしていたら寛容に許すことも大事です。

安西:

確かに年齢や性別を問わず、誰でも失言する可能性はあります。そこをみんなが理解した上で、指摘を受けた人が間違いに気づいたら、周囲も許容することは必要ですね。逆を言えば、同じことを繰り返す人は「この人は言っても改めない」と思われるでしょうし、対外的な場合は炎上する可能性もあります。なので、周囲が許すと同時に、自分も指摘されたら改められるよう、みんなで時代に合わせた意識のアップデートをしていきたいですね。

村上:

意識や価値観のアップデートは、ハラスメント防止のカギですね。ただ、言動を改めるとか、そのための考え方を身につけるとか、幼少期に当たり前のようにやっていた「今の言い方よくないよ」「ごめんなさい」という、素直で謙虚な受け止めが難しい人もいます。

またビジネスの現場においては、周囲も指摘はするが改善を促すまでは難しく、ハラスメント防止を実現しにくい要因の一つなのかなと思います。研修だけではなく、職場内での根気強い働きかけが、ハラスメントに向き合うために必要な要素だと改めて感じました。

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