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コンプライアンス違反を掻いくぐる職場の「小さな無礼」が離職を助長する~インテグリティ組織運営のための10の心得

ハラスメント防止やエンゲージメント向上に必要な要素として、「インシビリティ(職場の無礼)」と「インテグリティ(誠実さ・高潔さ)」という概念が注目されています。

本記事では、職場においてインシビリティを減らすことがどれほどの好影響をもたらし、どのようにインテグリティを高めればよいか解説します。

コンプライアンス違反ゼロなのに、なぜ優秀な社員が辞めていくのか?

こんなお悩みを抱えていませんか?

  • ハラスメント研修も相談窓口も整備したのに、離職が止まらない
  • パワハラ事例が発生してから、職場の空気が重くなった
  • コンプライアンス違反はないのに、社員同士の信頼関係が薄い
  • 管理職が「これを言ったらパワハラでは?」と不安を覚えるあまり、部下指導を躊躇している
  • 何となく会社のモラルが低下しているように感じる

こうしたお悩みの原因は「インシビリティ(職場の無礼)」かもしれません。

生産性を下げる「見えない攻撃」の脅威~インシビリティ経験者の78%は組織の忠誠心を削がれる

「職場での小さな無礼を日常的に経験している」という方は少なくありません。例えば、次のような言動に対しては、多くの方が違和感や不満を覚えます。

インシビリティの典型例

  • 会議中にスマホをいじり続ける上司
  • 挨拶を無視する、目を合わせない
  • メールの返信を意図的に遅らせる
  • 「そんなことも知らないの?」という見下した言い方
  • 部下の提案を聞き流し、存在しないかのように扱う

これらはパワハラとは言い切れません。しかし、受け手には確実に「自分は価値がない」というメッセージとして伝わります。

数字で見る深刻な影響~意欲の減退、エンゲージメントの低下、そして離職へ

米国の組織心理学者クリスティーン・ポラス氏の研究によれば、インシビリティを経験した従業員の反応として、次のような深刻な結果が生じるとされています。

  • 78% が「組織への忠誠心が下がった」と回答
  • 66% が「自分の業績が下がった」と回答
  • 48% が意図的に仕事の手を抜くようになる
  • 12% が実際に離職する

【出所】『Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』P17(東洋経済新報社、2019.6/8)、クリスティーン・ポラス (著)、 夏目大(翻訳)

つまり、インシビリティは「ルール違反ではないが、組織の生産性と人材を確実に奪っていく静かな暴力」なのです。

コンプライアンス偏重が招く3つの罠

コンプライアンスの実現は、よりよい職場環境の形成に不可欠です。一方で、コンプライアンスのみに照準を当てた戦略や施策は、思わぬ罠を作り出す可能性もあります。

罠1: 指導恐怖症の蔓延

パワハラ防止研修を徹底した結果、管理職の多くが「部下への指導を躊躇している」と回答しています。必要な指摘もできず、人材が育たない悪循環になります。

罠2: 告げ口文化の形成

内部通報制度を導入後「誰を信じていいかわからない」という疑心暗鬼が社内に蔓延し、信頼関係が破壊されます。

罠3: 最低限の基準への固執

法律やルールに違反しなければ良い」という発想が蔓延しグレーゾーンの無礼が横行します。多くの従業員がもやもやを感じているがルールに則ってはいるので指摘もしにくい状況が生まれます。

「禁止と監視」では、信頼や誠実さは育たないのです。

解決策:インテグリティ経営への転換~ルール遵守に留まらず、個々人のモラル向上を喚起する

インテグリティとは?~コンプライアンスとの違いは「主体性」「前向きさ」

インテグリティとは、「誠実さ」「高潔さ」を意味し、道徳的・倫理的な正しさを自ら追求する姿勢のことです。コンプライアンスと似た概念ですが、インテグリティの方がより主体的であり、「前向きなコンプライアンス」とも称されています。

コンプライアンス インテグリティ
外部から遵守を要請されるルール 内側から湧き上がる倫理観
バレなければいい周囲からの期待に応える 誰も見ていなくても正しいことをする
決められた法律やルールを守ることに重きをクリアする 理想に向かって自律的に行動する

先人たちはすでにインテグリティの重要性を説いていた~渋沢栄一、岩崎弥之助の言動から学ぶ

日本資本主義の父、渋沢栄一の言葉

渋沢栄一は、第一国立銀行(現・みずほ銀行)をはじめ、東京証券取引所など、約500もの企業の創立・発展に寄与しました。その他、商業学校や社会公共事業、国際親善活動にも尽力しました。渋沢は、正しく働くことを大切にし、以下のような言葉を残しています。

正義はいつの場合でも最後の勝利者である。

【出所】渋沢栄一著「渋沢栄一自伝 雨夜譚・青淵回顧録(抄)」(2020年 角川ソフィア文庫)P403

自分が「こう生きるんだ」という精神の柱を持ち、今、正しいことを行えば、それが人として立派に生きる道となり、成功に繋がると伝えています。

三菱グループの礎を築いた岩崎弥之助の意思決定

岩崎弥之助は、才覚を発揮し日本の海運業を一代で制覇した創業者・弥太郎の子であり、共同運輸との激闘に終止符を打ち「陸の三菱」として飛躍させた人物です。父が成功を収めた海運業から撤退し、大きく方針転換をした際の判断軸は、経営理念である「日本の未来の繁栄のため」でした。

何かを決断しなければならなくなったときは、その根拠を企業理念に求めるようにします。企業理念とは「企業の存在意義や在り方、使命」を明文化したものです。企業理念に基づいた判断が出来れば、時代や環境に変化があったとしても、柔軟に日々の活動を変えていくことができます。

インテグリティ組織運営を推進する5つのポイント

1. 経営トップが行動規範を体現する

社長自身が、毎朝現場を回り全員に挨拶。判断ミスは素直に謝罪。こうした小さな誠実さの積み重ねが組織のモラルを創る。

2. 心理的安全性を高める

週1回15分の1対1面談で、上司は「話す」より「聴く」。360度評価で匿名フィードバックを実現する。

3. インシビリティを許さないと明言する

成績優秀でも、他者を尊重しない行動は評価しない。人事評価に「チームメンバーへの敬意」を組み込む。

4. 倫理的ジレンマを対話する

「無理な納期を要求されたらどうするか?」など正解のない問いをグループで議論し判断力を磨く。

5. インテグリティを評価制度に組み込む

「誠実に行動したか」「他者を尊重したか」「倫理的に正しい判断をしたか」を、360度評価で測定を行う。

インテグリティについてのよくあるご質問

Q: 中小企業でも実践できますか?
A: むしろ中小企業の方が、経営トップの影響力が大きく効果が出やすいです。

Q: どのくらいの期間で成果が出ますか?
A: 導入から1年で離職率30%削減などの成果が出ています。文化の定着には2〜3年が推奨されています。

Q: コンプライアンス研修は不要になりますか?
A: いいえ。コンプライアンスを土台としつつ、それを超えた価値創造を目指すものです。

明日から実践できる、10の心得

インテグリティを高めるためには、組織全体での取り組みももちろんですが、社員一人ひとりの行動で大きく左右します。明日から実践できることとして、以下10つを心がけましょう。

インシビリティを防ぎ、インテグリティを高めるための10の心得

  • 朝、全員に「おはよう」と声をかける
  • 会議中はスマホを触らず、発言者の目を見て聞く
  • 部下の提案は、まず「ありがとう」と受け止める
  • メールに24時間以内に返信する
  • 自分のミスは素直に認め、謝る
  • 週1回、15分の1対1面談で部下の話を聞く
  • 「そんなことも知らないの?」と言わない
  • 感謝の気持ちを言葉にする
  • 廊下ですれ違ったら、目を見て挨拶する
  • 会議で誰かが発言したら、必ず反応する

小さな誠実さの積み重ねが、強い組織を創ります。

インシビリティをなくし、インテグリティを浸透させる

インシビリティの抑制・インテグリティの醸成は、一人ひとりの意識変化と行動変容によって実現できます。日ごろの言動をよりよいものにするための声のかけ合いと共に、組織全体でインシビリティやインテグリティについて考える場を設けることが有効です。

コミュニケーション向上研修~インシビリティに注意し、配慮と共感力を高める(半日間)

無自覚に起こりがちな「インシビリティ(無礼さ)」に着目し、心理的安全性の高い職場づくりを目指す研修です。チェックリストを通じて日頃の言動を見直し、周囲を活性化するとともに良好な関係を築くための行動変容を促していきます。

>講師派遣型研修の詳細はこちら

インテグリティを考える研修(半日間)

インテグリティを「誠実さや正直さなどを複合的に兼ね備え、行動として周囲の環境にとらわれることなく正しい行動がとれること」と定め、自身や自組織にとってのインテグリティとは何かを考える研修です。インテグリティの必要性やこれまでの偉人の考え方を学び、インテグリティそのものへの理解を深めつつ、自身やチームでどのように実践していくかを考えます。

>講師派遣型研修(リーダー向け)の詳細はこちら

>講師派遣型研修(役員・管理職向け)の詳細はこちら

セットでおすすめの研修・サービス

(半日研修)ハラスメント防止研修~被害者にも加害者にもならないために

インシビリティやインテグリティを考える大前提として、組織内のハラスメントへの対策が求められます。本研修では、現代の多様化するハラスメント問題について包括的に学び、被害者にも加害者にもならないための実践的な知識とスキルを習得していただきます。パワハラの3要素やセクハラの判断基準といった基本的な内容から、逆パワハラ、ハラハラ、カスハラ、テレハラなど現代的な問題まで幅広くカバーしています。

>公開講座の詳細はこちら

>動画教材の詳細はこちら

リーダー向けアンコンシャス・バイアス研修~先入観に囚われない部下後輩との接し方

インシビリティを助長し、インテグリティを損ねる要因の一つに、「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)があります。本講座は、自身の考え方や日々の行動に潜むアンコンシャス・バイアスに一歩踏み込んで気づき、それを適切にコントロールする術を身につけるための研修です。

>公開講座の詳細はこちら

>動画教材の詳細はこちら

ビジネスユーモア発揮講座~「和ませ力」で社内外の味方を増やす

適切なユーモアは、シビリティ(礼儀正しさ。インシビリティと対になる概念)と同様、発揮することで人間関係と仕事を円滑にできます。本講座では、ユーモアの重要性とトレーニング方法を解説したうえで、「アイデアを考え意見交換で客観性を担保する」「緊張しがちな場面での切り抜け方を考える」など、明日から使えるネタを持ち帰るだけでなく、考える力を鍛えることもできる研修です。

>公開講座の詳細はこちら

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