消防士・救急救命士の部下育成に必要な信頼感~ハラスメントを防ぎ、やりがいを引き出す指導へ

消防や救急の現場は、一瞬の判断が命を左右する厳しい環境です。そのため、規律を重んじた上下関係や厳しい指導が欠かせません。
しかし近年、「パワハラではないか」「指導のつもりが叱責と受け取られた」といった声が増え、ベテラン職員が指導に迷いを感じるケースが増えています。
本記事では、消防士・救急救命士の部下育成におけるハラスメント防止と信頼関係構築の両立について、現場に即した視点で解説します。指導が伝わり、部下のやりがいを高めるための具体策を整理していきます。
厳しさだけでは続かない時代~ハラスメントとの境界線を意識する
背景:「昔ながらの指導」は通用しない現実
かつて消防や救急の世界では、「先輩の背中を見て覚える」「ミスはきつく叱って正す」といった文化が当たり前でした。
令和5年度にハラスメント行動のために懲戒処分が下された職員のうち、最も多かった階級は消防司令補、年代別で最も多かったのは50代であったことは、ベテラン職員ほどハラスメントの認識が少し偏っていたり、甘くなっている可能性を表しているように感じられます。
【消防消第25号 消防本部におけるハラスメントの実態に関する調査の結果及び留意事項について(令和7年1月29日)より抜粋】
- 消防長の意志の明確化
消防本部のトップである消防長自らが「ハラスメントは許さない」という意志を明確にし、それを消防本部内に周知徹底する - ハラスメントに係る通報及び相談をしやすい環境づくり
- ハラスメントやその予兆の早期覚知
- 階層別の研修等の実施
- 職員相互で不適切な言動をけん制しあえる良好な関係の構築
※出所:消防本部におけるハラスメントの実態に関する調査の結果及び留意事項について(通知)(最終アクセス:2025/11/7)
現在の若手世代は価値観も多様であり、叱られて伸びるより、納得して成長したいと考える傾向があります。従来型の厳しい指導は「ハラスメント」と捉えられる危険があり、そのことによって上司側が萎縮し、必要な指導をできなくなるといった事例も見られます。
ハラスメントの定義を再確認する
消防庁が示すハラスメント防止の指針では、「業務上の適正な指導」はハラスメントに該当しないと明記されています。
ただし、相手の人格を否定するような言動や、継続的な精神的圧力は、たとえ善意でも不適切と判断されます。重要なのは、「指導の目的が何か」と「相手がどう受け止めたか」です。感情的な叱責ではなく、改善のためのフィードバックとして伝えることが求められます。
地方の分署に根強く残る「封鎖的体質」を変えるために
閉鎖性が生む誤解とストレス
地方の分署では、人員が限られ、長年同じ顔ぶれで勤務することが多い傾向にあります。そのため、組織の風土が固定化しやすく、外部の視点が入りにくいという課題があります。
良くも悪くも「家族のような関係」が築かれる一方で、古い慣習が残ったり、上司の言動が絶対視されたりするケースも少なくありません。これがハラスメントの温床となることもあります。
信頼感を育む対話の習慣をつくる
閉鎖的な環境では、誤解が生じた際に修正が難しくなります。そこで重要なのが、定期的な1対1の対話(面談)です。
たとえば、訓練後に「今日の指導で気づいたことはあるか」「自分の動きについてどう感じたか」と問いかけることで、指導が"命令"ではなく"対話"として伝わります。信頼感は、指導の頻度ではなく、相手が意見を言える空気の中で育まれます。
叱る・ほめる・任せる――3つのバランスで育てる
叱るときは「人格」ではなく「行動」に焦点をあてる
たとえば「なぜそんなこともできないんだ!」ではなく、「この動作をこう直すと、より早く対応できる」と伝えるだけで、受け取り方がまったく変わります。
叱責ではなく改善の提案として伝えることが、ハラスメント防止の第一歩です。
ほめることで安全意識を定着させる
消防・救急の現場では「できて当たり前、そうでなければ被害が大きくなる」空気があり、ほめる文化が根づきにくい傾向にあります。しかし、適切な行動を言葉で認めることは、再現性の高い行動の定着につながります。
「○○の場面で落ち着いて判断できていた」「声かけが的確だった」など、行動を具体的にほめることが重要です。
任せることで、責任感とやりがいを育てる
若手職員に小さな判断を任せることで、自発性と責任感が芽生えます。
上司がすべて決定してしまうと、部下は「言われた通りに動くだけ」になり、やりがいを感じにくくなります。(職務権限に関わることでないのであれば)様々な仕事に挑戦してもらい、任せる勇気が、信頼関係の証になります。
信頼が生まれる組織には「安全な失敗」がある
消防や救急の現場では、「ミスが許されない」という緊張感が常に伴います。しかし、育成の観点から見ると、学びのための安全な失敗を認める文化は不可欠です。
訓練やシミュレーションの場で、若手が試行錯誤できる環境を整えることで、現場対応の力が飛躍的に伸びます。失敗を責めるのではなく、次の行動につなげるフィードバックに変える――それが真の育成型組織の姿といえます。
まとめ:信頼でつながる指導が、現場の力を底上げする
ハラスメント防止と部下育成は、相反するものではありません。むしろ、信頼感に基づく指導こそが、人材の定着と現場力の向上につながるのです。
- 厳しさの中に尊重を込める
- 行動を正し、人格を否定しない
- 対話を通じて誤解を防ぐ
この3点を意識するだけで、現場の雰囲気は大きく変わります。消防や救急の仕事は、人命を守るという崇高な使命を担う仕事です。その使命感を次世代へ正しく継承するためにも、指導の在り方そのものを見直す時期に来ていると私どもは考えます。
ハラスメントリスクアセスメント
完全匿名化できるシステムを用いて従業員の意識や、間接的な行動の有無・知識も含めたハラスメントリスク度・組織の状態・特有の要因や背景を見える化するサービスです。
近年では多種多様なハラスメントが存在し、問題が発覚した時にも加害者側にその意識が薄いこともままあります。
これは当事者が過ごしてきた時代・環境が影響しており、組織が全従業員に対して等しく講じる防止活動だけでその行動を変えさせるのは容易ではありません。アセスメントテストを自身が受検する行為そのものに、知識・認識をアップデートする効果が期待できます。
こんな組織におすすめ
- 経営層の知識・認識が甘く、組織的なリスクがある
- 顧客からの厳しい要望がたびたびあり、組織全体に疲弊感が漂っている
- 特定の人間がハラスメント行為をしていることを認識しているが、対応のきっかけを掴めない
セットでおすすめのサービス
消防士向け部下指導研修(1日間)
消防士は人の命と生活を守る職業柄、どの現場も常に時間との戦いです。部下が指示を適切に理解し実行に移せるかどうかは、上司である消防司令(消防司令補)の指導にかかっています。本研修では、冷静な業務指示の仕方と部下の成長を促す指導法を学び、消防の現場ならではの育成・支援スキルを身につけていただきます。
消防通信指令員向け電話応対研修(半日間)
緊急時の119番通報の電話応対は難易度が高く、それらに特化したスキルが求められます。本研修では通信指令員としての心構えを学び、緊急通報ならではの対応の仕方を習得します。通報者から状況をきき出しにくい場面や不要不急な内容で電話がかかってきた場合など、悩みやすい対応ごとにポイントを確認し、ロールプレイングで実践します。
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