年度末や人事評価の時期などに、改めて自身を振り返ると、「なんだか私の業務ってムダが多いかも」とふと気づくことがあります。この機会に「なんとか業務を効率化したい!」と決意される方も多いのではないでしょうか。
「業務効率化」とは、仕事や業務を進める上で「ムリ」「ムダ」「ムラ」を見つけ出し、省略したり、減らしたりしながら、会社や組織の生産性を高める取り組みを意味します。業務において「ムリ」「ムダ」「ムラ」を削減するには、業務のプロセスの見直しは当然のこと、便利なツールやシステムを導入したり、社外にアウトソーシングしたりと手法は様々です。
「業務効率化」を行わなければけない背景には、今後日本が直面する少子高齢化による労働力不足という深刻な問題があります。そのため、採用が困難になることを見据えたり、職場改善のためにも、同時並行して『働き方改革』も推進していかなければいけません。また、昨今のコロナ禍においては、テレワーク(リモートワーク)の導入も広がり国内でも働き方が大きく変わりました。企業の存続、成長のためには「生産性向上」がなくてはならないものとなっており、「業務効率化」が企業にとって、より一層求められています。
「業務の効率化」を目指す先には、「生産性向上」という昨今のビジネスにおける命題が控えています。生産性とは、一般的に下記のような計算式で表現されます。

分母にあたるコストを減らしつつ、分子にあたる成果を増やすことにより、生産性は向上します。すなわち生産性向上とは、「より少ないコストで高い成果をあげること」であり、業務の効率化は、そのコスト削減の一環ととらえることができます。
業務を効率化しようとすると、「ムダを省くこと」のみを考えがちですが、「成果をあげる」「仕事の質をあげる」という意識がないと、生産性向上につながらず、手抜き作業による品質低下やミスの温床になってしまいがちです。
そこで今回は、生産性向上を実現するために欠かせない視点として、業務における「省くべきムダ」と「省いてはいけないこと」を見極める方策をお伝えします。現在の業務の棚卸や、新しい仕事の創出のヒントとしても、本記事がお役に立てば幸いです。
省いてもいい「5つのムダ」
[1]過剰品質のムダ
仕事をする際、「たくさん作る」「細部までこだわる」「時間をかける」などにウェイトを置いた品質管理は、一見良いことのようにも見えます。しかし、限られた時間の中で最大の成果を出すうえでは「過剰品質」と捉えられ、生産性向上を阻む原因となります。
過剰品質が起こる裏には次のような原因が隠れている場合があります。
・求められる適正な品質がわかっていない
・見栄や自己満足で品質を追求している
・他の仕事を積まれないよう、あえて手すきを隠している
これらのような「過剰品質のムダ」が自分の業務に隠れていないか見直したうえで、仕事の質を高めるQCDRS(品質(Quality)、コスト(Cost)、納期 (Delivery)、リスク(Risk)、セールス(Sales))の5つの観点から適正であるかを考え、改善を図ることが重要です。
[2]待ちのムダ
指示や決済を仰ぎたい上司が席を外していて、待ち時間が生じることはよくあります。
この待ち時間を「手持ちぶさたで何もしない時間」にしてしまうのは「待ちのムダ」です。
次に行う業務の手順を考えたり、新企画のアイデア出しをするなど、やることはたくさんあるはずです。短い時間に集中して考えることで良いアイデアが生まれるケースもあるので、スキマ時間の使い方は意外と重要です。
しかし、そもそも一日の間にスキマ時間があまりに多すぎるのは問題です。仕事の全体量を把握したうえで、同じような仕事はなるべくまとめて行い、報告の回数を減らすなど、一日のスケジューリングを改善する余地は十分にあります。
[3]コミュニケーションのムダ
過剰な情報は混乱を招きます。逆に、過少な情報は不要なやり取りを増やします。バランスの取れていないやり取りは、結果としてコミュニケーションコストを増大させ、ムダを生みます。
例えば、会議がよく長引いてしまったり、メールのやりとりが多く返信だけで半日が過ぎてしまったり、といった職場では「コミュニケーションのムダ」が蔓延している可能性があります。
その場合、改善策としては、「会議ではゴールを明確にし、進行を分単位で区切るルールを作る」や「メールを見る時間を決めたり、メール以外の連絡手段を検討する」といったことが考えられます。
不要不急のやりとりを避け、適切なコミュニケーションの時間を決めて行動することができれば、ムダを削減しつつ、職場で必要な情報を共有することが可能です。「このままでいいのかな?」と一度でも職場で疑問に思ったら、「ムダを減らせるのでは?」と立ち止まって考えてみましょう!
[4]分業のムダ
分業は「単純」「大量」の作業を役割分担によって効率化するためには有効です。しかし、分業が進むと他の場所や担当者ごとに何をやっているかが見えなくなり、必要なコミュニケーションも取りにくくなります。
その結果、例えば営業1課と2課が同じ顧客に同時にテレアポしてしまう、商品を発送する部署との連携が悪く顧客への提供が遅れてしまう、といった事態に陥るのは「分業によるムダ」と言えます。
改善策として、電話業務を一括して担うコールセンターを作る、反復作業の多いPC処理はRPAを導入する、といった業務の集約化や自動化を検討することも、組織全体のムダをなくすことにつながります。
[5]工程のムダ
工程が複雑であったり必要以上に多かったりすると、関わる人が増え、ムダなやり取りやミスが起こりやすくなります。何かの申請を許可する際に必要となる承認者の数がやたら多い、役割分担のプロセスが細く一つの業務で何度も往復する、といった非効率的な業務フローになっている組織は、今すぐ見直しを図るべきです。
「工程のムダ」を見つけるには、「可視化」することが何より有効です。具体的には、業務の進め方を順序立てて整理したり、手順をフロー図に落とし込んだりして作業の流れを把握することで、客観的に問題の箇所を発見できるようになります。また、誰と何をすればよいかもすぐに分かるようになります。
フロー図の例

業務効率化で省いてはいけないこと
スピードアップを試みていつものプロセスを省いたら、ミスが発生して結局仕事が終わるまでの時間は変わらなかった、という経験はありませんか?
仕事を早く終わらせようとするあまり、チェックが疎かになってミスを連発した、その仕事をする意味を深く考えずこなすだけでクオリティが一向に上がらない、といった現状を放置していては本末転倒です。
そこで、以下の3つを大切にすることで、仕事の質を確保したうえで業務効率化ができ、真の意味での「生産性向上」が実現できます。
[1]考える時間
効率を上げるには「慣れたやり方の方が早く終わる」と考えがちですが、現状の仕事のやり方のままで放置してしまうと、いつまでも根本的な改善がされません。今までのやり方を「疑い」、もっとよい方法はないか、多面的な視野に立って考えてみる時間は、省いてはいけません。仕事の早い人ほど、どうすれば仕事を早く終わらせることができるか常に考え、工夫をしているものです。
また、提案書作成や企画立案など、よく考えなければできない仕事があります。
集中する時間が必要な「考える仕事」と、手を動かせば終わっていくような「こなす仕事」をよく吟味して、時間をかけるべき仕事に効率よく時間を使えるよう心がけましょう。
[2]コミュニケーション
先程、「過度のコミュニケーションはムダ」とお伝えしましたが、もちろん適切なコミュニケーションは生産性の向上に欠かせません。
やり過ぎ・少な過ぎのコミュニケーションを避け、必要なものを、必要なとき、必要なだけ伝える「ジャストコミュニケーション」を実践するには、以下の5つの視点で考えるとよいでしょう。
1.目的
相手をどんな方向に動かしたいのか、目的を明確にしたうえでのコミュニケーションになっているか
2.量
相手の業務知識や理解度、持ち時間(忙しさ)に合わせて調整できているか
3.質
内容の正確な伝達に終始するのではなく、相手の自発的な行動を促す「仕事の本質」を伝えているか
4.タイミング
仕事の「重要度×緊急度」を鑑みたうえで、適切なタイミングになっているか
5.伝え方
正確かつ分かりやすい内容か、必要な情報がモレなく伝えられているか
また、仕事の指示や依頼をしたら、あとはただ相手からの報告を待つのではなく、その結果を自ら「取りに行く」ことも重要です。最終的な結果報告だけでなく、途中経過も見ることで、過剰品質や方向性の誤りで生じるムダを未然に防げます。
[3]チェック体制
仕事を早く終わらせようとして「手抜き」なチェックをすると、ミスや不正が発生します。業務フローの中にチェック機能を組み込む、リスクの顕在化を極力防ぐために定期的にチェック担当者を変えて確認するなど、チェック体制を見直すことで仕事が上手く進みます。チェックリストやマニュアルも定期的に更新するとよいでしょう。
「効率がよい働き方」は仕事が「速い」だけではダメ
仕事ができる人の条件の一つに、「仕事が早い」をあげる人は多いと思います。しかし、「仕事の早さ」に「業務スピードの速さ」が直結するかというと、必ずしもそうではありません。
そもそも「仕事ができる」と言われる人は、「決められた期日までに、求められるレベルに応えられるか」という基準を満たしたうえで、相手の期待を超える成果を出せる人です。ミスや手戻りの多い仕事のやり方では、どんなに業務スピードが速くても、「仕事が早いね」という評価にはつながりません。
まずは、自らの仕事のやり方を根本から見直し、「スピードの速さ」だけではない「効率がよい働き方」を目指しましょう。現状の業務に問題が潜んでいないか再確認・分析を行い、常に最善策を求めて改善していくことが何よりも重要です。改善に終わりはありません。
最後に
最後に、業務効率化で失敗しないために3つのポイントをご紹介いたします。
業務の効率化を進めるために社内で稟議を上げて大変な想いで決裁をとって、コストをかけても効果がでていなければ失敗と同じです。業務効率化で失敗せずにリスクを減らすためには、これからご紹介する3つのポイントを漏れなく押さえることをオススメします。
[1]スピード重視で肝心の質が低下
業務効率化のために、スピードを重視するあまり、お客様に提供する製品やサービスの質が低下してしまうケースが少なからず発生します。さらに、「無駄を省く」ため、社員やパートタイマーの作業時間や業務の作業時間を短縮してしまう会社も少なくありません。
この行為は、社員やパートタイマーの負担(負荷)が重くなるだけで、業務効率化の本来の目的とは異なってしまします。業務の効率化は生産性をあげることを目的としているのに、社員への過度な負担(負荷)が大きくなると心身ともに体調不良での休職者や、離職希望など退職者が増える原因にもなりかねません。
お客様のためにも品質を落とさず業務効率化を行うことが業務効率化の成功といえます。そのためには、充分な作業時間の確保が必要になります。
[2]全社への情報共有
社内で業務効率化の準備が整っていない状態で、自分本位で良いツールを入れれば使われるだろうと考え、業務効率化のツール導入を行ってしまうと失敗する確率が格段に上がってしまいます。
業務の効率化で、残業をなくしても作業量自体は変わらないので、自宅など勤務外で仕事をする社員が増えていくことになります。ツール導入の推進者が率先して現場の状況を正確に把握し、業務効率化手法が自社に合っているかを全社に正しく情報共有を行うことが業務効率化の成功へと繋がります。
[3]チェック体制
業務効率化を実行している企業が導入しているツールに「グループチャット」や「ビジネスチャット」が標準機能で搭載されているグループウェアがあります。グループウェアは、スケジュールやオンラインミーティング機能、オンラインストレージ機能など、サービス提供各社さまざまな機能で、全社の情報共有やタスク管理など、社員の労働生産性を高めるために欠かせない必要なサービスです。
自社の課題や、要件を徹底的に洗い出し、どういったツールが本当に必要かを複数名のメンバーで協議を重ね、実際に複数名でトライアル利用を行う必要があります。ツールを実際に使用することで使い勝手や、機能・特徴を検証することが可能です。自社に最も合う業務効率化ツールの選定を行いましょう。
これら3つのポイントもしっかりと押さえ、失敗しない業務効率化を実現させましょう。
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