株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)

経営者としてのDX推進|DXの方法論2

企業における事務的な仕事の9割は近い将来、生成AIの活用により消滅すると言われています。企業経営者の責務として、少しでも早く、社内でDX革命を推進する事で、雇用を守り、業績を拡大しなければなりません。そのための具体的なステップを以下に書きます。経営者でないマネージャーのみなさんは、参考として読んでください。

  1. 経営者自ら高いレベルでリアルなDX情報を握る
  2. DX推進を経営目標にする~10年の計を立てる
  3. DX推進に人と金をつける
  4. 経営者自らDX推進を熱く語る
  5. 経営者がDX推進に関わり続ける~保護とテコ入れと激励
  6. 新たな課題対応も必要~攻めの姿勢で組織の生産性向上、採用・配置転換、事業強化

経営者自ら高いレベルでリアルなDX情報を握る~身の丈にあったDX推進が重要

生成AIを筆頭に、DXは日進月歩です。昨日の当たり前が、今日変わっている感じです。そういった状況で、トータルコストの安い、自社の身の丈にあったDXを選定する、情報収集力が経営者には必要です。

IT部門やDX推進チームの情報収集力に頼る手もありますが、若い専門家は、費用対効果に関係なく、「今の最高」を信奉しやすい傾向があります。よって、経営者自らが、信頼に足る別の情報源を持つ必要があります。費用対効果の概念を持ち、こちらの要望や業務、規模を理解できる人材を相談相手にすると良いと思います。

ちなみに私の相談相手は、経営経験があるITエンジニアで、最新のDX知識を「ひらがなと漢字」で教えてくれ、セキュリティと簡便性、人件費とシステム費用のバランスなどを考慮したアドバイスをもらえるので、非常に助かっています。

生成AI時代の仕事~大幅に業務を圧縮できる

改めて、これまでの仕事の仕方を振り返ってみると、今までは人の持つスキルや知識に頼って仕事をしていました。一方、生成AI時代には、作業手順を記録したAIエージェントが、あいまいな部分は自ら推論しながらやってくれます。具体的には、明日訪問する5社の現状調査を、AIがWebから調べ、一覧表にまとめ、あなたのメールアドレスに送信まで行うアシスタントの様な事をやってくれます。このようなものが、生成AIの研修を3日ほど学べば作れるようになります。

「AIアプリケーション」は大量かつ複雑な特定業務を、AIエージェントよりハイスピードでやってくれます。当社でも工夫して開発し、提案書作成などをやらせています。ただ、AIアプリケーションは効果が高いですが、複雑で難易度が高いので、自社でAI人材を投入し開発するか、外部ベンダーが開発したものを導入するのが妥当だと思います。

いずれにしろ、今後、ホワイトカラーの仕事の多くの部分、また、エッセンシャルワーカーでも口や手を動かす部分の仕事が、AIで代替できるのを経営者は認識すべきです。

変容する仕事の仕方

※生成AI活用基盤:
生成AIで利用するデータや生成AIが作成したデータなどを、安全に一元管理するデータ管理基盤です。これがあれば社内情報が安全に自由に利用でき、情報漏えいの心配がありません。

DX推進を経営目標にする~10年の計を立てる

経済産業省の言う破壊的な変革をもたらすには、経営者がDX化のグランドデザインを提示して、それが会社の成長の方向性と一致することを示さなければなりません。つまり、社会変革の方向性、現在の企業が抱える課題、10年後を見据えた収益モデルを、DX推進で解決するプランを考え示す事です。例として、ChatGPTの手を借りて作った、広告代理業の10年後のチャンスとピンチを考えたマトリックスを作成しました。ぜひ、真剣に考えてみてください。

広告代理店型サービス業のチャンスとピンチ・マトリックス

区分 現在(2025年) 10年後(2035年)
チャンス ①デジタル・AI活用による業務効率化と高度化
・生成AIを活用したコピー 画像・動画制作の自動化
・SNSやデジタル広告分析によるROI向上
② 企業のDX・ブランド戦略支援ニーズ
・企業のデジタル変革支援、パーパス経営支援の需要拡大
・社内外ブランディングや採用広報分野の拡大
①「共創型ブランド設計」への進化
・企業と社会をつなぐ、ナラティブ設計、共感創出への需要増
・パーパス経営・人的資本経営を支援する新市場の拡大
②AI×人間による「戦略的編集業」の確立
・AIが分析・生成、人が文脈・倫理を担う共創体制
・データ分析・経営支援・社会価値創造へ業域拡大
ピンチ ①メディアバイイング価値低下
・広告配信自動化により中間マージンが縮小
・運用型広告の差別化が困難
②クリエイティブのコモディティ化
・AI生成で誰でも作れる時代に
・「安く速く」から「深く面白く」への転換を迫られる
③人材流出・内製化の進行
・データ人材・AI人材の獲得競争激化
①LLMOが主流に
・広告主がAIを直接活用し、代理店不要になる
②一層のクリエイティブのコモディティ化
・AI生成でクリエイターの価値が一層低下
③人材確保が重要に
・営業人材・AI人材の他業界との獲得競争激化

この生成AIが作成したマトリックスを見ると、ピンチを乗り越え、チャンスをものにするためには今すぐDX戦略を策定し、動かねばならないですね。

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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)

1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。

DXの方法論シリーズ

  1. マネージャーが生成AIを活用してまずは感動する|DXの方法論1
  2. 経営者としてのDX推進|DXの方法論2
  3. DX推進に人と金をつける|DXの方法論3
  4. DXに関する費用と判断軸|DXの方法論4
  5. DXを推進する具体的な7ステップ|DXの方法論5
  6. 「生成AI活用基盤」を構築しデータ整備をする|DXの方法論6

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